|
[ 砂の女(安倍公房・新潮社)]
ありふれた砂を題材にして、そこからの脱出劇と人の存在様式を描いた作品です。
事物に対する精緻な観察や比喩はまるで推理小説のようです。
物質的にも精神的にも陰りの見え始めた今の日本において、
自分の眼を閉じて、ますます複雑化する日常を視界から一度捨て去って、
何が最も大切かを考える上でいい作品ではないでしょうか。
本職である教師にやりがいを感じていない仁木順平は、
趣味の昆虫採集に一際こだわりがあり、砂丘地へハンミョウの採集に出かけます。
村人の世話で、砂丘地に縦状に深く掘られた一軒家に宿泊することになります。
翌朝、帰ろうとすると、上方の崖に通じる縄梯子が誰かによって撤去されており、
押し寄せる砂で埋もれかけた家に自分が閉じ込められたことに気が付きます。
電気も水道もない家には、30歳過ぎの寡婦が一人で暮らしており、必死に家を守っています。
家の周りに落ちてくる砂を毎夜、かき出す生活を送っています。
積もる砂をモッコに詰めては外へ運び出して、古家の倒壊を防いでいます。
運び出された砂は村の組合で集められて、業者へ販売されており、
その換金によってささやかな暮らしが維持されています。
しかし、重労働の砂出し作業は一人では限界があり、
その補助の役目を昆虫採集に来た男が負わされる羽目になりました。
罠にはまった男は必死になって砂の穴から逃げ出そうとします。
口から血を吐き出すほどの凄まじい形相で砂の特徴を詳しく観察しながら、
あらん限りの知恵を振り絞って、そこから脱出しようとします。
その一方で、男は女の日課作業を手伝いつつ、徐々にそこの生活スタイルに慣れていきます。
女には男を支配しようとするような野心は毛頭ありません。遠慮がちで従順な接し方です。
そのため、男の警戒心が徐々に薄れ、女とも打ち解けるようになります。
女の方は外の生活と比較する気はなく、厳しいながらも砂の家の生活に満足しています。
男が加わってくれたことで余裕が生まれたため、新しく内職を始めます。
やがてラジオや鏡を購入できるようになることに幸福感を募らせていきます。
女が寝ているうちに何とか脱出に成功することができました。
不案内な集落を逃げ惑いさまよった挙句、海辺の底なし砂の中に運悪くはまってしまいます。
砂地獄から脱出しようと、もがくうちに首まで埋もれてしまいます。
「たのむ、助けてくれ」死に際に及んで、男は遂に泣き出してしまいます。
運良く村人に助命された後、元の砂の家へ連れ戻されます。
女は潤んだ声で男を迎え入れます。「すみません。お茶でも入れようと思って・・・」
観念した男は態度が急に大人しくなります。
砂の穴から何とか脱出することよりも、
そこでの暮らしを少しでも楽にするために持ち前の知恵を働かせようとします。
中でも最も不足する水を安定確保するため、簡易な蒸留装置を思いつきます。
それを知って、女も内職により精を出すようになります。
ここで、転機となる大事件が起こります。
女が下腹部に激痛を訴え、急遽、町の病院へ運ばれることになりました。
崖の上から縄梯子が下ろされ、重病の女がロープで吊り上げられます。
消え去るまでの間、女は目やにの付いた涙目を訴えるように男に注ぎます。
女が運び去られた後、縄梯子が吊り下げらたままであることに男は気付きます。
しかし、砂穴を出てプレッシャーから解放された男は、ここからもはや逃げ出そうとしません。
むしろ、改良中の蒸留装置の方が気がかりでなりません。
いつの間にか、砂穴の生活が今の自分の全ての拠り所になっていたからです。
ところで、砂漠地の園芸の視察のためにイスラエルを訪れた際、
科学的な灌漑システムが不毛の砂漠地を豊な地域に変えることができることを知らされた。
イスラエル人はグレートな民族であると感心しました。
今ではシャープさんのソーラーシステムが完成されつつある。
女が退院して、薄暗い砂穴に再び帰ってくるまでに、
そのための青写真をじっくり練って、実現可能な大きな夢を女に語ってやれば、
「順ちゃん、素敵」と尊敬してくれるかも(笑)
これが21世紀版「砂の女」のテーマであって欲しいね。
==========
ご意見は下記にメールして下さい。
白鳥イチゴ研究所
hakucho_brix@yahoo.co.jp
あるいは、本文下のコメント欄(未登録の方もOK)や、
内緒コメント(Yahoo! JAPAN IDに登録の方のみ)
をご利用して下さい。
==========
|
『自分の眼を閉じて、ますます複雑化する日常を視界から一度捨て去って、
何が最も大切かを考える』
砂漠体験(小説でも旅行でも)いいかもしれませんね。
行ったみたいです。きっとスッキリすると思います。
先ほどはコメントありがとうございました。
2010/10/1(金) 午後 8:40