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『貞操花鳥羽恋塚(=みさおのはなとばのこいづか)』
――初めての方はその1からお読みください――
その1【祇園社境内の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007081.html
その2【三井寺の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007404.html
その3【源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007794.html
その4【(続き)源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008023.html
その5【讃州松山屏風ヶ浦の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008294.html
その6【讃州松山屏風ヶ浦 崇徳院御在所の場】→当記事
その7【高尾神護寺の場】→今しばらくお待ちくださいm(__)m
【讃州松山屏風ヶ浦 崇徳院御在所の場】
海風になぶられ、いまにも崩れそうなみすぼらしい庵。
これこそが、かつて都で最高の栄華と尊敬を得ていた崇徳院の現在の住まいなのです。
あばら家の脇には、ひょろりと伸びた一本の松。その枝に、先ほど崖の上から落としてしまった書状入りの魚かごがぶら下がっています。
あばら家の一室からは低い念仏の声がもれてきますが、その念仏は常のものではありません。
平家への怨念に煮えたぎる心が望むのは、仏の救いなどではない―――
崇徳院は、魔道へ落ち天狗となって世に祟るための修行に自らの身を捧げていたのでした。
屏風ヶ浦へ、一艘の小船が近づいてきました。
乗っているのは崇徳院の愛人・待宵の侍従。胸には、崇徳院との間に授かった我が子・重仁親王を大切に抱いています。
途中までは瀧口靱負常久と同道してきたのですが、うっかりとはぐれてしまってからは旅慣れぬ女一人。
目指す場所も定かではない中で、運を天に任せ、ただ闇雲に夫の面影を追い求めて命懸けの旅を続けてきたのでした。
屏風ヶ浦でおろされた待宵の侍従が周囲を見渡すと、そこに一軒のあばら家が。
折りしも日が翳ってきています。
(この家で、一夜の宿を借りよう)待宵の侍従は家の中に声を掛けました。
内から返って来た返事の声に、侍従は息を呑みます。
その声の主こそ、捜し求め、再会を願いつづけた崇徳院その人であったのです!
(懐かしい、愛しい崇徳院さま!)
しかし、その変わり果てた雰囲気に異常なものを感じたのは女の勘ででもあったのでしょうか。
待宵の侍従は溢れ出す思いをとっさに堪えました。
胸に抱いた幼子を松の木に引っかかっていた魚かごの中に隠し、待宵の侍従は崇徳院と対面します。
崇徳院は、目の前にいるのが子までなした仲の女であることにすら気付かぬ様子。
侍従は一夜の宿を求めますが、崇徳院は「男の一人住まいであるから」と頑なに拒み、ついには背を向けて家の中に去ってしまいました。
突き放され呆然とたたずむ待宵の侍従。そこへ折悪しく雨が降り出しました。
雨に難儀する女を見かねた崇徳院は、一夜の宿は貸せないが雨宿りだけでもと女を家に招きいれます。
招き入れられた家の中を見て、待宵の侍従は目を瞠ります。
清らかであるべき祭壇には無残に殺された獣たちの死骸がぶら下がり、生臭い血の匂いが一面にたちこめているのです。
不気味に押し黙る崇徳院に、待宵の侍従は必死の思いで身の上話を聞かせます。
愛する人から贈られたのだと、思い出の歌の下の句「われてもすえにあわんとぞおもふ」を詠じる待宵。
それを聞いた崇徳院の口から「せをはやみいわにせかるるたきがはの」という上の句が滑りでました。
(様々な障害に今は否応なく分かたれたとしても、末は必ず一緒になろう―――)
二人しか知るよしのない、とこしえの愛を詠った一首。
それを口の端に上せたのを聞いた待宵の侍従は、崇徳院の心にまだ愛の温もりが残っていることを確信しました。
精神は狂気に犯されていたとしても、人間らしい愛情がわずかにでも残っているならば、自分と、二人の間に授かった息子とで崇徳院の魂を救えると信じたのです。
名乗りをあげて縋りつく待宵の侍従に戸惑い、拒絶する崇徳院。
父子の対面をさせたなら情も動くだろうと、待宵の侍従は魚かごに隠した幼子を連れてきました。
幼子のあどけない姿に、さすがの崇徳院も心揺らぎます。
しかし、思いを断ち切るように母子を振り払い、雨のそぼ降る外へとたたき出したのです。
家の外に追い出され、幼子を胸に抱いて呆然とくず折れる待宵の侍従。
そこへ、崖上から駆けつけてきた瀧口靱負常久が現われました。
待宵の侍従から、母子に対する崇徳院の無残な仕打ちを聞いた瀧口靱負常久は、心痛めてとりなしを約束します。
―――しかし、その時すでにこの家の周りは平家の軍勢に取り囲まれていたのです。
軍勢は家の外にたたずむ二人を押し包み、あっと思う間もなく、幼子は平家の手に奪いとられてしまいました。
「崇徳院を引き渡す手引きをするか、さもなくば、この若宮を死なせるか!」
二人に向かって残酷な二者択一を迫る平家の軍勢。
その時です。
進退窮まった二人の目の前で、いずこからか飛んできた小刀が幼子の体に突き刺さったのです!小さな体に突き立った刀は、一瞬で若宮の命を奪いました。
狂ったように死んだ子をかき抱く待宵の侍従に、家の中から声がかかります。
「その子を殺したのは私だ」と。
家の中から現われたのは崇徳院。驚愕する一同に向かって語りだした顛末は―――
魔界に入るための修行として毎日自らの血で写経をし、千日のあいだ毎日一つの命を奪う行を繰り返してきた。
殺戮に明け暮れた日々の果て、今日こそが、満願成就の千日目。
最後に奪う命を狙っていたところ、現われたのは血を分けた我が子。
さすがに我が子を手にかけるには忍びなく、一度は突き放してはみたものの・・・
やはり、魔神は残酷にも、息子を殺す舞台を整えたのだ。
息子の命を留めに、これで修行は満願成就!
そう高らかに叫ぶなり、崇徳院は刀を振るい、待宵の侍従の胸にあった息子の首をばっさりと切り落としたのです!
悲鳴をあげ、転がる首を引き寄せる待宵の侍従。
傍らの瀧口靱負常久に気付いた崇徳院は、写経の一巻はどうなったと聞きただします。
平宗盛の横槍で奉納を許されなかったと聞かされ、また平清盛から発せられた崇徳院殺害の命令書を目にした崇徳院の怒りは最高潮に!
数珠を引きちぎり、経文を破り捨てて魔道に身を投じた崇徳院は、ついに魔神と化しました。
怒りは天を狂わせ、地を揺るがせ、館を根こそぎなぎ倒します。
待宵の侍従はもはやこれまでと、首のない我が子を抱いたまま、崖から身を躍らせました。
天狗と化した崇徳院は、館を取り囲む平家の男たちをなぶり殺しに殺し尽くし、嵐を呼び雷鳴を轟かせて猛り狂います。
「この恨み、消えることなどありはしない!」
平家を呪い、この世のすべてを呪い、天に浮き上がって彼方へと飛び去っていくのでした。
――その7へ続く――
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その2【三井寺の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007404.html
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