文花座

歌舞伎、宝塚歌劇団、劇団四季・・・大好きな舞台の感想をつらつらと♪

幕間の歌舞伎語り♪

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義太夫を読む!第一弾 『新版歌祭文 野崎村』 ―その1―
http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/53216454.html


【第5回テキスト 義太夫原文】
身の誤りに久松が差し俯むひて詞さへ、ないには『もしや』と思ひながら、
「お腹立ちはお道理ながら、何のマア久松さんに限つて、よもやそふしたことはあるまい。定めてこれはなんぞの間違ひ。サ覚えがなくばないといふ、ツイ言訳をして下さんせいな」
「ハハ、べるはべるはべるは、喋るは喋るは。コリヤヤイ、頭こそ前髪なれ、そのさらす事の素早さ。朋輩には辞宜なしに、取つて置きのお娘まで、ハヽヽヽこの後は言はずにこますわ。エヽ小倉の屋敷へ受取に往た為替の銀、御役人から改めて渡つたは正真、内へ戻つて明けたところが、わやひんの胴脈ぢや。コリャてつきり道の間で、ナ、ソレ擦り替へた、品玉の太夫、早咲久松、早久でござい。
ハアとヤカラヤカラヤカラ。なんぢやいなんぢやいなんぢやいなんぢやい、白眼むくは無念なか、無念なら銀立てるか、あるまいがな。サア久作はどこにゐる。出さらずば引出さふ」と、駆け入る袂を久松引止め、「成程、銀を擦り替へられたは皆私が不調法。身の明りの立つまでは、在所へ往けと、後室様の結構な御了簡。それをそなたが」
「ヤイヤイヤイ何抜かすぞい。ソリヤわれが勝手了簡の聞き損ひぢや。俺には又この詮議仕抜いて来いと、内証で後家御の言ひ付け。ぢやによつてめつきしやつきするが何ぢやい。ひんこめ出され」と大声をおみつが押さへて、
「コレ申し、御尤もでござんすけれど、奥の病人に聞かしましては、病気の障り。モそっと静かに」
「イヤ高ふ言ふのぢや言ふのぢや。これ程喚くに聞き耳潰すは、ハヽアこりや親父もぐるの仕事ぢやな。ドレもふ家捜しと出かけざなるまい、邪魔ひろぐな」とおみつを引き退け、取り付く久松「面倒な」と、踏むやら蹴るやら無法の打榔、詮方もなき折からに。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【原文】
身の誤りに久松が差し俯むひて詞さへ、ないには『もしや』と思ひながら、

【解説】
小助が語る久松の行状は、恩ある主人への大変な不忠行為の上に、みっともない下半身スキャンダルという仰天の内容。久松を慕うお光にしてみれば、まさかに信じられるわけはありません。けれど、それがまったくの濡れ衣というなら即座に反論してしかるべき久松は、うなだれたまま何にも言わないのです。
その姿を見たお光の胸に「もしや」の不安が走りますが、それに倍する否定が本心。これには事情があるに違いない!

【原文】
「お腹立ちはお道理ながら、何のマア久松さんに限つて、よもやそふしたことはあるまい。定めてこれはなんぞの間違ひ。サ覚えがなくばないといふ、ツイ言訳をして下さんせいな」

【解説】
お光の台詞。
「(小助の言っていることが真実ならば)小助さんが怒るのは当然ですけれど、久松さんに限ってそんなことありえない、これはきっとなにかの間違いです。(久松に向かって)久松さん、身に覚えのないことならば自分は潔白だと、言い訳をして下さい」と、本人の口から事情を聞こうとします。

【原文】
「ハハ、べるはべるはべるは、喋るは喋るは。コリヤヤイ、頭こそ前髪なれ、そのさらす事の素早さ。朋輩には辞宜なしに、取つて置きのお娘まで、ハヽヽヽこの後は言はずにこますわ。

【解説】
久松に問いかけたお光の言葉を遮って、小助が口を挟みます。
『ハハ〜』と驚きの事態におろつくお光をあざ笑い、『コリャヤイ』=「おい、聞けよ」と言うなり、さらなる大スキャンダルを告げるのです。
久松は『頭こそ前髪なれ』=直訳すれば「彼のヘアスタイルは前髪付きのクセに」。なんのこっちゃ?といいますと、この時代、成人前の少年は前髪を残していたんですね。成人すると前髪をそり落とし、時代劇なんかでおなじみの「頭上をそり落としてチョンマゲを乗せる」髪形に変えます。つまり、前髪っていうことは「(社会的に)成人に達していない少年」であるっていうこと。未成年のクセに、ってことです。
『そのさらす事の素早さ。朋輩には辞宜なしに、取つて置きのお娘まで、ハヽヽヽこの後は言はずにこますわ。』=役立たずの半人前のくせに、ヤることだけは素早いんだよなァ!店の同僚たちへの気配りなんかは出来もしないで、大切なお店のお嬢様を・・・へへへ、皆まで言うのは下衆だねぇ」と下卑た笑い。ここまで言われれば、いくらウブなお光とて、久松とお嬢様の仲を分からぬわけはありません。

