文花座

歌舞伎、宝塚歌劇団、劇団四季・・・大好きな舞台の感想をつらつらと♪

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『貞操花鳥羽恋塚(=みさおのはなとばのこいづか)』

――初めての方はその1からお読みください――

その1【祇園社境内の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007081.html
その2【三井寺の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007404.html
その3【源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007794.html
その4【(続き)源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008023.html
その5【讃州松山屏風ヶ浦の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008294.html
その6【讃州松山屏風ヶ浦 崇徳院御在所の場】→当記事
その7【高尾神護寺の場】→今しばらくお待ちくださいm(__)m


【讃州松山屏風ヶ浦 崇徳院御在所の場】

海風になぶられ、いまにも崩れそうなみすぼらしい庵。
これこそが、かつて都で最高の栄華と尊敬を得ていた崇徳院の現在の住まいなのです。
あばら家の脇には、ひょろりと伸びた一本の松。その枝に、先ほど崖の上から落としてしまった書状入りの魚かごがぶら下がっています。

あばら家の一室からは低い念仏の声がもれてきますが、その念仏は常のものではありません。
平家への怨念に煮えたぎる心が望むのは、仏の救いなどではない―――
崇徳院は、魔道へ落ち天狗となって世に祟るための修行に自らの身を捧げていたのでした。

屏風ヶ浦へ、一艘の小船が近づいてきました。
乗っているのは崇徳院の愛人・待宵の侍従。胸には、崇徳院との間に授かった我が子・重仁親王を大切に抱いています。
途中までは瀧口靱負常久と同道してきたのですが、うっかりとはぐれてしまってからは旅慣れぬ女一人。
目指す場所も定かではない中で、運を天に任せ、ただ闇雲に夫の面影を追い求めて命懸けの旅を続けてきたのでした。

屏風ヶ浦でおろされた待宵の侍従が周囲を見渡すと、そこに一軒のあばら家が。
折りしも日が翳ってきています。
(この家で、一夜の宿を借りよう)待宵の侍従は家の中に声を掛けました。
内から返って来た返事の声に、侍従は息を呑みます。
その声の主こそ、捜し求め、再会を願いつづけた崇徳院その人であったのです!
(懐かしい、愛しい崇徳院さま!)
しかし、その変わり果てた雰囲気に異常なものを感じたのは女の勘ででもあったのでしょうか。
待宵の侍従は溢れ出す思いをとっさに堪えました。
胸に抱いた幼子を松の木に引っかかっていた魚かごの中に隠し、待宵の侍従は崇徳院と対面します。
崇徳院は、目の前にいるのが子までなした仲の女であることにすら気付かぬ様子。
侍従は一夜の宿を求めますが、崇徳院は「男の一人住まいであるから」と頑なに拒み、ついには背を向けて家の中に去ってしまいました。
突き放され呆然とたたずむ待宵の侍従。そこへ折悪しく雨が降り出しました。
雨に難儀する女を見かねた崇徳院は、一夜の宿は貸せないが雨宿りだけでもと女を家に招きいれます。

招き入れられた家の中を見て、待宵の侍従は目を瞠ります。
清らかであるべき祭壇には無残に殺された獣たちの死骸がぶら下がり、生臭い血の匂いが一面にたちこめているのです。
不気味に押し黙る崇徳院に、待宵の侍従は必死の思いで身の上話を聞かせます。
愛する人から贈られたのだと、思い出の歌の下の句「われてもすえにあわんとぞおもふ」を詠じる待宵。
それを聞いた崇徳院の口から「せをはやみいわにせかるるたきがはの」という上の句が滑りでました。
(様々な障害に今は否応なく分かたれたとしても、末は必ず一緒になろう―――)
二人しか知るよしのない、とこしえの愛を詠った一首。
それを口の端に上せたのを聞いた待宵の侍従は、崇徳院の心にまだ愛の温もりが残っていることを確信しました。
精神は狂気に犯されていたとしても、人間らしい愛情がわずかにでも残っているならば、自分と、二人の間に授かった息子とで崇徳院の魂を救えると信じたのです。
名乗りをあげて縋りつく待宵の侍従に戸惑い、拒絶する崇徳院。
父子の対面をさせたなら情も動くだろうと、待宵の侍従は魚かごに隠した幼子を連れてきました。
幼子のあどけない姿に、さすがの崇徳院も心揺らぎます。
しかし、思いを断ち切るように母子を振り払い、雨のそぼ降る外へとたたき出したのです。

