文花座

歌舞伎、宝塚歌劇団、劇団四季・・・大好きな舞台の感想をつらつらと♪

江戸&歌舞伎コトバ事典

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待宵の侍従(=まつよいのじじゅう)
物かはの蔵人(=ものかはのくらんど)

【意味】
狂言『貞操花鳥羽恋塚(=みさおのはなとばのこいづか)』に登場する役名。

「待宵の侍従」は同狂言のヒロインの一人。
元は宮仕えの女房(=女官)でしたが、崇徳院の愛を受け男児を出産します。
しかし崇徳院はほどなくして失脚、遠い讃岐へと流罪になってしまったのです。
夫の面影を慕い、幼子と二人の苦しい長旅の末にたどり着いた流刑地で、彼女を待ち受けていたものはあまりに残酷な運命でした―――

「物かはの蔵人」は、流刑地に赴きたい一心で盗みを働こうとした待宵の侍従を哀れみ、彼女に自分の船切手(=船に乗るための許可証。身分証明書のようなもの)を与えるという物語のキーマン。
この行動により彼は後に罪を問われ、切腹させられることとなります。

詳しくは『歌舞伎演目解説』より、「貞操花鳥羽恋塚」詳細あらすじをどうぞ(^^♪
http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007081.html

【『待宵の侍従/物かはの蔵人』語り♪】

去年、国立劇場で復活上演された『貞操花鳥羽恋塚(=みさおのはなとばのこいづか)』。
闇の色を塗りこめたかのような、悪趣味でいてデンジャラスに華麗な舞台面。
おどろおどろしい底なし沼にぽっかり咲いた、真っ白な蓮の花のような愛の姿―――
南北作品だよなぁ!ってことがよーっくわかる、目をそらして横目で凝視(笑)な感じの作品でした(^^)

この中に登場する二人の人物、待宵の侍従(=まつよいのじじゅう)と物かはの蔵人(=ものかはのくらんど)。
・・・今あなたが思ったことを私言い当ててみせましょう(霊能者雪柳。)
「は?物かはの蔵人?」
待宵の侍従という名前は、まぁなんとなく分かる様な気がいたしますわな。
「待つ」も「宵」もしっとりとした情緒を含んだ風雅な言の葉。
あの時代、女性の呼び名としていかにもこんなのつけそうだ、ってなんとなく納得できる気がします。
でも「物かはの蔵人」って・・・ナゾでしょうっ!?
そもそも何、「物かは」って!?あなた何者!?
・・・と、舞台上の松緑丈にツッコミたくてたまらない自分がいました(←松緑丈、物かはの蔵人役。)
それが、心の片隅に悶々と残っておりましたところ、ついにそのナゾが解明されました!
出展は平家物語。
彼が「物かはの蔵人」と呼ばれるようになった理由、それは、この狂言作品ではかかわりというほどのかかわりも感じさせない「待宵の侍従」との、こんなエピソードゆえだったようなのです。

ある日のこと。
左大将実定が御所を訪れ、つれづれに女房たちとお喋りをしていました。
話はいつしか恋バナに。そして実定はその場にいた一人の女房にこう問いかけました。
「待つ宵、帰る朝、いずれかあはれまされる」
(訳:恋人の訪れを待つ宵、恋人が帰っていく朝、どちらのほうが深く悲しいものだろう)と。
問いに女房が、和歌で答えます。
「待つ宵の ふけゆく鐘の声きけば かへる朝の 鳥はものかは」
(役:愛しい人は来るや来ずやと、虚しい期待と膨らむ不安に慄きさざめく胸を宥めながら待つ夜が、深くしんしんと更けてゆき―――
独り寝の部屋に時を告げる鐘が虚しく響くのを聞く悲しさといったら、これ以上の深い苦しみはありますまい。
その悲しみに比べるというなら、愛しい人と一夜を過ごし、朝お帰りになるのを見送る時の心などどれほどのことがあるでしょう。問題にもなりません)と。

この言い様!
淡々と問いに答えているように見えて、内側に熱い情念がたぎっている様が見えるようじゃありません?
恋をリクツで信じていられるおこちゃまには、この歌は絶対詠めないやろなぁ!
恋の蜜、恋の仇、酸いも甘いも私の上を通り過ぎていった・・・彼女は暗にそれをほのめかしているのでしょう。しかも、そんな気合は少しも出さない涼しい口ぶりで。
あからさまじゃないけれど、知的なオブラートに包まれた刺激的な会話。賢い大人の女オーラが匂うようじゃありません?

実定も「おっ」と思ったのでしょう。
この返答が大変ふるっているというので、この女房は「待宵」と呼ばれるようになりました。

これが「待宵の侍従」の呼び名の誕生(^^)
さてさて「物かは」の蔵人は?

他日、実定は再び御所を訪れ、待宵の侍従を呼び出して夜更けまで尽きせぬ話を楽しみました。
夜明け、実定は名残を惜しみつつ帰宅します。
帰る道すがら、思い出すのは侍従の顔。朝の別れに、悲しそうな顔をしていたなぁ・・・
ふいに、実定は供の蔵人にこう言います。
「別れ際の侍従はひどく名残惜しげで、なんとも可哀想な気がする。お前、ちょっと戻って何とか言ってきてくれ」と。

蔵人は侍従の元に走り戻り、実定になりかわって詠んだ(=代詠した)歌がこちら。
「物かはと 君がいいけん鳥の音の けさしもなどか かなしかるらん」
(訳:あなたが(待つ宵の悲しさと比べれば)とるにたりない、なんのことはないと言ったとかいう夜明けを告げる鳥の音が、今日に限ってどうしてこんなに悲しいのだろう)

それに侍従は涙ながらに
「またばこそ ふけゆく鐘も物ならめ あかぬ別れの 鳥の音ぞうき」
(訳:本当に愛しい人を待つ宵は、夜が更けていく鐘の音が重要でしょうけれど・・・
あなた様との幸せな時間、まだ一緒にいたい思いを無慈悲に断ち切ってしまう鳥の音の、なんと悲しかったことでしょう。
朝の別れは辛くはないだなどと言った自分はなんと物知らず。
本当に辛い別れをしたことがなかったのね)

蔵人が戻り、贈った歌と返歌の様を詳しく報告すると、双方のやりとりの素晴らしさに感じ入った実定は「これだからこそ、お前を遣わしたのだ」と彼を誉めそやしました。

詠みあった歌のなかに登場する「物かは(=そんなことはたいしたことじゃない、問題じゃない)」という言葉は、それ自体も辛いことであるのに「それよりもっと辛いことがある!」と強調する、強い心の叫びを示す語ということだろうと思います。
おそらく、この「物かは」が相当なインパクトだったのでしょう。
この歌の掛け合いが世に広まり、こののちこの蔵人は「物かはの蔵人」の名で呼ばれることになったということです。

単純に直訳すれば「問題ない」の蔵人、ってことになるのでしょうが(笑)
愛の偉大さ、恋の貪欲さを如実に示したこの言葉、またその言葉を選んだ才に対する賞賛が、この名をつけさせたということなのでしょう。

★【江戸&歌舞伎コトバ事典】 50音順目次★ はこちらから↓
http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/28334090.html

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