恋愛走者 第二部

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青春走者 その23

・・・中学時代も綺麗だったけど、更に美人になったみたいだ・・・



 そんなことを考えながら洸児は美佐に挨拶をする。

「・・・お久しぶりです・・・米原センパイ」

「ひさしぶり。元気だった?」

「ハイ、センパイも元気そうですね。」




 米原美佐(よねはら みさ)は洸児より一歳年上の女性である。

 洸児の中学時代、同じ陸上部に所属していて種目も同じ短距離と

 いうことで部活でも会話する間柄だった。



 美佐は短距離の実力と共に成績優秀。

 おまけにスタイルや性格も良く、男子生徒はおろか女子生徒からも慕われていた。




 洸児も憧れた時期があったが、彼にとって美佐は高嶺の花で部活で普通に会話を

 交わすことで満足していた。

 そんな美佐は県下有数の女子高に進学し、

 現在はエスカレーター式に大学へ進学した。





「へぇ・・花の女子大生ってとこですね」

「まあね。特に意識は無いんだけどね。それより、どう?陸上のほうは?」

「まあまあです。いよいよインターハイの予選が始まりますからね」

 早苗と付き合って多少は女性と話すことに慣れたのか、洸児の口から滑らかに

 言葉が出てくる。



「フフッ・・相変わらずね」

 美佐は少し意地悪っぽく微笑みながら続けた。

「でも・・・かわいい彼女と一緒に歩いてるの見ちゃったよ」

「げっ!!見られてたんすか?」

 慌てる洸児に美佐はクスクスと笑っている。



「いいじゃない。彼女なんでしょ?」

「えぇ・・まあ・・」

 顔を赤くしながら答える洸児に、

「変わってないなぁ・・そういうトコ・・」

 美佐は懐かしそうに呟いた。






 所変わって早苗のバイト先のコンビニでは客が次から次へとやってきて

 レジは大忙しになっていた。

 どこかの学校の野球部が試合帰りに大人数で来店してきていた。

 店内は坊主頭の高校生でごった返していた。



「早苗ちゃん、悪いんだけどさ〜、もう少しだけ残業してもらえるかな?」

「はい、大丈夫ですよ。お客さんがこれだけ多いと流石に帰れませんしね」

 店長の言葉に仕方がないかなと諦めて残業することにした早苗は待っているはずの

 洸児の事を考えていた。

・・・洸児君を少し待たせちゃうかな・・・・









                                  つづく

青春走者 その22

 数え切れないほどのバトンパスを行い、遼一と雅人はヘトヘトになっていた。

 それでも二人のタイミングは良くなってきていた。

 

 風見監督は両膝に手を当てて息を乱している遼一に歩み寄り、

「いいか?お前の出来次第でレースの行方は大きく左右されるからな」

 穏やかな口調だが厳しさを感じさせる言葉だった。

 

