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―初めての方は「その1」から順番にお読み下さい―
その1 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/53216454.html
【第14回テキスト 義太夫原文】
燃ゆる思ひは娘気の細き線香に立つ煙。
「サアサア親子とて遠慮はない。もぐさも痃痞も大掴みにやつてくれ」
「アイアイコリヤマアきつうつかへてござりますぞえ」
「さうであらうさうであらう。ついでに七九もやつてたも。オツトこたへるぞこたへるぞ」
「サア父様すゑますぞえ」
「アツアツアアア、アアえらいぞえらいぞ。ハヽヽヽヽイヤモウモウあすが日死なうと火葬は止めにして貰ひませう。丈夫に見えても古家。屋根も根太もこりや一時に割普請ぢや。アツアツアツ」
「オオ父様の仰山な。皮切はもうしまゐでござんす。ホンニ風が当ると思や。誰ぢや表を開けたさうな。締めて参じよ」と立つを、引止め、
「ハテよいわいの。昼中にうつとしい。ノウ久松、久松、久松、コリヤ久松。よそ見してゐずと、しかしかと揉まぬかいの」
「サアよそ見はせぬけれど、覗くが悪い。折が悪い、悪い悪い」と目顔の仕かた。
「ヤ悪いの覗くのと、足に灸こそすゑてゐれ、どこもおみつは覗きはせぬが」
「サアアノ悪いと言ひましたは、確か今日は瘟こう日。それに灸は悪い悪いとサいうたのでござります」
「エヽ愚痴な事を。このやうに達者なは、ちよこちよこと灸をすゑ作りをする、そこで久作。アツアツやっぱり熱いわいハヽヽヽ。ムなんぢやわい、わが身達も、達者なやうに、灸でもすゑるのがおいらへの孝行ぢやぞや」
「オヽさうでござんすとも。久松様には振袖の美しい持病があつて、招いたり呼出したり、憎てらしい、あの病ひづらが這入らぬやうに、敷居の上へエヽ大きうしてすゑて置きたいわいな」
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【原文】
燃ゆる思ひは娘気の細き線香に立つ煙。
【解説】
久光と恋仲であるというお染の出現に、嫉妬と怒り――その本質は不安と怯え、でもありましょう――カッカとのぼせるお光。「気の細き」とは神経質・気が小さい・臆病という意味。「細き」という言葉が、灸をすえるのにも使う線香の形へとつながります。
さらに想像を膨らませれば、若い娘の細い体のてっぺん、つまり頭から、ぷんすか煙(=湯気)をたてる様子と、線香のてっぺんが真っ赤に燃え、ちりちりと自らの身をすり減らし、ひと筋の煙があがっていく様が重なって見えますね。
【原文】
「サアサア親子とて遠慮はない。もぐさも痃痞も大掴みにやつてくれ」
「アイアイコリヤマアきつうつかへてござりますぞえ」
「さうであらうさうであらう。ついでに七九もやつてたも。オツトこたへるぞこたへるぞ」
【解説】
久作の台詞。
「親子なんだから遠慮は要らない。気を遣ってちまちまやられたって効かないから、思いっきりやっちまっておくれ!」
『もぐさ』とは灸につかう治療薬(=ヨモギの葉を干し、臼でついて作る綿状のもの。灸を据える際に燃やす材料)のこと。たくさん盛れば一層熱いわけですが、その分キクんでしょうね。
『痃痞(=痃癖、けんぺき)』とは肩凝りを治す按摩術のこと。強めマッサージを御所望というわけ。
久松の台詞。
「はいはい、わかりました(と、揉み始める)うわっ固い!こりゃ凝ってますね!!」
久作の台詞。
「そうだろう。ついでに頭痛のツボも押してくれ・・・おっと、こりゃ効く、効くねぇ!」
『七九(=糸竹空、しちくくう)』とは眉毛にあるツボのこと。眉尻あたりにくぼみがありますでしょ。このツボを押すと、目の充血、結膜炎、頭痛、頭痛に効くと言われています。
長い解説、読みつかれたらぐいっと押してみて(笑)
【原文】
「サア父様すゑますぞえ」
「アツアツアアア、アアえらいぞえらいぞ。ハヽヽヽヽイヤモウモウあすが日死なうと火葬は止めにして貰ひませう。丈夫に見えても古家。屋根も根太もこりや一時に割普請ぢや。アツアツアツ」
【解説】
今度はお光が灸にとりかかります。
お光の台詞。
「さ、お父さん、お灸すえますよ・・・じっとしててね・・・」
ツボにもぐさを盛り、線香で火をつけます。
久作の台詞。
「熱っ!熱い熱い、うわぁこりゃ大変だ大変だ。あはははは(と、もう熱過ぎて笑っちゃう(笑))いや、こりゃ、明日死んだとしても火葬はやめてもらいましょ。あつっ、熱い!」と強がりつつの軽口。
そして「丈夫そうに見えても古家」と自分の老体を家に例えて。
