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義太夫を読む!第一弾 『新版歌祭文 野崎村』 ―その1―
http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/53216454.html
【第5回テキスト 義太夫原文】
身の誤りに久松が差し俯むひて詞さへ、ないには『もしや』と思ひながら、
「お腹立ちはお道理ながら、何のマア久松さんに限つて、よもやそふしたことはあるまい。定めてこれはなんぞの間違ひ。サ覚えがなくばないといふ、ツイ言訳をして下さんせいな」
「ハハ、べるはべるはべるは、喋るは喋るは。コリヤヤイ、頭こそ前髪なれ、そのさらす事の素早さ。朋輩には辞宜なしに、取つて置きのお娘まで、ハヽヽヽこの後は言はずにこますわ。エヽ小倉の屋敷へ受取に往た為替の銀、御役人から改めて渡つたは正真、内へ戻つて明けたところが、わやひんの胴脈ぢや。コリャてつきり道の間で、ナ、ソレ擦り替へた、品玉の太夫、早咲久松、早久でござい。
ハアとヤカラヤカラヤカラ。なんぢやいなんぢやいなんぢやいなんぢやい、白眼むくは無念なか、無念なら銀立てるか、あるまいがな。サア久作はどこにゐる。出さらずば引出さふ」と、駆け入る袂を久松引止め、「成程、銀を擦り替へられたは皆私が不調法。身の明りの立つまでは、在所へ往けと、後室様の結構な御了簡。それをそなたが」
「ヤイヤイヤイ何抜かすぞい。ソリヤわれが勝手了簡の聞き損ひぢや。俺には又この詮議仕抜いて来いと、内証で後家御の言ひ付け。ぢやによつてめつきしやつきするが何ぢやい。ひんこめ出され」と大声をおみつが押さへて、
「コレ申し、御尤もでござんすけれど、奥の病人に聞かしましては、病気の障り。モそっと静かに」
「イヤ高ふ言ふのぢや言ふのぢや。これ程喚くに聞き耳潰すは、ハヽアこりや親父もぐるの仕事ぢやな。ドレもふ家捜しと出かけざなるまい、邪魔ひろぐな」とおみつを引き退け、取り付く久松「面倒な」と、踏むやら蹴るやら無法の打榔、詮方もなき折からに。
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【原文】
身の誤りに久松が差し俯むひて詞さへ、ないには『もしや』と思ひながら、
【解説】
小助が語る久松の行状は、恩ある主人への大変な不忠行為の上に、みっともない下半身スキャンダルという仰天の内容。久松を慕うお光にしてみれば、まさかに信じられるわけはありません。けれど、それがまったくの濡れ衣というなら即座に反論してしかるべき久松は、うなだれたまま何にも言わないのです。
その姿を見たお光の胸に「もしや」の不安が走りますが、それに倍する否定が本心。これには事情があるに違いない!
【原文】
「お腹立ちはお道理ながら、何のマア久松さんに限つて、よもやそふしたことはあるまい。定めてこれはなんぞの間違ひ。サ覚えがなくばないといふ、ツイ言訳をして下さんせいな」
【解説】
お光の台詞。
「(小助の言っていることが真実ならば)小助さんが怒るのは当然ですけれど、久松さんに限ってそんなことありえない、これはきっとなにかの間違いです。(久松に向かって)久松さん、身に覚えのないことならば自分は潔白だと、言い訳をして下さい」と、本人の口から事情を聞こうとします。
【原文】
「ハハ、べるはべるはべるは、喋るは喋るは。コリヤヤイ、頭こそ前髪なれ、そのさらす事の素早さ。朋輩には辞宜なしに、取つて置きのお娘まで、ハヽヽヽこの後は言はずにこますわ。
【解説】
久松に問いかけたお光の言葉を遮って、小助が口を挟みます。
『ハハ〜』と驚きの事態におろつくお光をあざ笑い、『コリャヤイ』=「おい、聞けよ」と言うなり、さらなる大スキャンダルを告げるのです。
久松は『頭こそ前髪なれ』=直訳すれば「彼のヘアスタイルは前髪付きのクセに」。なんのこっちゃ?といいますと、この時代、成人前の少年は前髪を残していたんですね。成人すると前髪をそり落とし、時代劇なんかでおなじみの「頭上をそり落としてチョンマゲを乗せる」髪形に変えます。つまり、前髪っていうことは「(社会的に)成人に達していない少年」であるっていうこと。未成年のクセに、ってことです。
『そのさらす事の素早さ。朋輩には辞宜なしに、取つて置きのお娘まで、ハヽヽヽこの後は言はずにこますわ。』=役立たずの半人前のくせに、ヤることだけは素早いんだよなァ!店の同僚たちへの気配りなんかは出来もしないで、大切なお店のお嬢様を・・・へへへ、皆まで言うのは下衆だねぇ」と下卑た笑い。ここまで言われれば、いくらウブなお光とて、久松とお嬢様の仲を分からぬわけはありません。
【原文】
