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歌舞伎、宝塚歌劇団、劇団四季・・・大好きな舞台の感想をつらつらと♪

歌舞伎演目解説

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【舞踊ストーリー】

今日は年に一度の「放生会」(=ほうじょうえ、ほうじょうや)。
捕らえられた生き物を放し、その命を助けるという仏教由来の善行が行われる八幡様のお祭りです。
江戸の遊郭・吉原に、愛玩用の小鳥を売る「鳥売り」の男女が現れました。
二人は、華やかな衣装を身を包んだ芸人風の拵え。
肩に担いでいるのは綾に編んだ美しい鳥かご、中では愛らしい小鳥がさえずっています。

二人の男女は吉原の大通りに陣取って、「鳥売り」商売を始めました。
捕らえられたいきもの達と、人の世が編んだ籠の中で生きる吉原遊女。
どこか似ているこの有様を面白おかしい謡の文句に乗せ、囃す美声も華やかに、舞う姿もまた面白く。
人々の足も止まるが道理というもの(^^)

今日この日は「放生会」。
捕らえられたか弱い小鳥が、仏の慈悲で大空に、再び舞い上がることを許された一日かぎりの奇跡の日。
金で縛られた籠の鳥、吉原遊女が解き放たれるは一年に盆と正月たった二度。
これをも俗に「放生会」と呼びならわします。
連日連夜の不夜城吉原。
遊女が居並ぶ格子越し、道行く人はにやにやと、まるで籠の小鳥の品定め。
鳥かごの中の小鳥(=遊女)たちとて同じこと。
ぴいちくぱあちく若い嬌声も姦しく、こちらこそが殿方の男振りを見定めているのを御存じかしら。

今日この日は放生会。
二人は持参した鳥かごの入口を開け、中の小鳥を大空へと解き放ちます。
飛び去る小鳥を愛しげに見やる二人。

そこへ「鳥刺し」の男が現れました。
「鳥刺し」とは、長い棒の先に‘とりもち‘(=べたべたした粘着物)をつけて小鳥を捕らえるのを生業とした職業のことです。
捕らえた小鳥は貴人のペットとして売り払うか、武士の娯楽‘鷹狩‘の道具として諸侯に飼われる鷹の活餌とするか、はたまた人々の食料として料理屋へ引き渡すか――――
小鳥の命は小金の重さという「鳥刺し」の出現に、楽しく謡い踊っていた「鳥売り」の男女の顔色が変わりました。

「鳥売り」男女、実は夫婦つがいの‘雀の精‘であったのです!
正体を現し、いたいけな鳥に変身した二人を「鳥刺し」は容赦なく捕らえようとします。
しかし、夫婦のつがいはお互いを庇い合い、助け合いながらむしろ鳥刺しに訴えかけるように飛び回るのです。
そんな二羽の姿をみていた鳥刺しの心に、慈悲の心が湧きあがります。

小さな命を小金に換えるこの仕事。
浅ましいとはいったとて、これもひとえに生きるため。自分は鳥刺し業を手放すことはできはしない。
しかし、今日のこの日は「放生会」ではないか。
心安めと笑われようが、今日一日だけは小鳥の命を空に放とう―――

仏の心を胸に宿した鳥刺しに、二羽の小鳥はそっと近づきその傍らに寄り添うのでした。

【物語】

源平合戦は激しさを増すばかり。
今朝出陣した武将が無事に戻る保証はどこにもない、毎日が命の瀬戸際の戦いが続きます。

ここは戦の最前線、源氏方の武将・熊谷直実の陣屋。
庭には桜の木が植えられ、その前に制札(=お触れを書いた立て札)が立てられています。
そこに書かれているお触れは『一枝を剪らば一指を切るべし』(=桜の一枝を切ったなら、その人間の指を一本切り落とす懲罰を与える)という恐ろしいもの。
立て札に群がった民衆はそれを読んで震え上がり、触らぬ神に祟りなしとばかりに立ち去っていきます。

この桜の木と制札、熊谷直実が主君・源義経から下賜されたものでした。
義経公は、「受け取るのは熊谷でなくてはならない」と直実を名指しでこの二品を贈ったのです。

常軌を逸したと思われる制札の言葉は、実は源氏物語の中の文句。
物語中で、高貴な身分の宮様が愛でた桜を守ろうとして定められたという設定です。
戦乱に向かう武将に与えられた、このふたつの品。
義経公の風雅な心、というだけのことなのでしょうか――――

直実の陣屋へ、源氏の武将・梶原景高が老人を捕らえ引き立ててきました。
老人は石工の弥陀六という男。平家の武将・平敦盛を弔う石碑を建てていたため、平家方の間者ではと疑いをかけられ、陣屋の一角で景高の厳しい詮議を受けています。

