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『貞操花鳥羽恋塚(=みさおのはなとばのこいづか)』

――初めての方はその1からお読みください――

その1【祇園社境内の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007081.html
その2【三井寺の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007404.html
その3【源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007794.html
その4【(続き)源三位頼政館の場】→当記事
その5【讃州松山屏風ヶ浦の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008294.html
その6【讃州松山屏風ヶ浦 崇徳院御在所の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008879.html
その7【高尾神護寺の場】→今しばらくお待ちくださいm(__)m

【(続き)源三位頼政館の場】

千束姫と香炉引渡しの刻限となりました。
意気揚揚と現われた武蔵左衛門有国に、頼政はいましばらくの猶予を願いますがもちろん聞き入れられるわけはありません。
ならばやむなしと次の間に声をかけると、飛び出してきたのは武蔵左衛門有国を父の仇と狙う蔵人満定と妻・小磯!
抜き身の刀を突きつけ、蔵人満定は「千束姫と香炉の件から手を引け」と迫ります。
進退窮まった武蔵左衛門有国はその条件を呑み、使者の役目も果たさずに逃げ去ってゆきました。
夫婦は仇の命を取ることを諦める代わり、恩人・頼政の立場を救ったのです。

ひとまずの窮地は脱しましたが、それはわずかな猶予を与えられたというだけのこと。
この期に及び、頼政はすべての秘密を告白します。
その場に姿を現わした千束姫―――姫君とは真っ赤な偽り。その人こそ、女に身をやつした高倉の宮以仁王ご本人であったのです!
そして、頼政は先ほど家に運び込んだ大荷物のふたを開けさせました。
中から出てきたのは、三井寺の頼豪阿闍梨その人!
高倉の宮以仁王は、朝廷内でも重要な地位を占める高貴なご身分、また源氏再興の切り札ともなるべき最重要人物です。
しかし、その御身には不幸を呼び寄せる悪霊が住み着いていました。
そして、これほど強力な悪霊を払う霊験を持っているのは頼豪阿闍梨のみであったのです。
頼政は、高倉の宮以仁王をお救いすれば今度こそかならず望みを叶えると約束で、頼豪阿闍梨を説き伏せ連れてきたのでした。

さっそく除霊の儀式が執り行われ、高倉の宮に憑いていた悪霊は彼方へと飛び去りました。
これでひと安心(^^)
高倉の宮以仁王は身を偽る女装姿のまま、小磯を供に連れて高尾神護寺へと落ち延びていきました。

無事に高倉の宮を送り出し、一座はほっと息をつきます。
息詰まる緊張感から解放され、頼政の家来・猪の早太忠澄は「頼豪阿闍梨にご酒を一献」と提案します。
猪の早太忠澄の姉・腰元巻絹は、先ほどの儀式の際にお供えしたお神酒をとって頼豪阿闍梨に勧めました。
阿闍梨が酒を飲み干し、杯を頼政に渡そうとした瞬間―――その手から杯が滑り落ちます。
あっと思う間もなく、阿闍梨は胸をかきむしり、血の泡を吐いて苦しみだしたのです!
そのお神酒には、先ほど武蔵左衛門有国が仕込んだ毒が混ざっていたのでした。

おのれ―――約束を違えて戒壇を許さぬばかりか、この力だけを利用し・・・
不要となれば毒を盛るとは!
高倉の宮以仁王への、頼政への、そして朝廷への怒りに狂った頼豪阿闍梨の断末魔の叫び。

猪の早太忠澄はとっさに腹を掻き切り、主人の無実を叫びました。
主人は預かり知らぬこと!
知らぬこととはいえ毒酒を勧めた責任は自分にある、酒を捧げた罪は姉にある!
どうか、この一命で許してくれと懇願しますが、死の苦しみに狂った阿闍梨へは届きません。
恨みと憎しみ、呪詛の念の極まった阿闍梨はついに巨大な鼠と化し、巻絹を捕らえて食い殺してしまったのです。
「決して許さない、未来永劫祟ってやる!」
呪詛の言葉を吐き散らしながら、頼豪阿闍梨の姿は忽然と消えてしまいました。
そして・・・突然湧き出すように現われたのは、何百何千の鼠の大群!
真っ黒な塊が壁を這い、柱を伝って溢れかえります。あっという間に、一面の鼠の海。
―――しかし、柱にかかった時計の周りだけは、近寄ろうとする鼠のことごとくが落ちてしまう・・・
瀕死の猪の早太忠澄ははっと気付きます。紛失した家宝の名は『霊猫の香炉』、呪の一念が凝り固まった鼠といえども近づけないものがあるというならば、それは猫の毒気なのではあるまいか!
猪の早太忠澄はかき切った腹から臓物をつかみ出し、時計に向かって投げつけました。
時計に血が濡れかかるなり、血潮の穢れに聖なる香炉が反応し、あたりに光が満ち溢れました。
時計の中から、香炉は無事に頼政の手に戻りました。
頼政は猪の早太忠澄に、犬死ではない、源氏再興の礎となるのだとその死を慰めます。
その言葉を聞き、救われた猪の早太忠澄の命もやがて尽きるのでした。

と、そこへ、先ほど逃げ去ったはずの武蔵左衛門有国が香炉を再び奪いかえそうと飛び込んできました。
しかし、高倉の宮以仁王を無事に落ち延びさせ、香炉もわが手に戻った頼政に、もはや使者への遠慮はありません。
襲い掛かる平家の手のものを鮮やかに蹴散らし、先ほどは仇討ちをぐっと堪えてくれた蔵人満定に「武蔵左衛門有国、ヤッチマイナ!」(←キル・ビル!?)