家の外に追い出され、幼子を胸に抱いて呆然とくず折れる待宵の侍従。
そこへ、崖上から駆けつけてきた瀧口靱負常久が現われました。
待宵の侍従から、母子に対する崇徳院の無残な仕打ちを聞いた瀧口靱負常久は、心痛めてとりなしを約束します。
―――しかし、その時すでにこの家の周りは平家の軍勢に取り囲まれていたのです。
軍勢は家の外にたたずむ二人を押し包み、あっと思う間もなく、幼子は平家の手に奪いとられてしまいました。
「崇徳院を引き渡す手引きをするか、さもなくば、この若宮を死なせるか!」
二人に向かって残酷な二者択一を迫る平家の軍勢。
その時です。
進退窮まった二人の目の前で、いずこからか飛んできた小刀が幼子の体に突き刺さったのです!小さな体に突き立った刀は、一瞬で若宮の命を奪いました。
狂ったように死んだ子をかき抱く待宵の侍従に、家の中から声がかかります。
「その子を殺したのは私だ」と。
家の中から現われたのは崇徳院。驚愕する一同に向かって語りだした顛末は―――

魔界に入るための修行として毎日自らの血で写経をし、千日のあいだ毎日一つの命を奪う行を繰り返してきた。
殺戮に明け暮れた日々の果て、今日こそが、満願成就の千日目。
最後に奪う命を狙っていたところ、現われたのは血を分けた我が子。
さすがに我が子を手にかけるには忍びなく、一度は突き放してはみたものの・・・
やはり、魔神は残酷にも、息子を殺す舞台を整えたのだ。
息子の命を留めに、これで修行は満願成就!

そう高らかに叫ぶなり、崇徳院は刀を振るい、待宵の侍従の胸にあった息子の首をばっさりと切り落としたのです!
悲鳴をあげ、転がる首を引き寄せる待宵の侍従。

傍らの瀧口靱負常久に気付いた崇徳院は、写経の一巻はどうなったと聞きただします。
平宗盛の横槍で奉納を許されなかったと聞かされ、また平清盛から発せられた崇徳院殺害の命令書を目にした崇徳院の怒りは最高潮に!
数珠を引きちぎり、経文を破り捨てて魔道に身を投じた崇徳院は、ついに魔神と化しました。
怒りは天を狂わせ、地を揺るがせ、館を根こそぎなぎ倒します。

待宵の侍従はもはやこれまでと、首のない我が子を抱いたまま、崖から身を躍らせました。

天狗と化した崇徳院は、館を取り囲む平家の男たちをなぶり殺しに殺し尽くし、嵐を呼び雷鳴を轟かせて猛り狂います。
「この恨み、消えることなどありはしない!」
平家を呪い、この世のすべてを呪い、天に浮き上がって彼方へと飛び去っていくのでした。

――その7へ続く――

その1【祇園社境内の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007081.html
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その3【源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007794.html
その4【(続き)源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008023.html
その5【讃州松山屏風ヶ浦の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008294.html
その6【讃州松山屏風ヶ浦 崇徳院御在所の場】→当記事
その7【高尾神護寺の場】→今しばらくお待ちくださいm(__)m

『貞操花鳥羽恋塚(=みさおのはなとばのこいづか)』

――初めての方はその1からお読みください――

その1【祇園社境内の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007081.html
その2【三井寺の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007404.html
その3【源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007794.html
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その7【高尾神護寺の場】→今しばらくお待ちくださいm(__)m

【讃州松山屏風ヶ浦の場】

ここは讃州松山の屏風ヶ浦。
朝廷の権力争いから保元の乱を起し、失敗して流罪となった崇徳院の住まう僻地です。
切りたった断崖の上で、男たちが一通の書状をめぐって揉み合っていました。
片方は平家方の使者。もう一方は、祇園社へ写経を納めに遣わされ、今この地へ戻った崇徳院の家来・瀧口靱負常久。
書状は平清盛から讃州一円に住まう平家一門へ宛てたもので、『不穏な動きのある崇徳院を殺せ』との命令書でした。
これが平家一門の手に渡っては、崇徳院の命はありません。瀧口靱負常久は決死の覚悟で書状を奪い取り、使者達を蹴散らしました。そして、その場に置き去りにされていた魚かごの中に書状を隠します。
しかし、舞い戻ってきた使者達と再び乱闘となり、書状は魚かごごと崖下へ落下してしまったのです。
使者たちの言葉から、崖の真下に崇徳院の住まう庵があることを知った瀧口靱負常久は慌てふためき、崖下へ向けて駆け出していきました。

