我輩は猫である

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短編「ショートショート」

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1話完結の短編です。お好きなところからどうぞ♪。
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赤い電車が脳裏を過ぎる。

それは、過去の思い出。

あなたと幸せに過ごした日々の記憶。

銀色の電車が停車する。

それは、今のことで、今の私の日々。

無機質な電車、それに乗り込む。

「必ず戻って来る。その時は結婚しよう。約束だぞ」

「うん、待ってるから」

それが、あなたとの最後の会話だった。

あれから、5年、風の噂で聞いた、あなたの訃報。

『ビュリッツァー賞を受賞してみせる』

それが、あなたの口癖だったな。

あの頃の私達は、夢と希望で胸をときめかせていた。

若気の至りなのかもしれない。

そう、あなたは取材先の戦場で、命を落とし、帰らぬ人となった。

電車の発車のベルが響く。

身体に軽い圧力を感じる。

後悔先立たず。

5年という歳月が長いのか、短いのか。

今の私には、それすらわからずにいる。

電車の窓の景色が変わる。

そう、季節は秋を迎え、冬の気配も所々に見えた。

鮮やかな紅葉が目に眩しい。

伝わる電車の振動、揺れる心。

忘れられない、あなたの声を。

忘れられない、あなたの優しい微笑み。

揺れる電車に、揺れる心。

このままでいいのか?。

これは、ずっと自問自答していたこと。

忘れたくない、この思い。

思い出にするには早過ぎる。

電車のアナウンスが聴こえる。

降りなければ。

駅の改札を抜けた時に、携帯電話が着信のメロディを鳴らす。

この番号は?。

全く知らない番号だ。

出るか迷ったが、何かの予感が私の心を決心させた。

胸のドキドキが止まらない。

「はい、カツラギです」

「ヨウコかい?、俺だけどわかる?」

「馬鹿!」

「おい、感動の再会の一言がそれかい?」

「心配したんだから・・・」

「ゴメン、色々と事情があってさ」

今にも泣きそう。

信じて良かったという思い。

早く、あなたに会いたい、顔が見たい、声が聞きたい。

「エスコートするよ」

「えっ!?」

「授賞式なんだ、俺のね」

「そうなんだ、おめでとう。でも、私、会社に行かないと」

「エスケープしようぜ」

戸惑う心。

変わらないな、彼のこの強引なまでの行動力。

でも・・・。

「うん、でも、どうしたらいいの?」

「電話を切って、前を見てごらん」

その瞬間だった。

懐かしい匂い、彼の両腕で抱きしめられた。

耳元で彼の声が聞こえる。

「待たせてゴメン。もう、ずっと離さないし、一人にはしないよ」

「うん、ずっと信じて待ってた」

「ありがとう、これからは、ずっと一緒だよ」

「うん、約束だからね」

私達を囲み、人々の興味を誘い、輪を作った。

だけど、全く気にならない。

あなたと一緒だから。

本当に心配したんだから。

信じて待ってて良かった。

「馬鹿!」

「そうだな」

「ううん、嬉しい」

止まらない、涙。

止まっていた、時間の針が、静かに、私達の新たな時間を刻み始めた。


秋の終わりに


 
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それは約束。

君は覚えているのだろうか。

「日本に帰ったら、ここでまた会おう」

「うん、忘れないよ」

そう君は答えていたね。

あれから5年の月日が経った。

今更だが、もう遅過ぎるのかもしれない。

電話を掛ければ良かった。

手紙を書けば良かった。

頭の中を過ぎるのは、後悔の念だけ。

眩しかった笑顔。

君の笑顔はいつも輝いて見えたよ。

全部、俺が悪い。

君を置いて、俺はアメリカへ渡った。

今では遠い過去のようだよ。

「待ってる」

あの時の君の笑顔が忘れられない。

アメリカへ渡り、3年。

仕事が落ち着き、やっと余裕が出来た時だ。

電話をした君はそこにいなかった。

聞いたのは、引越しして、今はどこにいるのかもわからないことだけ。

そして、俺は再び日本の土を踏んだ。

やっとだが、帰って来れたんだよ、俺は。

だが、君のいない日本に何を俺は求めているのだろう。

もう、いるはずもないのに・・・。

ここは約束の丘。

