文花座

歌舞伎、宝塚歌劇団、劇団四季・・・大好きな舞台の感想をつらつらと♪

幕間の歌舞伎語り♪

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―初めての方は「その1」から順番にお読み下さい―
その1 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/53216454.html

【第14回テキスト 義太夫原文】

燃ゆる思ひは娘気の細き線香に立つ煙。
「サアサア親子とて遠慮はない。もぐさも痃痞も大掴みにやつてくれ」
「アイアイコリヤマアきつうつかへてござりますぞえ」
「さうであらうさうであらう。ついでに七九もやつてたも。オツトこたへるぞこたへるぞ」
「サア父様すゑますぞえ」
「アツアツアアア、アアえらいぞえらいぞ。ハヽヽヽヽイヤモウモウあすが日死なうと火葬は止めにして貰ひませう。丈夫に見えても古家。屋根も根太もこりや一時に割普請ぢや。アツアツアツ」
「オオ父様の仰山な。皮切はもうしまゐでござんす。ホンニ風が当ると思や。誰ぢや表を開けたさうな。締めて参じよ」と立つを、引止め、
「ハテよいわいの。昼中にうつとしい。ノウ久松、久松、久松、コリヤ久松。よそ見してゐずと、しかしかと揉まぬかいの」
「サアよそ見はせぬけれど、覗くが悪い。折が悪い、悪い悪い」と目顔の仕かた。
「ヤ悪いの覗くのと、足に灸こそすゑてゐれ、どこもおみつは覗きはせぬが」
「サアアノ悪いと言ひましたは、確か今日は瘟こう日。それに灸は悪い悪いとサいうたのでござります」
「エヽ愚痴な事を。このやうに達者なは、ちよこちよこと灸をすゑ作りをする、そこで久作。アツアツやっぱり熱いわいハヽヽヽ。ムなんぢやわい、わが身達も、達者なやうに、灸でもすゑるのがおいらへの孝行ぢやぞや」
「オヽさうでござんすとも。久松様には振袖の美しい持病があつて、招いたり呼出したり、憎てらしい、あの病ひづらが這入らぬやうに、敷居の上へエヽ大きうしてすゑて置きたいわいな」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【原文】
燃ゆる思ひは娘気の細き線香に立つ煙。

【解説】
久光と恋仲であるというお染の出現に、嫉妬と怒り――その本質は不安と怯え、でもありましょう――カッカとのぼせるお光。「気の細き」とは神経質・気が小さい・臆病という意味。「細き」という言葉が、灸をすえるのにも使う線香の形へとつながります。
さらに想像を膨らませれば、若い娘の細い体のてっぺん、つまり頭から、ぷんすか煙(=湯気)をたてる様子と、線香のてっぺんが真っ赤に燃え、ちりちりと自らの身をすり減らし、ひと筋の煙があがっていく様が重なって見えますね。

【原文】
「サアサア親子とて遠慮はない。もぐさも痃痞も大掴みにやつてくれ」
「アイアイコリヤマアきつうつかへてござりますぞえ」
「さうであらうさうであらう。ついでに七九もやつてたも。オツトこたへるぞこたへるぞ」

【解説】
久作の台詞。
「親子なんだから遠慮は要らない。気を遣ってちまちまやられたって効かないから、思いっきりやっちまっておくれ!」
『もぐさ』とは灸につかう治療薬(=ヨモギの葉を干し、臼でついて作る綿状のもの。灸を据える際に燃やす材料)のこと。たくさん盛れば一層熱いわけですが、その分キクんでしょうね。
『痃痞(=痃癖、けんぺき)』とは肩凝りを治す按摩術のこと。強めマッサージを御所望というわけ。