――その6へ続く――

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その5【讃州松山屏風ヶ浦の場】→当記事
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その7【高尾神護寺の場】→今しばらくお待ちくださいm(__)m

『貞操花鳥羽恋塚(=みさおのはなとばのこいづか)』

――初めての方はその1からお読みください――

その1【祇園社境内の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007081.html
その2【三井寺の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007404.html
その3【源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007794.html
その4【(続き)源三位頼政館の場】→当記事
その5【讃州松山屏風ヶ浦の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008294.html
その6【讃州松山屏風ヶ浦 崇徳院御在所の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008879.html
その7【高尾神護寺の場】→今しばらくお待ちくださいm(__)m

【(続き)源三位頼政館の場】

千束姫と香炉引渡しの刻限となりました。
意気揚揚と現われた武蔵左衛門有国に、頼政はいましばらくの猶予を願いますがもちろん聞き入れられるわけはありません。
ならばやむなしと次の間に声をかけると、飛び出してきたのは武蔵左衛門有国を父の仇と狙う蔵人満定と妻・小磯!
抜き身の刀を突きつけ、蔵人満定は「千束姫と香炉の件から手を引け」と迫ります。
進退窮まった武蔵左衛門有国はその条件を呑み、使者の役目も果たさずに逃げ去ってゆきました。
夫婦は仇の命を取ることを諦める代わり、恩人・頼政の立場を救ったのです。

ひとまずの窮地は脱しましたが、それはわずかな猶予を与えられたというだけのこと。
この期に及び、頼政はすべての秘密を告白します。
その場に姿を現わした千束姫―――姫君とは真っ赤な偽り。その人こそ、女に身をやつした高倉の宮以仁王ご本人であったのです!
そして、頼政は先ほど家に運び込んだ大荷物のふたを開けさせました。
中から出てきたのは、三井寺の頼豪阿闍梨その人!
高倉の宮以仁王は、朝廷内でも重要な地位を占める高貴なご身分、また源氏再興の切り札ともなるべき最重要人物です。
しかし、その御身には不幸を呼び寄せる悪霊が住み着いていました。
そして、これほど強力な悪霊を払う霊験を持っているのは頼豪阿闍梨のみであったのです。
頼政は、高倉の宮以仁王をお救いすれば今度こそかならず望みを叶えると約束で、頼豪阿闍梨を説き伏せ連れてきたのでした。

さっそく除霊の儀式が執り行われ、高倉の宮に憑いていた悪霊は彼方へと飛び去りました。
これでひと安心(^^)
高倉の宮以仁王は身を偽る女装姿のまま、小磯を供に連れて高尾神護寺へと落ち延びていきました。

無事に高倉の宮を送り出し、一座はほっと息をつきます。
息詰まる緊張感から解放され、頼政の家来・猪の早太忠澄は「頼豪阿闍梨にご酒を一献」と提案します。
猪の早太忠澄の姉・腰元巻絹は、先ほどの儀式の際にお供えしたお神酒をとって頼豪阿闍梨に勧めました。
阿闍梨が酒を飲み干し、杯を頼政に渡そうとした瞬間―――その手から杯が滑り落ちます。
あっと思う間もなく、阿闍梨は胸をかきむしり、血の泡を吐いて苦しみだしたのです!
そのお神酒には、先ほど武蔵左衛門有国が仕込んだ毒が混ざっていたのでした。

おのれ―――約束を違えて戒壇を許さぬばかりか、この力だけを利用し・・・
不要となれば毒を盛るとは!
高倉の宮以仁王への、頼政への、そして朝廷への怒りに狂った頼豪阿闍梨の断末魔の叫び。