出会いでもあり、別れの場所だ。

長い長い上り坂。

その頂点にあるのは、1本の大きな桜の木。

俺達はここで出会った。

そして、ここが別れの丘でもある。

満開の桜だったな。

それは今も変わらず、その姿が俺の目に飛び込んで来る。

爽やかな春の桜の香。

全てが今となっては懐かしい・・・。

気持ちにケジメをつけなくてはならない。

だから、俺は今日、この桜の木に別れの報告をする。

そんな気持ちで来たんだよ、俺は。

だが、俺は自分の目を疑った。

ここで君と再会出来るとは思わなかったからだ。

信じられない・・・。

満開の桜に満面の笑みの君がいた。

「コウ君」

「・・ミユキ・・・」

「約束だったよね」

「・・・そうだったな」

奇跡とはこういうことを言うのか。

世の中、捨てたものじゃないな。

「コウ君?」

「いや、何だ・・・、その・・・」

「お帰りなさい」

輝くような、ミユキの笑顔。

変わらないな。

「ああ、ただいま。それとゴメ・・・」

「ゴメン」と言おうとしたのだが、ミユキがそれを遮る。

「信じて待ってた」

そう言った、ミユキが俺の胸に飛び込んで来た。

「ただいま」

「うん、お帰りなさい」

「どうしてここに?」

「何となくね、そんな気がしたんだ」

「そうか、もう離さないからさ」

「うん、わかってる」

止まっていた時間が動き出した。

満開の桜が俺達を祝福してくれているようだ。

「これから、ずっと一緒だな」

「うん、ずっと一緒だよ」

時間は二人の新たな人生を刻み始めた。


桜舞うあの丘で


 
 
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ねえ、聞こえる?。

ねえ、聞こえますか?。

ここは・・・どこなんだろう・・・。

暗いような・・・。

でも、・・・温かい。

心までが温かくなるよ。

あの光は何だろう。

ん!?、誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。

あの声は誰?。

温かい声。

優しい声。

心が安らぐ声。

「ノリコ、頑張れ!」

「う、うん・・・タツヒコさん」

「俺がついているぞ」

「うん・・・」

「ノリコ!」

「奥さん、もう少しですよ」

「はい・・・」

「頑張れ、ノリコ」

「手・・・、離さないでね」

「当たり前だ。頑張れ、ノリコ!」

「ありがとう」

「奥さん、ここです」

「はい」

「・・・」

「・・・・・・・・」

えっ!?、ここから出ないといけないの?。

ここなら安心していられるのになぁ。

でもね。

大切な誰かが私を呼ぶ声が聞こえるから。

何かに押されるように、私はその場所を飛び出した。

そして、ある深夜の病院で、元気の良い赤ちゃんの声が響く。

「おぎゃぁ〜〜〜」

初めましてと言おうとしたのだけど・・・。

口から出たのは違った。

「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」

「ノリコ、頑張ったな」

「うん、ありがとう、タツヒコさん」

声が聞こえるのだけど、私には何を言っているのかわからなかった。

それに、まだ何も見えないから。

薄っすらと光と誰かの姿が見えるけどね。

「頑張ったな、サクラコ」

「タツヒコさん?」

「どうかしたかい?」

「サクラコって、誰?」

「この子の名前だよ」

「もう、私に何も言わないで決めないでね」

「・・ダメ・・・かい?」

「ううん、嬉しい。本当に良い名前ね」

「そうか?」

「うん、ありがとうね、タツヒコさん」

「安心したよ」

「サクラコちゃん、私があなたのママよ」

「サクラコ、俺がパパだぞ」

「では、新生児室に移動しますので」

「はい」

「よろしくお願いします」

「安心してお任せ下さい。お母さんにお父さん」

あれっ!?、離れ離れになるの?。

何かの・・・何だろう?。

部屋みたいなものに移されちゃった。

どこかに行くのかな?。

「お父さんだってさ、俺」

「私はお母さんよ」

「もう、何を笑って泣いているのよ」

「そうか?、気づかなかったよ」

「あはは、私も同じよ」

「そうだな」

「うん」

私はこの会話を聞いていなかった。

後になって、聞いたのだけどね。

私、生まれたんだ。

初めまして、ママ。

初めまして、パパ。

初めまして、私の人生。

よろしくね。


初めましての私の人生
 
 
 