源三位頼政は自らの役目をまっとうし、源氏再興の野望へ向かってコマをすすめたのでした。

――その5に続く――

その1【祇園社境内の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007081.html
その2【三井寺の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007404.html
その3【源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007794.html
その4【(続き)源三位頼政館の場】→当記事
その5【讃州松山屏風ヶ浦の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008294.html
その6【讃州松山屏風ヶ浦 崇徳院御在所の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008879.html
その7【高尾神護寺の場】→今しばらくお待ちくださいm(__)m

『貞操花鳥羽恋塚(=みさおのはなとばのこいづか)』

――初めての方はその1からお読みください――

その1【祇園社境内の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007081.html
その2【三井寺の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007404.html
その3【源三位頼政館の場】→当記事
その4【(続き)源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008023.html
その5【讃州松山屏風ヶ浦の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008294.html
その6【讃州松山屏風ヶ浦 崇徳院御在所の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008879.html
その7【高尾神護寺の場】→今しばらくお待ちくださいm(__)m


【源三位頼政館の場】

源三位頼政館では、恒例の「ぬえ退治」を模した儀式が行われていました。
主人・源三位頼政自身が都に巣食い悪事を働く怪物ぬえを退治したことで名が高まり、家の誉れとなったことがその由来。
今日は、家の安泰と怪物ぬえの供養を兼ねた儀式を、主人の留守に代わり女たちが代行しているのです。
猿の面をつけたぬえ役の奴音平を腰元巻絹が押さえ込み、源三位頼政役に扮した千束姫が弓矢で見事討ち取るという所作で舞い納めて、儀式は滞りなく終わりました。
そこへ、主人・源三位頼政が三井寺から帰邸しました。
持ち帰った大きな荷物を「大切に」と言い置いて座敷に上がると、儀式を終えた晴れやかな笑顔の女性達が出迎えます。
ままならぬ時勢に気鬱が募る千束姫の楽しげな姿に、源三位頼政はほっと安堵し姫を奥へと誘いました。

そこへ、みすぼらしい海女・小磯がやってきました。
下男が対応したところ「こちらの殿様は優しい方で、下々の願いを叶えて下さると聞いたので来た」と話します。
一度は追い返されそうになるものの、奴音平のとりなしと頼政本人に救われた小磯は、後で話を聞こうと奥に通されました。

そこへやってきたのは、平宗盛の使者・武蔵左衛門有国。
目的は、平家に敵対する高倉の宮以仁王を匿っているのではないかとの疑いの詮議、そして平重盛より源三位家に預け置かれていた家宝『霊猫の香炉』の受け取りでした。
また、重盛ご執心の千束姫を差し出すようにとの再度の要求。
一番の難題は千束姫の身柄、もはやのらりくらりと逃げられる段階ではありません。
そして、第二の難題は突如として提出を求められた香炉―――
実はこの香炉、先日来行方がしれなくなってしまっていたのです。
重盛より預かりの香炉を紛失したことが発覚したなら、源氏一門取り潰しの口実を漁るようにしている平家の思うつぼなのです。

即答を免れ、なんとか時間を稼いだ頼政。
千束姫と香炉を引き渡す刻限は迫り来ています。しかし、解決の糸口などみつかりようもありません。
(ああ、今、弟がいてくれたなら、この苦しみを分かち合ってくれたろうに)
頼政の弟は、策略からありもしない罪をかぶせられ、田舎の僻地へ流罪となっていたのです。
そしてつい先日、死の知らせが届いていました。