【原文】
エヽ小倉の屋敷へ受取に往た為替の銀、御役人から改めて渡つたは正真、内へ戻つて明けたところが、わやひんの胴脈ぢや。コリャてつきり道の間で、ナ、ソレ擦り替へた、品玉の太夫、早咲久松、早久でござい。

【解説】
嫌味たっぷり、小助の台詞の続き。
先ほど簡単に告げ、事情が釈然としなかった「店の金の着服」についての詳細を言い募ります。
久松はお得意先の小倉のお屋敷へ為替の銀を受け取りに行きました。小倉家から受け取った時点での銀は間違いなく本物、これは受け取った久松が証言しています。
それをお店へ持ち帰って開けてみたところ、『わやひんの胴脈』・・・って言葉が良くわからないのですけれど、文脈からいくと「偽物」にすり替わっていた。
銀を運んだのは久松ですから、屋敷から店の間にすり替え行為が行われたとすれば、ノーマルに考えれば久松が最も怪しい。
反論もおぼつかない久松に対し、犯人はお前しかいない!と決めつけ『ナ、ソレ擦り替へた、品玉の太夫、早咲久松、早久でござい。』=「品玉」とは手品のこと、「太夫」とは芸人のこと。久松の名前を芸人風に呼んで見せ、とんだ手品師だ!とからかい、嬲ります。

【原文】
ハアとヤカラヤカラヤカラ。なんぢやいなんぢやいなんぢやいなんぢやい、白眼むくは無念なか、無念なら銀立てるか、あるまいがな。サア久作はどこにゐる。出さらずば引出さふ」と、駆け入る袂を久松引止め、

【解説】
久松の立場の悪さをいいことに、声高に泥棒呼ばわりする小助。久松が悔しさに『白眼むく』=睨み付けると、それを逆手にとって「悔しいか、悔しいならなくなった銀をここに出せ、耳そろえて返せ!できないだろう」とさらに久松を追いつめます。
「未成年のガキ相手じゃ埒が明かない、親を出してもらおう!久作はどこにいる。隠れているんなら引きずり出すぞ」と、家の奥へずかずかと入り込もうとする小助の無礼をさすがに許しかね、今まで黙っていた久松が小助を止めました。

【原文】
「成程、銀を擦り替へられたは皆私が不調法。身の明りの立つまでは、在所へ往けと、後室様の結構な御了簡。それをそなたが」

【解説】
久松の台詞。
「小助さんの言うとおり、小倉のお屋敷から預かった銀を偽物にすり替えられてしまったのは私の責任です。けれど、実家に戻ってきたのは、身の潔白を証明できるまでひとまず実家に戻っているようにという、ご主人様のお優しいご配慮ではないですか。それをあることないこと並べ立てて・・・」と反論しかかりますが。

【原文】
「ヤイヤイヤイ何抜かすぞい。ソリヤわれが勝手了簡の聞き損ひぢや。俺には又この詮議仕抜いて来いと、内証で後家御の言ひ付け。ぢやによつてめつきしやつきするが何ぢやい。ひんこめ出され」と大声をおみつが押さへて、

【解説】
久松の反論に、小助はすぐさまおっかぶせて罵り返し。
「なーに言ってやがるんだか、そりゃお前が自分中心の勝手な解釈で勘違いしてるだけだ。俺は、店の奥様から内緒の命令を受けてるんだ。お前のやったことを調べ上げて、銀を取り返して来いってな。詮議を任されたから『めっきしゃっき(=厳しく責め問うこと)』してるんだ。この犯罪者め、ガタガタ言うな!」と大変な大声。お光が慌てて抑えます。

【原文】
「コレ申し、御尤もでござんすけれど、奥の病人に聞かしましては、病気の障り。モそっと静かに」

【解説】
次第にエスカレートする小助の大声に、お光の台詞。
「すみません、お怒りはごもっともですけれど、奥に病人(=お光の母)が寝ているんです。喧嘩声など聞かせて心配させては、病気が悪くなってしまう。お願い、大きな声を出さないで!」と懇願。

