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国土の保全(「新国有林論 森林環境問題を問う」黒木三郎氏・氏他著 )
今日の森林管理が国土の保全に逆行していることも、しばしば、指摘されるところである。わかりやすい例は、森林による国土の水分保全であろう。降水量の多い日本の気候は温度の違いに応じて、針葉樹林・落葉広葉樹林・常緑広葉樹林という多彩な森林を形成したが、同時に、これらの森林が雨水による土地の侵貧を和らげ、土地に水分を保留するなど、国土が植物の成育に好適な条件を形成してきた。地球の各地に砂漠のような植物不毛の地域があることを思えば、日本の気候と森林の存在の特質が容易に理解できるであろう。日本の農業の基盤は、実にこのような気候と森林の存在を前提としていることを、あらためて認識することが重要であろう。
水源機能というとダム建設というハードな施設のみを考え勝ちだが、今日、発想の転換をはかることが重要であろう。すなわち、山間部のダムはつくり過ぎと考えるべきである。洪水対策としては、国土への雨水の供給は、これを森林と河川に任せるべきである。森林が雨水の流出をコントロールできるように森林計画をたて、時たまの洪水を許容できるだけの容量を河川に保証すべきである。また、利水対策としては、水量調節ダムを河口近辺の低地に設置すべきである。これによって、森林は用材の供給をふくむ森林本来の価値を発揮することになり、河川は河口にいたるまで本来の豊かな流量を確保することができ、下流域における取水の水質を保証するため、河川の水質保持の規制が強まることとあいまって、豊葦原の瑞穂の国にふさわしい水明の河川を取り戻すことができるであろう。
国土の保全とは、これまでのようなコンクリートと鉄という、工学的にも狭い手法にのみ頼るのではなくて、気候や土地の特性、風土の自然の理法に則ったものを基盤とするものであることを再考しなければなるまい。一〇年、二〇年というタイムスパンではなくて、文字どおり国家百年の計に兄合う保全でなければならない。
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