進退窮まった。
この上は、命懸けで千束姫を安全な場所に落ち延びさせ、あとは平家の軍勢を迎え撃つしかない。
―――死ぬしかないようだ。

腹を据え思い極めたところに、ひょっこりと顔を見せたのは先ほどの小磯でした。
思い極めてしまえばかえって心は平穏ということか、無邪気な小磯ゆえか、頼政は切羽詰ったこの場で少女の願いを聞いてやることになります。
小磯の願い、それは「はまぐりの片割れを持った許婚を見つけて欲しい」ということだったのです。
小磯の両親は先日相次いで亡くなってしまいました。
父を追うように母が亡くなる直前、はまぐりの片割れに歌を書き付けた一品を小磯に渡してこう告げたのです。
「この貝のかたわれを持った人こそ、親同士で決めたあなたの許婚。探してお嫁さんにしてもらいなさい」と。
はまぐりは同じ貝同士でなければ蝶番が決して合わない、それをよすがに相手を探しているのだと言うのです。
さすがの頼政もこれには閉口し、時節と縁を待つしかあるまいと優しく諭します。
「偉い殿様ならばきっとご存知」と信じていた小磯は萎れきり、肌身はなさぬ両親の位牌を取り出して頼政に見せました。
何気なくそれを見た頼政は瞠目します。
そこに書かれていた戒名、これはまさに・・・
そして、小磯の幼名を聞いた頼政は、その幼名が弟の娘のものであることを知ったのです。
なんという偶然!この小磯こそ、亡き弟の忘れ形見であったのです!
「これからは叔父を父と思うてくれ!」
「はい!」
叔父姪名乗りの喜びのうち、彼の脳裏にひらめいたことがありました。
(道理で小磯の面体には鄙には稀な気品がある・・・これなら、千束姫さまの替え玉がつとまりはすまいか)
そして、叔父は残酷な策略でこういうのです。
「小磯。私はお前の探す『はまぐりの片割れ』を知っている。それは平宗盛様だ」と。
無邪気な小磯は、叔父の言葉を疑うすべを知りません。
そして、小磯は何も知らされぬまま、千束姫の身替りとして宗盛に嫁ぐこととなったのでした。

主人の居ない座敷に平家の使者・武蔵左衛門有国が家来を引き連れてやってきました。
手には、例の香炉―――家来を使い、先日中にこの家から盗み出していたのでした。
家宝紛失ともなれば、頼政が生きていることはできません。武蔵左衛門有国は頼政を罠に嵌め、この家を乗っ取ろうとたくらんでいたのです。
自分たちが香炉を持っていては危ない、どこかに隠しておこうととあたりを見回した一同は、柱に据えつけられた時計の中に香炉を隠します。
そして、床の間に神事用のお神酒を見つけた武蔵左衛門有国達は、念には念をと酒に毒を仕込んだのです。

小磯は姫君らしく華麗に装いを変えました。
初めて見る化粧をした自分の顔、美しく結い上げられた髪には豪奢な髪飾り、見たこともないような美しい着物・・・
夢見心地でうっとりするところに「思う人への嫁入りまで決まって」と持ち上げられ、小磯はまさに幸せの絶頂です。
女中たちが下がった後、ひとりになった小磯はにわかに不安になります。
昨日まで卑しい海女であった自分が、身分高い嫁入り先でどんな粗相をしでかすか知れない。作法を教えてもらわねばと思い立ちました。
女中達を呼ばわりますが、誰も来てくれません。
端近まで出て行った小磯は、そこにさっき自分をとりなしてくれた奴音平の姿を見つけました。
声をかけると、奴音平も綺麗に変わった小磯にびっくり。そして思いもよらない身の出世を我が事のように喜んでくれます。
奴音平の笑顔を見て、小磯も嬉しくってなりません。
けれど、嫁入り先は「むねもりさま」と告げたとき、にわかに奴音平の顔に不審が浮かびました。
けれどそれはご主人様が決めたこと。
それ以上の深入りはせず、良家の作法を指南してくれという小磯に、それではことに難しい『貝合わせ』の作法からと手ほどきをはじめます。
「貝なら、私、片われをもっていますよ」懐から形見の貝を取り出す小磯。
「それならこっちの片割れと」奴音平も自分の持っている貝を取り出しました。
対の貝殻の内側には歌が一首、上の句・下の句と分けて書かれている・・・と説明するうち、あれ?この二つ・・・
「歌の合った片割れ同士は、蝶番もぴったりと・・・」
あっ、嵌った!
「そんならあなたが!」
「そんならお前が!?」
親の決めた、私の許婚!!二人は奇跡的な出会いに狂喜して抱き合います。
しかし、小磯ははたと気付きました。
「でも、変なおじさま・・・貝の相手は『むねもりさま』だなんて仰った」

そこへ、頼政が戻ってきました。
見違えるように美しく装った小磯に哀しく目を細めますが、小磯は運命の夫が見つかったことを嬉しげに告白、叔父の嘘に拗ねてみせるのです。
頼政はたじろぎます。しかし、千束姫を救うにはもはや方法がない―――
(鬼にならねばならない)
それでもお前には宗盛公に嫁ぐのだと冷たく言い渡す頼政に、小磯は怒って頼政の持ってきた品を袂で打ちます。
覆いの袱紗の下から現われたのは、なんと鉦と撞木!
頼政は小磯の嫁入支度に、仏を供養する二品を整えたのです。
驚く小磯に、頼政はすべてを告白し懇願しました。
お前は先ほど私を父と思うと言ってくれた。それなら、父に従ってくれ。その命、私の手に委ねてくれ―――身分低い自分に頭まで下げての懇願に、小磯はおろおろと戸惑います。
そして、はまぐりの片割れを持っていた夫とは誰なのだと問われ、次の間ですべてを聞いていた奴音平が名乗り出ました。
奴音平は唐突に暇乞いを願い出、その理由として思いがけない告白をはじめたのです。
このたび平家の使者としてこの家を訪れた武蔵左衛門有国は父の仇。
祇園社で待宵の侍従に情けをかけた父・物かはの蔵人を、わずかばかりの褒美欲しさゆえの讒言で陥れ死なせた張本人だというのです。
奴音平は仮の姿。自分の正体は物かはの蔵人満定であると。