【原文】
「イヤ高ふ言ふのぢや/\。これ程喚くに聞き耳潰すは、ハヽアこりや親父もぐるの仕事ぢやな。ドレもふ家捜しと出かけざなるまい、邪魔ひろぐな」とおみつを引き退け、取り付く久松「面倒な」と、踏むやら蹴るやら無法の打榔、詮方もなき折からに。

【解説】
小助の台詞。
「大声を出すなだと?馬鹿め、わざと言ってるんだよ!これほど大声を出しているのに親(=久作)が出てこないというのは、聞こえないふりをしていやがるな。ははぁ、この一件、親父もぐるで仕組んだ犯罪だってことか。そっちから出てこないなら家中探して引きずり出すぞ、邪魔するんじゃねぇ!」と、止めるお光を引き退けて奥に踏み込もうとします。
行かせまいと小助の体にしがみつく久松を「離せ、面倒だ!」とばかり、蹴る殴るのめちゃくちゃな暴力。非力な久松とお光ではもうどうしようもなくなった、その時です!

――その6 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/54785227.html へ続く――

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義太夫を読む!第一弾 『新版歌祭文 野崎村』 ―その1―
http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/53216454.html

【第4回テキスト 義太夫原文】

影見送りて久松が事のみ思ひとやかくと、胸に一ばい半分の、水量り込む薬鍋、一へぎ入れる生姜より、辛い面つき久三の小助、久松引き連れ入口から「久作内にゐやるか」と、づゝと這入ればおみつは嬉しく、
「オヽ久松さん、よふマア戻つて下さんした。定めてあなたは送りのお方。お茶よ煙草」と嬉しさに、立つたりゐたり気もそゞろ、
「エヽやかましいわい。うそ穢い在所の茶呑みには来ぬわい。コリヤ追従せずと聞いて置けよ。この久松めが親方の銀、一貫五百匁、お山狂いにちよろまかしたによつて、今日連れて来たはな、久作と三つ鉄輪で詮議するのぢや。親父を出せ、出せ出せ出せ出せ」と辰巳上がり。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【原文】
影見送りて久松が事のみ思ひとやかくと、胸に一ばい半分の、水量り込む薬鍋、一へぎ入れる生姜より、辛い面つき久三の小助、

【解説】
久松の勤める商家へと挨拶に出かけていく父親の後姿を見送ったお光。久松――その名を思い出したとたん、彼女の心は彼のことでいっぱいになっちゃう。
察しのいい方ならモウお分かりでしょう(^皿^)うぶなお光ちゃんが胸の中で育てた初恋のお相手は、幼き頃から共に暮らしてきたちょっぴり年かさの美少年・久松くんなのです。
『胸に一ばい半分の、水量り込む薬鍋』とは、胸「いっぱい(の恋心)」の分量単位に引っ掛けて鍋「半分の(水で煮出す煎じ薬)」、と洒落こんだ言葉あそび。ピュアで不器用な恋心をちょっぴりからかってるみたい。
さらに言葉の連想ゲームが続きます。薬を煎じる鍋の連想から『一へぎ入れる生姜』煎じ薬の一材料である生姜(=しょうが)、『へぎ』っていうのはスライスしたひとかけらって意味です。で、生姜は舌にびりりと辛い、そんな辛くて渋くて吐き出したいような面構えをした男、名前は『久三の小助』が、出し抜けにぬっと姿を現したんです。

【原文】
久松引き連れ入口から「久作内にゐやるか」と、づゝと這入ればおみつは嬉しく、
「オヽ久松さん、よふマア戻つて下さんした。定めてあなたは送りのお方。お茶よ煙草」と嬉しさに、立つたりゐたり気もそゞろ、

【解説】
剣呑な顔つきをした小助は、久松と連れ立ってきたのです。玄関にずいっと入り込むなり『久作内にゐやるか』=久作は家に居るか、と不躾な口上。
しかしお光はといえば、今の今まで夢想していた愛しい久松が急に目の前に現われたものだからビックリ仰天、一気にハイテンション!『オヽ久松さん、よふマア戻つて下さんした。定めてあなたは送りのお方。お茶よ煙草』・・・お光のテンション込みで訳せば「キャー!久松さん急にどうしたのー!!帰ってきてくれるなんて嬉しいっ。あっあなた(と小助に気付く)、お店の方?久松さんに付き添ってきてくださったんですねっ、お疲れ様ですっ!あっ私ったら気が利かない、のど渇いてますよね、お茶差し上げなくちゃ〜。あっそれより先に煙草、一服なさいますかっ?」ってなもので、二人の不穏な気配にはまったくのKYぶりを発揮しきゃぁきゃぁと二人を迎え入れます。

