恋愛走者 第二部

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青春走者 その18

「・・・疲れたぁ〜」

 楓と千晴を見送った洸児は緊張の糸が切れたらしく、椅子に深く身体を沈めた。




・・・ごめんな・・楓さん・・・

 小さく息を吐き、何気なく窓ガラスに顔を向けた。次の瞬間、洸児の目が丸くなった。

「げっ!・・・さ、早苗ちゃん?・・・」

 窓に映る自分と、その背中に早苗の姿を確認すると慌てて振り返った。

 そこには少し恥ずかしそうに顔を赤らめている早苗が座っている。




「マジで?・・・いつから?・・」

 完全にパニックに陥っている洸児の姿を離れた席から面白そうに眺めているのは

 言うまでも無く隆二と遼一の二人であった。隆二は苦笑しながら呟いていた。

「・・相変わらず、面白いヤツ・・・」




「楓・・大丈夫?・・・」

 千晴は元気そうに振舞う楓を見ていて、不安な気持ちになってしまう。

 失恋直後の女の子の振る舞いにしては明るすぎる。



「ほんとに大丈夫なの?」

「うん、こうみえても私タフなんだから」

 笑顔で話す楓に思わず千晴も表情が明るくなった。

「わかった。じゃあ、またね」

「うん、千晴が居なかったら私、たぶん告白しないまま終わらせていた。ありがとね」



 そう言いながら楓は「バイバイ」と手を振り千晴と別れた。

 そんな楓の背中に千晴は、そっと囁いた。

「・・我慢・・しなくてもいいんだよ・・楓・・」



 家に帰り自分の部屋に入り、楓はドアに寄りかかって座り込んだ。

 やがて肩が小刻みに震え、制服のスカートに温かい雫が落ちていく。

 それは楓の瞳から溢れて頬をつたってきた涙だった。

「・・うぅ・・」

 そして言葉にならない嗚咽が彼女を包んだ。




 バーガーショップでは結局、洸児の席に早苗、知恵と美由紀、そして隆二と遼一も

 加わって6人が座っていた。



「私、早苗の友達の竹沼知恵、こっちは常田美由紀。同じソフト部なんだ」

「へぇ〜、やっぱ美人の友達は美人だよなぁ・・。なあ、隆二」

 遼一に振られて隆二はウンウンと頷きながら洸児に話しかけた。



「なあ洸児、さっきの子を振っちゃったわけ?」

「・・ああ、冷たい言い方けど、変に誤魔化すほうが彼女に対して失礼だしな・・」

「そんなことないよ。さっきの新堂君の態度は立派だったわよ」

 美由紀のフォローに洸児も思わずホッとした表情を見せた。



「それで?彼女の早苗としては今回の告白劇は如何でしたか?」

 知恵が悪戯っぽく早苗に聞いてきた。

「え・・・私は・・その・・・」

「よく聞こえないよ〜」、「ハッキリしようぜぇ〜」と周りから冷やかしが

 入ってくる。



「お前らなぁ・・・いい加減に・・」

 そこまで洸児が言いかけたとき、早苗が言葉を続けた。

「嬉しかった・・すごく・・ありがとう洸児くん。

 きっと・・楓さんにも伝わったと思う。洸児くんの気持ち・・」



 この一言で場は一気にシーンとなった。辺りを見回した遼一がすかさず口を開く。

「おぉ〜!さすが彼女はシッカリしてるなぁ!羨ましいぞぉ洸児ぃ!」

 遼一のおかげで再び雰囲気は明るくなった。こういうときの遼一は非常に

 頼もしい存在だった。明るすぎるという意見もあるようだが・・・




                               つづく
 

青春走者  その17

 隆二と遼一は部活の後、ゲームセンターに寄ると言っていたことを洸児は思い出した。

 考えられるパターンはゲームをして腹が減り、帰る前に少し食べていこうかと

 ここの店にやってきたのだろう。


 