久松の台詞。
「はいはい、わかりました(と、揉み始める)うわっ固い!こりゃ凝ってますね!!」

久作の台詞。
「そうだろう。ついでに頭痛のツボも押してくれ・・・おっと、こりゃ効く、効くねぇ!」
『七九(=糸竹空、しちくくう)』とは眉毛にあるツボのこと。眉尻あたりにくぼみがありますでしょ。このツボを押すと、目の充血、結膜炎、頭痛、頭痛に効くと言われています。
長い解説、読みつかれたらぐいっと押してみて(笑)

【原文】
「サア父様すゑますぞえ」
「アツアツアアア、アアえらいぞえらいぞ。ハヽヽヽヽイヤモウモウあすが日死なうと火葬は止めにして貰ひませう。丈夫に見えても古家。屋根も根太もこりや一時に割普請ぢや。アツアツアツ」

【解説】
今度はお光が灸にとりかかります。
お光の台詞。
「さ、お父さん、お灸すえますよ・・・じっとしててね・・・」
ツボにもぐさを盛り、線香で火をつけます。

久作の台詞。
「熱っ!熱い熱い、うわぁこりゃ大変だ大変だ。あはははは(と、もう熱過ぎて笑っちゃう(笑))いや、こりゃ、明日死んだとしても火葬はやめてもらいましょ。あつっ、熱い!」と強がりつつの軽口。
そして「丈夫そうに見えても古家」と自分の老体を家に例えて。
『割普請』とはひとつの普請をいくつかに分担して行なうこと。つまり、屋根も根太も、とは頭(肩)には久松のマッサージ、足にはお光の灸と、自分の体を総取っ掛かりで治療をしてくれていることをユーモラスに表現しているわけです。

【原文】
「オオ父様の仰山な。皮切はもうしまゐでござんす。ホンニ風が当ると思や。誰ぢや表を開けたさうな。締めて参じよ」と立つを、引止め、

【解説】
久作の大げさな軽口を受けて、お光の台詞。
「もう、お父さんったら大げさなんだから〜!皮切(=最初に据える灸のこと)はもうおしまいよ」
灸が熱くなる原因といえば、燃えるもぐさに風が入るということ。燃えているところに空気(=酸素)を吹き込むと一層よく燃えますでしょ。
その連想から、戸口を開けて中を覗きこんできたお染の姿を思い出し、むらむらっと怒りの炎が大きくなったお光。
「そうそう、なんだか風が入るわねぇ!誰かさんがまた戸を開けたんじゃないかしら!閉めてこなけりゃぁ!」と立ち上がろうとする。
それを久作は引き止めて。

【原文】
「ハテよいわいの。昼中にうつとしい。ノウ久松、久松、久松、コリヤ久松。よそ見してゐずと、しかしかと揉まぬかいの」

【解説】
久作の台詞。
「どうしたお光、戸が開いていたって別に構わなかろうに。昼間からそんなに締め切ったら、風も通らずむさくるしいじゃないか――」
なぜか戸口にばかり気を向けるお光を不思議がる久作。久松も、お光の態度に「?」と思ったのでしょう、ふと戸口に目を向けて・・・あぁっ!そこにいるのはお染お嬢様!!
お光ちゃん(^^;・・・残念、完全ヤブヘビです!!

久松は動揺に気もそぞろ、目は泳ぎ、手がおろそかに。久作は「どうした?久松、よそ見してないでしっかり揉んでくれ」とダメだしします。

【原文】
「サアよそ見はせぬけれど、覗くが悪い。折が悪い、悪い悪い」と目顔の仕かた。
「ヤ悪いの覗くのと、足に灸こそすゑてゐれ、どこもおみつは覗きはせぬが」
「サアアノ悪いと言ひましたは、確か今日は瘟こう日。それに灸は悪い悪いとサいうたのでござります」