【原文】
「エヽやかましいわい。うそ穢い在所の茶呑みには来ぬわい。コリヤ追従せずと聞いて置けよ。

【解説】
久松に会えた嬉しさに浮き足立って大騒ぎ!なお光を、小助が怒鳴りつけて黙らせます。
小助の台詞「うるせぇ、黙れ小娘!こんなこ汚ねぇ田舎になんざ、わざわざ茶など飲みにくるものか。おい、つべこべ言わずに、まずは俺の言うことを聞け!」
・・・嬉しさに冷水を浴びせかけられてぐっと黙るお光。ひたすらかしこまって小さくなっている久松。いったいどうしたというのでしょう。

【原文】
この久松めが親方の銀、一貫五百匁、お山狂いにちよろまかしたによつて、今日連れて来たはな、久作と三つ鉄輪で詮議するのぢや。親父を出せ、出せ出せ出せ出せ」と辰巳上がり。

【解説】
小助が語る、ことの顛末とは―――
なんと「久松がお店の金(超乱暴な換算だと、大体150万円くらい?)を着服し、お山(=下級女郎)との風俗行為にハマって使い込んだ」というのです。
「責任をとらせようったってガキ相手じゃ埒が明かない、今日、久松を連れて帰ってきたのはな、親にその責任をとってもらうためなんだよ。このガキと久作と俺とで膝突き合わせて話し合おうってんだ、さぁ分かったなら親父を出せ!」と、辰巳上がり(=言葉・動作が乱暴である意)の剣幕で一気にまくしたてます。
なんということ、久松が大変な疑いをかけられてしまっているようです!

――その5 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/54733640.html に続く――

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義太夫を読む!第一弾 『新版歌祭文 野崎村』 ―その1―
http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/53216454.html

【第3回テキスト 義太夫原文】

「どれ一冊買ひませふ。なんぢや「お夏清十郎 道行恋の濡草鞋」、コレ見や、このお夏は手代と懇ろして、姫路を駆け落ちする道行。ああ同じ娘でも世は様々、わづか三里の大坂へ芝居一つ見にも行かず、今度の大病から目の見へぬ婆の介抱。達者な俺が食ひ物まで、その様に気を付けてたもる孝行娘。もし疲れでも出よふかと、おりやそれを案じるわいのふ。したが百日と限りのある婆が大病、案じるも無理ではない、が玄庵殿の加減の薬で、今朝から末のかさにおも湯が二杯通つた、見かけによらぬ巧者な医者殿。
や幸ひ今日は日和もよし、久松が親方殿へ歳暮の礼に往て来る程に、随分婆に気を付きや」と、言ひつつ脚絆草鞋がけ、紐引き締むれば、
「おお父様とした事が、この短い日にもう昼過ぎ、明日の事になさんせいで」
「何のいやい、年こそ寄つたれこの足に覚えがある。一時三里犬走り、日暮までには戻つて来る。歳暮の祝儀は、これこの藁苞、山の芋は鰻になる。久松が年が明けたらば、われは又お内儀になる。それ楽しみによふ留守せい。どりゃ往て来ふ」と身拵へ、藁苞肩に「うや、ゑいとこな」表へ出でしが、立止まり、
「とりわけ今年は早ふ咲いたこの梅、何よりかよりよい土産と、春待ち顔に咲く花を、手折りて苞に一技を、添へてひょかひょか野崎村、後に見なして出でて行く。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【原文】
「どれ一冊買ひませふ。なんぢや「お夏清十郎 道行恋の濡草鞋(ぬれわらじ)」、コレ見や、このお夏は手代(てだい)と懇(ねんご)ろして、姫路を駆け落ちする道行(みちゆき)。ああ同じ娘でも世は様々、わづか三里(さんり)の大坂(おおざか)へ芝居一つ見にも行かず、今度の大病(たいびょう)から目の見へぬ婆の介抱。達者(たっしゃ)な俺が食ひ物まで、その様に気を付けてたもる孝行娘。もし疲れでも出よふかと、おりやそれを案じるわいのふ