 遼一は腹の底にズンと来るものを感じた。

 額から流れる汗が下を向く顔をつたい鼻の先から地面に雫となって

 落ちていく。


 4×100mリレーの第2走者は競技場のバックストレートを走ることになる。

 そこには各チームのエース級を投入してくる激戦区でもある。

 西高には洸児という切り札を持っているので、彼に次ぐスピードの持ち主である

 遼一を第2走者へ抜擢したのである。

 ただ、そのことがプレッシャーにもなっているのも事実なのだが。



「よし!今日の練習は終わりだ!」

「ハイッ!」

 グランドに威勢の良い返事が響いた。




「洸児〜、この後どうする?どっか寄っていくか?」

 学生服に着替えて校門を出る洸児に後ろから翔や隆二が尋ねてきた。

「今日はパスするよ。じゃな、お疲れ〜」

「可愛い彼女が待ってるもんな。いいよな〜。じゃ、また明日な〜」

 そんな冷やかしを背中に受けながらも洸児は幸せな気分を味わっていた。



 早苗のバイト先のコンビニへ向かう洸児は、前方で信号待ちをしている女性の

 姿が目に入った。

 後ろ姿は髪が長く肩よりも少し伸びている。細身で華奢な印象を与えるスタイルは

 男なら思わず見惚れてしまいそうなほど整っているようだ。



・・・どっかで見たような・・・

 なんとなく、そう思っていると女性が振り向き、洸児と目が合った。


 洸児に気付き、少し驚く女性の顔は後ろ姿に劣らず美しかった。

 でも洸児は首を傾げていた。

・・・う〜ん、やっぱり見たことあるような・・・

 やがて女性は思い出したような表情をしてから、クスッと笑い、ゆっくりと近づいてきた。

「新堂くん、久しぶりね。相変わらず陸上一筋なのかな?」



 耳に響くその声に、洸児の記憶の引き出しがゆっくりと開いた。

「・・米原・・センパイ・・・?」

「フフッ、思い出してくれた?」

 そう言って悪戯っぽく笑う彼女に洸児は口をポカンと開けていた。




                                 つづく

青春走者 その21

 インターハイ予選まで残り三日となった。

 西高グランドでは、洸児達リレーメンバーがバトンパスの練習を繰り返している。

 

 西高の4×100mリレーは、第1走者が隆二、第2走者は遼一、第3走者が雅人、

 そしてアンカーが洸児である。


 

 このメンバー、お互い気心も知れているのでコンビネーションは問題なしと

 思われていたが、ここで問題が発生していた。

 第2走者から第3走者へのバトンパス、すなわち遼一から雅人へのバトンが

 上手くパス出来ないのであった。




 当然、監督の怒号も飛んでくる。

「遼一っ!雅人の手に叩きつけるんだよっ!」

「ハイッ!」

 苛立ちを隠せず、頭をガリガリ掻く遼一に隆二が声をかける。

「焦るなよ。集中すれば出来るさ」

 だが隆二の励ましは今の遼一にとってはプレッシャーとしか捉えられなかった。





「監督、俺が第2走者やりますか?遼一はアンカーで」

「いや、順番は変えるつもりはない」

 洸児の提案に眉一つ動かさずに風見監督は言い切った。

 雅人とタイミングを話し合う遼一に視線を向ける洸児。

・・・頼むぜ、遼一・・・

 



 その頃、グランドから外へ出てロードワーク中の翔と目黒は西高へ向かう桃子と

 出会った。

「おう、桃子。どこ行くんだ?」

「何言ってるのよ。陸上部の見学よ。深山高校のね」

「マジで?何で?ウチを見に来るんじゃないのか?」

「な〜んてね、ウソよ〜ん。深山には行くけど、ソフト部の応援なの」

 桃子はケラケラ笑いながら答える。翔は溜息をつく。




「どうでもいいけど、ライバルの高校なんだから・・・そうだ!」

 何かを思いついた翔に目黒は質問をしようとしたが、それより早く

「翔ったら、どうせ村瀬クンを偵察してこいとか言うんでしょ?」

 桃子が先手を取っていた。



「あれ?バレた・・・?」

「さすが翔センパイの彼女!まさに以心伝心ですね!」

「つまんねぇことで感心するんじゃねぇ!」

「イテッ!」

 翔の回し蹴りが目黒の尻にヒットしたのは言うまでも無かった。




「でも、偵察なんてしなくても、洸児クンなら大丈夫じゃないの?」

「え?なんで?」

「そりゃぁ、早苗の応援があるんだもん。百人力よ!」

 桃子の話を聞きながら、それもそうかと独りで頷く翔だった。






                           つづく

青春走者 その20

 深山高校のグランド、そこには総勢30名の陸上部員が汗を流している。

 短距離のエースとして期待を背負う村瀬は

 他の部員と一緒に100mを走っていた。


 
 スターターのピストルが鳴った瞬間、村瀬の体は誰よりも前に飛び出している。

 そこからジェット機の離陸を思わせる猛ダッシュで

 スタートから30mで独走態勢に持ち込み、

 ゴールまで誰の姿も視界に捉えることなく走り抜けた。



 ゴールの後、好調を実感した村瀬は自然に表情に明るさが湧き出ていた。

・・・いい調子だ。この感じなら新堂にも勝てるぜ・・・・

 