【解説】
ダメだしされた久松、しどろもどろで言い訳。
「い、いえ、よそ見しているわけじゃないんですが・・・覗いちゃまずい、今はまずい、まずい・・・」
ボソボソとつぶやく久松に?な久作は「お前さん、何いってんの?誰が覗くというのだ。お光は覗いちゃいるまいが・・・」
墓穴を掘った久松は必死に言い訳。
「えっ、あの、まずいって言いましたのは・・・あっそうそう!確か、今日は瘟こう日だったと思い出したんです!今日は灸をしちゃいけない日だった、だからまずいって言ったんです!」
『瘟こう日』って何でしょう?良くわからないんですが、まぁ、お日柄なりお縁起なりで、灸をすることがよくない日なんでしょう(←いいかげん(^^;)

【原文】
「エヽ愚痴な事を。このやうに達者なは、ちよこちよこと灸をすゑ作りをする、そこで久作。アツアツやっぱり熱いわいハヽヽヽ。ムなんぢやわい、わが身達も、達者なやうに、灸でもすゑるのがおいらへの孝行ぢやぞや」

【解説】
久作の台詞。
「何言ってんだ、灸が悪いなんてことありますかいな。俺がこんなに元気なのは頻繁に灸を据えて健康作りをするから、それで久作って名前なんだよアッハッハ(とオヤジギャグ。)
あっつ、熱い・・・ん、なんだな、お前達も健康づくりに灸でもすえて、元気でいてくれるのが親孝行ってものだよ」

【原文】
「オヽさうでござんすとも。久松様には振袖の美しい持病があつて、招いたり呼出したり、憎てらしい、あの病ひづらが這入らぬやうに、敷居の上へエヽ大きうしてすゑて置きたいわいな」

【解説】
若い二人の健康、幸せを願う久作の言葉の尻馬にのっかって、お光はぷりぷり怒りの口上!
「その通りよ!お灸が必要だわ。久松さんには『振袖の、美し〜い』バイキンがくっついてるのよね!招いたり呼び出したりしつっこくまとわりついて、憎らしいったらないわ。あのバイキンがうちの中に入ってこないように、敷居の上におっきい灸でも据えて悪いモノをおっぱらっちゃいたいわ!!」
と、痛烈なあてこすりを言います。

――その15へ続く――

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その1 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/53216454.html

【第13回テキスト 義太夫原文】

中へつかつか親子連、出てくる久作。
「アどうぢやどうぢや鱠は出来たであらう。さて祝言のこと婆が聞いてきつい悦び。
ぢやが年は寄るまいもの。さつきのやつさもつさで、取りのぼしたか頭痛もする。アヽヽヽいかう肩がつかへて来た。橙の数は争はれぬものぢやわいの」
「さやうならそろそろ私が揉んで上げませうか」
「ソリヤ久松忝い。老いては子に随へぢや。孝行にかたみ恨みのないやうに、コレおみつよ三里をすゑてくれ」
「アイアイ、そんなら風の来ぬやうに」となにがな表へ当り眼、門の戸びつしやりさしもぐさ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【原文】
中へつかつか親子連、出てくる久作。

【解説】
嫉妬にまかせてお染を戸外へ追い出し、気も高ぶったお光が一人残る部屋へ、今度は家の奥から久作と久松が連れ立って入ってきました。

【原文】
「アどうぢやどうぢや鱠は出来たであらう。さて祝言のこと婆が聞いてきつい悦び。
ぢやが年は寄るまいもの。さつきのやつさもつさで、取りのぼしたか頭痛もする。アヽヽヽいかう肩がつかへて来た。橙の数は争はれぬものぢやわいの」

