文花座

歌舞伎、宝塚歌劇団、劇団四季・・・大好きな舞台の感想をつらつらと♪

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慶安太平記(=けいあんたいへいき)

(前提)

家康以来、徳川家直系の将軍職継承も三代を数えていた時代。
江戸幕府の基礎は固まりつつありましたが、諸大名の中にはいまだ戦国の夢を捨てきれぬ野心の火種が消えてはいませんでした。
そこで、三代将軍家光は江戸幕府の基礎を磐石のものとするため、幕府に対する脅威を取り除く目的で数々の大改革を断行したのです。
貿易によって一部の大名が莫大な財力を得ることを恐れたことも一因である『鎖国令』。
江戸表から遠方にあり、監視の眼の届きにくい地方大名の財力を磨耗させ、江戸に人質を取る『参勤交代』。
そして、幕府に対する不安因子を持った諸大名の取り潰し―――
それでなくとも大坂の合戦を最後に戦の絶えた世の中には浪人があふれ出ていたところに加えてのこの改革は、全国に40万人近い失業者を生みました。
幕府が不動の安定をみせ、平和が保たれるのと同時に、職と共に武士の矜持を奪われた者たちの間には、権力に頭を押さえつけられた恨みが鬱屈していたのです。

そんな中、三代将軍・家光が働き盛りの若さで没し、幼少の四代将軍・家綱が将軍職を継ぎました。
幼い将軍に実務が取れるはずもなく、もはや将軍職は飾り物―――ご利益とてない偶像崇拝など、もはや何の意味があるというのか。
このまま現状に甘んじていては、武士が武士として誇り高く生きる道は断たれてしまう!
武士たちの危機感と不満を受け、高名な軍学者・由比正雪が立ち上がりました。
権力に驕った幕府への批判と、失業武士たちの怒りをバックボーンに江戸幕府転覆を目的とした一大テロリズム計画を立ち上げたのです。
その計画とはこうです。
駿河にて由比正雪が浪人を指揮し、徳川家康が駿河の久能山に遺したと伝えられる財産を強奪。駿府城を乗っ取ります。
それに呼応し、江戸では別部隊が小石川にある幕府の火薬庫を襲撃、奪った武器弾薬で江戸城を攻撃します。
同時に大坂その他の各都市で同士が一斉蜂起、一気に幕府転覆を図るというものでした。
これが世に言う『慶安事件』です。

こちらは江戸表。
浪人・丸橋忠弥は、本郷御茶ノ水に宝蔵院流槍術の道場を構え、道場主として生計を立てていました。
槍の腕は人後に落ちぬ名手なのですが、無類の酒好きが玉にキズ。日々だらしなく飲んだくれている有様ですから道場はまったくはやらず、家計は常に火の車です。
妻・せつの実家から借金を繰り返してはそのほとんどが酒に消えてしまうという自堕落な生活を送っています。
しかしこの忠弥。
実は由比正雪の懐刀として、このテロリズム計画の最重要項目「江戸城攻撃」の総大将を任されている人物であったのです。

【江戸城外濠端の場】

時は慶安四年。場所は江戸城外濠端。
お濠の向うに江戸城の威容を望むその場所に一軒の茶屋が建っており、城へ伺候している主人の下城を待たされている中間たちが暇をつぶして酒を飲んでいます。
世の中不景気だよなぁ。お濠の向うの将軍様はご立派な城に住んで左団扇だろうが、お濠のこっちはぎりぎりに締め上げられて、酒を飲むのもままならねぇや!
酒の酔いも手伝って、愚痴っぽいクダを巻く3人。
とそこへ、みすぼらしい赤合羽に饅頭笠のいでたち、足元もおぼつかないほどに酔った浪人・丸橋忠弥が現われました。
忠弥は茶屋に腰を落ち着けるなり、酒豪ぶりを思わせる大量の酒を注文。
茶屋の主人が気を利かせて、小さなお猪口ではなく大ぶりの茶碗を持ってきた対応に気をよくした忠弥は、酔いの気の大きさからか、酒を運んできた茶屋の店主に気前よく酒を振舞います。
それを見た中間たち、(いいカモだ)とばかり、浪人者におべっかを使って擦り寄ります。
案の定自分たちにも酒を振舞ってもらい、懐勘定とご相談のしみったれたちびちび酒から一転、たっぷりと飲ませてもらっていい気分。
旨いタダ酒のお返しとばかりに口々に忠弥を褒めそやします。
このせちがれぇ世の中に、旦那のように痛快に気前のいいお方がいらしたとは!
いいねいいね、旦那のような大人物に天下をとらせてぇものだ!
「なにぃ、天下を取らせてぇ、だ?」
中間の軽口に、忠弥はまんざらでもない大笑い。
っと、何時までも遊んじゃいられねぇや。殿の下城に遅参仕ってはお飯の食い上げ!
中間たちは、浪人者の気の変わらぬうち・・・とそそくさ立ち去って行きました。