出陣した直実のまだ戻らない陣屋に、二人の女性が訪れました。
一人は直実の妻・相模。
夫と供に初陣をした息子・小次郎の安否を気遣うあまり、女の身ながらここまでやって来たのです。
もう一人は平家の武将・平敦盛の母、藤の方。
なぜ敵方の陣屋へ来ることになったのかといえば、それには直実夫婦の過去の事情が絡んでいます。
熊谷直実はもともと宮中の警護にあたる武士でした。しかし、仕える家で女中奉公していた相模と恋仲になり、子供が出来てしまったのです。
当時のルールでは、仕える家の家来と女中の恋愛は御法度。もしこのことが発覚すれば、死を賜るほどの罪です。そして妊娠した以上、それが明るみに出るのは時間の問題・・・
進退窮まった二人を救ってくれたのが、宮家に縁の深い藤の方でした。
当時、自分自身も妊娠していた藤の方は若い二人とお腹の子に同情し、二人をこっそりと家から逃がしてくれたのです。
逃げた直実はさまざまな事情の末、源氏の源義経に仕える武将となりました。
一方、藤の方も紆余曲折の末、平家へと嫁いでいたのでした。

藤の方も、初陣の息子・平敦盛(=当時藤の方が身ごもっていた子供)のことが気がかりでならず、戦場を訪ねたい一心でいました。
しかし戦況は平家の敗色が濃厚となり、それはとうてい叶えられる状況になかったのです。
そんな藤の方を知った相模。
今や敵方と言えども、藤の方はよくしてもらった元主人。直実・相模の二人のみならず、息子・小次郎をも救ってくれた大恩人です。
しかも息子を初陣に出した母同士、思いは痛いほど伝わります。
そこで、恩を受けた夫の陣屋なら大丈夫と、藤の方を伴ってやって来たのでした。

そこへ熊谷直実が帰陣しました。
そこに相模の姿を見つけた直実ははっと驚き、息を呑みます。しかしすぐに不機嫌になり、何故来たのだと叱りつけます。
怒られることは承知であっても、そこは恋愛結婚の夫婦の仲。命がけで陣屋を訪れた妻はちょっぴり不満、そんなに怒らないでくださいよとばかりの愛想笑い。
しかし直実は渋面を崩そうともせずに、苦しく言葉を吐き出しました。
「平敦盛を討ち取った」
相模は仰天、さらに驚いたのは藤の方です。
安否を心配してはるばるここまでやって来た息子が、目の前のこの男に殺されたという!
藤の方は逆上し、刀を手に直実へ切りかかります。
藤の方に気付いた直実はその刀を制し、敦盛の立派な最後の様子を語り聞かせます。
武将として、見事に死んでいった敦盛の最後―――
しかし残された母は泣き濡れ嘆くことしか出来ません。
相模は藤の方を、そして息子と同い年の敦盛の死を慰めたい心から「その死を誇りに、よくやったと誉めてやるのが武将の母だ」と厳しい言葉。
命を的と戦う武将の、妻たる身・母たる身の悲壮な覚悟を口にします。
それを聞く直実も深く頷くのでした。

義経が敦盛の首実検の為、直実の陣屋に現れました。
敦盛の首が入った首桶を捧げ持ってきた直実が、その覆いを外して見せます。
・・・なんと、中に入っていたのは直実の実子・小次郎の首!
あまりの驚愕に我を忘れ、首に駆け寄ろうとする相模と藤の方を、直実は桜の木の前に立てていた制札で押し留め、必死の形相で義経を見やります。
義経は偽首を目の前に、何も言わずに納得の様子。
それを見た直実は、義経が暗に伝えた指令を受け止めた自分の解釈が正しかったのだと確信します。

義経の意志とは、制札の言葉に込められていました。
実は平敦盛は平氏の息子ではなく、後白河法皇のご落胤―――天皇の身分を継ぐことも可能な、尊い血筋を受け継ぐ人物だったのです。
後白河法皇の信任厚い義経は、そのことを極秘裏に打ち明けられていました。