【解説】
久作の台詞。
購入した本を見てみれば、タイトルは『お夏清十郎 道行恋の濡草鞋』。
なんともベタなタイトルではありますが(笑)
久作がタイトルを見ただけでその内容を言い出すところを見ると、このお夏清十郎の駆け落ち話というのは創作ではなく、姫路で実際に起こりうわさになった実話のようです。
「お夏」の周囲の迷惑を省みず自分の心にだけ忠実な行動に引き比べ、娘のお光はわずかばかりのわがままも口にしない、若い娘の好きそうな繁華街やら芝居小屋やらはすぐそこにあるっていうのに、お光のすることといったら病気で眼の見えない母親を一生懸命看護することばっかり。
それのみならず、元気な自分(=久作)の食事のことまで、健康に気を遣っていろいろと工夫してくれる親孝行な娘なのだ。
若い娘が年寄り相手に、疲れやらストレスやらを発散する機会もなくって、お光のほうが病気になっていしまいはせぬか。俺にはそれが心配だ、と。
さらに久作の台詞は続きます。

【原文】
したが百日と限りのある婆が大病、案じるも無理ではない、が玄庵殿の加減の薬で、今朝から末のかさにおも湯が二杯通つた、見かけによらぬ巧者な医者殿

【解説】
久作の台詞の続き。
百日と限りのある婆が大病・・・っていうのが良くわからないんですけれども、婆=お母さんは長患いをしているんですね、なかなか良くならないし、母親のことが心配でしょうがないっていうのは無理のないことだ。
けど、玄庵殿(=これはかかりつけのお医者様の名前)が調合してくれた薬が効いたのか、今日は食欲もあるぞ、いい傾向だ(^▽^♪と喜んで、そしてこの言葉です。
「見かけによらぬ巧者な医者殿」、見た目はたいした名医にも見えないけど、結構ヤルなぁあの先生(笑)ってなわけです。
久作、こういう軽口をたたくキャラなんですねぇ。
久作の台詞、さらに続いて。

【原文】
や幸(さいわ)ひ今日は日和(ひより)もよし、久松(ひさまつ)が親方殿(おやかたどの)へ歳暮(せいぼ)の礼に往(い)て来る程に、随分婆に気を付きや」と、言ひつつ脚絆(きゃはん)草鞋(わらじ)がけ、紐引き締むれば

【解説】
久作の台詞の続き。
「おっそうだ、今日は日和(天気のこととか、もしかすると「大安」「友引」とかっていう、その日の縁起みたいなことも含まれてるのかもしれないですねぇ)もいいし、久松が世話になっているお店の主人へ年末の挨拶へ行ってこよう」と言い出しました。
ここで出てきた「久松(ひさまつ)」という人物。ご紹介が遅れましたが、彼は訳あってこの家にひきとられ、久作が親代わりをつとめている少年です。
年齢は、久松がわずかばかり年上、お光が年下。血のつながりはないですから、二人は幼馴染とも、兄妹ともつかぬ幼少時代を共に過ごしてきました。
今は大坂の商家「油屋」へ、住み込みの丁稚奉公(=お勤め)に行っています。
久作は、息子久松が世話になっている油屋の主人に、歳暮の挨拶に行ってくると突然言い出し、その準備をはじめました。

【原文】
「おお父様(ととさま)とした事が、この短い日にもう昼過ぎ、明日の事になさんせいで」

【解説】
お光の台詞。
「えーっお父さん、そんな急にー!春といってもまだ日は短いし、もう昼過ぎですよ。今から出たのじゃ、戻ってくる前に夜になっちゃう。別に今日でなくてもいいのだから、明日にしてはどうですか」と引き止めます。

【原文】
「何のいやい、年こそ寄つたれこの足に覚えがある。一時(いっとき)三里(さんり)犬走り、日暮(ひぐれ)までには戻つて来る。歳暮(せいぼ)の祝儀(しゅうぎ)は、これこの藁苞(わらづと)、山の芋は鰻(うなぎ)になる。久松が年(ねん)が明けたらば、われは又お内儀(ないぎ)になる。それ楽しみによふ留守せい。どりゃ往(い)て来ふ」と身拵(みごしら)へ、藁苞肩に「うや、ゑいとこな」表へ出でしが、立止まり