頼政は蔵人満定の心に打たれ、そんな男の運命の妻である小磯を自分の一存で死なせるわけにいかないと悟ります。
「なぁに構うものか、振り出しに戻っただけのこと。私が死ねばいいだけだ―――」
朗らかに笑う頼政の覚悟の前に、若い夫婦は寄り添い思いを成就させたのです。

――その4に続く――

その1【祇園社境内の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007081.html
その2【三井寺の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007404.html
その3【源三位頼政館の場】→当記事
その4【(続き)源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008023.html
その5【讃州松山屏風ヶ浦の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008294.html
その6【讃州松山屏風ヶ浦 崇徳院御在所の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008879.html
その7【高尾神護寺の場】→今しばらくお待ちくださいm(__)m

『貞操花鳥羽恋塚(=みさおのはなとばのこいづか)』

――初めての方はその1からお読みください――

その1【祇園社境内の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007081.html
その2【三井寺の場】→当記事
その3【源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007794.html
その4【(続き)源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008023.html
その5【讃州松山屏風ヶ浦の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008294.html
その6【讃州松山屏風ヶ浦 崇徳院御在所の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008879.html
その7【高尾神護寺の場】→今しばらくお待ちくださいm(__)m

【三井寺の場】

三井寺住職・頼豪阿闍梨は世に並びなき高僧。
そんな彼の積年の願いは、朝廷から戒壇(=僧になる資格「戒律」を授けることを公式に認められた寺)を許されることでした。
しかし、朝廷は権力の後ろ盾を持たない頼豪阿闍梨にそれを認めようとしなかったのです。

ある時、朝廷内に熾烈な権力闘争が勃発し、ある女性に男児の出生が望まれる事態となりました。
しかし、神託では腹の子は女児だという―――
そこで、朝廷は頼豪阿闍梨に縋りました。
産まれてくる子を男児と変えることが出来たなら、望みを叶えてやろうと持ちかけたのです。
朝廷の約束を信じた頼豪阿闍梨は死力を尽くして術法を施し、見事に女と決まった運命の子を男子に変えました。

しかし、朝廷はまたしても彼を裏切りました。
宗教界で絶対の権力を誇る延暦寺への遠慮から、このときもやはり戒壇は与えられなかったのです。
それ以来、頼豪阿闍梨の心を占めるのはただ朝廷への呪いの一念。
その目的を達するため、食を断ち、狂気の修行に励んでいるのでした。

頼豪阿闍梨が住職を務める三井寺に、朝廷の使者・源三位頼政が訪れました。
表向きは平家に従う源三位頼政でしたが、秘めた本心は源氏再興。
また、それは朝廷の意志でもあります。どうしても阿闍梨の力を借りたい朝廷は、新たな官位を授けることを決めて源三位頼政を遣わしたのです。

頼政が持参した綸旨(=りんじ・帝からの書状)を手渡され、一読した頼豪阿闍梨の顔が憤怒に燃え立ちます。
朝廷は今度もこのうえなく高い身分を授けはしたのですが、やはり戒壇を許すことはしなかったのです。
頼豪阿闍梨は怒りに震え、綸旨を破り捨てて護摩壇に叩き込みます。
阿闍梨の怒りを代弁するかのように、異常なまでの激しさで猛り狂う炎!
「望むのは戒壇のみ!」
その怒りに、その執念に源三位頼政も瞠目することしかできませんでした。

――その3に続く――

その1【祇園社境内の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007081.html
その2【三井寺の場】→当記事
その3【源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007794.html
その4【(続き)源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008023.html
その5【讃州松山屏風ヶ浦の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008294.html
その6【讃州松山屏風ヶ浦 崇徳院御在所の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008879.html
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『貞操花鳥羽恋塚(=みさおのはなとばのこいづか』

その1【祇園社境内の場】→当記事
その2【三井寺の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007404.html
その3【源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007794.html
その4【(続き)源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008023.html
その5【讃州松山屏風ヶ浦の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008294.html
その6【讃州松山屏風ヶ浦 崇徳院御在所の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008879.html
その7【高尾神護寺の場】→今しばらくお待ちくださいm(__)m

【祇園社境内の場】

時を得た平家がこの世の春を謳歌していた時代。
同時に、その傲慢な全盛に虐げられた者達の怒りが一触即発の様相を呈していた時代―――

祇園境内で、紅梅と白梅の枝を剣に見立てた戯れの剣術試合が行われていました。
たまたま参詣に来ていた女性が審判役を頼まれ、勝負を見守っています。
試合は白熱。試合を取り囲む見物人達も、審判役の女性もつい熱がこもって夢中になっている様子。
そして、白梅の小手打ち一本!
紅梅が地面に叩きつけられたのを、勝負ありと高らかに宣告する審判役の女性。
その邪気もなく喜ぶ姿に、男の目が光りました。
「源氏に味方する不届き者、もしや間者ではあるまいか!」
紅は平家・白は源氏のシンボルカラー。紅の負けをさほどに喜ぶとはとの疑いなのです。
審判役の女性は驚き、何の根拠もない言がかりと訴えますが、男は聞き入れません。
ついには男たちに捕らえられ、連れ去られてしまいました。

