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【公演データ】
公演名:八月納涼歌舞伎 第一部
『慶安太平記(=けいあんたいへいき) 丸橋忠弥(=まるはしちゅうや)』
会場:歌舞伎座
観劇日:2004年8月26日 千秋楽
【主な配役】(敬称略)
丸橋忠弥:中村橋之助
松平伊豆守:市川染五郎
弓師藤四郎:片岡市蔵
忠弥女房おせつ:中村扇雀
《芝居と現実が紙一重!ど迫力の大立ち周り》
(幕府転覆のテロリズム計画を、公儀に掴まれた!)
突如として襲いかかってきた捕り手たちに立ち向かう丸橋忠弥@橋之助丈。
忠弥は世にも聞こえた槍の名手、得意の手槍を奪われるも、豪腕で鴨居を引きちぎるやそれを獲物に、誰をも寄せ付けぬ大暴れ!
鬼神の如き技の冴えで捕り手を蹴散らしてゆくも、倒しても倒しても襲い来る悪夢のような多勢の捕り手に次第に追いつめられてゆく―――
その痛快さが何時しか疲れに、絶望に、多勢に無勢の圧倒的不利に呑み込まれ、その体から自由を奪っていくあたり・・・客席の拍手が、歓声が、次第に不安定な熱を帯びてゆくのが、もう、雰囲気どころじゃなく空気の流れとしてはっきり体感として感じられました。
声を出す、というか、興奮や悲鳴や驚嘆は吐息にさえ音をつけてしまうという感じ。
舞台上の十数人の男たちが意識のすべてを凝らし、一点に集めて、凝縮しきったそこに生まれる一瞬が大技の形を持って見事に決まる、そのたびに、意識などせずとも手が勝手に拍手を爆発させているという感覚。
この大立ち周り、冗談抜きで「一歩間違えば大怪我」が事実としてそこにあるのがはっきりと分かるのですもの。
客席はただ無邪気に喜んでいるばかりじゃない。
大技の一つ一つに胸の中で不安な悲鳴をあげ、その成功に胸のそこから安堵して、一瞬後に喝采が、火をつけられた花火みたいに爆発するのです。
この大立ち周りが25日間、怪我もなく(おありかも知れませんけれども、休演者の報も聞かず)行われていたことに、驚きなんていう言葉では飽き足らないほどの驚異を覚えました。
注意といい、集中力といったって、1,2回の上演ならいざ知らず・・・私たちを喜ばせ、楽しませるために、役者さんはぎりぎりのことをする、その事実を改めて突きつけられたような思いがしました。
事実だけ考えたって、橋之助丈は千秋楽からほんの10日も待たずして次の主演舞台の幕が開くのです。自分の名と顔を看板にして切符を売った公演が。
橋之助丈の体を支え、屋根から飛び降りる全身を受け止め、文字通り体を張って舞台を作り上げた捕り手役のどなたもが同じこと。
この一ヶ月、ご本人は肉体的にも精神的にもどれほどの思いをなさっただろうと思いますし、見守るご家族、関係者さんも同様、いえ、それ以上の思いでいらしただろうとの想像はあまりに容易です。
劇中は夢中でした。幕外の事情は頭を掠める余地もなく、客席は喝采に喝采を重ね、拍手の力強さが違ったのは舞台上の役者さんたちもお分かりだったろうと思います。
でも、なんていうかね、足りないです。感謝し足りないです。
興奮しながら日々の疲れはふっ飛んだし、心のそこからリセットできたし、嬉しくて楽しくて、本当にカッコよくて!
改めてお礼をさせて頂きます。
本当に楽しかった!ありがとうございました!!
《忠弥@橋之助丈の迫力と色気》
忠弥の強いこと、その手の鮮やかなこと!
