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名作に親しむ [ 戦争と平和(トルストイ・新潮社)]
ただ一度の人生において、これだけは熟読しておいた方がよいという書物があります。
小説の分野に目を向けると、おそらく日本文学では紫式部「源氏物語」、
海外文学ではドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」と、
トルストイ「戦争と平和」だと思います。
今まで読まずにきた「戦争と平和」を熟読してみました。
19世紀初めに勃発したフランス皇帝ナポレオンによるロシア侵攻を背景にして、
祖国防衛のために立ち上がった、ロシアの民衆や上流社会の動きを詳細に描いた大河小説です。
とくに、歴史的事件に巻き込まれた上流貴族の心理や行動が赤裸々に描かれているところが圧巻です。
本作品の登場人物は何と500名を越えます。
それぞれが単なる点ではなく、独自の役割と個性を持った人物として描かれています。
そのため、読む方は筋書きを追う以外に、登場人物の個性や名前を知るだけで大変です。
まして、ロシア人名には氏名の他に父名と愛称が伴います。
例えば、主な登場人物の一人であるナターシャ(愛称)の正式名は、
ナターリア(名)・イリーニチナ(父)・ロストワ(氏)です。
ロフトフ家出身のイリーニチイを父に持つナターリアさん、通称「なっちゃん」。
同一人物の呼び名が方々で違うので照合させるだけで一苦労。
主な登場人物は、上流貴族であるロストフ家のニコライ(長男)とナターシャ(妹)、
同じく、ボルコンスキー家のアンドレー(長男)とマリヤ(妹)、
それに、最も富裕なベズーホフ家のピエール(庶子)の5名です。
それぞれがナポレオン戦争に影響され翻弄ながら、自分の人生を切り開いて成長していきます。
無限の広がりを持つ、彼らの心理描写は見事と言う他ありません。
彼らの共通の特徴として、愛や善や真実などポジティブな要素が内包されています。
もう一方で、野心や傲慢や利己といったネガティブな要素を持つ、世俗的人物が多く配置されています。
両方が縦横に織り込まれているため、物語はますます複雑で、深みのあるものになっています。
しかし、少し残念な箇所もありました。
作品のシメである最後のエピローグです。
ナターシャという、豊潤な太陽と土地を象徴したような人物が、ピエールと結婚した後、
子宝に恵まれた、素晴らしい家庭を持つことができ、ハッピーになったところまではよかったが、
何と彼女は夫に対して、大変な焼もち焼きとして描かれています。
彼女のこの変質の過程が納得できません。
さらにもう一つ。ナターシャの妹のソーニャは、家族の者に大変献身的で優しい美人ですが、
その割に、最後に貧乏くじを引かされる運命を背負っています。
このことは、ナターシャや、ニコライの妻になったマリヤも感じていて、
二人の会話で、彼女のことを「あだ花よ、ほら、苺にあるでしょう」と断じました。
二人のこの冷ややかな視線が納得できません。
ロシア人はベルー類が大好きと前から聞いていたので、
本作品にもきっと苺の話がでてくるだろうと楽しみにしていました。
予想通り、エピローグのところで出てきました。何とソーニャを揶揄する場面で。
あだ花とは、イチゴの花房の後半に着生する、沢山の小花のことです。
これはムダ花といって、肥大しない不受精や果重8グラム前後の小果になります。
商品価値が悪いうえに、樹を弱らせる原因になるので、栽培的には早めの摘花が求められる。
ソーニャは摘花の対象かと思うと、何の非もないのに、
本作品の中で最も不幸な人物と同情しました(笑)。
愛や善や真実などの要素は人々に結合や共和をもたらし、
他方、野心や傲慢や利己といった要素は分裂や闘争をもたらす。
そして、最終的には、前者は、エピローグで描かれるような家庭的な平和の姿に、
後者は、ナポレオン侵攻に見られるような醜い戦争の姿となって現れる。
当然ながら、作者は前者を高位に置いています。
これが本作品に対する理解です。
ちなみに、トルストイは存命中に始まった日露戦争に対し、
平和主義の立場から、両国民に対して自制を促した人物としてよく知られています。
想像上の文学世界だけにとどまらず、地で行った人物として、
没後100年の翌年目に当たり、改めて敬意を表したい。
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こんにちは hak**ho_br*x さん m(_ _)m
戦争と平和…残念ながら未読ですけど
映画化されたのは何度か見たことありますね
たくさんの登場人物に複雑な話…だけど ストーリーが破綻してなかったのは 映画からでも 充分伝わりました…
もし 機会あったら…というより 読む気分が MAX に達したら 一読してみようかなと思いました
あれだけの長編だから 中途半端な気持ちだったら断念しそうなんで…
2011/2/7(月) 午後 2:00 [ gin-tonic ]
率直な感想をいただきありがとうございます。
たしかに、「読む気分がMAXに達したら」
一気に読むべき作品だと思います。
2011/2/7(月) 午後 9:51
追記
この感想を書く前日(2月6日)に「トルストイの家出」という
タイトルの番組がNHK教育テレビで夜に放映されたようです。
残念ながら見ませんでしたが、
家出が彼の妻ソフィアとの不仲に原因があるらしい。
「戦争と平和」に登場するピエールとナターシャは、
トルストイ本人と彼の妻がモデルとされています。
エピローグで登場するナターシャは異常なほどの
焼もち焼きに変質していました。
内省的なピエールとの間に違和感を抱きました。
今風に言えば、ズレが極端に大きくなると、妻のDV、そして破局。
実際はどうだったのでしょう。
夫が偉大すぎたんでしょうね。
2011/2/9(水) 午前 11:01