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森林と自然界
《森林と流去量》
森林の存在が降水量に及ぼす影響は分明でない。スイスおよびフラソスの林業技術者の測定によれば高山地帯の大面積の森林が、湿気を含んだ大気を冷却することによって年降水量を増すことを報告しているが、一般には森林のかかる影響は結論的な証明はない。むしろ、森林が降水の流去を遅らせ、流去量を調節する作用を注目すべきである。
山梨県のように花崗岩立地で砂地に覆われた土壌と森林の位置関係は複雑である。河川も放置しておくと忽ち森林になってしまう。最近では富士川上流の釜無川はとくに河川内森林が多く、肥沃となった地に隙間が無いくらい立木があり、太いものでは30〜40cmもの大木も見える。担当部署では毎年きめられた量の伐採を行い、河川内でチップにして、河川内に場所をきめて積み上げている。広葉樹が多く発酵が早いので一年もすれば忽ち肥料になる。
しかし林地に入れば止め処も無く崩れ、河川に流れ込みその量は年々増加して、ダムの機能が失われているものもある。また工事付帯道路も崩落を含め荒れ放題になっている所もあり、林道と合間見えて土砂崩落箇所が増加している。
過日の地域的な豪雨で本当に水道の水くらいの流水しかもたない小河川が、鉄砲水により蓄積された大量の水は本河川に流れ、本流へ大量の土砂を運び出した。その痕跡を辿ってみたが元の湧水単位の水量になっていた。その斜面にあった大木や雑木も一緒に流されたりずれたりしていて、こうした土砂山地の森林と樹木の危険性について改めて考えさせられ、また維持管理の難しさに直面した。
森林樹木は雨水らによる流水の速度は、主として地表の状態、土壌の理化学的性質ならびに傾斜角度にも関係するが、地表がさらけ出された地域を除き暑く葉などが地表を覆っている地域では表面的には流水は見えない。これは降雨の大部分は樹枝・樹葉。樹幹・樹根なども流水を妨げ勢いを柔らかくする。大部分の雨量が腐植質および落葉層に吸収されるが、いずれは地表に現れる。
このように地表部分の樹体が流去をおくらせるのみならず、根も流去をおくらせる作用をなす。樹根の張っている場所ではそこには必ず少量ながらも湛えられる。水脈ができ,これが小さな溜池の役目を果すからである。
腐植質もまた流去量に影響を及ぼす重要な部分である。これは極端に吸水性であって。自重の数倍の水を保持する。保水力は、密林で覆われた流域の方が荒廃した裸地より遥かに優るのである。このように、森林は樹冠から腐植質および根に至るまで巨大なスポンジとして働らき,このスポンジが満度に抱水して、のちに過剰になった水量が渓流へ流れ出る。積雪は林内では晩春まで残存し、
その融雪水は大量に膨軟な土壌に吸収される。湧水は裸地におけるよりも林内に多く,渓川はその流域が荒廃しているときよりも森林で覆われているときに平水量を保持する。
地表が森林で掩われていることの効果は、山岳地帯において傾斜が急で土層が深く、また降水量の多い地域で顕著である。かかる場所は森林を伐採し裸地にすると、浸蝕の害が激甚となる恐れがある。極端の場合には,浸蝕の害は斜面耕地を流し去るだけでなく、崩壊地を生じ、押出しは下底地を埋没する。急斜地で浸蝕の恐れのある地域は皆伐してはならないわけである。
しかし現在の森林事業はこうしたことなど全く無視され、山梨県内では大量の木材放棄や伐り棄て間伐が乱雑に放置され、しかも重機索道は傾斜地を切り刻み加圧して山地形態を歪めている。また行政も森林の持つ機能を無視した皆伐事業を繰り返して、環境変化が著しい。林政が山地を破壊してまでも事業をすすめる背景には、短絡な事業展開を諌める自浄能力や指摘する研究機関もないことが考えれる。林野庁や関係諸団体や機構それに森林インストラクター養成教科書には事細かく森林の機能や役目を示しているが、その知識や認識は日本の多くの山林事業者・行政担当者には及んでいない。嘆かわしいばかりである。
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