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義太夫を読む!第一弾 『新版歌祭文 野崎村』 ―その1―
http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/53216454.html
【第8回テキスト 義太夫原文】
「ソレ久松が引負の銀、渡したからは言分あるまい。とつとゝ持つて去なしやれ」と、聞いておみつも久松も思ひがけなき驚きに、小助もぎよつとしながらも、包み改め、「こりや正真ちや正真ちや。吹きや飛ぶ様な内のざまで、泥亀三つで一貫五百匁。出難い所からよふ出たな。銀受け取るからは言分ないわい」
「オヽそつちに言分がなふても、こつちにグツと言分がある、と言ふも古い物ぢや。
これまでお世話になつた親方様、御恩こそあれ恨みはなけれど、人に欺され取られた銀、引負の悪遣ひのと、無い名を付けて貰ふてはどふも済まぬ、と言ふて無理隙取るではない。暫く親が預つて置く程に、この通り言ふたがよい。モウ二十年俺が若いと、わごりよにはぐつと馳走もあれど、入らざる殺生。サア/\早ふ去んだがよかろ」と言はれてどふやら底気味悪く「ハテ銀の出入りさへ済んでしまや外の事はお構ひないわい。ドリヤさらば御暇申さふ」と打違取り出し、捻ぢ込み押し込み。
「ハア命冥加な一貫五百匁、内へ往んで出したところが、蛙になつてゐやせまいか」
「ハテ仇口を聞かずとも、足元の明い中」
「オヽヽヽ去ないぢや去ないぢや去ないぢや。銀こそは主の物、なんのその俺が手に、俺がコウかたげて、俺が足で、俺が歩いて、俺が体で、俺が去ぬるに、ぐつとも言分ない筈ぢや」と、へらず口して、とつぱ門口柱で頭、「ア痛、し」小助は足早に、大坂の方へ立ち帰る。
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【原文】
「ソレ久松が引負(ひきおい)の銀、渡したからは言分あるまい。とつとゝ持つて去なしやれ」と、聞いておみつも久松も思ひがけなき驚きに、小助もぎよつとしながらも、包み改め、
【解説】
土産の山芋を包んでいたはずの藁苞の中から転がり出てきたのは、なんと高額の銀貨でした!
お光も久松も、そして小助も驚きのあまり声もないところへ、久作の台詞。
『引負』=「主家の金を奉公人が使い込むこと」この場合、その疑いがかけられているというだけで実際に着服したわけではないのですけれども、「主家に損失を与えた分の銀」ということですね、その分だけの銀がここにある。それを返すからにはもう文句はあるまい、コレを持ってとっとと店に帰れと言い捨てます。
貧乏所帯に金がないことを見越し、かさにかかって久松を嬲りに嬲っていた小助は予想外の展開にぎょっとし、その銀はにせものではあるまいかと確認します。
【原文】
「こりや正真(しょうしん)ちや正真ちや。吹きや飛ぶ様な内のざまで、泥亀(どんがめ)三つで一貫五百匁。出難い所からよふ出たな。銀受け取るからは言分ないわい」
【解説】
小助の台詞。
『正真』=「偽りのないこと。本物であること」、この銀は本物だ。吹けば飛ぶような貧乏所帯で、『泥亀』=これは確認がとれなかったのですけれど、文意からいくと丁銀のことを泥亀って言ってるみたいですね。丁銀=海鼠(なまこ)の形をした銀の塊ってことですから、見かたによっては泥亀みたいにも見えるかもしれない?ための俗称かも。で、泥亀(=丁銀)3つ=一貫五百匁の換算率である、それは久松が店に与えた損失ぶんちょうどの金額だと。
金がないところからよく出したな、と捨て台詞に皮肉ってみせ、金さえ戻れば文句はないと言います。
【原文】
「オヽそつちに言分がなふても、こつちにグツと言分がある、と言ふも古い物ぢや。
これまでお世話になつた親方様、御恩こそあれ恨みはなけれど、人に欺され取られた銀、引負(ひきおい)の悪遣ひのと、無い名を付けて貰ふてはどふも済まぬ、と言ふて無理隙取るではない。暫(しばら)く親が預つて置く程に、この通り言ふたがよい。モウ二十年俺が若いと、わごりよにはぐつと馳走(ちそう)もあれど、入らざる殺生。サア/\早ふ去(い)んだがよかろ」と言はれてどふやら底気味悪く
【解説】
金を受け取り、これで文句はないと引き下がった小助に、今度は久作が言い分をぶちまけます。
