恋愛走者 第二部

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青春走者 その3

 終業を告げるチャイムが鳴り、生徒達の歓喜の声が教室に響く。

 早苗は両手を大きく上へ伸ばす。すると後ろの席の女子が話しかけてくる

「今日も終わったね〜早苗」

「本日もお疲れ様でした」

 笑顔で話す早苗の表情は明るい、その理由は洸児の存在が大きい。




「早苗は今日もバイトなの?きつくない?」

 その女子、竹沼知恵(たけぬま ちえ)は尋ねる。

「うん、大丈夫だよ」

 バイトは早苗にとって楽しみのひとつでもある。部活を終えた洸児がバイト先の

 コンビニに寄ってくれて、その後、一緒に帰るのが一日の中で一番楽しい時間だった。



「そっか。なら良かった。

 ところで今度の土曜日、練習試合なんだけど、応援に来ない?」

 知恵はソフトボール部のキャプテンを務めている。性格も男っぽく、リーダーシップを

 発揮して部員から慕われている。

 ・・・土曜日か、洸児くんの部活を観に行こうと思ってたけど、まぁ、いいか・・・

「土曜日ね。分かったわ。頑張ってね」

「ありがとう!早苗が来てくれるなら勝たなくちゃ」

 知恵は喜びながらバットを振るポーズをする。



「そういえば、どこの学校と試合するの?」

「そうだった。まだ言ってなかったね。深山高校だよ」

 知恵の言葉を聞いた早苗の脳裏に村瀬和希の姿が浮かんだ。

 ・・・そっか、村瀬くんの学校か・・・




「お〜い、村瀬君」

 授業が終わり部活に向かおうとしていた村瀬はクラスの女子に呼び止められた。

「ん?なんだ?」

「ねえ、村瀬君ってさ、彼女いるの?」

「俺かい?いないよ・・」

 言いながら頭の中に早苗の姿が現れてくる。まだ女子が何か言いたげだったが、

「部活あるから」

 とだけ言い残し、村瀬はその場から足早に去った。

 ・・・やっぱり惚れちまったみたいだな。あの娘に・・・

 歩きながら恋に自覚した村瀬だった。

 もちろん早苗に洸児という彼氏がいることも承知しているのだが・・・



                                     つづく

青春走者 その2

 どうにか遅刻せずに登校する事が出来て澄崎楓(すみさき かえで)は小さく息を吐いた。

 しかし教室に入って自分の椅子に座っても胸の高鳴りは止まらなかった。

 ・・どうしたんだろう、あたし・・もしかして・・あの人の事・・

 自分の胸にそっと手を当ててみる。すると、今朝ぶつかったときに差し伸べられた手を

 握った感触が蘇ってくる。

 ・・あの校章・・西高の人・・だったよね・・





「こら!澄崎!ボーッとするなっ!」

「へ?・・あ・・す、すいません!」

 授業中、先生に注意を受け楓は小さく舌を出した。

 しかし、その後も上の空といった調子で先生の話は頭の中に記憶されることは無かった。




「ねえ、楓ったら、どうしたの?さっきの授業全然聞いてなかったでしょ」

 休み時間に友人の一人が楓に聞いてくる。

「うん・・ごめん、ちょっと考え事してて・・ね」

 話しながら楓は今朝の出来事が頭の中を繰り返し再生中なのであった。

 ・・・確か、洸児さんって言ってたっけ・・あの人・・



「か〜え〜で〜ちゃん!」

 更にツッコミを入れられるが今の楓にとっては効果ナシである。そんな楓を見ていて友人の

 少女は何かを察したらしい。

「はは〜ん。さては楓・・恋の季節ってやつですか・・?」

 楓は心の中でギクッとした。自分でも恋なのかハッキリと決められる段階でもなかったのだが

 今では洸児の顔が絶えず頭の中に浮かんでくる。

「千晴ちゃん・・鋭いね・・・」

 楓の友人、里中千晴(さとなか ちはる)はニヤッと笑いながら楓に顔を近づけた。

「とうとう楓にも春が来たんだねぇ。良かったね〜。で?どんな人なの」



「・・それが・・まだ名前しか・・苗字は分からないんだ・・」