―――平家と源氏、そして朝廷。
一見は平穏そうに思えつつ、いつ火がつくとも知れない火薬庫が存在している。
時代そのものが不安を抱え、猜疑心にぴりぴりしているのです。

境内の奉納舞台で、白拍子姿の女と物かはの蔵人による奉納舞が行われていました。
舞に事寄せ、女の意識は男の懐に集中―――隙を見て懐中のものを奪い取ろうとするのを制した蔵人は、「どういうつもりだ」と女を詰問。
観念した女は、自分の望みを告白します。
白拍子の正体は待宵の侍従。朝廷の権力争いから起こった保元の乱に敗れ、讃岐に流罪となった崇徳院の愛人でした。
待宵の侍従は、愛しい崇徳院を追って流刑地へ赴きたい一心。
しかし反逆者の愛人という立場では、船切手(=船に乗るための許可証。身分証明書のようなもの)が与えられないのです。
男の懐にその手形があると知り、矢もたても堪らず奪おうという切羽詰った心であったとの涙ながらの述懐を聞いた蔵人は、命懸けの愛を貫こうとする女の心に打たれて自分の船切手を与えました。


境内に、二人の男が現われます。
平家方・平重盛に仕える奴くだ平、そして源氏方・源三位頼政に仕える渡辺丁七唱です。

その場へ、時の権力者・平清盛の子息、平宗盛一行が参詣に現われました。
平伏して出迎え、それぞれに名乗りをあげる一同。
頼政の家来と名乗った渡辺丁七唱に、宗盛はかねてからの願いを口にします。
源三位頼政は、平治の乱で失脚した藤原頼長の娘・千束姫を屋敷に預かっていました。
世を儚んだ千束姫はかねてより出家を願い出ていたのですが、そのたぐい稀な美貌の噂を聞きつけた宗盛は姫を差し出せとしつこく迫ったのです。
源氏武士である源三位頼政は清盛公の気に入りとして身分を護られてはいましたが、時は平家の世、常にその心底を疑われる立場です。断れば平家への反抗であるという脅迫をちらつかせての無理難題に、渡辺丁七唱は返事に窮します。

そこへ、風雅なうぐいすの一声―――
渡辺丁七唱はその優しい声にことよせて「うぐいすは心のままに歌わせればあれほどあでやかに鳴きます。けれど、人の命令で鳴かせることはできません」と、か弱い姫の立場をうぐいすに託し、やんわりと宗盛の願いを退けます。
しかし宗盛はその返答に激昂。
奴くだ平に命じ、耳障りなうぐいすを射ち殺せと命じたのです。
(なんと傲慢な、なんと残酷な!)
一同が驚愕し、恐怖に沈黙するその場に「暫く!」の声がかかりました。
駆け込んできたのは、神前へ奉納する三方を掲げ持った瀧口靱負常久。
瀧口靱負常久は崇徳院に仕える武士。崇徳院直筆の写経奉納の願いを託され、遣わされてきたところだったのです。

うぐいすの命乞いに「神聖な境内を血で汚せば、御身に災いがふりかからぬとも知れない」と宗盛の行動を諌めますが、頭に血の上った宗盛はさらに頑なに殺戮を命じます。
ついに、宗盛の尻馬に乗ったくだ平がうぐいすを射ち殺してしまいました。
くだ平はさらに「平家のご意向に逆らった罪だ」と、憐れなうぐいすの体を握りつぶします。
うぐいすの体から溢れた血が、瀧口靱負常久の持参した一品にかかった瞬間―――
蒼く燃え上がる魂玉が宙に浮かび上がり、くだ平が突如として苦しみだしたのです!
驚愕する一同。とっさに待宵の侍従が持参の数珠で念じたところ、にわかの苦しみは去りました。
驚きの事態に、宗盛は「血が濡れかかっただけでこの神罰、その一品はなんなのだ」と瀧口靱負常久に詰め寄ります。
悪いところで嫌な奴に絡まれた、と瀧口靱負常久は臍をかみますが、品がここにある以上偽りを述べ立てることも不可能。
「この品は崇徳院様ご直筆の写経一巻、それを祇園社へ納めたい」という願いを告げました。
しかし、事の成り行きに腹を立てていた宗盛は、謀反人が写経の奉納をして神仏に救われることなど認めないとその願いを撥ね付けました。
そして、さらに渡辺丁七唱へ千束姫の件を無理強いします。