【解説】
久作の台詞。
「心配するな、歳をとったと言ったって若い頃は健脚で鳴らした俺様だ。一時(約2時間)で三里(約12km)、犬にも負けぬスピードですっ飛んで来るわ。日暮れまでには戻るからな」とこりゃ確かに若い人でも敵わぬ勢いです。
歳暮の祝儀、つまり挨拶の時に持っていくお土産は、山芋―天然モノですから、今で言う高級品・自然薯ってやつでしょうか―。運んでいく時傷つかないように藁で周りを囲んでラッピングした形、これが藁苞(わらづと)です。
「山の芋は鰻になる」、これはことわざというか言い伝えみたいなもの。山の芋は、河に入れば鰻になる、って言われていました。
どちらも栄養価が高く精がつく食品なので、住む場所が違うがおんなじようなものだという言われ方をしてたんですね。この言葉は古くから誰でも知ってる、納得してる衆知のこと。そしてそれに続けて言った言葉がこれ。
「久松が年が明けたらば、われはまたお内儀になる」
久松は「何年間はそちらで働きます」って約束の下に油屋で奉公してるんですね、で、その雇用期限が切れたら実家であるここへ戻ってくる。そうしたら、われ=お光はお内儀=奥さんになる―――つまり(お光、そのときは、おまえは久松のお嫁さんになるんだぞ)と言うのです。
「山の芋は〜」で誰もが知ってる、納得してることを言い、それと同列に「われはまた〜」がくる、この言い回しのニクいこと(>▽<)
つまりはねっ、お光を久松の嫁にすることを、ほかならぬ父親が認めたっていうことなんです。
遠出の支度を済ませて、さぁ行ってくるぞ、と立ち上がった久作。表へ出たところでふと立ち止まります。

【原文】
「とりわけ今年は早ふ咲いたこの梅、何よりかよりよい土産(みやげ)」と、春待ち顔に咲く花を、手折りて苞(つと)に一技を、添へてひょかひょか野崎村、後に見なして出でて行く

【解説】
久作の台詞。
表へ出た久作は、表に盛りの花をつけた梅の木に気付き立ち止まってひとりごちます。
「今年はとりわけ早く梅が咲いたな――そうだ、この梅こそが、何よりもいい土産」とその一枝を折り、土産の藁苞に添えて持ち、ひょこひょこと出かけて行ったのです。
『春待ち顔に咲く梅』、これは、お光の暗示ではありますまいか。
人生の「春」―――大好きな人との幸せな結婚を夢見る、お年頃のお光。久松に会いにいくにあたって、実際に伴っていくわけにはいかないお光の代わりに、彼女を連想させる美しい梅を連れて行ってやろう。
お光はこの一枝の如く、綺麗に、可憐に咲きましたよ。
久作の小粋な計らいが点描されています。

――その4 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/54722479.html に続く――

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義太夫を読む!第一弾 『新版歌祭文 野崎村』 ―その1―
http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/53216454.html

【第2回テキスト 義太夫原文】

冬編笠も燻り三味線、つぼもすまたの弾き語り、「ご評判の繁太夫節、本は上下綴本で六文、お夏清十郎の道行々々、あづまからげのかいしよなき、こんな形でも五里十里」
「通らしやれ、母様の煩ひで三味線も耳へは入らぬ。手の暇がない、通つて下され」
「清十郎涙ぐみ、お夏が手を取り顔打ち眺め、同じ恋とはいひながら、お主の娘を連れて退く、これより上の罪もなし」
「おお聞きとむない。通りや通りや」と言ふ声に久作は納戸を出で、「大坂で流行る繁太夫節、そなたにも聞かしたけれど、病人の気に構はふ、本なと読んで気晴らししや」と、義理ある中も子を思ふ、恵みは厚き古合羽の、煙草入れからこつてこて銭取り出して。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【原文】
冬編笠(ふゆあみがさ)も燻(くすぶ)り三味線(しゃみせん)、つぼもすまたの弾き語り

【解説】
サテ、親子三人が細々と暮らす田舎家に、三味線の弾き語り芸人がやってきました。
季節はもはや春に移り変わっているというのに冬編笠、手にしている商売道具の三味線は黒くすすけた小汚さ。「つぼ」っていうのは、三味線を弾くとき、棹(=さお、糸を張る長い柄の部分)に張られた糸を指で押さえて音を調節するんです、バイオリンの演奏なんかイメージしてもらえるとそのまんまなんですけれど、その押さえる場所のこと。コレがずれれば音程めちゃくちゃ、っていう三味線弾きのキモである「つぼ」押さえが、すまた=いーかげん、テキトーだっていうんだから、ろくでもない芸人ですコイツ(^^;
多分、都会で仕事にあぶれたんでしょうねぇ。というか、もはや本物の芸人ですらないのかも。そういうのがひょろりと軒先に立つ景色というのは、うらぶれてほんのちょっぴり滑稽で、もの悲しいような。