さらにぐいぐいと酒をあおる忠弥はついに店の酒を飲みつくしますが、まだ飲み足りません。
そこで店主に酒と肴を買って来いと命じますが、浪人者のみすぼらしい姿に(もしや飲み逃げしやしまいか)の不安を隠せない店主はぐずぐず。
それと察した忠弥は懐から小判を取り出し、店主に与えます。
小判を受け取った店主は安心し、すぐさま酒肴の調達に駆け出して行きました。
(中間たちにはタダ酒、茶屋の店主には小判・・・与えてやりゃぁ喜びやがる。人たぁ無邪気なものだなぁ)
人なんざ、満たされれば笑うのだ。簡単なもんだ。それを幕府の能といやぁ奪うばかり―――

店主の去った茶屋に一人残った忠弥。
酒もなし、酔いの回った頭ではすることもなし、続きの酒が来るまではと床机の上にごろりと横になります。
いい気分で寝ているそこへ、野良犬が寄ってきました。
酒の甘いにおいに誘われて、寝ている忠弥の口元をぺろぺろ舐める犬。突然のディープキッス(?)に驚いて飛び起きるなり、たちの悪い酔っ払いは、今度は犬に絡みだします。
「なにぃ、ワン、だぁ?おいおめぇ、モーと鳴いてみろ。鳴いてみやがれ!」
命令も聞かず(←当たり前。)きゃんきゃん騒ぐ犬にむかっ腹をたてた忠弥は、そばに転がる石を犬に向かって投げつけました。
投げた石のひとつがお濠に向かって逸れ、水音。そして尾を引き沈んでいくかすかな音・・・
(はっ)
武術を極めた忠弥の鋭敏な聴覚には、水を巻き込んで水底にたどり着く石の音が聞こえたのです。
(これで濠の深さが測れる!)
近く実行される予定の江戸城襲撃、その際に城の防御機構である濠の深さがわかっていることは大きな利点になります。
濠に石を投げ込むという不敬行為を、前後不覚と他人には見える酒の酔いと犬の所為に隠し、忠弥は白昼堂々のスパイ行為をはじめたのです。

いつしか、ばらばらと雨が降り出していました。
犬を追い、さらに場所を替えて濠に石を投げ込む忠弥。
あたりに人影のないことに油断し、かすかな水音に神経を凝らしていたその時―――
江戸城から下城してきた松平伊豆守が通りかかったのです。
伊豆守は、雨の中傘も差さずに堀端で耳をすます忠弥に不審を抱き、音もなく近づくと、すっと傘を差しかけました。
突然雨が途絶えたことに気付いた忠弥がはっと見上げると、そこには賢しげな面構えに不審をちらつかせた松平伊豆守の顔。
忠弥は咄嗟に大酔いの姿をとり、松平伊豆守の追求に「犬の所為」と言い逃れをします。
酔っ払いの馬鹿げた繰り言、見れば確かに、事実として忠弥は腰も定まらぬほどに酔っているのです。
松平伊豆守は不審を解き、忠弥を解き放ちました。

しかし、松平伊豆守の鋭い勘になにか引っかかることがあったのでしょう。
再び去ろうとする忠弥を呼び戻し、名を問いました。
「忠・・・忠兵衛、でございます」
忠弥という実名を隠し、とっさに偽名で答える忠弥。
「用はない。行け」
松平伊豆守の許しにへこへこと頭を下げつつ引き下がる忠弥。
そして、声も手も届かぬ場所まで離れるなり、松平伊豆守の威張った態度を声高に罵り、真意を見抜けぬ節穴振りに痛快な軽蔑の笑いを浮かべて去っていくのでした。

遠ざかっていくその後姿を、じっと見つめる松平伊豆守―――
その鋭敏な才知は、かすかな不審をそこに嗅ぎ取ってでもいるかのように。

―――【丸橋忠弥住居の場】に続く―――

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