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【公演データ】
公演名:吉例顔見世大歌舞伎 昼の部
『雨の五郎』
会場:歌舞伎座
観劇日:2005年11月3日
【主な配役】(敬称略)
曽我五郎:中村吉右衛門
非常にボワーッとした、大雑把な、鷹揚な踊りぶり。
吉右衛門丈踊るところの『雨の五郎』はそんな印象でした。
正直、ちょっと拍子抜けをしたんです。この踊り、主人公は敵討ちだけに若い命を燃やした火の魂みたいな男。そんな男が、雨の降るそのひと時、悲壮な覚悟を一時忘れて恋人のもとへ訪れる・・・そんなストーリィ(歌詞)を、こんなふうにことさらに強調した力みもなく、サラサラと踊るの?と。
それというのも、この舞台を拝見した丁度その頃、私は日本舞踊のお稽古で、この踊りを舞台にかけるために自分なりに突っ込んでお稽古していたんです。
もちろん、プロの舞踊家と比べたら恥ずかしいばっかりのレベルではありますけれど、一体どう踊れば、この踊りを最も魅力的に、表現したいことが最大限に生きるだろうか、と常に考えていました。
剛勇無双の血気盛んな若武者を表現するにあたっての「それらしさ」を、私は「力強さ」「鋭さ」「スピード感」といった、いわゆる「リアルな若さそのもの」の部分に求めていたんですね。
めったに与えられない「本番の舞台」に対する真剣さもあり、もう、なんというか、非常にテンションの高い、自己主張の塊のような『五郎!』というのが染み付いていたんです。
そんなさなかに、吉右衛門丈の『雨の五郎』がかかる!と喜び勇んで観に行って、の印象が、上記のようなものでした。
その印象が変わった・・・変わったのじゃないな。吉右衛門丈の五郎の、魅力の「本当のところ」に気付いたのは、自分自身が舞台で踊り、その結果をDVDで観た時でした。
「力強さ」「鋭さ」「スピード感」を求めた私の踊りは、狙いを貫徹こそしていたものの、非常にこせこせと小さく見えたんです。
手前味噌ではありますが、仕草のひとつひとつだけクローズアップしてみるならそれなりにスッキリと、凛々しい部分はある。
けれども、これじゃこの男、ただの癇の強い若者というだけなんです。
別に「五郎でござい!」と大見得きって舞台に乗せるほどのもんじゃない、只の「若者」という存在でしかなかった。
それに、余裕がない。隙がない(←踊り的にはツッコミどころ満載ですけど(^^;)遊びがない。イコール、可愛げがない。人間的魅力、いわゆる「色気」がないんです。
自分を大きく見せようとオーバーアクション気味に踊った部分もあったんですが、それがまったく大きさを生んでいない―――
要するに「輪郭がクリアすぎる」んですね。
そうなると、存在感=「自分の体の大きさ」ぶんにしか見えないんです。
結果、舞台姿が小さい。人間、そう物理的にデカイ人ってのもいませんからねぇ。
そう思って改めて吉右衛門丈の五郎を思い出すと・・・ボワーッとした、輪郭のあいまいな、大雑把なあの印象がとてもとても「大きい」のです。
物理的な意味だけだったら、同じ振りだったら、私のほうが吉右衛門丈よりも大きく踊ってました。
吉右衛門丈は、体を殺す、とまではいかなくても、めいいっぱい使うようなアクションはしてなかった。あるところなんか、手踊り的に小さく、振りをなぞるぐらいの軽さでやってたところもありました。
それが余裕を感じさせるんですね、振りが動作の説明じゃないんです、いわば「しゃれ」なんです。
改めて考えると、歌詞にある程度の物語性があるとはいえ、これは『踊り』なんですよね。『芝居』じゃない。
そして、登場人物の五郎さんは一個の『人間』というより、いわば『キャラ』としての存在なんだって。
だから、動作=踊りの振りつけも「まるで本物の若武者よう!」なリアルさを要求してるわけじゃなくって、振りが現実の動作に引っかかってるってのはいわば『ご趣向』、『洒落』なんですね。
それをご見物にきもちよーく観せる、魅せるってのが娯楽としての「踊り」なわけで。
もっと言えば、舞台の上にいたのは「曽我五郎」じゃなくて「中村吉右衛門」であることがハッキリしてました。吉右衛門が趣向で五郎に扮してます、っていうスタンス。
真剣になりすぎて、もしくは陶酔しきって、地の役者が消えてしまうような感じじゃない。
第一、あんなに立派な、運慶快慶の仏像みたいな貫禄の18才(だっけ?五郎さんの実年齢)いないよ。いるわきゃない。
客席はその二重性というか、二重写しになった趣向を楽しむという、こりゃまたヒネた、洒落を効かせたお遊びを楽しむわけなんですな。
吉右衛門丈の踊りはまさにそういう踊りでした。
この感覚というのは吉右衛門丈の舞台がそういう個性をもっている、というのじゃなくて、この『雨の五郎』って踊りそのものがそういう趣向の曲なんだなぁと気付きました。
だって、私の感覚で踊ったとき、なんというか、曲と踊りの寸法が合ってなかったんだもの。それはどうやっても埋まらなかった。
大きく踊れば大きく見えるわけじゃない。
若く踊れば若く見えるわけじゃない。
ことほどに、日本舞踊は、ムズカシイ・・・
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