『割普請』とはひとつの普請をいくつかに分担して行なうこと。つまり、屋根も根太も、とは頭(肩)には久松のマッサージ、足にはお光の灸と、自分の体を総取っ掛かりで治療をしてくれていることをユーモラスに表現しているわけです。
【原文】
「オオ父様の仰山な。皮切はもうしまゐでござんす。ホンニ風が当ると思や。誰ぢや表を開けたさうな。締めて参じよ」と立つを、引止め、
【解説】
久作の大げさな軽口を受けて、お光の台詞。
「もう、お父さんったら大げさなんだから〜!皮切(=最初に据える灸のこと)はもうおしまいよ」
灸が熱くなる原因といえば、燃えるもぐさに風が入るということ。燃えているところに空気(=酸素)を吹き込むと一層よく燃えますでしょ。
その連想から、戸口を開けて中を覗きこんできたお染の姿を思い出し、むらむらっと怒りの炎が大きくなったお光。
「そうそう、なんだか風が入るわねぇ!誰かさんがまた戸を開けたんじゃないかしら!閉めてこなけりゃぁ!」と立ち上がろうとする。
それを久作は引き止めて。
【原文】
「ハテよいわいの。昼中にうつとしい。ノウ久松、久松、久松、コリヤ久松。よそ見してゐずと、しかしかと揉まぬかいの」
【解説】
久作の台詞。
「どうしたお光、戸が開いていたって別に構わなかろうに。昼間からそんなに締め切ったら、風も通らずむさくるしいじゃないか――」
なぜか戸口にばかり気を向けるお光を不思議がる久作。久松も、お光の態度に「?」と思ったのでしょう、ふと戸口に目を向けて・・・あぁっ!そこにいるのはお染お嬢様!!
お光ちゃん(^^;・・・残念、完全ヤブヘビです!!
久松は動揺に気もそぞろ、目は泳ぎ、手がおろそかに。久作は「どうした?久松、よそ見してないでしっかり揉んでくれ」とダメだしします。
【原文】
「サアよそ見はせぬけれど、覗くが悪い。折が悪い、悪い悪い」と目顔の仕かた。
「ヤ悪いの覗くのと、足に灸こそすゑてゐれ、どこもおみつは覗きはせぬが」
「サアアノ悪いと言ひましたは、確か今日は瘟こう日。それに灸は悪い悪いとサいうたのでござります」
【解説】
ダメだしされた久松、しどろもどろで言い訳。
「い、いえ、よそ見しているわけじゃないんですが・・・覗いちゃまずい、今はまずい、まずい・・・」
ボソボソとつぶやく久松に?な久作は「お前さん、何いってんの?誰が覗くというのだ。お光は覗いちゃいるまいが・・・」
墓穴を掘った久松は必死に言い訳。
「えっ、あの、まずいって言いましたのは・・・あっそうそう!確か、今日は瘟こう日だったと思い出したんです!今日は灸をしちゃいけない日だった、だからまずいって言ったんです!」
『瘟こう日』って何でしょう?良くわからないんですが、まぁ、お日柄なりお縁起なりで、灸をすることがよくない日なんでしょう(←いいかげん(^^;)
【原文】
「エヽ愚痴な事を。このやうに達者なは、ちよこちよこと灸をすゑ作りをする、そこで久作。アツアツやっぱり熱いわいハヽヽヽ。ムなんぢやわい、わが身達も、達者なやうに、灸でもすゑるのがおいらへの孝行ぢやぞや」
【解説】
久作の台詞。
「何言ってんだ、灸が悪いなんてことありますかいな。俺がこんなに元気なのは頻繁に灸を据えて健康作りをするから、それで久作って名前なんだよアッハッハ(とオヤジギャグ。)
あっつ、熱い・・・ん、なんだな、お前達も健康づくりに灸でもすえて、元気でいてくれるのが親孝行ってものだよ」
【原文】
「オヽさうでござんすとも。久松様には振袖の美しい持病があつて、招いたり呼出したり、憎てらしい、あの病ひづらが這入らぬやうに、敷居の上へエヽ大きうしてすゑて置きたいわいな」
【解説】
若い二人の健康、幸せを願う久作の言葉の尻馬にのっかって、お光はぷりぷり怒りの口上!
「その通りよ!お灸が必要だわ。久松さんには『振袖の、美し〜い』バイキンがくっついてるのよね!招いたり呼び出したりしつっこくまとわりついて、憎らしいったらないわ。あのバイキンがうちの中に入ってこないように、敷居の上におっきい灸でも据えて悪いモノをおっぱらっちゃいたいわ!!」
と、痛烈なあてこすりを言います。
――その15へ続く――
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鍵コメ様、おおお!!歌舞伎の板の上にお家が!!(←違う!)この物語、一見、単純な「自己犠牲美談」というか「前近代的な古い道徳感」を思わせるんですが、じっくり読んでいくと、各々のキャラクターの人格形成や思考傾向が、心理劇としてすっごく面白いんですよねぇ!自分の周りにもお光タイプ、お染タイプの女性は必ずいそう。どっちもまぁ、極端な性質ですが(笑)お祭りですか〜!楽しそうですねぇっ(^▽^)
2012/4/8(日) 午後 9:09 [ 雪柳 ]