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ここは・・・ドコ?。

私は・・・ダレ?。

わからないな。

ここは・・・ドコ?。

わからないな。

「ナミ、行くぞ」

「えっ!?、う、・・・うん」

あなたは・・・ダレ?。

「大丈夫か?」

「ああ!!!」

「おい、ナミ。本当に大丈夫か?」

そうだった。

今日は彼の実家に行く日だった。

「何でもないよ?、ケイちゃん」

「本当か?」

「うん、行こう」

彼の背中を押すように車へと乗り込んだ。

車で2時間くらいって、聞いていたな。

私に出来るかな。

「おい、本当に大丈夫か?」

「うん、任せて。レッツゴー!」

「任せるって・・・?」

「ううん、何でもないよ」

「行くぞ」

「うん」

車が音楽を流す。

エンジンの音。

タイヤの音。

それに風を切る爽やかな空気音。

いつもの音だ。

結婚の報告。

喜んでくれるかな?。

認めてもらえるかな?。

ううん、今は自分に出来ることをするだけ。

「まだ、あったよね?。あれだけど・・・」

「ああ、任せてくれ」

「任せてくれって?」

「いや、何でもないよ。まあ、気にするな」

「ええっ!?、気になる〜」

高速を降りて、45分。

車は閑静な住宅街へ入る。

「もう少しだ。楽しみだな」

「うん、楽しみ、・・・でも、少し緊張してるよ」

「ナミでも緊張するんだ?」

「するわよ〜、もう」

「そっか、楽しみだな」

「何が?」

「内緒」

「もう、泣いちゃうぞ」

車が停車する。

ここが彼の実家かな。

表札には『スズムラ』と書いてある。

ここだ。

「行くぞ」

「う、・・・うん」

玄関のドアを開けるとクラッカーの高い音が歓迎してくれた。

「お帰り」

「待っていたわよ」

「ただいま」

「ナミ、入って」

「あ、失礼します」

「ナミさんですね。自分の家だと思って気楽にね」

「あ、はい」

「母さん、あれは?」

「こっちよ。ナミさんもどうぞ」

呼ばれるままに家の中へと入る。

通された部屋には・・・ピアノだ。

「今日のために調律しておいたわ」

「ありがと、母さん」

「ナミ、弾いてみて」

ピアノには楽譜が置いてある。

1通り目を通して、曲を覚える。

この音は・・・。

このリズムは・・・。

何だろう。

懐かしい音だ。

部屋に響き渡るピアノの音。

自分で弾いて、びっくりしてしまった。

何て優しい音律なのだろう。

「ナミ、作曲者の名前を見てみて」

「名前?」

「早く」

「う、・・うん」

『トダカハヤネ』と書いてあった。

これは・・・。

私の祖母の名前だ。

「ケイちゃん?」

「父さんと母さんが探してくれたんだ」

「ハヤネさんは日本を代表するピアニストでしたからね」

今は亡き、私の祖母の名前。

世界に名前を知られるピアニストだった。

「ナミはその血を受け継いでいるな」

「えっ!!?・・・」

「そうね。私、ナミさんのCDは全部持っているわよ」

「おい、俺も持っているからな」

「お父さん、自分のも欲しいって、大変だったわよ」

「あ、ありがとうございます」

「かしこまらなくてもいいのよ。もう、家族なのだからね」

「えっ!?、あ、はい。嬉しいです。ありがとうございます」

「よかったな、ナミ」

「うん、嬉しい。私、本当に嬉しいよ」

「俺もだよ」

「じゃあ、これは私から・・・」

そう言って、鞄の中の楽譜を取り出す。

「新曲で、初めて人前で弾く曲ですが、聴いてもらえますか?」

「まあ、嬉しい。もちろんよ」

「そっか。このことだったんだな」

「うん」

ピアノの音が空を舞う。

これは私の今の気持ち。

幸せだよ、私。


見えない鍵盤
 
 