【原文】
「ご評判の繁太夫節(しげたゆうぶし)、本は上下綴本(じょうげつづりほん)で六文(ろくもん)、お夏清十郎の道行(みちゆき)道行、あづまからげのかいしよなき、こんな形(なり)でも五里十里(ごりじゅうり)」

【解説】
これは芸人の台詞。
この芸人が、応対に出たお光に向かってペラペラと口上します。
「ちょっとあなた!こいつぁ都会で大人気の繁太夫節だよ、小説仕立てにした本も絶賛発売中!上下巻で六文(乱暴な換算だと大体300円ぐらい?)だってんだから安いじゃねぇか。この面白い話ってのは、いいトコのお嬢さん・お夏さんと使用人の清十郎が手に手をとっての駆け落ちの顛末!こんな面白い話、俺ぁあんたに読ませてやりたくって、こんなあずまからげ(=しりっぱしょり)のみっともねぇ格好で、五里十里のながーい道のりをやってきたんだよぅ」
・・・ってな調子のいいこと言って、お光に本を売りつけようとします。

【原文】
「通らしやれ、母様の煩ひで三味線も耳へは入らぬ。手の暇がない、通つて下され」

【解説】
お光の台詞。
「私はいらないから、別のところへ行ってちょうだい。お母さんが病気で、遊んで楽しむ気になんてなれないの。だいいち、本を買ったって読んでいる暇なんてないのだし、帰って帰って」と断ります。

【原文】
「清十郎涙ぐみ、お夏が手を取り顔打ち眺め、同じ恋とはいひながら、お主の娘を連れて退く、これより上の罪もなし」

【解説】
芸人の台詞。
お光は要らないと断りましたけれど、言葉通りが若い女の子の本音であるわけじゃありません。こちらもさすがは商売人、お光の(読みたいけど、でも・・・)という心を見透かし、物語の面白いところを一くさりうなってみせます。
「追いつめられた清十郎、罪と恋とに引き裂かれて涙ぐみ、愛しいお夏の顔をじっと見て、誰にも迷惑をかけず幸せになれる恋愛もあるというのに、貴女はご主人様のお嬢様、私はしがない使用人。身分違いのこの恋を成就させるにはもはや駆け落ちしか手がないが、お世話になったご主人様の大切な娘さんを奪って逃げるなんて、これほど罪深いことはない〜」
・・・どうなるのお夏!清十郎!!といやがおうにも興味はむくむく。
けれど病人の介護、さらに今や母に代わって一家の主婦業も一人でこなさなくてはならないお光はそんなことをして遊んでいるわけにいかないのです。

【原文】
「おお聞きとむない。通りや通りや」と言ふ声に久作は納戸を出で

【解説】
お光の台詞。
「やだやだ、そんなこと言ったって買わないんだから!さっさと帰ってよ」と芸人を追い払いにかかります。そんなお光と芸人のやりとりを聞きつけて、奥からお父さんの久作が出てきました。

【原文】
「大坂(おおざか)で流行(はや)る繁太夫節、そなたにも聞かしたけれど、病人の気に構はふ、本なと読んで気晴らししや」と、義理ある中も子を思ふ、恵みは厚き古合羽(ふるがっぱ)の、煙草入れ(たばこいれ)からこつてこて銭(ぜに)取り出して

【解説】
久作=お父さんの台詞。
「都会で流行っている面白い芸だっていうならお光にも聞かせてやりたいけれど、奥で病人が寝ているものだから、がやがや騒ぐわけにはいかないんだよ。よし、本を買ってあげよう。暇な時に楽しむぐらい遠慮はいらないよ、面白い本で気晴らしするといい」と、本を買ってくれました!良かったねお光ちゃん!
義理ある中(=仲)とは、先ほども出てきたように、お光は女房の連れ子であり、久作の実の子ではありません。いわば継父継子の関係なんですけれども、久作はお光を非常に思いやっているんですね。
恵みは厚き古合羽の、というのはちょっとはっきりしませんけれど、かつて雨具の合羽(=カッパ)っていうのは油紙を重ねて作ってたらしいんです。なので、古い合羽であれば修繕が重なるごとに油紙をさらにペタペタ貼り付ける、それでとっても厚く、重たいものになっていった、ってことなんじゃないかなぁ。この「厚さ」と「情の厚さ」を掛けてるのだと思われます。
そして煙草入れから小銭を取り出して、芸人から本を買いとってお光にプレゼントしてくれました。