「オイ、そっちに文句がなくてもこっちにはどうしても言いたいことがある!」、続く『と言ふも古い物ぢや』=って、なんでしょう(^^;コレわかんない・・・何が古いんだろ?分かる方いらしたら教えて下さい。で、分からないところはサクッととばすイイカゲン解説、先へ進みます。
これまでお世話になった店のご主人様には感謝こそすれ恨むなんてことはないが、今回のことは久松の責任とはいえ、その罪は真犯人に騙され陥れられたうかつさという点においてのみだ。それを『引負の悪遣ひの』=「使い込みだ、悪所通いのために使った、などと」根拠のない罪までひっかぶせて糾弾してきたことは無体な名誉毀損だ、絶対に許せない!しかし怒りはあるが、かつての恩は恩、それを忘れて久松を店から無理に奪い返すということはするまい。ここはしばらく親が身元を預かっておくという名目で、久松をすぐには店にお帰しませんぞ。ご主人にそう伝えておきなさい」
親として息子の名誉をしっかりと守護します。頼りがいのある、理詰めの言い分ですね。
そして「俺が20歳も若い血気盛りだったら(小助に対して)『馳走』=「返礼」、つまり暗に(てめぇが俺の息子にしたことに対してこぶしで報復もしようがな)と過去の血気盛んぶりをちらつかせ、小助を脅します。さっきまんまと投げられた小助、この親爺をノセると怖いのは承知済み。そういわれてぞっとします。
【原文】
「ハテ銀の出入りさへ済んでしまや外の事はお構ひないわい。ドリヤさらば御暇申さふ」と打違取り出し、捻ぢ込み押し込み。
【解説】
立場逆転、これ以上ここにいてはかえって面倒、とばかりに小助の台詞。
「金さえ取り戻せれば、ひとまず他の事情は不問に伏して構わねぇや。さっ、そんなら帰ろうか・・・」と『打違』=コレもわかんない(←これ多い(T^T))文意からいくと、金を納めておく場所のことみたい。着物の襟元とかのことかな、それとも財布や袋みたいなものかな?ちなみに辞書の意だと「十字形に交差すること。また、その形。ぶっちがい」なので、紐で縛るイメージもありますが、よくわかんないです。ま、それに銀を捻じ込み、押し込み。
【原文】
「ハア命冥加な一貫五百匁、内へ往んで出したところが、蛙になつてゐやせまいか」
【解説】
小助の捨て台詞。
「久松の命を救ったこの金、店に戻って出したところが蛙になっているんじゃあるめぇな」
久松が屋敷から預かった金を使いの途中ですり替えられ、店に戻って出した時には別ものになっていたことを「手品」に例えて皮肉ったのを引っ張り出しての嫌味。
また、ここが都会から離れた田舎であることを侮って、草深い里に潜む狐にでも騙されてるんじゃないだろうなぁと毒づきます。
【原文】
「ハテ仇口を聞かずとも、足元の明い中」
【解説】
久作の台詞。
「くだらない皮肉を言ってないで、明るいうちに帰れ」
明るいうちに、って、さっさと帰れという意味と同時に「田舎の暗い夜道、襲われたって犯人なんざ見つかるもんでもないだろうよ」と、暗に闇討ちの可能性を否定しない暗い気配がぎらつくような。ま、コレはかるーい脅し。実際に考えてなどいないでしょうけれど。
【原文】
「オヽヽヽ去ないぢや去ないぢや去ないぢや。銀こそは主の物、なんのその俺が手に、俺がコウかたげて、俺が足で、俺が歩いて、俺が体で、俺が去ぬるに、ぐつとも言分ない筈ぢや」と、へらず口して、とつぱ門口柱で頭、「ア痛、し」小助は足早に、大坂の方へ立ち帰る。
【解説】
小助の台詞。
「こんなところにもう用はねぇや、さっさと帰るにきまってんじゃねぇか!」想定外に弁償金をきっちりと返され、それまでかさにかかって優位にたっていた形勢が逆転した気配に対し「金を返したからといって威張りやがるな、この銀はもともとがご主人さまのものだ」と形勢に一矢を報い、『なんのその俺が手に、俺がコウかたげて、俺が足で、俺が歩いて、俺が体で、俺が去ぬるにぐつとも言分ない筈ぢや』=「主人名代の自分が受け取る権利を持った金だ、それをどうやって持ち帰ろうと、文句なんかあるまい!」と捨て台詞。
そして「あばよっ」と飛び出した門口柱で頭をガーンと打ちつけるドジを踏み(笑)そそくさと立ち去っていきました。
ここら辺の小者の皮肉っぽさ・コミカルさを、義太夫や人形浄瑠璃、芝居なんかでは実に面白く見せるのでしょうねぇ(^皿^)
――「その9」に続く――
「その9」 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/56987528.html
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