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誕生日。

楽しい楽しい誕生日。

嬉しいな。

考えたんだぞ、プレゼント。

喜んでくれるかな。

うん、きっと大丈夫。

時間の歩みが遅く感じる。

午後4時30分。

定時は午後5時。

部長には1ヶ月前から言っておいたんだ。

だから、今日は久々の定時上がりだ。

1本の電話が鳴る。

「はい、KMR商事です」

「いつもお世話になっています。ミネヤマのタカギです」

「タカギ様ですね。こちらこそ、お世話になっています」

「・・・この声は、クドウさんですね?」

「はい、クドウです」

「明日に納品のデータですが、本日中までにお願い出来ないでしょうか?」

「私が・・・ですか?」

「はい、社長のミネヤマが直接クドウさんにお会いしたいと言っておりまして」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・クドウさん?」

「あ、はい、今から伺わせて頂きます」

「ありがとうございます。では、お待ちしております」

「はい、失礼致します」

「失礼します」

ええっ!?、今からなの?。

何で私なんだろう。

仕方ない。

彼に電話をして、少し待ってもらおう。

・・・電話がつながらない?。

何で?。

どうしよう?。

「クドウさん、どうかしましたか?」

「あ、部長。ミネヤマ電機のデータを本日中に欲しいとの電話でした」

「クドウさんは予定がありましたね。私が行きましょう」

「でも、社長が私に持って来るようにとのことでした」

「う〜ん、困ったものね」

「私、大丈夫です」

「では、お願いしますね。今日は直帰でいいので、荷物を持ってね」

「あ、はい。では、行って来ます」

「はい、お疲れ様」

急ごう。

1秒でも時間が惜しい。

彼との約束なのに。

彼の誕生日なのに。

どうしよう・・・。

タクシーに乗り込み、もう一度電話をしてみる。

つながらない。

電源が入っていない?。

何で今なの?。

「運転手さん、そこを右に曲がって下さい」

「はい、ミネヤマ電機でしたね。お任せ下さい」

進む時計の針。

急ぐ私の心。

「着きましたよ」

「ありがとう」

「お気をつけて」

気がつくと私は走っていた。

「お待たせしました。こちらがデータ・・・です?」

「お疲れ様」

「・・・?、・・・ハルキ?」

「うん、ここの社長とは悪友でね」

「悪友とは何だ?」

「ほらね」

「ハルキも人が悪いな。こんな素敵な彼女がいるのに内緒にしているなんてな」

「ユミ、ごめん」

「もう、本当に心配したんだから!」

「約束だったな」

「・・・うん」

「じゃあ、これは俺からのプレゼント」

「えっ!?、今日はハルキの誕生日で、私もプレゼントを用意していたのに?」

「いいから、開けてみて」

私の手の平には小さな小箱が残る。

そして、ドキドキしながら小箱を開ける。

これは・・・?。

「婚約指輪だよ。ユミ、俺と結婚して下さい」

「う・・・、うん・・・、はい」

「よかった」

「あのね。これは私から・・・、誕生日おめでとう」

彼にプレゼントを渡す。

「開けていい?」

「うん」

「腕時計だね。ありがと。大切にするよ。ユミのこともね」

「うん」

「よろしくな」

「うん、嬉し泣きしそう」

腕をつかまれ、彼の胸に包まれる。

バカ!。

これじゃあ、泣けないよ。

でもね。

私、幸せだよ。

止まっていた時間が動き出す。

新しい時間。

2人の新しい時間だ。

ありがとうね、ハルキ。


時間の天秤
 
 
 
 
 
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