 千晴と楓はキョトンとした顔で二人を見ている。慌てて洸児は説明をする。

「あのぉ・・こいつらは、同じ部活の仲間で・・」

 すかさず遼一は、

「俺、森田遼一。そんで、こいつは本田隆二」

 一気に自己紹介を済ませてしまった。



 まるっきり空気が読めていない遼一に対し、なんとなく雰囲気を理解していたのは

 隆二である。

「おい遼一、あっちに座ろうぜ」

「え?なんで・・?」

 彼は聞き返す遼一の腕を引っ張って、洸児から離れた席へと向かった。



・・・サンキュ・・隆二・・・

 心の中で礼を言い、洸児は楓に向き直す。

 そして軽く息を吐き、意を決して口を開いた。



「楓さん、俺なんて大したやつじゃないのに・・

 素直に嬉しく思います。ありがとう」

 ここで少しだけ間が生まれた。洸児は目を閉じ、僅かに顔を下に向ける。

 そして再び顔を上げて楓を見つめる。

「気持ちは嬉しく思う。だけど俺には付き合っている人が・・・居ます」





・・・付き合っている人が・・・居ます・・・

 楓は、それまで硬直していた身体がフッと軽くなったような感覚を覚えた。

 それは予感していた結果が訪れたことへ安堵感のように感じた。

 しかし、自分の意に反して瞳からは涙が溢れてくる。それでも楓は笑顔を見せて

 洸児に微笑んだ。



「私こそ、ありがとうございました。彼女が居るのに話を最後まで聞いてくれて・・」

 洸児は戸惑いながらもニコリと首を振った。

「俺もさ・・告白したときは、物凄いプレッシャーを感じたよ。

 まるで地球最後の日みたいな感じでさ・・。だから楓さんの気持ちも凄く分かるんだ」

 その言葉に楓は洸児の優しさを感じた。





「俺・・こんな事言える立場じゃないけど、楓さんなら俺よりずっとイイ男が

 好きになるよ。絶対に」

 必死に自分を慰めようとする洸児に楓は頭を下げた。

「ありがとう。新堂さんよりいい人なんて・・あまり居ないけど私頑張ります」

 力強く話す楓に千春も頷く。



「そっか・・楓は強いね・・私も応援するからね」

「千春・・ありがとう」

 やがて二人は席を立ち、

「今日はすみませんでした。新堂さんも部活頑張ってください」

 笑顔の千春がお礼を言い、楓は

「あの・・今度、大会に応援に行っても・いいですか・・?」

 と聞いてきた。洸児は笑顔で返す。



「もちろんだよ。ぜひ来てください」

 楓は笑顔で頭を下げ、千春と共に店を出て行く。手を振る二人に洸児も手を振って

 見送った。



 後ろで話を聞いていた早苗は微笑みながら窓に映る洸児の横顔を見つめていた。






                                つづく

青春走者 その16

・・・うわぁ〜後ろの席、告白タイムだぁ〜・・・

 知恵は自分の背中で展開されている事態に興味津々になっていた。

 自分を不思議そうな表情で眺める美由紀に人差し指を口に当てて

 [静かにしていて]と合図を送る。

 それは早苗が店内に足を踏み入れた瞬間でもあった。




 早苗は知恵を見つけたが妙な仕草を美由紀にしている。

・・・知恵、何やってるの?・・・

 首を傾げながら知恵に近づく早苗は彼女の背中越しに見える男子生徒の後姿に

 足を止めた。




・・・あれ・・洸児くん?・・・

 知恵は素早く早苗を自分の隣へ座らせて小声で話しかけた。

「後ろの席で今、女の子が告白してるみたい」




 洸児は楓の告白を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。

 かつて女性から一度も告白をされたことが無かった洸児は人生で初めての

 事態に何がなんだか分からなくなっていた。




 楓は顔を真っ赤にしながら洸児の顔を見つめている。千晴は楓の腕を掴み頷いていた。