【解説】
喜びにとりのぼせた久作は、お光のモヤモヤなんぞには気付きもあらで上機嫌♪
久作の台詞。「おうどうだどうだ、膾はもうできただろうな?
今な、お前達の結婚のことを婆(=お母さん)に聞かせてやったぞ、そりゃ喜んだ喜んだ、大喜びだ!
ハハハ、しかし気持ちばっかり逸っちまって体がおいつかねぇ、さっきの大立ち周りに血が上ったか、頭がくらくらするわ。イヤだねぇ年はとりたくないもんだ。
なんだか肩がこってきちまった」
橙(=だいだい)の数とは年齢のこと。当時は誕生日という概念が希薄で、お正月ごとに一歳年をとると考えていたので、橙飾りでお正月を祝った回数=年齢というわけです。ちょっと洒落た言い方だなぁ。
気は若いつもりでも年には勝てない、と笑い飛ばします。
若い2人を目の前に嬉しがった当てつけ、なんて気配も感じられる、ほのぼのした愚痴ですな。

【原文】
「さやうならそろそろ私が揉んで上げませうか」

【解説】
久松の台詞。
「おやそれは大変、それなら私が肩を揉んでさしあげましょうか」

【原文】
「ソリヤ久松忝い。老いては子に随へぢや。孝行にかたみ恨みのないやうに、コレおみつよ三里をすゑてくれ」

【解説】
久作の台詞。
「おお、久松ありがとうよ♪『老いては子に従え』だ、ここは息子に任せましょ。
若夫婦のうち、一方ばかりに親孝行してもらうってのも不公平な話だね。これ、お光。
久松が肩を揉んでくれている間、お前は三里(に灸)をすえておくれ」
三里とは足にあるツボのこと、ここにお灸を据えると実によく効くのだそう。
肩には新聟、足には新嫁がとりついてのご介抱。若夫婦を中心にした幸せな暮らしがこれから始まる―――久作爺さん、気分も体も極楽です(^^)

【原文】
「アイアイ、そんなら風の来ぬやうに」となにがな表へ当り眼、門の戸びつしやりさしもぐさ。

【解説】
お灸を頼まれたお光はことさら元気にお返事します。
「ハイハイ!それじゃ、お灸を据えるのに風が吹いては迷惑ね!」
と、振り向きざまに戸口をキッ!と睨みます。
その先では追い出されたお染が戸を開けて中を覗こうと、おろおろ立ち尽くしているのです。
お光は戸口へ向かうと、改めて、門の戸をピッシャリ!と立て切りました。

――その14へ続く――
http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/61737276.html

―初めての方は「その1」から順番にお読み下さい―
その1 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/53216454.html


【第12回テキスト 義太夫原文】

心付かねば、「ホンニマアなんぞ土産と思うても急な事、コレコレ女子衆、さもしけれどもこれなりと」と夢にもそれと白玉か露を袱紗に包のまま、差出せば、「こりやなんぢやえ。大所の御寮人様、様々々と言はれても心が至らぬ置かしやんせ。在所の女と悔つてか、欲しくばお前にやるわいな」とやら腹立ちに門口へほればほどけてばらばらと、草にも露銀芥子人形、微塵に香箱割り出した。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【原文】
心付かねば、「ホンニマアなんぞ土産と思うても急な事、コレコレ女子衆、さもしけれどもこれなりと」と

【解説】
初対面の相手にいきなり敵愾心むき出しの対応をされ、お染はびっくり。それでなくても大家のお嬢様ですから、むこうから擦り寄る人間は多くとものっけから自分を嫌ってかかる相手など見たことも聞いた事もないのでしょう。
(なんで私、嫌われているの?何か失礼なことをした?)
必死に頭を絞り「あっ」と気付きます。両親も店の使用人も、商い先を訪ねるときにはかならず手土産を携えていた・・・
そうだ!この子、私が手土産も持たずに訪ねて来たから腹を立てているんだわ!
この年齢で、この服装、今も家事仕事をしていた様子――お光の姿は、お染にとっては家で使っているお手伝いさん(=女中)そのもの。とっさに、お光を久松の家に雇われている使用人と勘違いします。
慌てていることもあるのでしょうけれど、彼氏の家に似合いの年頃の女の子がいるというのにほかの想像も働かず、自分のライバルなどとは露ほども思わないこの感覚、この余裕。妙に大らかというか無防備というか、良くも悪くも「お嬢」ですよねぇ。
お染の台詞。
「あぁそうね、お土産を差し上げるべきなのだけれど急なことだったから準備もしていなくて・・・わかったわ、お手伝いさん。たいしたものじゃないけれどこれをあげるから、機嫌をなおして久松さんに伝言して頂戴」