――その3 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/53242848.html へ続く――

【第1回テキスト 義太夫原文】

年の内に春を迎へて初梅の、花も時知る野崎村、久作といふ小百姓、せわしき中に女房は、万事限りの隔病、娘おみつが介抱も心一杯二親に、孝行臼の石よりも堅い行儀のつまはずれ、在所に惜しき育ちかや。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【原文】
年の内に春を迎へて初梅の、花も時知る野崎村(のざきむら)

【解説】
まずは物語の舞台の説明から。
場所は野崎村、都会から離れた田舎の農村地帯。季節は梅の咲き始める早春である、と言っています。
まっすぐに読めば、舞台となる場所とその季節の説明ということですけれども、ココはちょっと深読みできそう。
田舎の百姓家の軒先に立つ梅の木、特別の手入れやらお世話なんてされてるわけがありません。
花の季節でもなければ枯れ木のようにうっそりと、ひなびた田舎風景に溶け込んでいるのでしょう。
けれども季節がくれば、梅の木は誰に教えられるわけでもなく、内側から命を吹き出すように華やかに匂う花を咲かせるわけです。
ひなびた田舎にぽっかりと咲く、可憐な花―――この『梅の花』を、人生の花咲く季節を迎えた初々しい娘、の暗示と読む。
今、花開くべき時を知った娘の華やぎがぽっちりと紅一点、田舎村の景色に咲いている。そんなイメージが浮かびます。

【原文】
久作(きゅうさく)といふ小百姓(こびゃくしょう)

【解説】
さてそこに住まうのは久作という名前の小百姓。小、というからには裕福なイメージは沸いてこないですね、思い描かれる人物像は、質素でつましい百姓の姿。

【原文】
せわしき中に女房は、万事限りの隔病

【解説】
それでなくても貧乏暇なしの忙しさ、その上、久作の女房は「万事限りの隔病」・・・ちょっと言葉は分からないですが、おそらく、何の治療をすればスッキリ治るという類の病気ではなく、どうやっても良くはならない、現状維持が御の字といった慢性疾患のようなものでしょうか、そういう鬱々とした病気で女房は臥せってる。

【原文】
娘おみつが介抱も心一杯二親(こころいっぱいふたおや)に、孝行(こうこう)臼(うす)の石よりも堅い行儀のつまはずれ

【解説】
久作と女房には娘がいます。それがお光(おみつ)。
このお光、久作の実の娘ではありません。女房の連れ子なんですね。その娘が、病気の母親を一生懸命介護しているんです。「心一杯」の「一」に引っ掛けて「二」親、つまり実の親である母親だけでなく継父である久作に対してもお光はいささかも隔てなく孝行を尽くしている。その孝行心たるや、まるで石臼のごとき堅固な、いささかも揺らぐことのない心なのだ、と。
そしてそのお堅いところは、行儀=常日頃の振る舞いにも現われている――
「つまはずれ」っていうのは字を当てると「褄外れ/爪外れ」なんですけれども、着物の褄(=つま)っていうのは、お着物の足元のところのこと。昔、女性は室内で着物のすそを引きずっていました。時代劇の『大奥』なんかで御鈴廊下をザーッと歩いてくるアサノユウコさんの姿なんかを思い浮かべてくださるといいと思うんですけれども。
で、その状態で直線を突き進んでくる分には、まあいい。けれど生活しようすれば曲線動作が必要になりますから、どうしたって引きずっている着物が足に絡まりつくわけです。ですから、機敏でスムーズな動作をするために足元の着物をさばく。もとい、ぱっぱっとつま先で蹴るわけです。
けど、この動作をがさつにやってはエレガントではありますまい。かといっておっとりのろのろやっていてはイライラするしたぶんコケる。ですから、そのあたりを鮮やかキリリかつ女らしくさばく、その『身のこなし』のことを「つまはずれ」といいます。
お光ちゃんは心優しいしっかり者で、かつ、フィーリングの軽い働き者なんです。

【原文】
在所(ざいしょ)に惜しき育ちかや

【解説】
こんな片田舎で、老夫婦の相手をしてあたら娘盛りを暮らすのは、もったいないようなイイ子なんだよ、お光って子は。と義太夫は語ります。

さぁ、これが名狂言「新版歌祭文 野崎村」の状況設定です。
三人の人間が登場しました。小百姓・久作、病がちなその女房、そして優しく可憐な娘・お光。
さて、物語はどこへ進んでいきますやら。

世に高き名作狂言『新版歌祭文(しんぱんうたざいもん) 野崎村(のざきむら)』、これよりはじまりはじまり!

――その2 http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/53241063.html へ続く――


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