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★初めての方は「―その1―」からお読み下さい★
義太夫を読む!第一弾 『新版歌祭文 野崎村』 ―その1―
http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/53216454.html
【第2回テキスト 義太夫原文】
冬編笠も燻り三味線、つぼもすまたの弾き語り、「ご評判の繁太夫節、本は上下綴本で六文、お夏清十郎の道行々々、あづまからげのかいしよなき、こんな形でも五里十里」
「通らしやれ、母様の煩ひで三味線も耳へは入らぬ。手の暇がない、通つて下され」
「清十郎涙ぐみ、お夏が手を取り顔打ち眺め、同じ恋とはいひながら、お主の娘を連れて退く、これより上の罪もなし」
「おお聞きとむない。通りや通りや」と言ふ声に久作は納戸を出で、「大坂で流行る繁太夫節、そなたにも聞かしたけれど、病人の気に構はふ、本なと読んで気晴らししや」と、義理ある中も子を思ふ、恵みは厚き古合羽の、煙草入れからこつてこて銭取り出して。
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【原文】
冬編笠(ふゆあみがさ)も燻(くすぶ)り三味線(しゃみせん)、つぼもすまたの弾き語り
【解説】
サテ、親子三人が細々と暮らす田舎家に、三味線の弾き語り芸人がやってきました。
季節はもはや春に移り変わっているというのに冬編笠、手にしている商売道具の三味線は黒くすすけた小汚さ。「つぼ」っていうのは、三味線を弾くとき、棹(=さお、糸を張る長い柄の部分)に張られた糸を指で押さえて音を調節するんです、バイオリンの演奏なんかイメージしてもらえるとそのまんまなんですけれど、その押さえる場所のこと。コレがずれれば音程めちゃくちゃ、っていう三味線弾きのキモである「つぼ」押さえが、すまた=いーかげん、テキトーだっていうんだから、ろくでもない芸人ですコイツ(^^;
多分、都会で仕事にあぶれたんでしょうねぇ。というか、もはや本物の芸人ですらないのかも。そういうのがひょろりと軒先に立つ景色というのは、うらぶれてほんのちょっぴり滑稽で、もの悲しいような。
【原文】
「ご評判の繁太夫節(しげたゆうぶし)、本は上下綴本(じょうげつづりほん)で六文(ろくもん)、お夏清十郎の道行(みちゆき)道行、あづまからげのかいしよなき、こんな形(なり)でも五里十里(ごりじゅうり)」
【解説】
これは芸人の台詞。
この芸人が、応対に出たお光に向かってペラペラと口上します。
「ちょっとあなた!こいつぁ都会で大人気の繁太夫節だよ、小説仕立てにした本も絶賛発売中!上下巻で六文(乱暴な換算だと大体300円ぐらい?)だってんだから安いじゃねぇか。この面白い話ってのは、いいトコのお嬢さん・お夏さんと使用人の清十郎が手に手をとっての駆け落ちの顛末!こんな面白い話、俺ぁあんたに読ませてやりたくって、こんなあずまからげ(=しりっぱしょり)のみっともねぇ格好で、五里十里のながーい道のりをやってきたんだよぅ」
・・・ってな調子のいいこと言って、お光に本を売りつけようとします。
【原文】
「通らしやれ、母様の煩ひで三味線も耳へは入らぬ。手の暇がない、通つて下され」
【解説】
お光の台詞。
「私はいらないから、別のところへ行ってちょうだい。お母さんが病気で、遊んで楽しむ気になんてなれないの。だいいち、本を買ったって読んでいる暇なんてないのだし、帰って帰って」と断ります。
【原文】
「清十郎涙ぐみ、お夏が手を取り顔打ち眺め、同じ恋とはいひながら、お主の娘を連れて退く、これより上の罪もなし」
【解説】
芸人の台詞。
お光は要らないと断りましたけれど、言葉通りが若い女の子の本音であるわけじゃありません。こちらもさすがは商売人、お光の(読みたいけど、でも・・・)という心を見透かし、物語の面白いところを一くさりうなってみせます。
「追いつめられた清十郎、罪と恋とに引き裂かれて涙ぐみ、愛しいお夏の顔をじっと見て、誰にも迷惑をかけず幸せになれる恋愛もあるというのに、貴女はご主人様のお嬢様、私はしがない使用人。身分違いのこの恋を成就させるにはもはや駆け落ちしか手がないが、お世話になったご主人様の大切な娘さんを奪って逃げるなんて、これほど罪深いことはない〜」
・・・どうなるのお夏!清十郎!!といやがおうにも興味はむくむく。
けれど病人の介護、さらに今や母に代わって一家の主婦業も一人でこなさなくてはならないお光はそんなことをして遊んでいるわけにいかないのです。
【原文】
「おお聞きとむない。通りや通りや」と言ふ声に久作は納戸を出で
【解説】
お光の台詞。
「やだやだ、そんなこと言ったって買わないんだから!さっさと帰ってよ」と芸人を追い払いにかかります。そんなお光と芸人のやりとりを聞きつけて、奥からお父さんの久作が出てきました。
【原文】
「大坂(おおざか)で流行(はや)る繁太夫節、そなたにも聞かしたけれど、病人の気に構はふ、本なと読んで気晴らししや」と、義理ある中も子を思ふ、恵みは厚き古合羽(ふるがっぱ)の、煙草入れ(たばこいれ)からこつてこて銭(ぜに)取り出して
【解説】
久作=お父さんの台詞。
「都会で流行っている面白い芸だっていうならお光にも聞かせてやりたいけれど、奥で病人が寝ているものだから、がやがや騒ぐわけにはいかないんだよ。よし、本を買ってあげよう。暇な時に楽しむぐらい遠慮はいらないよ、面白い本で気晴らしするといい」と、本を買ってくれました!良かったねお光ちゃん!
義理ある中(=仲)とは、先ほども出てきたように、お光は女房の連れ子であり、久作の実の子ではありません。いわば継父継子の関係なんですけれども、久作はお光を非常に思いやっているんですね。
恵みは厚き古合羽の、というのはちょっとはっきりしませんけれど、かつて雨具の合羽(=カッパ)っていうのは油紙を重ねて作ってたらしいんです。なので、古い合羽であれば修繕が重なるごとに油紙をさらにペタペタ貼り付ける、それでとっても厚く、重たいものになっていった、ってことなんじゃないかなぁ。この「厚さ」と「情の厚さ」を掛けてるのだと思われます。
そして煙草入れから小銭を取り出して、芸人から本を買いとってお光にプレゼントしてくれました。
――その3 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/53242848.html へ続く――
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こんにちわ。
私のブログに訪問してくれていましたね。
歌舞伎がお好きなんですね。
私は元歌舞伎役者でした。(成駒屋)
2008/6/5(木) 午前 10:39 [ 阿陀無有 ]
阿陀無有様、コメントをありがとうございます。ええっ、元歌舞伎役者さんでいらっしゃるのですか!!客席に居るとまるで夢の世界のようですけれど、そこを実際の住処とした方というのは歌舞伎を観る感覚も全然ちがうのでしょうね。独自の視点での観劇記など、是非拝見したいです!
2008/11/24(月) 午後 9:40 [ 雪柳 ]