皇家に忠誠を誓う義経にとって、尊い血脈を絶やすことは絶対に出来ないこと。
しかし兄・頼朝はすでに皇家から心を離しており、保護する気持ちは毛頭なかろうと思われれば、相談するのも愚かな行為。逆に危険ですらあります。
その上、出生を隠された敦盛は今や平家の主要な武将。
万が一敦盛を討つのを躊躇えば、疑心暗鬼になった頼朝から誤解を受け、敵より恐ろしい内部制裁で義経自身が抹殺されかねないのです。
そこで義経が考えたのが、敦盛公の偽首を示し、公には死んだこととして生き延びてもらおうということでした。
それには敦盛公の身代わりとなることができる犠牲者が必要・・・そして、敦盛公と同い年の息子・小次郎を持ち、確固たる武士の精神を持った直実に白羽の矢が立ったのでした。
『一枝を剪らば一指を切るべし』―――
源氏物語で「宮が愛した桜」と表現されたのは、ここでは「宮の愛息・敦盛公」。
それをわずかにでも傷つけるものがいれば、「一指」を切るのがその代償=「一子(=一人息子)」を斬ってその代わりとせよという、義経の暗黙の指令だったのです。
それを察知した直実は、息子と示し合わせ、敦盛と息子を戦乱の中ですりかえて見事にその首を刎ねてみせたのでした。

相模は今や首だけとなった我が子を胸に抱き、ゆっくりとあやすように揺すって愛おしみます。先ほど藤の方に「強くあれ」と言い切った自分なのです。すべてを心の中に押し殺し、相模はぐっと堪えて耐え忍びます。

敵将を討ち取った喜びに沸くはずの陣屋で、苦い悲しみに暮れる直実夫婦、何の言葉もない義経、あまつさえ敵方の藤の方・・・
その異常な様子を、影から覗いていたのは先ほどの梶原景高。
この様子を見聞きした景高は、義経が首のすり替えを行ったことを見抜き、このことを頼朝へ注進すると言い残して駆け去ります。
行かせては、小次郎の死も、直実の苦しみも、助かった敦盛の命もすべてが水の泡!
その時、館の物陰から擲たれた石のみが景高の背中に突き刺さりました。その一撃で、景高は絶命します。

物陰から姿をあらわした老人は石工の弥陀六。
弥陀六は偶然通りかかっただけだと無力な老人を装って立ち去ろうとしますが、義経がその姿を見咎め呼び止めました。
義経は、この石屋の弥陀六こそ、かつての幼い自分が伏見の里でよるべなく放浪していた時に助けてくれたと恩人だと見抜きます。
弥陀六は愕然。石工の弥陀六、実は平家の武将・平宗清だったのです。
あの時憐れに思って助けてやった小僧が、今や平家を窮地に陥れた敵将・源義経であるとは!
あの時情けをかけずに野垂れ死にさせておけばよかったと、精一杯の虚勢で罵ります。
義経は静かにそれを聞いていましたが、旧恩に報いようと宗清に鎧櫃を与えます。
その中にはなんと、救いだした平敦盛!
義経は宗清に敦盛を託し、藤の方と一緒に陣屋から旅立たせました。

大芝居のすべてが終わった陣屋。
直実はいったん奥に下がりますが、再び現れた姿に一同は呆然とします。姿は僧侶のもの、笠を取れば頭も丸め、仏門に入る拵えなのです。
これより、ただひたすらに息子の霊を弔いたいという直実を義経は許します。
妻・相模をすら省みる余裕もなく、直実は一人で世を捨てて立ち去っていくのです。

息子を殺してまで、見事に果たした武士としての忠義。
その行為、一点の間違いもなかった。なかった、しかし・・・
たった一人、歩み去る直実の表情が歪みます。
十六年。
たった一人の息子を、ここまで育ててきた年月。
息子にとっては、そのまま人生のすべて―――――

「十六年は一昔、夢だ、夢だ」

その言葉を搾り出し、直実は去っていくのでした。

【参考公演・文献】
芸術祭十月大歌舞伎(歌舞伎座/2004年10月公演)・同公演チラシ
熊谷直実 幸四郎
源義経 梅玉
藤の方 時蔵
梶原景高 錦吾
弥陀六 実は 平宗清 段四郎
相模 芝翫

【公演データ】
作:並木宗輔・浅田一鳥ら6名の合作
3段目を書いたところで並木が亡くなり、後半は脇作家の手で5段目まで作られた
初演:宝暦元年(1751年)

全五段の時代物浄瑠璃『一谷嫩軍記』のうち、「熊谷陣屋」は3段目にあたる。
熊谷の型には芝翫型と團十郎型のふたつがある。

【最終更新】
2005年3月12日

【物語】

雪景色の中に、今が盛りと狂い咲く満開の桜の大樹―
ここは逢阪の関所。庭には先帝が愛した『小町桜』が咲き誇っています。
関に暮らすのは関守・関兵衛と、先帝の寵臣・良峯少将宗貞。
不遇の最後を遂げた先帝の菩提を弔うために、先帝愛樹の桜が咲く関へ蟄居しているのです。

