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林業の経営形態 農家所有林(『林業概論』 島田錦蔵氏著 昭和32年)
わが国の私有林の所有規模が零細なことはすでに述べたが,仮りに20町歩以上の経営を主業的林巣20町歩以下の経営を農家の副業的林業と仮定すると、所有者数において99%,面積において65%にあたる494万戸,750万町歩が農家所有ということになる。殊に1町歩未満の所有戸数は全戸数の73%を占めていて,わが国の私有林の大半が1町歩未満の零細な森林所有者を以て構成されていることを知ることができる。農家所有林はわが国の林業経済上非常に重要な地位にあるわけである。農家所有林は多くは里山に所在し,林産物の需要地に近接しているので,奥地の森林に比して少面積でもよく有利に経営できる
可能性をもつのである。
しかるに現実には,林産物の生産状況は頗る劣弱であって,その本来の林力に比してはるかに低い。これは
(1)森林に対する農業上の要求,すなわち下草や落葉の採吼
(2)副業的であるがための無関心担
(3)資本力欠乏による早伐などに原因している。
農家所有林の主要林産物は,
(1)自家用薪炭材
(2)家屋修築用材
(3)杭丸太などの農用材
(4)落葉下草
(5)販売用林産物(用材・炭材)などである。
上述の諸産物のうち,落葉下草の採取はこれを農業用の肥料・飼料に供し,営農上重要な資源であるが,1面においてこれはそれだけ林地の地力を剥奪するものであつて,農家所有林の地力の低下は,多くこれに原因している。われわれはときにこの種の用途に充てられる森林を特に農用林と呼ぶことがある。
農家所有林の劣弱の第2の原因たる副業的であるがための無関心についてみるに,これは萌芽更新による矮林作業において特に甚だしい。森林は放置しておいても育つという観念が拭い去られないので、適切な撫育作業が等閑視され易いのである。
次に第3の欠陥たる資本力の欠乏は,林木の成長量の最盛期まで待つことができないで,未熟林木を伐採しまたは優良木のみを選伐して換金し、劣悪木を残存して林柏の悪化を招いて顧みないというような取扱に隋し易い点である。
しかるに本来は,自家用薪炭ならびに修築用材などの採取は,択伐または間伐による生産材を以て調達できるから,その森林所有者の細心の留意によっては,残存林分の林相を改善し、成長を促進して,最も集約的な経営が期待されるべき条件にあり,その労力は農閑期の自家労力を以て充当され,保護管理に関しても特に現金支出を伴わない関係にあるので,所得比率は大規模経営よりも大きいのを常態とする。このように考えきたると,資本カの欠乏による欠陥も,技術の導入によってこれを除去することができるのである。思慮ある農家の保有する備蓄林は,間断的にではあるがその農家にとつて,ときに巨額の収入を
もたらすものであつて,子女の婚資・遊学費などの不時支出の重要財源となるのは、多くはこの種のものである。森林は銀行預金が複利を以て利殖されるに似、さらにこれよりも高利にその連年成長量によって利殖されてゆくものであるからである。
結局、農家所有林の劣弱の原因たる農業上の過度の要求といい,副業的であるがための無関心といい,資本力欠乏といい,これを全く避けがたいものではなくて、林業知識の向上によって除去しうる性質のものである。林業技術の指導普及が希望せられる所以である。
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