・・・あ・・楓ちゃんが・・俺を・・つまり・・これは・・・

 徐々に状況を整理しつつある洸児に千晴は口を開いた。




「新堂さん、楓は初めて新堂さんに会った日からずぅっと想っていたんです」

 その言葉に洸児はハッとなった。かつて自分も早苗に告白したとき、

 心臓は爆発するかと思うほどの鼓動になり、砂漠を歩いたかのように

 喉がカラカラに渇くことを経験した。




 早苗も洸児と同じくハッとした。思わず口の中で呟く。

「楓?」

 聞いたことのある名前、記憶を辿ると知恵の練習試合に深山高校へ行ったときに

 出会った女子生徒の顔が浮かんできた。




 洸児は真っ赤になっている楓を見つめた。

 今、目の前にいる楓は同じ経験をしている。彼女には辛い結果になるけど、

 ハッキリと応えなくてはいけない。

・・・俺には早苗ちゃんがいる。傷つけることになるけど、伝えなくては・・・

 思考回路が正常に回復した洸児は息を吐き、楓を見た。

・・・嘘はつかない。彼女を泣かせてしまうけど、ハッキリ言わなくては・・・




 人を失恋させるということは、こんなにも胸が痛むものなのかと初めて洸児は

 感じた。そして、ゆっくりと口を開いた。

「楓さん、俺は・・・」

 次の瞬間、店内に聞いたことのあるというか、いつも聞いている声が洸児の耳に

 入ってきた。




「あれぇ〜?洸児?」

「ホントだ・・・ってオイ、女の子連れ?」

 声の主に向かって思わず洸児は

「ゲッ!・・・お前ら・・・」

 と、目を大きくさせて驚いていた。




 早苗と知恵も声のするほうに顔を向けていた。

 声の主は隆二と遼一だった。




 背中越しの会話に知恵は考えた。

・・えっと女の子が「かえで」で男の子が「シンドウ」、

 それで名前が「コウジ」か・・

 どこか複雑な表情をしている早苗を見て知恵は思い出していた。



・・・そういえば早苗と彼氏の話をしたとき、そんな名前を聞いたような・・・

 そこまで考えたとき知恵は瞬時に理解した。

「まさか・・後ろの人・・彼氏?」

 さらに小さい声で尋ねると僅かに頷く早苗に知恵と美由紀は顔を見合わせていた。




                                 つづく

青春走者 その15

「アタシ、チーズバーガーセットね。美由紀は何にする?」

「知恵の定番だね。私はタマゴバーガーと烏龍茶がいいな」



「了解。注文しとくから先に座ってて」

「ありがと、知恵。ホントに奢ってくれるの?悪いよ」



「いいって気にしないで。アタシが奢るって言ったら何が何でも奢るわよ」

「ハイハイ、ありがとね」



 会話の後、美由紀は知恵が見つけた席に座った。その後、竹沼知恵が席についた。

 今日は結構お客さん入っているようねと知恵は思った。

「部活の後はお腹減るよね〜。ところで早苗も来るんでしょ?」

 美由紀がレジを見ながら話す。

 美由紀は知恵と同じく西女子高のソフト部の部員である。



「うん、用事を済ませてから来るって言ってたから、そろそろかな・・・ん?」

 知恵は答えながら、ふと耳に入ってきた自分の背中の席に

 座っている客の声に反応してしまう。



「・・・私・・・」

 知恵の背中の席の客、つまり洸児、楓、千晴の3人は楓の話が始まったと思いきや

 沈黙になり、気まずい空間となりつつあった。

 ・・・どうしたんだろ・・話ってのは、俺に関係あるのか・・・

 洸児は辛抱強く待つことにした。きっと重要な事かもしれないと彼は思った。



 楓は自分の心臓の鼓動を耐えながら、膝の上の手を更に強く握った。

 ・・・言わなくちゃ・・私の気持ちを・・伝えなくちゃ・・・

 そのとき、楓の握っている手に千晴は優しく自分の手を乗せた。

「楓、リラックスだよ」

