それはどんより曇った日だった。
私の足は幻の巨木に向かった。家から3時間の道のり。
春の黄緑色の息吹が新鮮だった。
しかしこの出かけまでに早朝4時から仕事をしている。
自営業だからできることかも知れない。途中で親しいキャンプ場に車を預けて、一人で歩き始める。
目的はひとつ、数年前に見た栂(つが)の巨木に出会うために。
はるか遠くからそれらしきものを確認する。
急ぐ心と足を諌める。
しばらく進むと、
その巨木は私を迎えてくれた。
少し枝振りがすくなくなって
少し葉が少なくなった
少しはにかむように
元気でいてくれたんだね。
涙が頬を伝わる。
お前はいいんだよ。
これで、
多くの人に見られることなくても、
誰よりもお前を愛している私がいるから
私はしばらくつがの木に寄り添っていた。
鹿が通り過ぎてゆく
サルの群れが崖を登る。
やがて私はつがから離れた。
また来るよ。
お前に会いに。
私は一度も振り返らなかった。
周りは暗くなり始めていた。
|