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『貞操花鳥羽恋塚(=みさおのはなとばのこいづか)』
――初めての方はその1からお読みください――
その1【祇園社境内の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007081.html
その2【三井寺の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007404.html
その3【源三位頼政館の場】→当記事
その4【(続き)源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008023.html
その5【讃州松山屏風ヶ浦の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008294.html
その6【讃州松山屏風ヶ浦 崇徳院御在所の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008879.html
その7【高尾神護寺の場】→今しばらくお待ちくださいm(__)m
【源三位頼政館の場】
源三位頼政館では、恒例の「ぬえ退治」を模した儀式が行われていました。
主人・源三位頼政自身が都に巣食い悪事を働く怪物ぬえを退治したことで名が高まり、家の誉れとなったことがその由来。
今日は、家の安泰と怪物ぬえの供養を兼ねた儀式を、主人の留守に代わり女たちが代行しているのです。
猿の面をつけたぬえ役の奴音平を腰元巻絹が押さえ込み、源三位頼政役に扮した千束姫が弓矢で見事討ち取るという所作で舞い納めて、儀式は滞りなく終わりました。
そこへ、主人・源三位頼政が三井寺から帰邸しました。
持ち帰った大きな荷物を「大切に」と言い置いて座敷に上がると、儀式を終えた晴れやかな笑顔の女性達が出迎えます。
ままならぬ時勢に気鬱が募る千束姫の楽しげな姿に、源三位頼政はほっと安堵し姫を奥へと誘いました。
そこへ、みすぼらしい海女・小磯がやってきました。
下男が対応したところ「こちらの殿様は優しい方で、下々の願いを叶えて下さると聞いたので来た」と話します。
一度は追い返されそうになるものの、奴音平のとりなしと頼政本人に救われた小磯は、後で話を聞こうと奥に通されました。
そこへやってきたのは、平宗盛の使者・武蔵左衛門有国。
目的は、平家に敵対する高倉の宮以仁王を匿っているのではないかとの疑いの詮議、そして平重盛より源三位家に預け置かれていた家宝『霊猫の香炉』の受け取りでした。
また、重盛ご執心の千束姫を差し出すようにとの再度の要求。
一番の難題は千束姫の身柄、もはやのらりくらりと逃げられる段階ではありません。
そして、第二の難題は突如として提出を求められた香炉―――
実はこの香炉、先日来行方がしれなくなってしまっていたのです。
重盛より預かりの香炉を紛失したことが発覚したなら、源氏一門取り潰しの口実を漁るようにしている平家の思うつぼなのです。
即答を免れ、なんとか時間を稼いだ頼政。
千束姫と香炉を引き渡す刻限は迫り来ています。しかし、解決の糸口などみつかりようもありません。
(ああ、今、弟がいてくれたなら、この苦しみを分かち合ってくれたろうに)
頼政の弟は、策略からありもしない罪をかぶせられ、田舎の僻地へ流罪となっていたのです。
そしてつい先日、死の知らせが届いていました。
進退窮まった。
この上は、命懸けで千束姫を安全な場所に落ち延びさせ、あとは平家の軍勢を迎え撃つしかない。
―――死ぬしかないようだ。
腹を据え思い極めたところに、ひょっこりと顔を見せたのは先ほどの小磯でした。
思い極めてしまえばかえって心は平穏ということか、無邪気な小磯ゆえか、頼政は切羽詰ったこの場で少女の願いを聞いてやることになります。
小磯の願い、それは「はまぐりの片割れを持った許婚を見つけて欲しい」ということだったのです。
小磯の両親は先日相次いで亡くなってしまいました。
父を追うように母が亡くなる直前、はまぐりの片割れに歌を書き付けた一品を小磯に渡してこう告げたのです。
「この貝のかたわれを持った人こそ、親同士で決めたあなたの許婚。探してお嫁さんにしてもらいなさい」と。
はまぐりは同じ貝同士でなければ蝶番が決して合わない、それをよすがに相手を探しているのだと言うのです。
さすがの頼政もこれには閉口し、時節と縁を待つしかあるまいと優しく諭します。
「偉い殿様ならばきっとご存知」と信じていた小磯は萎れきり、肌身はなさぬ両親の位牌を取り出して頼政に見せました。
何気なくそれを見た頼政は瞠目します。
そこに書かれていた戒名、これはまさに・・・
そして、小磯の幼名を聞いた頼政は、その幼名が弟の娘のものであることを知ったのです。
なんという偶然!この小磯こそ、亡き弟の忘れ形見であったのです!
