|
天然林と人工林(『森林教育の創造と実践』「日本人の森林文化」森林文化研究会編 平成4年刊)
〈1〉 天然林と人工林および二次林
われわれが現在見ることのできる森林は,人手の入り方の違いによってさまざまな植物群落がある。全く人手の入ったことのない森林を原生林というが,厳密な意味の原生林は日本にはもう存在しないという。
しかしながら,東北地方や北海道の山地のブナの森には自然のままの原生林的な森林がかなり残っており,これらを自然林あるいは天然林と呼んでいる。
日本の各地方で見られるスギ,ど人間が苗を植えて造成した林を,という。人工林は,われわれの家を建てるときに使う木材を多量に供給してくれている。
天然林が山火事で消失したあとにできたカバノキやナマナラシの林,あるいは炭や薪を生産するために伐採した後にできた雑木林を二次林と呼んでいる。
(2)自然の森の回復力
森林が伐採されたり,あるいは台風や山火事などの災害によっていったん破壊されると,その破壊の原因や程度によって跡地に出現する樹種で回復する速度も異なってくる。
例えば,若いシイやカシ,あるいはブナ,シラカンバなどの林を伐採した場合,切り株から盛んに萌芽して再び元の樹種の萌芽再生林となる。根元から多数出た萌芽枝は,成長して株立状の幹となる。
人工林
一方,山火事跡に発生した天然実生の林は単一の幹で構成される。我が国のアカマツ林は,弥生時代から農耕の拡大とともに山林が切り開かれて火入れが年々繰り返された。その結果,山地が荒れてアカマツの生育適性地になったのである。
今から30年前までは燃料としてアカマツの薪や炭が使用されていたが,近年になって石油やプロパンガスの普及でアカマツ林は放置されたためマツの病虫害が多発し,各地のマツ林は衰退の一途をたどっている。
〈1)エゾマツの倒木更新
エゾマツの椎苗は,伐根および倒木して長い間かかって苔むした樹上に発生しているのが多い。倒木上では立ち枯病,土挨,乾燥,霜柱,落葉による窒息死などの被害がほとんどなく,生育環境として一般の地表床より一段と優れている。腐葉土の厚い肥えた森林土壌では,雪腐れ,病菌による被害が大きく,椎苗の発生は倒木上に比べて三分の一程度であり,発生をみても椎苗段階ではとんど消滅する。
親木が倒れ,倒れた親木を良き発生,生育の場として天然更新を行うのがエゾマツである。樹高の高い良尺のエゾマツが倒れ,その上に直線的にあたかも人が植えた人工林のように更新したエゾマツ林を見るとき,自然の偉大さを感じる。
〈2)ブナの実生更新
ブナは樹高25メートルに達する。巨樹に生育したブナが突風や台風のために大きく半転して倒れる。根元は地中の深い土壌を抱き込んだままの姿で,かなりの土を上に起こしている。跡には小高い丘になったところと深い窪地ができる。高くなった所や斜面にブナの種子が落下して,新鮮な土壌と十分な陽光を受けると椎苗の発生,生育が非常に良くなる。これが,マウント更新と呼ばれている。
ブナは一般に陰樹とされているが,椎幼樹では陽光を好む。ササ類や閉鎖されたブナ林では,地表に陽光が届かないので更新が良く行われていない。母樹をところどころに残しながら,かつての炭焼き跡地や,東北地方で一部行われていた林内放牧地ではブナの良好な二次林を見ることができる。ブナの種子は乾燥すると全く発芽しない。落下後すぐ雨や雪の降る北陸地方や標高が高くて露の多い地方にブナの適地があり,良く成林したものを見かける。
〈3〉 アスナロの伏条更新
アスナロは,日本の特産である。夏は涼しく,冬は寒さが厳しく,春秋は霜害のひどい地方に良く生育している。長野県木曾地方は昔からアスナロの有名な産地でヒノキ,サワラより耐陰性が強い。東北地方ではブナ,ミズナラ,アシオウスギなどと混成している。
アスナロの椎苗は,乾燥に耐える力が弱く,尾根筋など乾燥地や岩石地には生ずることがきわめて少ない。しかし,湿潤地では土壌の浅い所でも良く生育し,しかも数メートルに達する降雪地では下枝が地表面に垂れ下がり,伏条した所から発根して次々に独立した固体を殖やしている。実生による繁殖の難しい所でもこの伏条更新ならば確実に分布範囲をひろげることが出来るのである。
|