【原文】
夢にもそれと白玉か露を袱紗に包のまま、差出せば、

【解説】
お手伝いさんだと勘違いしているこの女の子(=お光)が久松の正式な婚約者であるなどとは思いもよらない、まさに夢にも「しら」ず=「白(=しら)玉」を言葉遊びの連想ゲーム。
「白玉」=「水の粒、露」を連想。美女の涙を白玉の涙なんて表現したりしますね。伊勢物語でありましたねぇ、野の草にとまった露を白玉かと聞く姫君の話・・・おっと脱線しました。
「露」=「涙」を連想。和歌の世界で「露に濡れた」なんて暗喩は泣き濡れたさまを表すことが多いです。
涙を「拭(=ふ)く」=「袱紗(=ふくさ)」を連想。袱紗というのは、まぁちょっとした綺麗めハンカチといったところ。
言葉遊びの連想ゲームで導き出された「袱紗」に包んで持っていたその品物を、袱紗から取り出すこともせずに差し出した、ということです。

【原文】
「こりやなんぢやえ。大所の御寮人様、様々々と言はれても心が至らぬ置かしやんせ。在所の女と悔つてか、欲しくばお前にやるわいな」とやら

【解説】
お光の怒りは、当然のことながら「訪ねてきたのに手土産がない!」なんてことじゃありません。それなのに、お染の一人合点で「これをあげるから」と差し出された品。物をあげれば機嫌が直る的な安直思考もイラッとするし、袱紗に包んだまま贈り物を差し出すというのもマナー違反です。
・・・と、細かく分析するよりも、今のお光には「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」です。
お光の台詞。
「なにこれ!?ご立派な家のお嬢様、お嬢様お嬢様と言われていたってちっとも礼儀がなってないじゃないの、なんて失礼なんだろう!
田舎者だとバカにしているのね、こんなもの要らないわ!自分が貰って嬉しいと思うんなら、あなたが持っていなさいよ!」とかなんとか、腹立ち紛れにぶちまけた。

【原文】
腹立ちに門口へほればほどけてばらばらと、草にも露銀芥子人形、微塵に香箱割り出した。

【解説】
腹立ちついでに、手渡された袱紗包みの「何か」を門口に放り出しました。衝撃で袱紗に包まれていた香箱(お香を入れる箱)の蓋が外れ、中身がばらばらとあたりに散ります。
何かとみれば・・・それは芥子人形(きわめて小さい木彫りの衣装人形。女児の玩具やひな祭りの飾りとして江戸時代に流行した。豆人形。)でした。
これが、愛しい男を大胆にも追いかけてくるような女が持っていた品なのです。
お染の幼さ、世間ずれしていない可憐・・・そして、その邪気のなさに一抹の恐さすらも感じさせる、「お染」を象徴する持ち物なのじゃありますまいか。

―その13に続く―
http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/59503835.html