 小さく聞こえたその声は楓の緊張をいくらか和らげてくれた。

 ふぅと一息ついて楓は洸児を見た。キョトンとした顔で楓を見ていた洸児は

 慌てて真剣に聞く表情を作る。


「あの日、出会ってから・・新堂さんの事を・・考えない日はありませんでした」

「え?俺・・の事・・?」

 思わず聞き返す洸児に答えることもなく楓は続ける。

「ほんとに些細な出来事かもしれませんが・・私にとっては運命の瞬間・・なんです」

 ここまで言って喉がカラカラに渇いていることに気が付いた。

 それでも彼女は話し続けた。



「名前すら分からなかった・・でも・・私の心は貴方の事を強く想うように

 なっていました・・」

 話の意図が理解し始めてきた洸児。しかし、自分の置かれている状況を考えると

 その先の結末まで思考が飛んでしまう。

 ・・あ・・まさか・・でも、俺には・・

「私・・新堂さんの事が好きです・・」

 予想していた言葉が楓の口から出た瞬間、洸児の思考はストップした。

 文字通り頭の中が真っ白になった。



 決定的な言葉は後ろにいた知恵の耳にも届いていた。

 そして、早苗は店のドアを開けようとしていた。

青春走者 その14

 洸児と楓たちは近くのハンバーガーショップへ入った。

 洸児はパンを食べていたのだが、断るわけにもいかないなと思いながら後に続いた。

 

 3人はハンバーガーセットを注文して席に座り、どことなく落ち着かない雰囲気で

 洸児は千晴と楓と向き合った。

 彼は、これから何を話そうか困惑していた。

 あまり女子とは話を積極的にするタイプではないのだ。



「えっと・・それで、俺に何か用事でも?」

 洸児が切り出すと、千晴は待ってましたと言わんばかりに話し始めた。

「はい。あのですね〜、実は楓は新堂さんへお礼を言いたいと思ってたんですよぉ」



「お礼?」

 洸児が聞き返したところで、楓は小さな封筒を出しテーブルの上に置いた。

「この前、本当に有難う御座いました・・いつか・・ちゃんとお礼を言わなくちゃと

 思ってたんです・・これ、あのときの電車代です」

 楓の話を聞いて洸児は封筒を手に取った。小銭が入っているらしくチャリンと

 音がしている。



 そんな楓の律儀さに可愛らしさを感じた。男友達ならこうはいかない。

 洸児は何となく心が温かくなるような感じがした。そして封筒を楓の前に置いた。

「わざわざ、有難う。すごく嬉しいよ。

 でも、あれは俺がぶつかってしまったお詫びだし、これは受け取れないよ」

 その言葉を聞いて楓は慌てて手を振る。

「え?そんなことないです!あれは私が財布と定期を忘れて慌てていたから」



 その必死の言葉に洸児は早苗を思い出していた。こういう律儀なところは早苗と楓は

 少し似ていると思った。

「そうだなぁ・・それじゃ、こうしよう!このお礼は有り難く頂戴するよ。

 その代わり、ハンバーガーセットを奢らせてもらうよ」

 洸児は笑顔を見せてそう言った。

 ちょうどそのとき、3人が注文したハンバーガーセットが出来上がり

 係員が持ってきた。



「実は・・話はお礼だけじゃないんです・・」

 ハンバーガーを食べながら千晴は洸児に話した。そして楓のほうを見ると静かに

 頷いた。

 ・・さぁ、楓・・あなたの勝負よ・・頑張って・・・

 千晴が心で話しかけてくるのを楓も感じていた。手のひらには汗が滲んでいる。

 その手を握りしめ、意を決して楓は話し始めた。

「・・私・・」


 
 その頃、友達と店内に入ってきた知恵は何気なく周りを見渡し

 空いている席を探し、3人の高校生が座っているテーブルの隣が空いているのを

 見つけていた。

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