今回の観劇で忘れられない体験になったことのひとつが、これなのです。
立回りの中心人物である橋之助丈は要所要所で数々の見得を切ってゆくのですけれども、それが不思議なくらいに、立回りの最中にストップモーションになるという不自然さをまったく思わせないのです。
流れの中に溶け込んでいる、溶け込んで際立っている・・・とでも表現すればいいのかな、一瞬、仁王像のような姿がぱっと眼に飛び込んで、客席の意識が「はっ」と凝った瞬間にはもう駆け出している―――
観劇後の今、思い返すとあの場面には迫力のある「映像」の印象が残っているのです。
引きもアップも使えないライブの現実が、自分の中で、大胆な技法を凝らした映像の記憶になっている。パンチが効いて、もう圧倒的に際立っていて。
見得そのもののテンションが、すごく高かったのだと思う!
力が漲っている、というか力が凝り固まってその形になったという感じ。
見得が強さを表す劇的表現だというのなら、武術の名手が、本物の命のやり取りの中でまさに鬼神と化した一瞬の凄み、それがはっきりと感じられぞくりとしました。
それが、人間が強いものに憧れる本能に近い感覚で、もう惚れ惚れするほど魅力的で!
そして、それゆえに激しいギャップを感じた「人間に戻った表情」が切ないぐらいに効いていて。
何者も寄せ付けない強さで暴れながらも、忠弥はもう分かっているのでしょう。
自分は負けた、夢は潰えた―――たとえ望んだ理想の世が訪れたとしても、そこに自分の姿はない。
(おしまいだ)と。
苦悩は矜持を引き裂かれる痛みであり、理想を打ち砕かれた怒りであり絶望でありましたろう。
しかし、理屈で思うより本能的な感覚―――ふっと表情を掠める途方にくれたような虚脱、焦り、追いつめられた動物が醸し出す一種独特の哀れさにも似て、その姿にはえもいわれぬ・・・命のやり取りのさなかに不似合いな表現ではありますけれども、なんともいえぬ色気が纏わりついていて。
細面の端正な半顔を鮮血に染め、家でくつろぐざっくりした着流し姿もそのままに、裾を乱して孤軍奮闘する忠弥@橋之助丈の姿―――
当然ですけれど、甘ったるい色気ではないのです。すっと爽やかな、凛として切ない男の色気。
なにより素晴らしかったのは大立ち周りの迫力です。
疲れも極まったであろう千秋楽にこの動き!橋之助丈の若さだよねぇ!
それだけだって大興奮ですのに、もうひとつ、お役の演技として「凄みを秘めた鬼神の迫力」と「生身の男の色気」が相まって、アクロバティックな迫力にえもいわれぬ味わいを加えていたように思われました。
やっぱり、その瞬間「おおっ!!」と思うのは技術であっても、心に残って反芻して味わう楽しみは「演技」の味わい、芝居の醍醐味はココなんだなぁ♪と思ったことでした。
《捕り手が極める緊迫感!》
橋之助丈に絡む捕り手の皆さんもすばらしかった!
も、じゃ言葉が違うね。が、が正解!失礼しましたm(__)m
捕り物と言ってもいわゆるリアルな剣戟ではなく、捕り手を務める役者さんたちのアクロバティックな技術を使って魅せる舞踊的立回りなのですけれども、なんというか・・・千秋楽のこの舞台、特に後半になっていくに従って、歌舞伎の立回りにありがちな技術と演技が分離した感じが全然なくなっていって。
徐々に危険な技へ向かっていく緊張感がそうさせるのか、演技か素かも分かりませんが、捕り物が大詰めに向かっていくに従って舞台に漂いだしたえもいわれぬ緊迫感・・・本当にドキドキしました。凄かった!
単純な意味のリアルとは程遠いその動きの一つ一つが、「肉薄」という言葉そのものを思わせて、手に汗握る興奮が胸のそこから沸いてくる!
おひとりお一人に見せ場があるようで、その技、たっぷりと楽しませてもらいました♪
そのとき、ふと思ったのがこのナマイキ感想。
とてもキレのいいトンボ(宙返り)をする方がいて、その切れ味といいスピードといい、素人目にも「お見事!」でした。
けれど、その方のトンボは「つわものに投げられて恐れ入った」演技には見えず、単にトンボを返るのが上手い人、という印象。
体操の演技のようにトンボを返るという「技術」を見せているだけ、「演技」ではないように思えたのです。
私は、なべ底大根みたいに芝居の色にしっくり染まったトンボ、演技としてのトンボが見たいんだなぁと感じ、そういう人によりいっそうの魅力を感じたのは面白いことでした。
私は千秋楽の舞台を観させて貰いました。
千秋楽だからという要素もあったのかもしれません。このテンションの高さ、それぞれに集中力が体の中に凝り固まった感じはまさに特筆ものでした!!