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【第11回テキスト 義太夫原文】

供のおよしが声高に、「もうし御寮人様。かの人に逢はふばかり、寒い時分の野崎参り。今船の上り場で、教へてもらうた目印のこの梅。大方ここでござりませうぞえ」
「アアコレもそつと静かにいやいなう。久松に逢ひたさに、来ごとは来ても在所の事、日立つては気の毒。そなたは船へサ早ふ早ふ」と追ひやり追ひやり立寄りながら、越えかぬる恋の峠の敷居高く、「物もふお頼みもうしませふ」といふもこはごは暖簾越し、
「百姓のうちへ改まつた。用があるなら這入らしやんせ」
「ハイハイ卒爾ながら久作様はうち方でござんすかえ。さやうなら大坂から久松といふ人が今日戻つて見えた筈。ちよつと逢はして下さんせ」といふ詞つき姿かたち。
「常々聞いた油屋のさてはお染」と悋気の初物胸はもやもやかき交ぜ鱠俎押しやり、戸口に立寄り見れば見るほど、美しい。「あた可愛らしいその顔で、久松様に逢はしてくれ。オホそんなお方はこちや知らぬ。よそを尋ねて見やしやんせ阿呆らしい」と腹立ち声。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【原文】
供のおよしが声高に、「もうし御寮人様。かの人に逢はふばかり、寒い時分の野崎参り。今船の上り場で、教へてもらうた目印のこの梅。大方ここでござりませうぞえ」

【解説】
社長令嬢・お染の供をしてやってきたお手伝いさんのおよし。
都会から来てみればひとしお身に染む田舎の寒さ、慣れぬ長歩きにすっかり疲れたところで訪ねる家をやっと見つけ、浮き足立って無遠慮な大声を出します。
「ねぇ、お嬢様。こんな寒い日にわざわざ野崎観音に御参詣なんてご口実。野崎村といえば、先日お店から暇を出された久松さんの実家があるところ・・・久松さんに逢いたい為ですわよね。えぇえぇ、よくわかっていますよ」
およしさんはお染と久松の関係をとっくにご存知の様子。
お染が彼女にだけは打ち明けて、女同士の共謀関係を結んだのでしょうか。
はたまた、秘めた恋と思っているのは幼い当人ばかりで、周囲にはバレバレ・・・どうもこっちのような気がします(^^;
「久松さんのお家、きっとここですわ!さっき目印にと教えてもらった梅がありますもの!」

およしさんのスタンスとしては、主家への憚り半分、女同士の同情と・・・好奇心、といったところでしょうか?人には言えぬ秘め事の現場に居合わせ、そりゃ(現場の東海林です)ぐらいのテンションはあがってきてますでしょう。
そこが大声になっちゃうってところが、ある意味暢気だし、事態の深刻さをかえって引き立たせるようにも思えます。

【原文】
「アアコレもそつと静かにいやいなう。久松に逢ひたさに、来ごとは来ても在所の事、日立つては気の毒。そなたは船へサ早ふ早ふ」と

【解説】
お染の台詞。
「ちょっとちょっと、声が高いわ!久松に逢いたいばかりに夢中になってきてしまったけれど・・・こんな田舎じゃ、私たちの姿はそれでなくても目立っちゃってるのよ」
都会の娘が身にまとう艶やかな振袖姿、その洗練された風情――くわえて彼女は超美少女。といったら、この鄙びた田舎村の風景の中では場違いも甚だしいわけです。
けれど、今日ばっかりは目立ちたくない。
「あなたの大声で人目に立ってご近所の噂にでもなったら困っちゃう。もうここまで来れば大丈夫、あなたはもういいわ。先に(帰りの)船に乗っていて。早く行って!」
ここまで頼るよすがに頼ってきたおよしさんへも、用が済めば命令一つで下がらせ干渉を許さない。わがまま・・・とだけじゃない、社長令嬢の帝王学といいますか、彼女にはお嬢様特有の凛としたところがあります。

【原文】
追ひやり追ひやり立寄りながら、越えかぬる恋の峠の敷居高く、「物もふお頼みもうしませふ」といふもこはごは暖簾越し、

【解説】
心配と好奇心(!?)から立ち去りかねるおよしを無理に立ち去らせ、いよいよ久松さんの家を訪ねます・・・しかし、二人の間の障害を象徴するかのように立ちふさがる家の門。
田舎家のそれですから、現実には粗末でちっぽけ、すぐに向うが見えるぐらいのもんなのでしょうが、今のお染にはまったく越えかねるほどの敷居の高さに感じられます。
しかしこうしてはいられない。
お染の台詞。
「あのう、おそれいります・・・ちょっとお尋ねしたいのですが・・・」
おずおずと遠慮がちに、家の内に声をかけます。

