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東京都の知事や現内閣の方針で、これまで育ってきた杉が「花粉症対策」のために、大量伐採は粗大ゴミのような印象を与える政策。確かに花粉症の方々にはこの世から無くなってくれることを祈っていると思いますが、これなども大量に植え植えさせた国策が成せる業です。しかし私たちのような田舎の製材所ではこの杉の木は家屋や工芸・木工と多様な使い道があります。特に甘い香り年輪や製材が醸し出す年輪模様の美しさは群を抜いています。多くの民芸品には杉の木が用いられています。現在の林政は大切な資源木材や森林を活かす施策が不足しています。そんな中でも下記のような研究者の努力もあります。空気の清浄能力も高い杉の木、現在首都圏で孤立する杉里山森林の活用には、やはり公的施設や個人向け住宅への使用を積極的に進めるべきで、木材は伐採計画の時点で活用施策の確立が求められます。現在のような林政では国民が積極的に木材を使うようにならないと思われます。花粉症は桧にもあり、その桧が日本全国に大量に植林されています。また大量伐採の憂き目を見ることは明らかです。
伝統の香り杉線香(すぎせんこう)
<「森林100の不思議」財団法人 日本林業技術協会編 1998>
奈良時代後期、唐の鑑真和上(がんじんわじょう)がわが国に渡来した際に、薫物(たきもの)の製法を伝えました。薫物とは薫(くすぶ)らせてその香りを楽しむためにさまざまな香料を練り合わせたものです。これによって自分の好みの香りを作り出すことができるようになり、仏教儀式と密接なつながりをもっていた香りが仏教とは無関係に、その香りを楽しむ遊びへと発展していきました。室町時代に入ると香木の香りを当て合う聞香という遊びも生まれ、香りを楽しむ風習が広まっていきました。しかし、このような風習も香の原料が高価なために、庶民からはほど遠いものでした。
こんな背景のもとでもたらされたのが線香です。線香は各種の香料の粉末を糊で練り固めて線状にしたものです。線香は大量に、しかも安価に製造できるので一世の中に広く普及していきました。その製造技術は約400年前に、朝鮮あるいは中国から長崎に伝えられ、次いで堺で盛んに製造されるようになったといわれています。
現在の線香には、香りを楽しむにおい線香と仏壇で使われる仏事用線香があります。におい線香は各種の香料を含み、室内で優雅な香りを楽しむもので、仏事用線香として使われるのが杉線香です。わが国に豊富にある杉の葉で線香が作られるようになったのは220年ほど前のことです。
杉の葉を乾燥して2,3センチに裁断し、水車小屋で2日ほどついて粉にします。この杉粉に緑色の染料を加え、さらにツナギと称する糊粉を入れて湯で練り上げ、押出機の穴を通して出てきた線状のものを乾燥し、一定の長さに切りそろえたものが杉線香です。杉粉を作るのに水車が好んで使われるのは、水車のきね(杵)が杉の葉に、ほどよい粘りを出すのに適しているからです。ツナギは粘肴力を加えるもので、クスノキ科のタブの木の皮の粉末が使われます。適度な粘着力をもつほかに、においがないのがその理由です。においがあるとせっかくの線香の香りを駄目にしてしまうからです。ツナギとしてはほかに、コンニャクの粉やシナ粉と呼ばれる中国、・ベトナム産の樹木の皮も使われます。杉の葉が線香の原料に使われるようになったのは資源的に身近にたくさんあったことも大きな理由ですが、真っすぐに高く成長し、巨木となる杉は神々しい感じを人に与え、霊魂のよる木として信じられていたことにもよるようです。
仏前で静かに細い煙をたゆらせる線香…
「線香は千目の功徳、抹香は万日の功徳」といわれています。線香や抹香をたくことは、よい功徳になるという教えです。漂う線香の煙には、先人を思い、信心を起こさせる何かが含まれているのです。(執筆者 谷田貝光克氏)
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