猪の早太忠澄はとっさに腹を掻き切り、主人の無実を叫びました。
主人は預かり知らぬこと!
知らぬこととはいえ毒酒を勧めた責任は自分にある、酒を捧げた罪は姉にある!
どうか、この一命で許してくれと懇願しますが、死の苦しみに狂った阿闍梨へは届きません。
恨みと憎しみ、呪詛の念の極まった阿闍梨はついに巨大な鼠と化し、巻絹を捕らえて食い殺してしまったのです。
「決して許さない、未来永劫祟ってやる!」
呪詛の言葉を吐き散らしながら、頼豪阿闍梨の姿は忽然と消えてしまいました。
そして・・・突然湧き出すように現われたのは、何百何千の鼠の大群!
真っ黒な塊が壁を這い、柱を伝って溢れかえります。あっという間に、一面の鼠の海。
―――しかし、柱にかかった時計の周りだけは、近寄ろうとする鼠のことごとくが落ちてしまう・・・
瀕死の猪の早太忠澄ははっと気付きます。紛失した家宝の名は『霊猫の香炉』、呪の一念が凝り固まった鼠といえども近づけないものがあるというならば、それは猫の毒気なのではあるまいか!
猪の早太忠澄はかき切った腹から臓物をつかみ出し、時計に向かって投げつけました。
時計に血が濡れかかるなり、血潮の穢れに聖なる香炉が反応し、あたりに光が満ち溢れました。
時計の中から、香炉は無事に頼政の手に戻りました。
頼政は猪の早太忠澄に、犬死ではない、源氏再興の礎となるのだとその死を慰めます。
その言葉を聞き、救われた猪の早太忠澄の命もやがて尽きるのでした。

と、そこへ、先ほど逃げ去ったはずの武蔵左衛門有国が香炉を再び奪いかえそうと飛び込んできました。
しかし、高倉の宮以仁王を無事に落ち延びさせ、香炉もわが手に戻った頼政に、もはや使者への遠慮はありません。
襲い掛かる平家の手のものを鮮やかに蹴散らし、先ほどは仇討ちをぐっと堪えてくれた蔵人満定に「武蔵左衛門有国、ヤッチマイナ!」(←キル・ビル!?)

源三位頼政は自らの役目をまっとうし、源氏再興の野望へ向かってコマをすすめたのでした。

――その5に続く――

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その2【三井寺の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007404.html
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その5【讃州松山屏風ヶ浦の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008294.html
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【源三位頼政館の場】

源三位頼政館では、恒例の「ぬえ退治」を模した儀式が行われていました。
主人・源三位頼政自身が都に巣食い悪事を働く怪物ぬえを退治したことで名が高まり、家の誉れとなったことがその由来。
今日は、家の安泰と怪物ぬえの供養を兼ねた儀式を、主人の留守に代わり女たちが代行しているのです。
猿の面をつけたぬえ役の奴音平を腰元巻絹が押さえ込み、源三位頼政役に扮した千束姫が弓矢で見事討ち取るという所作で舞い納めて、儀式は滞りなく終わりました。
そこへ、主人・源三位頼政が三井寺から帰邸しました。
持ち帰った大きな荷物を「大切に」と言い置いて座敷に上がると、儀式を終えた晴れやかな笑顔の女性達が出迎えます。
ままならぬ時勢に気鬱が募る千束姫の楽しげな姿に、源三位頼政はほっと安堵し姫を奥へと誘いました。

そこへ、みすぼらしい海女・小磯がやってきました。
下男が対応したところ「こちらの殿様は優しい方で、下々の願いを叶えて下さると聞いたので来た」と話します。
一度は追い返されそうになるものの、奴音平のとりなしと頼政本人に救われた小磯は、後で話を聞こうと奥に通されました。

そこへやってきたのは、平宗盛の使者・武蔵左衛門有国。
目的は、平家に敵対する高倉の宮以仁王を匿っているのではないかとの疑いの詮議、そして平重盛より源三位家に預け置かれていた家宝『霊猫の香炉』の受け取りでした。
また、重盛ご執心の千束姫を差し出すようにとの再度の要求。
一番の難題は千束姫の身柄、もはやのらりくらりと逃げられる段階ではありません。
そして、第二の難題は突如として提出を求められた香炉―――
実はこの香炉、先日来行方がしれなくなってしまっていたのです。
重盛より預かりの香炉を紛失したことが発覚したなら、源氏一門取り潰しの口実を漁るようにしている平家の思うつぼなのです。

即答を免れ、なんとか時間を稼いだ頼政。
千束姫と香炉を引き渡す刻限は迫り来ています。しかし、解決の糸口などみつかりようもありません。
(ああ、今、弟がいてくれたなら、この苦しみを分かち合ってくれたろうに)
頼政の弟は、策略からありもしない罪をかぶせられ、田舎の僻地へ流罪となっていたのです。
そしてつい先日、死の知らせが届いていました。

