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みかえり塚の悲話(泉昌彦氏著)
年若くはかなく散っていった姫はつねに美人が条件となっているが、口碑、文献では、勝頼の夫人北条氏は、勝頼に側室をもたせぬほどに心をひきつけておいたらしい。
三集(自編集)にのせた理慶尼手記にくわしいので、この美姫のさいごについてははぶくが天正十年三月三日、田野まで落ちてゆく武田の末期に、火を放った新府城が黒煙天をこがして燃えさかるのを、駒沢(中央線塩崎駅西)の小さな丘の上にのぼって、燃えさかる新府城をみて、夫人がさめざめと泣いた。新築わずかに三ヵ月、いまだ荒壁のところもあり、また城壁も未完のままであった新府城であったが、よびつるさしつる玉のこしで入城した夢もはかなく霧散し、夫と死出の旅路をたどるかなしい心中をたくしてと、
春かすみ たぢいづれども いくたびか あとをかえして みか月の空。
と、歌ってわが身の不運をなげいた。いまそこをみかえり塚という。
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