エヽ小倉の屋敷へ受取に往た為替の銀、御役人から改めて渡つたは正真、内へ戻つて明けたところが、わやひんの胴脈ぢや。コリャてつきり道の間で、ナ、ソレ擦り替へた、品玉の太夫、早咲久松、早久でござい。
【解説】
嫌味たっぷり、小助の台詞の続き。
先ほど簡単に告げ、事情が釈然としなかった「店の金の着服」についての詳細を言い募ります。
久松はお得意先の小倉のお屋敷へ為替の銀を受け取りに行きました。小倉家から受け取った時点での銀は間違いなく本物、これは受け取った久松が証言しています。
それをお店へ持ち帰って開けてみたところ、『わやひんの胴脈』・・・って言葉が良くわからないのですけれど、文脈からいくと「偽物」にすり替わっていた。
銀を運んだのは久松ですから、屋敷から店の間にすり替え行為が行われたとすれば、ノーマルに考えれば久松が最も怪しい。
反論もおぼつかない久松に対し、犯人はお前しかいない!と決めつけ『ナ、ソレ擦り替へた、品玉の太夫、早咲久松、早久でござい。』=「品玉」とは手品のこと、「太夫」とは芸人のこと。久松の名前を芸人風に呼んで見せ、とんだ手品師だ!とからかい、嬲ります。
【原文】
ハアとヤカラヤカラヤカラ。なんぢやいなんぢやいなんぢやいなんぢやい、白眼むくは無念なか、無念なら銀立てるか、あるまいがな。サア久作はどこにゐる。出さらずば引出さふ」と、駆け入る袂を久松引止め、
【解説】
久松の立場の悪さをいいことに、声高に泥棒呼ばわりする小助。久松が悔しさに『白眼むく』=睨み付けると、それを逆手にとって「悔しいか、悔しいならなくなった銀をここに出せ、耳そろえて返せ!できないだろう」とさらに久松を追いつめます。
「未成年のガキ相手じゃ埒が明かない、親を出してもらおう!久作はどこにいる。隠れているんなら引きずり出すぞ」と、家の奥へずかずかと入り込もうとする小助の無礼をさすがに許しかね、今まで黙っていた久松が小助を止めました。
【原文】
「成程、銀を擦り替へられたは皆私が不調法。身の明りの立つまでは、在所へ往けと、後室様の結構な御了簡。それをそなたが」
【解説】
久松の台詞。
「小助さんの言うとおり、小倉のお屋敷から預かった銀を偽物にすり替えられてしまったのは私の責任です。けれど、実家に戻ってきたのは、身の潔白を証明できるまでひとまず実家に戻っているようにという、ご主人様のお優しいご配慮ではないですか。それをあることないこと並べ立てて・・・」と反論しかかりますが。
【原文】
「ヤイヤイヤイ何抜かすぞい。ソリヤわれが勝手了簡の聞き損ひぢや。俺には又この詮議仕抜いて来いと、内証で後家御の言ひ付け。ぢやによつてめつきしやつきするが何ぢやい。ひんこめ出され」と大声をおみつが押さへて、
【解説】
久松の反論に、小助はすぐさまおっかぶせて罵り返し。
「なーに言ってやがるんだか、そりゃお前が自分中心の勝手な解釈で勘違いしてるだけだ。俺は、店の奥様から内緒の命令を受けてるんだ。お前のやったことを調べ上げて、銀を取り返して来いってな。詮議を任されたから『めっきしゃっき(=厳しく責め問うこと)』してるんだ。この犯罪者め、ガタガタ言うな!」と大変な大声。お光が慌てて抑えます。
【原文】
「コレ申し、御尤もでござんすけれど、奥の病人に聞かしましては、病気の障り。モそっと静かに」
【解説】
次第にエスカレートする小助の大声に、お光の台詞。
「すみません、お怒りはごもっともですけれど、奥に病人(=お光の母)が寝ているんです。喧嘩声など聞かせて心配させては、病気が悪くなってしまう。お願い、大きな声を出さないで!」と懇願。
【原文】
「イヤ高ふ言ふのぢや/\。これ程喚くに聞き耳潰すは、ハヽアこりや親父もぐるの仕事ぢやな。ドレもふ家捜しと出かけざなるまい、邪魔ひろぐな」とおみつを引き退け、取り付く久松「面倒な」と、踏むやら蹴るやら無法の打榔、詮方もなき折からに。
【解説】
小助の台詞。
「大声を出すなだと?馬鹿め、わざと言ってるんだよ!これほど大声を出しているのに親(=久作)が出てこないというのは、聞こえないふりをしていやがるな。ははぁ、この一件、親父もぐるで仕組んだ犯罪だってことか。そっちから出てこないなら家中探して引きずり出すぞ、邪魔するんじゃねぇ!」と、止めるお光を引き退けて奥に踏み込もうとします。
行かせまいと小助の体にしがみつく久松を「離せ、面倒だ!」とばかり、蹴る殴るのめちゃくちゃな暴力。非力な久松とお光ではもうどうしようもなくなった、その時です!
――その6 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/54785227.html へ続く――
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