進退窮まった。
この上は、命懸けで千束姫を安全な場所に落ち延びさせ、あとは平家の軍勢を迎え撃つしかない。
―――死ぬしかないようだ。

腹を据え思い極めたところに、ひょっこりと顔を見せたのは先ほどの小磯でした。
思い極めてしまえばかえって心は平穏ということか、無邪気な小磯ゆえか、頼政は切羽詰ったこの場で少女の願いを聞いてやることになります。
小磯の願い、それは「はまぐりの片割れを持った許婚を見つけて欲しい」ということだったのです。
小磯の両親は先日相次いで亡くなってしまいました。
父を追うように母が亡くなる直前、はまぐりの片割れに歌を書き付けた一品を小磯に渡してこう告げたのです。
「この貝のかたわれを持った人こそ、親同士で決めたあなたの許婚。探してお嫁さんにしてもらいなさい」と。
はまぐりは同じ貝同士でなければ蝶番が決して合わない、それをよすがに相手を探しているのだと言うのです。
さすがの頼政もこれには閉口し、時節と縁を待つしかあるまいと優しく諭します。
「偉い殿様ならばきっとご存知」と信じていた小磯は萎れきり、肌身はなさぬ両親の位牌を取り出して頼政に見せました。
何気なくそれを見た頼政は瞠目します。
そこに書かれていた戒名、これはまさに・・・
そして、小磯の幼名を聞いた頼政は、その幼名が弟の娘のものであることを知ったのです。
なんという偶然!この小磯こそ、亡き弟の忘れ形見であったのです!
「これからは叔父を父と思うてくれ!」
「はい!」
叔父姪名乗りの喜びのうち、彼の脳裏にひらめいたことがありました。
(道理で小磯の面体には鄙には稀な気品がある・・・これなら、千束姫さまの替え玉がつとまりはすまいか)
そして、叔父は残酷な策略でこういうのです。
「小磯。私はお前の探す『はまぐりの片割れ』を知っている。それは平宗盛様だ」と。
無邪気な小磯は、叔父の言葉を疑うすべを知りません。
そして、小磯は何も知らされぬまま、千束姫の身替りとして宗盛に嫁ぐこととなったのでした。

主人の居ない座敷に平家の使者・武蔵左衛門有国が家来を引き連れてやってきました。
手には、例の香炉―――家来を使い、先日中にこの家から盗み出していたのでした。
家宝紛失ともなれば、頼政が生きていることはできません。武蔵左衛門有国は頼政を罠に嵌め、この家を乗っ取ろうとたくらんでいたのです。
自分たちが香炉を持っていては危ない、どこかに隠しておこうととあたりを見回した一同は、柱に据えつけられた時計の中に香炉を隠します。
そして、床の間に神事用のお神酒を見つけた武蔵左衛門有国達は、念には念をと酒に毒を仕込んだのです。

小磯は姫君らしく華麗に装いを変えました。
初めて見る化粧をした自分の顔、美しく結い上げられた髪には豪奢な髪飾り、見たこともないような美しい着物・・・
夢見心地でうっとりするところに「思う人への嫁入りまで決まって」と持ち上げられ、小磯はまさに幸せの絶頂です。
女中たちが下がった後、ひとりになった小磯はにわかに不安になります。
昨日まで卑しい海女であった自分が、身分高い嫁入り先でどんな粗相をしでかすか知れない。作法を教えてもらわねばと思い立ちました。
女中達を呼ばわりますが、誰も来てくれません。
端近まで出て行った小磯は、そこにさっき自分をとりなしてくれた奴音平の姿を見つけました。
声をかけると、奴音平も綺麗に変わった小磯にびっくり。そして思いもよらない身の出世を我が事のように喜んでくれます。
奴音平の笑顔を見て、小磯も嬉しくってなりません。
けれど、嫁入り先は「むねもりさま」と告げたとき、にわかに奴音平の顔に不審が浮かびました。
けれどそれはご主人様が決めたこと。
それ以上の深入りはせず、良家の作法を指南してくれという小磯に、それではことに難しい『貝合わせ』の作法からと手ほどきをはじめます。
「貝なら、私、片われをもっていますよ」懐から形見の貝を取り出す小磯。
「それならこっちの片割れと」奴音平も自分の持っている貝を取り出しました。
対の貝殻の内側には歌が一首、上の句・下の句と分けて書かれている・・・と説明するうち、あれ?この二つ・・・
「歌の合った片割れ同士は、蝶番もぴったりと・・・」
あっ、嵌った!
「そんならあなたが!」
「そんならお前が!?」
親の決めた、私の許婚!!二人は奇跡的な出会いに狂喜して抱き合います。
しかし、小磯ははたと気付きました。
「でも、変なおじさま・・・貝の相手は『むねもりさま』だなんて仰った」

