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【公演データ】
公演名:寿 初春大歌舞伎 昼の部 『猩々』
会場:歌舞伎座/3階9列16番
観劇日:2008年1月14日(月祝)
【主な配役】(敬称略)
猩々:中村梅玉
猩々:市川染五郎
酒売:中村松江
と、ある時代。あるところ。
親に孝行を尽くしつつ日々を暮らす、貧しくも心美しき青年がいました。
日中の疲れにまどろむ夜更け――夢と現の境い目で、青年は何者かの声を聞きます。
「市に行って酒を売りなさい」
言葉に従い酒を商えば、それは面白いように売れていく。
いつしか暮らしは潤い満ちたり、喜ぶ親の顔、旨き酒に酔いあそぶ客の顔。
それらに囲まれる青年もまた幸せに笑みつつ、かの声に感謝を捧げていました。
折から、市がたつごとに青年の元から酒を買っては、面白いようにすいすいと飲む客がいました。
いくら飲もうとも顔色さえ変わらない、なんとも不思議な人物―――
青年が名を尋ねると、かの人は「私は猩々(=酒を好み、守護する霊獣)である」と名乗り、常の如く酒の美味さを喜び愛でつつ、いつの間にかその姿はそこにないのでした。
青年は、かの猩々が自分にお告げを与え給うた神だと悟ります。
(この幸せへのお礼がしたい)
冴え冴えと月の美しい夜。
青年は極上の酒を甕いっぱいに湛え、猩々が住まうという海へ運んできました。
酒を好む猩々にたらふく飲んでもらおうと。
海辺に着いた青年は、甕の口からふくよかに立ちのぼる美酒の薫りを、海上へと吹き流します・・・・
酒売りの青年、名は高風。演ずるは中村松江丈。
能めいた端正なお衣装に、白皙の美丈夫ぶりが映えます。
能に近い厳粛さの中にも、高尚めかしすぎた気取りのない、グッと控えた存在感。
上手いなとか際立っているなとかいう感じこそないけれど、イヤなあて込みとか、余分なところのないのが、私は好き。
サテ、酒の香りに誘われて、スゥと海面を滑ってくる影二つ。
燃える様な赤い髪、ぽっかり浮かぶ白い顔。連れ立って現われた猩々@梅玉丈、染五郎丈です。
酒売りは礼を述べ、心づくしの美酒を差し出します。
ひときわ高い香りに甕の中を覗けば、たっぷりと満たされた酒の表面には美しい菊の花びらが浮かんでいます。
故事に曰く、かつて都を追われた男が霊山に入り、菊の花に宿った露を飲んで千年の寿命をたもったとやら。
願わくば千代に八千代にと神を寿ぐ菊酒に、猩々は大いに喜びます。
サァこののちは酒に酔い、お互いをむすぶ感謝と幸福とを謳歌するばかり。
冴え冴えと浮かぶ月さえ嬉しき酒宴の灯なるか。
双方喜びを舞いつつ、好きな酒を大杯に汲んでは飲む、飲む、飲む。
なにが素晴らしいって、猩々@梅玉丈の舞い!
体の形はカッチリと規格正しくありながら、舞う姿の縁がフウッと柔らかく滲むように見える・・・
なんといったらいいのだろう。古格とか、風雅とか、そういう「気配」をかすかな光として、まとっているようなのです。
それでいながら、かつ飄々と、動作は野生の動物のように無防備、奔放。
二つの気配を同じ体で見せつつ、踊りの振りに乱れも、抑制もない。
酔いが廻っての足使いなんて、本当に見所で面白かった!
もちろんこれは、舞踊の「技巧」なんだと思います。
でもその「技巧」が、完全に猩々そのものの存在感で包まれてる。
だからね、安心なんです。
どんな動きをしても、動作の一つ一つも、観る方がもう圧倒的に心穏やかでいられる。一切の不安がない、だってそこにいるのは猩々だから。
だからこそ、夢幻とか、異次元の世界に、何の不安もなく観客の心を遊ばせてくれる。
気持ちよく、舞台に酔える。
染五郎丈の猩々も、美しいです。
真っ赤な髪に縁取られた白い顔は、ミステリアスな無表情を能面の如く吸い付かせて美しく、動作もキレがあって端正。
初春公演の序幕を任される人の踊りに違いない。
でも違う、何が違うって問われてもあいまいだけれどはっきり違う。
染五郎丈は猩々「を」踊っている。
梅玉丈は猩々「が」踊っている。
踊りを見ているこちらの心に湧く「ありがたさ」の度合いが、違う。
峻烈な才気が迸るような染五郎丈ですもの、一番近くで梅玉丈の踊りを見て、何を思っていらっしゃるのかな。
ふと、そんなふうに感じました。
酒売り@松江丈は、イヤなところが一切ないのが美点であり、弱点でもあると思いました。
当て込みがない、だから面白みも、薄い。
酒売りの舞、もちろん音に外れているところなんて一切ありません。でも、感覚を細かく研ぎ澄ませた時の音と振りとが完璧にぴたりと嵌る気持ちよさ、一瞬が際立った鮮やかさみたいなものは感じられず、記憶に引っかかる要素がごく少ないんです。
これは・・・松江丈大好きだからこそ!的に、物足りない。
松江丈こそ、もっと欲出してもいいのじゃないかなぁ?前に自分を押し出す気迫というか、スター気質を持ってもいいのじゃないのか。
こんなに姿もお声もいい方なのだもの、その素質の究極は、絶対もっと魅力的なはずなのだもの。
―――月に見守られた酒宴もいつしか時すぎて、海の彼方が白々と明けてきました。
さすがの猩々もすっかり酔い痴れ、足元も雲を踏むよう。
すっかり上機嫌の猩々は、富を得ても驕らず敬虔な酒売りの美しい心栄えを愛でて、酒売りに贈り物をします。
いくら汲めども酒の尽きぬ、霊なる酒甕。
それを酒売りの手に残し、猩々は海の彼方へ還って行くのでした。
・・・千鳥足になりながら、っていうオチをつけて(笑)
格調高く、ユーモラスに、大らかにめでたい2008年の歌舞伎座幕開きでした(^^)
2008/2
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私も観て来ました(^v^)
お友達が何年か前に発表会で踊った演目でしたので懐かしく観ました(・v・)
2008/2/1(金) 午前 2:52
天ママ様、コメントありがとうございます(^^)お友達さん、日舞をやっていらっしゃるのですか〜!ご祝儀ものの猩々を任されるなんて素敵だなぁ。朱毛の中に白い顔、美しい扮装ですよね。お友達さんの次の舞台もまた楽しみですねぇ!
2008/3/29(土) 午後 0:04 [ 雪柳 ]