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私もあの立ち回りには驚愕いたしました。自分の観た立ち回りの中でももっとも記憶に残るものになるかと思います。その印象は稚拙な表現にしかまとめられませんでしたが、トラックバックさせていただきました。hana_yukiyanagiさんの記事は、私が言いたかったことを書いてくれています。ありがとうございます。
2006/8/27(日) 午後 11:51
私も大阪で見ました。橋之助さんが乗ったまま戸板が斜めになってバターン、にはハラハラドキドキ、びっくりして印象に残っています。
2006/8/28(月) 午前 9:49 [ - ]
キャ〜〜さすがユキヤナギサマ〜の表現最高です!!思い出しウンウン日!!と感動再び!!でした〜〜(^0^
2006/8/29(火) 午前 2:15
ゲバラ様も!ビックリなんてカタカナじゃ生ぬるいですよねっ、「吃驚」「驚愕」と、こうこないと(^皿^)納涼どころかヒートアップ、私も井戸の水を浴びたいぐらいでした(笑)TBありがとうございます、私からもTBさせてくださいませ!皆様っ、下のTBから夢の最前列へひとっとび!!
2006/9/1(金) 午後 0:46 [ 雪柳 ]
興奮しますよね、あそこ!!土台の戸板を立てる→「ウワ!なになに、何する気!?」その上に戸板+乗っかった橋之助丈!!→「ひょえー!!」しかも立った!「エー!!!」土台の戸板を支える人が消えていく・・・→「えっえっえっ!!」最後の一人!→「ウソォォォ!」押した!うわぁぁ戸板が倒れる!!→「ギャァァァ―!!(キャーとかじゃないの。濁音。)」そして倒れた戸板の上で見得!!→「キャー――♪(清音。)」みたいな(笑)
2006/9/1(金) 午後 0:56 [ 雪柳 ]
きゃーありがとうございます天ママ様〜♪興奮よみがえりました!?これからは『興奮の火種、準備してます』By文花座をキャッチコピーに(笑)
2006/9/1(金) 午後 0:59 [ 雪柳 ]
ゆきやなぎさん、丁寧な説明ありがとうございます!
2006/9/4(月) 午後 0:01 [ - ]
「たのきゅう」目当てでいったのですが、慶安太平記に度肝を抜かれました。お客さんが楽しんでくれるなら!という要素がたくさん、これでもか!というくらい盛り込まれていて、感激でした。飛んだり、走ったり、落ちたり…戸板やロープなどシンプルな仕掛けのなかで人間の最大限の体力パフォーマンス!歌舞伎ってすごいなぁ…(゜д゜)
2006/9/4(月) 午後 2:03 [ 朝海雪 ]
うふふ♪この叫び、なかなかテキカクじゃありませなんだ?戸板が倒れていくところなど、自分の中で勝手にスローモーションがかかっちゃって、ものすごくはっきり覚えてるもの!自分の中に巨匠のカメラワークが(笑)ブログっていいなぁ〜、コメントいただいて読むだけでも舞台が蘇ってくるもの!書き込みありがとうです(^▽^♪
2006/9/9(土) 午後 10:06 [ 雪柳 ]
懺悔いたします。歌舞伎を観たことがない時代、私「歌舞伎は動かない」って思いこんでました。なんかイメージで。でもコレを観たら完全平服ですよねぇ!!(@0@)誰だ歌舞伎は動かないなんて言った奴は!!出て来い!!(←あんただ!!)歌舞伎って文化系だと思い込んでましたけれど、体育会系要素もどっさりだ〜。舞踊の何気ない動きなんて、どう考えたって物理的に「無理だろ!?」っていうのありますものねぇ。ううん、歌舞伎役者はとんでもない・・・あと、ヒール靴で激しく踊る娘役さんもとんでもない・・・(宝塚ねた。)
2006/9/9(土) 午後 10:21 [ 雪柳 ]