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森林破壊の元凶
『森林破壊と地球環境』大石眞人氏著 平成7年発行 丸善ライブラリー
著者大石眞人(おおいし・まひと)氏の紹介
(株)木材新聞社編集長・論説委員長、林野庁木材基本問題研究会、南洋材資源研究会メンパー各県林務部・各組合顧問・専門コンサルタントなどを歴任。わが国を代表する木材産業コンサルタントとして知られている。著書に『新しい木材産業とは何か』『世界の森林資源』『日本の杉』など。また登山ジャーナリスト、旅行作家
としても著名であり、「温泉の文化誌」(丸善ライブラリー)、『全国いでゆガイド』『温泉ガイド200選』なとの著書がある。
(前文略)ところで、こんなことをいって、こまごまとした森林破壊をいい出しても仕様がないではないかという意見もあろう。実はまったくそうであって、国土庁、環境庁関係は前述の点に関心を持って頂くことをお願いするが、本当の森林破壊の元凶は、森林を監督管理し行政指導をすべき林野庁であると断定せざるをえない。農林水産省は、わが国の第一次産品、とくに生活必需品の生産を監督する官庁であるが、いまはもっとも困った官庁となっている。
この省は食糧庁、林野庁、水産庁関係に大きく分けられるが、どれも困った失政の連続である。一番大きいのは食糧庁だが、この庁の主たる領域は、やはり「米」であろう。しかし、わが国の米政策は、統制も現在失政の連続で、いまや混迷の極を極めている。ようやく95年一一月に食管法がなくなったが、五三年も保たせず、早く廃棄すべきであった。水産庁は、いま
でも世界第一の水産国である。そのわが国の水産を司るのに、二百海里問題以来、きわめて影が薄い。もっとも遠洋漁業の多くなった水産業界のバックアップをするには「土下座外交」の外務省を通じてでは、心もとないのもやむを得ないかも知れない。
一番だらしがないのが林野庁である。農林省といわれたのが、おかしいといわれて農林水産省となったが、その後農林が農水省となり、「林」の一字は専ら「忍」の一字になってしまっている。
林野庁というところは、他の省庁とかなり異なった歴史を有し、かつ、現状も異なる官庁である。
林野庁は国有林という自己資産をもち、これで原木販売の現業を持っているとともに、全国の民有林の管理指導も行う。また全国的な治山治水事業の統率責任官庁でもある重要な官庁である。しかし、このところまことに影が薄い。なぜなら、運輸省が持っていたJR、郵政省が持っていたNTT、通産省が持っていた、専売局傘下だったJTなど、どこも純官業を離れ、
民営化してほぼ成功しているのに、林野庁は、どうしても民営化できない赤字採算の「林野庁特別合計事業」というのを持ち、身動きがならない状態である上に、今後も健全な見通しを立てることができない。しかも、この林野庁の態度こそ、全国の林業を壊滅させ、森林を荒廃させ、そして国民の税金をなおも大量に食いつぶしてゆく元凶となっているのである。
なぜ、そうなのか。一応、林野庁が国会に提出して承認を得た平成六年度の「林業白書」に敬意を表して、彼らがいまの林業、木材産業、山林の現状について述べている箇所を引用してみよう。
「我が国は経済大国となった現在でも、国土の67%の森林を維持している。経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でGDP(国民総収入、名目)が1兆ドル以上の国(1993年)は、わが国を含め、米国、ドイツ、フランスの四国であるが、わが国を除く三か国の国と面積に占める森林面積がおおむね30%以下となっていることを対比させて見ると、わが国の森林率が先進国の中でも異例の高さとなっていることがわかる。
その要因としては、国土の背稜(せきりよう)部が開発困難な急峡な山地で占められていること、森林の発生に最適な温帯モンスーン気候に属していること、水の確保等の面で森林との「共生」を必要とする水田稲作農業が広く展開されて来たことなどが考えられる。
これらの要因に加え、わが国は古くから森林や木材との密接なかかわりの中で、優れた森林文化を育み、明治以降も近代的な技術、制度等をとりこんで、その新たな展開をはかったことも無視出来ない。
しかしながら、森林文化の一番の担い手であり、森林の整備、管理を担って来た林業や林業と結びつきながら発展して来た木材産業は、現在、円高の進行に伴う外材輸入の増大、木材価格の低迷等により困難な状況に直面している。これに伴い、それぞれの時代と状況に応じて森林文化の展開と、その世の中に対する発信の場となって来た山村の活力も低下している。
こうした状況が続けば、わが国のすぐれた森林文化の継承が困難になるだけでなく、森林文化の展開を通じ、確保されて来た森林の持った恩恵や効用を享受し続けることが困難となることが危惧される。
筆者からすればかえりみて他を見るように思われるが、そのあとで同白書は、内地のスギ原木の立木価格がほとんど変りないのに、昭和40年を100とした場合、伐出賃金は520、造林費は929で、林業労働者の後継も何にもほとんどないという、絶望的な数字を並べている。続けて森林回復への取り組みについても記しているが、各地方の取組についても、きわめ
て象徴的であり、少なくとも採算のとれる林業回復、森林復興実は発表されていない。かえって森林を潰して、レジャーランドや温泉開発をするなどの考えが先行し、これでは森林破壊が深まるばかりである。