 そんなグランドの風景を校舎の窓から独りで眺める生徒の姿があった。

「楓・・・」

 彼女は自分を呼ぶ声に顔を横に向けて背中に視線を移す。

 そこには笑顔の千晴が立っていた。



「千晴ちゃん・・・」

「いつもの楓に戻ったような感じだけど・・・大丈夫?」

 洸児への告白から2週間が過ぎていた。さすがに失恋直後の3日間は楓も

 なかなか自然な笑顔を作れずクラスメートに心配されることもあった。

 
 それが、ここにきてようやく楓らしさが戻ってきたと千晴は感じ取っていた。

 同時に、時折誰にも気づかれないように見せる寂しげな表情も見逃さなかった。




「大丈夫だよ・・心配ばかりかけてゴメンね・・」

 楓は微笑みながら話す。そして視線をグランドへ戻した。

 千晴は楓の横に並んで窓の外を見る。

・・・何見てんだろ?・・・



 全力疾走を繰り返す村瀬達の姿が目に留まる。千晴は楓をチラッと見た。

・・・あの人、確か3年の村瀬さんだ・・・

 じっとグランドを見つめる楓に千晴は口を開いた。

「村瀬さんって、新堂さんのライバルなんだって」



 千晴の言葉に楓はピクリともしなかった。そして穏やかな口調で答えた。

「知ってる・・新堂さんもそうだけど、村瀬さんも頑張ってる。変な意味は無いけど

 私も応援したいんだ・・・」

「応援するって・・村瀬さんを?」



 千晴の質問に楓は頷く。

「でも・・・新堂さんも応援したい・・・

 一生懸命頑張ってるの、充分知ってるから・・」

 楓の言葉に千晴は夕空を見上げて息を大きく吐く。



「楓・・強いんだね・・スゴイよ・・私、楓のこと見直したよ」

 更に千晴は続けた。

「応援しようよ!思いっきり!ね?楓」

「千晴ちゃん・・・」

 キョトンとする楓に千晴は力強く頷く。やがて楓も微笑みながら頷いた。




                                 つづく

青春走者 その19

 いよいよインターハイ予選まで残り一ヶ月を切っていた。

 その間に春季大会が開催され、洸児たち西高陸上部は数々の種目で上位入賞を果たした。



 洸児は男子100mと200mで優勝を飾り、4×400mリレーでも

 洸児、遼一、隆二、雅人のメンバーで優勝を決めていた。


 
 しかし、表彰台の上の洸児は依然厳しい表情のままだった。

 その理由は勿論、深山高の村瀬だった。

 彼は、この大会を欠場している。そのことが洸児にプレッシャーを与えていた。


 
 日々の部活でも部員の気持ちは高まり続けている。

 お互いが切磋琢磨して自己記録を伸ばす相乗効果を生み出し、

 西高はムード良くインターハイ予選へと乗り込もうとしていた。

 ただ一人、新堂洸児を除いて。



「翔センパイ、最近の新堂センパイ・・何で怖い顔ばっかなんですか?」

 目黒は黙々とダッシュを続ける洸児を見ながら翔に尋ねた。



「春季は勝ったけどアイツは出てねぇからな・・・インハイ予選が本当の勝負なんだよ」

「アイツって?」

「深山の村瀬だよ。実際、今年は洸児と村瀬の勝負ってのは高校陸上界でも

 ちょっとした注目なんだぜ」

 翔の言葉に目黒は口を開けて「へぇ〜」と返すと、後ろから雅人が声をかけてきた。



「それだけじゃないんだ。噂じゃ村瀬のやつ・・自己記録を更新しているって話だしね」

「マジっすか!ヤバイんじゃないっすか?新堂センパイ」

「このタコっ!洸児の底力を知らねぇのか。アイツ逆境にムチャクチャ強いんだよ」

 弱気の目黒に翔は頭を突いてツッコミを入れる。



 いよいよ洸児達にとって高校最後の公式戦が始まろうとしていた。






                                         つづく

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