【原文】
「百姓のうちへ改まつた。用があるなら這入らしやんせ」

【解説】
門口で訪なう人の声を聞き、家の中からお光ちゃんが応えます。
「そんなご丁寧に、いいんですよ!礼儀にうるさいような立派な家じゃないもの。ご用があるならどうぞ入ってきてくださーい!」
婚礼料理を作っている最中で手も離せないしね。

【原文】
「ハイハイ卒爾ながら久作様はうち方でござんすかえ。さやうなら大坂から久松といふ人が今日戻つて見えた筈。ちよつと逢はして下さんせ」といふ詞つき姿かたち。
「常々聞いた油屋のさてはお染」と

【解説】
キビキビとしっかりしたお光の声に、自分の家で使っている若い女中でも思い出したのでしょうか。お染も落ち着きを取り戻して問いかけます。
「恐れ入ります、この家は久作様のお家でしょうか?それでしたら、大坂から久松という人が今日戻ってきているはずなのですが、逢わせてください」
この言葉!お光の本能がそれを知らせます。
(この人だ!この人が久松さんと不義をしたという・・・油屋のお染お嬢様!!)

【原文】
悋気の初物胸はもやもやかき交ぜ鱠俎押しやり、戸口に立寄り見れば見るほど、美しい。「あた可愛らしいその顔で、久松様に逢はしてくれ。オホそんなお方はこちや知らぬ。よそを尋ねて見やしやんせ阿呆らしい」と腹立ち声。

【解説】
膝の前においていたまな板を押しやって戸口まで駆け寄り、目にしたのはたじろぐほどの美少女・お染の姿でした。
昨日までのお光なら、そのオーラに圧倒されて言うべき言葉も見つからなかったかも知れません。が、今、お光の胸には『久松さんの正式な婚約者』の自負があります。
お光の胸にムラムラと燃え上がる嫉妬(=悋気)の炎。夫婦約束をしてはじめてのヤキモチですから『悋気の初物』とは上手いこと言いました。
嫉妬に怒りに不安に・・・さまざまな感情が胸の中でぐちゃぐちゃに混ざり合う。まるでさっきまで作っていた鱠をかき混ぜるみたいに。
見れば、見るほど「美しい」―――
「あた」は副詞で、不快・嫌悪の気持ちを表す語に付いて、その程度がはなはだしいという意を表します。
そんな天使みたいな可愛らしい顔をして、なんて悪い奴!娘は久松さんをたぶらかして、店の主人は言われない濡れ衣を着せて追い出した!
それをいけしゃぁしゃあと「久松さんに逢わせてくれ」ですって!
カッと嫉妬に凝り固まったお光ちゃんは、戸口に立つお染に意地悪な嘘をつきます。
お光の台詞。
「ほほほっ、違いますよ、久松なんて人は知りません!他を訪ねてみなさいな!間違ってくるなんて迷惑だわ!」
怒り声もすさまじく、けんもほろろに追い返しました。

―その12に続く―
http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/57861733.html

★初めての方は「その1」からお読み下さい★
「その1」 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/53216454.html
「その2」 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/53241063.html
「その3」 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/53242848.html
「その4」 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/54722479.html
「その5」 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/54733640.html
「その6」 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/54785227.html
「その7」 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/54796186.html
「その8」 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/54824185.html
「その9」 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/56987528.html


【第10回テキスト 義太夫原文】
後に娘は、気もいそいそ、「日頃の願ひが叶ふたも、天神様や観音様、第一は親のお蔭。エエこんな事なら今朝あたり、髪も結ふて置かふもの。鉄漿の付け様挨拶もどふ言ふてよかろやら」覚束鱠拵へも、祝ふ大根の友白髪、末菜刀と気も勇み、手元も軽ふちよきちよき、ちよき、切つても、切れぬ恋衣や、元の白地をなまなかに、お染は思ひ久松が、あとを慕うて野崎村堤伝ひにやうやうと、梅を目当てに軒のつま。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【原文】
後に娘は、気もいそいそ、「日頃の願ひが叶ふたも、天神様や観音様、第一は親のお蔭。