「これからは叔父を父と思うてくれ!」
「はい!」
叔父姪名乗りの喜びのうち、彼の脳裏にひらめいたことがありました。
(道理で小磯の面体には鄙には稀な気品がある・・・これなら、千束姫さまの替え玉がつとまりはすまいか)
そして、叔父は残酷な策略でこういうのです。
「小磯。私はお前の探す『はまぐりの片割れ』を知っている。それは平宗盛様だ」と。
無邪気な小磯は、叔父の言葉を疑うすべを知りません。
そして、小磯は何も知らされぬまま、千束姫の身替りとして宗盛に嫁ぐこととなったのでした。
主人の居ない座敷に平家の使者・武蔵左衛門有国が家来を引き連れてやってきました。
手には、例の香炉―――家来を使い、先日中にこの家から盗み出していたのでした。
家宝紛失ともなれば、頼政が生きていることはできません。武蔵左衛門有国は頼政を罠に嵌め、この家を乗っ取ろうとたくらんでいたのです。
自分たちが香炉を持っていては危ない、どこかに隠しておこうととあたりを見回した一同は、柱に据えつけられた時計の中に香炉を隠します。
そして、床の間に神事用のお神酒を見つけた武蔵左衛門有国達は、念には念をと酒に毒を仕込んだのです。
小磯は姫君らしく華麗に装いを変えました。
初めて見る化粧をした自分の顔、美しく結い上げられた髪には豪奢な髪飾り、見たこともないような美しい着物・・・
夢見心地でうっとりするところに「思う人への嫁入りまで決まって」と持ち上げられ、小磯はまさに幸せの絶頂です。
女中たちが下がった後、ひとりになった小磯はにわかに不安になります。
昨日まで卑しい海女であった自分が、身分高い嫁入り先でどんな粗相をしでかすか知れない。作法を教えてもらわねばと思い立ちました。
女中達を呼ばわりますが、誰も来てくれません。
端近まで出て行った小磯は、そこにさっき自分をとりなしてくれた奴音平の姿を見つけました。
声をかけると、奴音平も綺麗に変わった小磯にびっくり。そして思いもよらない身の出世を我が事のように喜んでくれます。
奴音平の笑顔を見て、小磯も嬉しくってなりません。
けれど、嫁入り先は「むねもりさま」と告げたとき、にわかに奴音平の顔に不審が浮かびました。
けれどそれはご主人様が決めたこと。
それ以上の深入りはせず、良家の作法を指南してくれという小磯に、それではことに難しい『貝合わせ』の作法からと手ほどきをはじめます。
「貝なら、私、片われをもっていますよ」懐から形見の貝を取り出す小磯。
「それならこっちの片割れと」奴音平も自分の持っている貝を取り出しました。
対の貝殻の内側には歌が一首、上の句・下の句と分けて書かれている・・・と説明するうち、あれ?この二つ・・・
「歌の合った片割れ同士は、蝶番もぴったりと・・・」
あっ、嵌った!
「そんならあなたが!」
「そんならお前が!?」
親の決めた、私の許婚!!二人は奇跡的な出会いに狂喜して抱き合います。
しかし、小磯ははたと気付きました。
「でも、変なおじさま・・・貝の相手は『むねもりさま』だなんて仰った」
そこへ、頼政が戻ってきました。
見違えるように美しく装った小磯に哀しく目を細めますが、小磯は運命の夫が見つかったことを嬉しげに告白、叔父の嘘に拗ねてみせるのです。
頼政はたじろぎます。しかし、千束姫を救うにはもはや方法がない―――
(鬼にならねばならない)
それでもお前には宗盛公に嫁ぐのだと冷たく言い渡す頼政に、小磯は怒って頼政の持ってきた品を袂で打ちます。
覆いの袱紗の下から現われたのは、なんと鉦と撞木!
頼政は小磯の嫁入支度に、仏を供養する二品を整えたのです。
驚く小磯に、頼政はすべてを告白し懇願しました。
お前は先ほど私を父と思うと言ってくれた。それなら、父に従ってくれ。その命、私の手に委ねてくれ―――身分低い自分に頭まで下げての懇願に、小磯はおろおろと戸惑います。
そして、はまぐりの片割れを持っていた夫とは誰なのだと問われ、次の間ですべてを聞いていた奴音平が名乗り出ました。
奴音平は唐突に暇乞いを願い出、その理由として思いがけない告白をはじめたのです。
このたび平家の使者としてこの家を訪れた武蔵左衛門有国は父の仇。
祇園社で待宵の侍従に情けをかけた父・物かはの蔵人を、わずかばかりの褒美欲しさゆえの讒言で陥れ死なせた張本人だというのです。
奴音平は仮の姿。自分の正体は物かはの蔵人満定であると。
頼政は蔵人満定の心に打たれ、そんな男の運命の妻である小磯を自分の一存で死なせるわけにいかないと悟ります。
「なぁに構うものか、振り出しに戻っただけのこと。私が死ねばいいだけだ―――」
朗らかに笑う頼政の覚悟の前に、若い夫婦は寄り添い思いを成就させたのです。
――その4に続く――
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その2【三井寺の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007404.html
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