|
『北国の春』 井上靖/著
Yahoo!ブックス: http://books.yahoo.co.jp/book_detail/AAA58754/
登場する女たちは、性格はさまざまだけれど心に温みがあって、本質的に優しい。
男たちはちょっぴり我侭で、壮年の肉体の中にどこか少年的な感傷を持っている。
茫漠とした日常にぽっかり浮かぶ白昼夢、それは「日常」からちょっとわき道にそれた景色の中での現実であったり、心が呼び覚ました記憶の中であったりするのだけれど、男は結構うきうきと、甘い感情の匂いを嗅いだり、うっすら切ない哀しみが鼻先を掠めるのを味わったりする。
そしてひと時の小さな飛躍が静かに胸に着地すると、本来の日常に押し包まれるようにもとの場所へ、本来の姿へもどっていく。
男たちのほんのちょっぴりの飛躍、白昼夢に寄り添って描き出される女性たちには、生活感と同時に年に関わらぬ可憐があり、一種の清潔感が感じられます。
これ、作者さんが、自分の願望とか夢とか、心を吹きすぎた思いの行く末とかを作中の「男」に託して、存分にその満足をかなえたんじゃないかなぁ、って思います。
いわば、井上靖流、至極贅沢な手遊び。
そんな短編9編が並んだ、すこぶる後味の良質な一冊です。
|