わが国には、森林面積の約三分の一の国有林と、約三分の二の民有林があり、森林蓄積量からいえば、おおむね4・5対5・5位である。国有林は従来二種類あった。明治維新以後のことであるが、徳川幕府を中心とした武家族の持っていたものを国有とし、これを国有林とし、天皇一家の所有としていたものを皇室御用林といっていた。戦前までに青森だとか、木曽だとかに国有林と御用林の営林局が別にあり、営林署も別だった(ただ山梨県は貧困な県ということで、明治天皇が特別に同県へ県有林として下賜したので、山梨県のみは、異例に県有林が多い)。また木曽は長野営林局管内であるが、いまも名古屋営林局管内の白鳥貯木場で貯材され、公売に付されるのは、木曽が尾張の徳川家の領地〔天領という)であったためで、業界では木曽材のことをいまでも尾州材という。
これらの国有林材は林野庁の手によって、「特別合計事業」と名付けられて、一部の立木販売を含むが、多く営林局署の職員によって原木に加工せられ、各営林署の置場(営林署の近くや山中の広場にあり、いずれも土場といい、後者を山元土場という)において、原則的に公開公売される。もっとも、この原木の販売方法は非常に複雑であり、局外者にはなかなかわかりにくい。そこで、多少の誤解をおそれず、ごく簡単に述べてみる。
一、立木での公売もあるが少ない。
二、伐り出された瞭木〔丸太)を林野庁では製品といい、これを土場で見積し、適当な山に積み上げて一口とし(巨木、又は銘木の場合は一本売りをする場合がある)一山を一口として詳細なリストをつくり、一口ごとに入札価格を書いたものを、公売場で入札させる。
三、入札は登録したもの(木材産業者=原木商も含む)によって自由に行われるが、指名入札といって、売方(営林局、署側)が一方的に指名した10社程度の業者によって、競争入札される場合もある。
四、以下わかりにくくなるので注意してほしい。
国有林材販売に限っての特別な方法として、
○ 配材、つまり随意契約がある(随意契約は特売と業界でいうので、以下特売と称する)。こういう不思議なものがあるのは、公売が競争入札であり、採算を度外視して入れる場合もあるから、業界の育成のために安価な材を別枠で提供するというものである。
○ その払い下げ価格は往年は、公売価格の6割くらいであったが、いまは採算が悪くなったので、公売価格と大した差はないらしい(特売価格は一切公表されない)。
○ しかも、もつと不思議なことは、毎年春になると、各工場(原木商は公売材の転売を許されぬから、特売は受けられない)に対し、その年度の配材表が送られる。お前のところへは、こういう原木を安い価格で売ってやるぞというお達しで、製材側にとつては願ってもないありがたいものだった。
○ ところで、この安い特売材を沢山もらうことが国有林材産地経営者の腕になる。配材基準は前年の公売材購入の多少による実績によるというが、これも営林局、署の一方的な割りあてだから、実際には、どうとでもなっていた(なお、公売は局公売と署公売がある)。
○ もっとも安いといっても、営林局、署側の勝手な配材であるから、受けた土場に不適な材もまじることがある。配材を受けた材は転売禁止だが、挽くこともできない材をあてがわれても困るから(営林局、署側はその工場に適した材を配材としているというが)特売材でも不適なものは、他へ転売することは公然の秘密であった。
○ いずれにしても、特売材はもうけのもとであるから、業者の、特にボスは営林局、署側の職員に接待攻勢をして、いくらかでも特売材を増やし、そして特売材の内容をよくしてもらうことに、努力したのである。
誤解を避けるため申し上げるが、現在このようなボスの暗躍は少ないと思う。でも、戦後20年位の木材産業黄金時代には、たしかにあったし、筆者が実際にこの目で見ているのだから仕方がない。
いまの林野庁、木材産業界はこんな悠長なことはいっていられない。総火の車である。特売だって、大した慈雨となっていないはずで、配材の一部を拒否するところもあるようだ。もう、林野庁側も赤字覚悟と決め込み、大蔵省も黙認しているらしいから、そんなこともないと思うが、営林署が落ち目になったころ、営林署長などは、月末になると業者のところへ自転車で廻って、集金をするのに汲々としていたこともあった。
実は、「林野庁特別会計事業」というのは、その販売生産物によって、各営林局、署の人件費をはじめ、諸経費をまかなわねばならぬことになっている。従って、どうしても、国有林の木を売って、その売上金が大量に必要である。手っ取り早いのは売価の高い原木を売って、金額をまとめることだ。国有林では、よく知床や白神山地のブナの純林などを伐るといって、世論の反対を買う。なぜ、われわれが見てももったいないあの天然林を伐ろうとするのかといえば、つまり高い天然木を伐らねば職員の給料が払えないのである。スーパー林道など一般会計でつくっても、結局、奥鬼怒林道のように、人も通さず未利用にしているのは、もとは奥地の貴重な材を伐って人件費をかせぎたかったからで、環境保全のためならスーパー林道一つつくることだっておかしい。
さて、これらの林野庁特別合計事業は、もはや、未来永劫、不採算の事業として、毎年赤字を重ね、林野庁は国有林野事業の借入金(債務)残高が94年度(94年4月−95年3月)決算で、初めて3兆円を越すと発表している。
また95年度予算の国有林野事業特別会計の資金繰りを見ると、事業収入2384億円に対し、事業費は5843億円であり、収入は経費の四割しか見込めない有様である。職員の数も1万2846人から、1万1391人と一割強削減する方針が示されているが、これはいわゆるリストラでなく、新規不採用や高齢などの自然退職者に多くを期待している。
●大石眞人氏関連サイト
○http://search.yahoo.co.jp/search?p=%E5%A4%A7%E7%9F%B3%E7%9C%9E%E4%BA%BA&ei=UTF-8&fr=usf&x=wrt
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