そこへ、平清盛からの急文が届きました。
平家の横暴に業を煮やした後白河法皇から、ついに平家追討の『院宣』が源氏方の総大将・源頼朝へ下ったというのです。
朝廷公認の『院宣』こそ、天下正義の旗印―――
源氏方にとっては、源氏再興のために命に代えても手に入れねばならぬ、そして平家にとっては絶対に源氏の手に渡してはならぬ一品です。
重盛はすぐさま、『院宣』を頼朝に運ぶ使者を密かに討つよう奴くだ平に命じました。

またこののち、待宵の侍従に船切手を渡した物かはの蔵人は、それを目撃していた宗盛の家来・武蔵左衛門有国の讒言によって切腹させられることになるのでした。

後白河法皇ご直筆の『院宣』を頼朝に運ぶ使者が、闇に乗じて道を急いでいます。
追ってきた奴くだ平は荒れ寺の裏庭で使者を捕らえ、『院宣』をめぐって切り結びます。
そして二人は刺し違え、お互いに命尽きてしまうのです。

その場に現われたのは怪しげな油坊主(=神社仏閣の灯篭に、油を注いで回る役目の下級坊主)、実は遠藤武者盛遠。
遠藤武者盛遠は死体となった使者の懐から『院宣』を奪いとります。

月が雲に隠され、その場は真の闇―――
『院宣』を懐にした遠藤武者盛遠のたたずむ裏庭へ現われた「男」と「女」。
頭巾に顔を隠した男は、渡辺左衛門亘。
今は失脚してしまった高倉の宮以仁王に仕えていた北面の武士です。
白鳥(=寺社につとめる下級の使用人が着る白装束)を身に纏った女は、袈裟御前。
渡辺左衛門亘と相思相愛の白拍子です。

身をやつし、影ながら使者を見守ってきた二人は、使者の死によって行き場を失った『院宣』を手に入れるためにやって来たのです。
闇の中、三人は手探りで交錯します。

袈裟御前の懐から曰くつきの『袱紗』が滑り落ちます。
遠藤武者盛遠の懐からは『手紙』が滑り落ちます。

闇の中、袈裟御前は『手紙』を院宣と勘違いして拾い上げます。
同時に、渡辺左衛門亘は袈裟御前の落とした『袱紗』を。
そして、『院宣』は遠藤武者盛遠の手の中に残りました。

――その2へ続く――

その1【祇園社境内の場】→当記事
その2【三井寺の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007404.html
その3【源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19007794.html
その4【(続き)源三位頼政館の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008023.html
その5【讃州松山屏風ヶ浦の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008294.html
その6【讃州松山屏風ヶ浦 崇徳院御在所の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/19008879.html
その7【高尾神護寺の場】→今しばらくお待ちくださいm(__)m

義経千本桜(=よしつねせんぼんざくら)
河連法眼館の場(=かわつらほうげんやかたのば)
四の切(=しのきり)

(前提)

源氏と平家が合戦を繰り広げていた時代。
彗星のごとく現れた軍事の天才・源義経は、そのたぐい稀なる才能で源氏軍を率い、終には平家を討ち滅ぼしました。
しかし勝利を得た源氏の総大将・源頼朝は、弟義経の実力と名声に恐怖心を抱きはじめます。
そんな折、義経は後白河法皇より朝廷の家宝「初音の鼓」を授かりました。
朝廷の真意はこうです。
正当な日本の支配者である朝廷をないがしろにし、権勢を欲しいままにする平家。
それを憎んだ朝廷は平家討伐を図る源氏方に力を貸しましたが、いざ権力を手にした源氏は朝廷を軽んじはじめたのです。
怒った後白河法皇は源氏の統領・源頼朝を討とうと考えました。
頼朝を討たせた以上は、その男が次の統領です。
朝廷を敬う心が篤く、用心深い頼朝も油断をして身近に近づける人物。
時流に乗った権力者に取って代わる実力と人気を備えた人物―――そして、源義経が選ばれたのです。
義経に授けられた「初音の鼓」には、「(鼓を)打て」という行為に掛けて「(頼朝を)討て」という謎かけ、いうなれば暗黙の指令が込められていました。
朝廷の真意を察した義経は、あえて鼓を受け取りました。
「絶対に(鼓を)打たない」(=頼朝を討たない)と誓い、また他の誰にも討たせないということを示したのです。
しかし、恐怖に怯える頼朝は義経の真意を誤解しました。
反逆の疑いをかけられた義経。潔白を証明しようにも、兄は聞く耳を持ってはくれません。
恐怖が生み出す誤解とすれ違いから、義経は実の兄から命を狙われる羽目に陥ってしまったのです。
時の権力者を敵にまわした義経は、命を守る為、ひとまず京の都から身を隠さざるをえなくなりました。
一足先にも保証のない旅に、愛しい静御前を伴っていくのは危険すぎます。
悲しい別れの時、義経は静御前に自分の身代わりとして家宝の「初音の鼓」を託しました。
その時です!
頼朝の放った追っ手が、静御前を襲いました。
愛しい女を人質に、義経を誘き出そうとの魂胆です。
女の身では屈強な武士たちに敵うはずもありません。しかし義経が飛び出せば、罠に掛かった獣さながらに捕らえられてしまう―――
絶体絶命のその時、義経の家来・佐藤忠信が駆けつけ、窮地の静御前を救い出しました。
義経はその働きに感謝し、自分の名である「源九郎」の名を与え、自分の命とも思う静御前を守るよう命じたのです。