 楓の言葉に千晴は首を傾げる。

「名前だけか・・それじゃ深山の生徒じゃないの?」

「うん・・ウチの学校じゃない・・校章見たら西高だった」

 俯きながら楓は答える。自分でも顔が赤くなっているのが分かる。

「おやおや。あの元気少女の楓が真っ赤になるほどイイ男なんだ?その人」

 冗談を言いながら千晴は思っていた。

 ・・・どんな人なのか探ってみる必要があるわね・・

 千晴は楓の為に一肌脱いであげようと決心したのだった。




「ハックション!」

「ん?どうした新堂。花粉症か?」

 先生に尋ねられて洸児は鼻を触りながら答える。

「え?いや・・今のはタダのくしゃみです」

 言いながら密かに考えていたのは、

 ・・・もしかして早苗ちゃんが俺の話でもしてんのかな?・・

 という自分に酔っているとしか思えない内容だった。 



 そんな洸児を見ながら翔は思った。

 ・・コイツ、なんて単純なんだ、考えていることが顔に出るタイプなんだよな・・・

 苦笑しながら、今朝の電車賃を寄付してあげた少女は間に合ったのかなと考えてみた。



                                     つづく

青春走者 その1

 桜の花が咲き乱れる朝、洸児は通学路を歩いている。3年生になり一週間が過ぎた。

 欠伸をしながら歩く洸児に後ろから忍び寄る影。

「おっす!洸児!」

 そう言いながら声の主は洸児の背中を叩く。



「痛えな、翔」

「朝からボーっとしてんなよ」

 結局3年になっても翔とは同じクラスになった。こういうのを「腐れ縁」と呼ぶのだろう。

「そういや、そろそろ新入部員の募集だろ。洸児」

「ああ。確か今日だったな」



 この日は1年生が部活を決めて入部手続きをする日でもある。洸児たち陸上部にも毎年10名前後の

 生徒が入部している。今年は何人入るのか楽しみなところでもある。

「どれくらい入るかな。10人は来て欲しいけどな〜」

「それじゃ翔が勧誘の挨拶するか」

「冗談じゃねぇよ。そういうのは主将に譲るよ。俺、人前で話すの苦手でな」

 翔の言葉に笑う洸児であった。





 駅の改札の前で一人の少女が学生鞄の中を必死にあさっている。

「無い、どうしよう・・家に忘れたんだわ・・」



 少女は悲しい気分になっていた。がっくりと肩を落として溜息をつく。

「誰もいないか・・仕方が無い・・家に取りに戻るか・・遅刻かな」

 周りを見渡し、知人も見当たらないことを確かめながら呟いた。

 改札口を振り返りながら駅を出る少女。だが、前を見ていなかったため、道を歩いてきた人に

 ぶつかってしまう。少女は尻餅をついた。

「キャッ」

「イテテ・・大丈夫か?」



 ぶつかったのは男子生徒だった。少女に手を差し伸べて声をかけてくる。

「え?・・」

 手を差し出された事に驚いている少女に、

「どうした?ほら?立てない?」

 男子生徒は心配そうな顔になる。少女は我に返り慌てて手を掴んで立ち上がった。



「あ・・あの・・すみませんでした」

「いや、こっちこそゴメン。急いでたのかい?」

「はい・・財布を家に忘れて・・取りに戻ろうと・・定期券も入ってるんで」

 少女の話を聞いていた男子生徒は問いかける。

「今から?でも、学校間に合うの?」

「多分、遅刻ですね・・仕方ないです・・自分のミスだし」

 少女の言葉に男子生徒は考え込んだ。すると一緒にいた別の男子生徒が近寄ってきた。

「どうする?」

「うん、こうしよう。これどうぞ」

 そう言って自分のポケットから財布を出し小銭を出す。



「ぶつかったお詫び。学校までの電車賃に使って」

「え?!」

 驚く少女を無視するように、

「ほら翔、お前も出してやれよ」

「あ?俺もかよ?洸児」

 驚く翔に洸児はニヤッと笑う。少女とぶつかった男子生徒は洸児だった。

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