そこへ、頼政が戻ってきました。
見違えるように美しく装った小磯に哀しく目を細めますが、小磯は運命の夫が見つかったことを嬉しげに告白、叔父の嘘に拗ねてみせるのです。
頼政はたじろぎます。しかし、千束姫を救うにはもはや方法がない―――
(鬼にならねばならない)
それでもお前には宗盛公に嫁ぐのだと冷たく言い渡す頼政に、小磯は怒って頼政の持ってきた品を袂で打ちます。
覆いの袱紗の下から現われたのは、なんと鉦と撞木!
頼政は小磯の嫁入支度に、仏を供養する二品を整えたのです。
驚く小磯に、頼政はすべてを告白し懇願しました。
お前は先ほど私を父と思うと言ってくれた。それなら、父に従ってくれ。その命、私の手に委ねてくれ―――身分低い自分に頭まで下げての懇願に、小磯はおろおろと戸惑います。
そして、はまぐりの片割れを持っていた夫とは誰なのだと問われ、次の間ですべてを聞いていた奴音平が名乗り出ました。
奴音平は唐突に暇乞いを願い出、その理由として思いがけない告白をはじめたのです。
このたび平家の使者としてこの家を訪れた武蔵左衛門有国は父の仇。
祇園社で待宵の侍従に情けをかけた父・物かはの蔵人を、わずかばかりの褒美欲しさゆえの讒言で陥れ死なせた張本人だというのです。
奴音平は仮の姿。自分の正体は物かはの蔵人満定であると。

頼政は蔵人満定の心に打たれ、そんな男の運命の妻である小磯を自分の一存で死なせるわけにいかないと悟ります。
「なぁに構うものか、振り出しに戻っただけのこと。私が死ねばいいだけだ―――」
朗らかに笑う頼政の覚悟の前に、若い夫婦は寄り添い思いを成就させたのです。

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その2【三井寺の場】→当記事
その3【源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007794.html
その4【(続き)源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008023.html
その5【讃州松山屏風ヶ浦の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008294.html
その6【讃州松山屏風ヶ浦 崇徳院御在所の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008879.html
その7【高尾神護寺の場】→今しばらくお待ちくださいm(__)m

【三井寺の場】

三井寺住職・頼豪阿闍梨は世に並びなき高僧。
そんな彼の積年の願いは、朝廷から戒壇(=僧になる資格「戒律」を授けることを公式に認められた寺)を許されることでした。
しかし、朝廷は権力の後ろ盾を持たない頼豪阿闍梨にそれを認めようとしなかったのです。

ある時、朝廷内に熾烈な権力闘争が勃発し、ある女性に男児の出生が望まれる事態となりました。
しかし、神託では腹の子は女児だという―――
そこで、朝廷は頼豪阿闍梨に縋りました。
産まれてくる子を男児と変えることが出来たなら、望みを叶えてやろうと持ちかけたのです。
朝廷の約束を信じた頼豪阿闍梨は死力を尽くして術法を施し、見事に女と決まった運命の子を男子に変えました。

しかし、朝廷はまたしても彼を裏切りました。
宗教界で絶対の権力を誇る延暦寺への遠慮から、このときもやはり戒壇は与えられなかったのです。
それ以来、頼豪阿闍梨の心を占めるのはただ朝廷への呪いの一念。
その目的を達するため、食を断ち、狂気の修行に励んでいるのでした。

頼豪阿闍梨が住職を務める三井寺に、朝廷の使者・源三位頼政が訪れました。
表向きは平家に従う源三位頼政でしたが、秘めた本心は源氏再興。
また、それは朝廷の意志でもあります。どうしても阿闍梨の力を借りたい朝廷は、新たな官位を授けることを決めて源三位頼政を遣わしたのです。

頼政が持参した綸旨(=りんじ・帝からの書状)を手渡され、一読した頼豪阿闍梨の顔が憤怒に燃え立ちます。
朝廷は今度もこのうえなく高い身分を授けはしたのですが、やはり戒壇を許すことはしなかったのです。
頼豪阿闍梨は怒りに震え、綸旨を破り捨てて護摩壇に叩き込みます。
阿闍梨の怒りを代弁するかのように、異常なまでの激しさで猛り狂う炎!
「望むのは戒壇のみ!」
その怒りに、その執念に源三位頼政も瞠目することしかできませんでした。

――その3に続く――

その1【祇園社境内の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007081.html
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その3【源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007794.html
その4【(続き)源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008023.html
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