【河連法眼館の場】

月日は経ち、ここは河連法眼の館。
河連法眼は、幼少の頃の義経を守り育てた剣客(通称「鞍馬山の天狗」)の弟子。
師に託された義経のことを命に代えても守り抜く心構えですが、頼朝の厳しい追及の手は近在まで伸びてきています。
相手は時の権力者、もし踏み込まれたなら自分一人が死を賭して戦ったとしても無駄なこと。どこまでも隠し通し、追求の手が緩んだ隙を見て東国に落ちのびさせることしか義経に生きる道はないのです。
また、義経を匿っていることが分かったなら、一族郎党にまで罪が及ぶことは必定。敵は頼朝であり、また罪の発覚を恐れる身内でもあります。
家の中に、たとえ針の穴ほどの油断があっても義経を守り抜くことはできないのです。
河連法眼の不安は、妻飛鳥。
飛鳥は貞淑で誠実な妻ですが、不安はその出生。彼女は平家にゆかりの家の出なのです。
万が一とは思えども、源氏に煮え湯を飲まされた平家の恨みは今もくすぶりつづけている―――

河連法眼はじめ近在の武士たちが鎌倉方(=頼朝)の呼び出しを受け、義経が近在に匿われているらしい、見つけ次第差し出すようにとの厳命を受けました。
いよいよ包囲が狭まってきた。
身を切られるような思いの河連法眼は苦渋の表情で帰宅します。
そして、不安顔で出迎える妻飛鳥に向かってこう言い放ちました。
「ここまで包囲がきつくては、義経を守りきることはもう出来まい。一族郎党が罪を受ける前に、義経を鎌倉方へ引き渡そうと思う」と。
驚いた飛鳥。夫の気性をよくよくわきまえていれば、そのようなことを考えるはずがないことは明白なのです。では、夫のこの言葉は一体どういうことなのか・・・
そこではっと思い当たったのは、自分の出生のこと。
夫は、自分から義経公の居所が漏れるかも知れないと疑っているのだと気付きます。
自分が信用ならぬゆえ、夫が志を遂げられないのだと知った飛鳥は、やおら脇差を抜き放つと自害しようとしたのです。
その行動を素早く押し留めた河連法眼は、妻が出生を乗り越えて義経公に忠誠を誓う心を目の当たりにし、自分の疑いが晴れたことを告げます。
夫の言葉を耳にした飛鳥は、ほっと胸を撫で下ろすのでした。

兄の追及はやまないものの、信頼できる隠れ家を得た義経の元へあの佐藤忠信が訪ねてきました。
義経は喜び、預けた静御前はと問い掛けるのですが・・・
佐藤忠信は怪訝な顔。義経の言葉の意味が分かりません。
忠信は母親の病を理由に故郷へ戻って以来、義経に会うのは今日が初めてのことだと言うのです。
それを聞いた義経の心に疑惑が駆け巡ります。
忘れようもない静御前との涙の別れ、そして忠信に静御前を預けたことに疑う余地などないのです。
それを、これほどしらじらしく嘘をつく―――では、自分の命とも思う静御前は一体どうしたというのだ!
褒美欲しさに兄側に引き渡したとでも、鎌倉への忠義立てに殺して見せたとでも・・・この男も、自分を裏切ったというのか!?
義経は声を高くして佐藤忠信を罵り、付き従う家来の亀井六郎と駿河次郎を呼びつけ取調べさせようとします。

忠信が引き立てられようとするまさにそのとき、再び伝令が客人の到着を告げます。
「静御前と、供をする佐藤忠信が到着した」というのです!
息せき切って駆け込んできた静御前は義経との再会を果たし、涙ながらに喜びあいます。
供をしてきた忠信はと問われた静御前は、次の間に控えているとのこと。
それを聞いた亀井六郎は、もう一人の忠信を捕らえるのだと次の間へ駆け込んで行きました。

しかし、静御前が座を見渡すと、なんと当の忠信が困惑顔で座っているではありませんか。
その場にいる忠信に「ずうっと一緒に旅をしてきたのに、抜け駆けをして先にお目通りするなんて」と怒ってみせる静御前。
訳がわからないのは義経と忠信。
静御前と先ほどまで一緒にいたというからには、ここにいる忠信ではないことは明白。
義経にそう言われ、静御前が改めて忠信を見ると、確かに顔は同じだけれど、着ている着物が先ほどとは違う・・・

駆け戻ってきた亀井六郎は、次の間にも、どこにも佐藤忠信は居なかったと告げます。
静御前の供をしてきたもうひとりの「忠信」は、煙のように消えてしまったらしいのです。
なんとも不思議なこの事態―――
なにか心当たりはないかと問われた静御前は、不思議な事を言い出しました。
静御前が義経公から預かった「初音の鼓」を打つと、忠信は必ず現れるのだと言うのです。
話を聞けば、旅の途中、静御前が慰めに鼓を打ち鳴らしふと気付くと必ず忠信がそばにいる。
しかも鼓の音を聞く様子がただ事ではなく、どこか酒に酔ったような不自然さで擦り寄ってくるのだと。
それも一度二度の偶然ではない・・・さすがに薄気味悪く感じていたところ、吉野山で忠信とはぐれてしまった。
静御前が試しに鼓を打つと、消えていた忠信はすぐに戻ってきたというのです。