【解説】
夢にまで見た久松さんとの結婚が、今、現実に!
お光はそわそわ!うきうき♪どきどき!わくわく♪・・・幸せにつながる擬音語はぜんぶひっくるめたキブンで浮き足立ちます。
嬉しさのあまり、そりゃひとり言も出るってもんで。
「願いが叶った!神様仏様、みんなみんなありがとうございます!でもやっぱり一番はお父さんお母さんのおかげだわ!」
興奮状態で口走る本心でも、お光ちゃんは何より先に「感謝!」なんですよね。無意識にも信心と孝行心が滲みでる様子は健気で素朴。彼女、ホントいい子なんですよねぇ。

【原文】
エエこんな事なら今朝あたり、髪も結ふて置かふもの。

【解説】
「あーっそうだ、髪の毛乱れてないかなぁ!あぁんもう、こんなことになるってわかってたら、今朝にでも綺麗にお手入れしておいたのに!」
ちょっとぶつくさ、照れ隠し。事前に知ってたらセルフブライダルエステ、やったのに・・・

【原文】
鉄漿の付け様、挨拶も、どふ言ふてよかろやら」

【解説】
鉄漿(=かね)とはお歯黒のこと。当時、既婚女性は歯を黒く染める風習がありました。娘時分はなんにもせず真っ白にしていた歯に、これからはお歯黒しなきゃいけない。えーっお歯黒ってどうやるんだろ?何しろケッコンは初めてです。わかんない!
今までは、義理の兄さんだった久松さん・・・でも今日からは旦那様。きゃー彼のことなんて呼べばいいの?どうやって喋ったらいいの?なに言おう!わかんない!
わかんな〜〜〜い!

【原文】
覚束鱠拵へも、祝ふ大根の友白髪、末菜刀と気も勇み、手元も軽ふちよきちよき、ちよき、切つても、切れぬ恋衣や、元の白地をなまなかに、お染は思ひ久松が、

【解説】
「覚束鱠〜」以下、お光の逸る心のリズムをそのままに、言葉遊びの連想ゲームでポンポンとリズムよく言葉がつながっていきます。
覚束(=おぼつか)な(い)」の「な」に引っ掛けて今調理している「膾(=なます)」、「膾」を作るために細切りにした大根の、長細い白さから「白髪」を連想、「共白髪」は夫婦がともに白髪になるまで――老人になるまで末永く一緒に、の祝い言葉。末永く、の「なが」を「菜刀(ながたな)」=菜きり包丁と掛けて、刀からの連想で「切る」「ちょきちょきちょき」切ろうとしても思い切ることのできないのは「恋心」。こころと衣(=ころも)を引っ掛けて、衣からの連想で「元の白地」=まだ染める前の白生地のままであればさておき、まっさらな(心を)、(恋心に)「染め」てしまったからには・・・言葉遊びの連想が「お染」という女の子の名を導き出しました。
「お染は思い久(しい=なじみが深い)松が」、で、彼女にとってひとかたならぬ想い人=「久松」の言葉が導き出されます。

【原文】
あとを慕うて野崎村堤伝ひにやうやうと、梅を目当てに軒のつま。

【解説】
田舎へ追放された久松の後を慕って、奉公先の社長令嬢・油屋お染さんが、この野崎村までやってきたのです。
野崎村の堤伝いに進んできて、ようやっと、さっき村人に「久松さんの家は、門先に梅が咲いているのが目印だよ」と教えてもらったその梅を探し当ててここにたどり着いたのでした。

―その11に続く―

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