その場にいた佐藤忠信は、亀井六郎と駿河次郎に引き立てられ、奥へ下がっていきました。
義経公は静御前に刀を与え、この不審な「もう一人の忠信」の詮議をするよう命じたのです。

夜もふけて―――
静御前は一人、鼓を打ち鳴らします。
すると、どこからともなく忠信が現れたのです。
先ほどの佐藤忠信と顔は同じ。けれど、行動の端々に奇妙な雰囲気が漂う忠信が。
鼓を打てばそれに反応する忠信。不審の目で見れば、明らかに怪しい・・・
静御前は懐刀を抜き、やおら忠信に斬りかかりました。
驚いて飛び退る忠信。殺される覚えはないと叫ぶ忠信に、静御前はとっさの機転で「白拍子舞の稽古だ」と誤魔化します。
そして、再び鼓をならしてみる―――やはり、はっきりと不自然な行動。
怪しいと確信した静御前は、次は本気で刀を振りかざします。
なぜと叫ぶ忠信に、静御前は今日起こった不審を語ったのです。
供をしてきたお前と、もうひとり。忠信は二人いるのだ!
それを聞いた忠信は、はっと身構えますが、静御前の顔を観て言い逃れが出来ないことを悟った様子。
後じさりし、聞いてくださいと語りだした話は―――

静御前が預かった「初音の鼓」は、古代、あまりに続く干ばつに困り果てた朝廷が呪術的な目的でつくったものでした。
狐は陰の生物。
陰は雨雲を呼び雨を降らせるという言い伝えにのっとり、千年の時を生き、魔力を身につけた白狐を捕らえて皮をはぎ、鼓をつくったのです。
その、皮をはがれた白狐こそ、私の両親なのです。

話を聞いた静御前は驚き、震え声で叫びます。
「それではお前は狐じゃな!」
正体を見破られた忠信は、すわこれまで、とばかりに変身を解き狐の姿に戻りました。

子狐が必死になって語りだした、ことの顛末とは―――

頑是無い子供の時分に親に死に別れてしまった子狐は、親狐を慕う心を抑えきれません。
そばにいたい、孝行したいとの思いが極まり、両親の皮が張られた初音の鼓を恋い慕っていました。
けれども朝廷の家宝である鼓は宮殿の奥深くに保管されていました。
いくら神通力を持った狐といえども、八百万の神に守られた内裏へ近づく機会は与えられなかったのです。
しかし。
事情により義経公の手に渡った鼓は、静御前に託されました。
鼓を見守っていた子狐は、静御前が敵方に襲われている場面に遭遇。慌てて人の姿に化け、これを狐の神通力で追い払いました。
このとき化けた人の姿こそ、以前見知った佐藤忠信の姿形だったのです。

以来、子狐は鼓を守り、それを持つ静御前を守ってきました。
けれど、ことが発覚した以上、本物の忠信に迷惑がかかる。あなたはもう古巣に帰りなさいと鼓に張られた両親が諭すというのです。
はじめは恐ろしく思っていた静御前も、話を聞くうち、だんだんと・・・その思いが胸に響いて心を動かされていきます。
刀を納めた静御前がふすま越しに声をかけると、そこですべてを聞いていた義経公が現れます。
子狐は恐れ多さに打ち震え、涙と身を裂かれる思いを振り切って去っていくのです。

義経公は両親の愛を知りません。
親と慕う実の兄からは疎まれ、殺されようとしている自分。
それに引きかえ、子狐の親を思う心。死してなお、子狐を思う親狐の心・・・

逃げてしまった狐を呼び戻そうと、静御前が鼓を打ちますが音が鳴りません。
親狐は、親心で子狐を呼ぼうとはしないのです。
もう、駄目なのか・・・思った時に、子狐がおずおずと現れます。

義経公は、子狐の孝行に免じて、家宝の鼓を与えます。
恐れおののく子狐は鼓を受け取ろうとしません。そんな子狐に、静御前は嬉しそうに鼓を与えるのです。
嬉しさのあまり鼓に戯れ、両親の皮に頬擦りして涙を流す子狐。

ふいに鼓がひとりでに鳴り出しました。それは、狐の両親が子狐に語りかける言葉であるらしく・・・
その言葉に耳を寄せていた子狐の表情が引き締まり、きりりとした口調でこう言いました。
「義経公を狙う追っ手が迫っている。私が神通力で蹴散らしてみせよう」と。

頼朝の追っ手である法師たちが、狐の通力に引き寄せられてやってきました。
敵を神通力できりきり舞いさせ、体よくあしらって鮮やかに蹴散らした子狐。

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