その逢阪の関へ一人の女が訪れました。
旅慣れているとも思えない美しい姫君姿、しかも通行手形を持っていません。
関守の関兵衛が咎めると、母親の菩提を弔うためにこの先の寺を訪ねたいと語ります。
髪も尼のようにはせず、若い女のみずみずしい姿のまま仏事とは・・・関を守る身としては、怪しいものは通せません。さまざまに仏問答を仕掛けますが、そのことごとくに答える女。
関兵衛はなおも訝りますが、女の才知に感動した宗貞は、関を通してやるよう言葉をかけます。
姿を現したその人は、なんと宗貞が都へ打ち捨ててきた恋人・小野小町姫。
失脚して姿を消した宗貞を忘れかね、王子の横恋慕に肯くことが出来ずに逃げてきたのです。
偶然の再会を果たす二人。
愛しい恋人に再会でき、狂喜する小町姫。しかし、蟄居の身の宗貞は喜びの中にも複雑な心境を隠せません。
関兵衛が二人に馴れ初めを聞けば、あまりに仲睦まじく美しい二人の仲ではありませんか。
関兵衛は若い恋人の仲をどうにか取り持とうとします。
その時、関兵衛が頭を下げた拍子に懐から何かを落としました。
慌ててそれを隠す関兵衛。
しかし宗貞と小町姫はその品が「勘合の印」と「割符」であったことを見咎めていました。
これこそ、先帝が陥れられた謀反の鍵を握る品だったのです。
その場を繕い、関兵衛は二人に気を利かせてひとり奥へ下がっていきます。

関兵衛への不審を募らせる宗貞と小町姫。
と、その場に一匹の鷹が何かを掴んで飛んできました。
血染めの文字が書き付けられた片袖―それは間違いなく、宗貞の弟・安貞のもの。
その言葉から、宗貞は弟・安貞が自分の身代わりになって死んだことを知ります。
そしてあの鷹が、敵にとっては手柄のこの片袖を、この場所へ―関兵衛が住むこの関へ―運んできたことが意味するものとは・・・
関兵衛への不審が大きく膨らんだ宗貞は、弟形見の片袖を座敷の琴の中に隠します。
そして小町姫には、「関を包囲し追っ手を差し向けるように」との伝言を託し、急ぎ都へ向かわせたのです。

思案に耽る宗貞のもとへ、ほろ酔い加減の関兵衛がふらふらと現れました。
宗貞は関兵衛の酔いを幸い、懐の証拠の品を探ろうとしますが、失敗。
悔しい表情のまま引き下がっていきます。

一人になった関兵衛は、庭にどっかと腰を下ろし、大杯で酒を飲もうとします。
と、酒の表面に天の星の並びが映りこみ、それを見た関兵衛の顔色が一変。
陰陽道で「天下を取る」暗示を示す配置が示されているではないか!
―――陽気なお人よしの関守と身を偽っていた関兵衛、その正体は天下を狙う謀反人・大伴黒主その人だったのです。
天が、ついに自分の味方となった。
ついに訪れた千載一遇の時を逃がすまい。天下調伏祈願の護摩木を切ろうと、石で大鉞を研ぎだします。
切れ味を確かめるため、座敷へ乗り込み琴をばっさりと切り捨てたところ、中からは安貞形見の片袖が。
それを見た関兵衛は安貞の死を知り、すべてが思い通りに運ぶ幸運にほくそえみます。
血染めの片袖を懐にねじ込んで庭に降り立つと、なんと「勘合の印」と「割符」が突然懐から飛び出し、墨染桜の梢に飛び去るではありませんか!
突然のことに驚き怒った関兵衛は、妖しい墨染桜を切ろうと大鉞を振り上げます。
その瞬間、墨染桜から発せられた妖気に捕らえられた関兵衛は、気を失ってしまうのです。

小町桜の中にぼんやりと人影が浮かび上がり、美しい小町桜の精が現れました。
この小町桜の精、安貞恋しさのあまり人の姿を借りて傾城墨染と名乗り、安貞と思いを交わした恋人同士であったのです。安貞の危難を感知して不安が募り、安貞縁の品を懐に忍ばせた関兵衛の下へと出現したのでした。
気が付いた関兵衛は突然現れた傾城姿の女に戸惑い、素性を問いただすと「撞木町(=色町)から来た」と告げ、偽りの色仕掛けで関兵衛に迫ります。
関兵衛は興に乗り、墨染の手引きで廓遊びの一部始終をなぞったりなどして戯れます。
そのうち、油断した関兵衛の懐から片袖を奪い取った墨染は、血染めの文字から恋人の命が奪われたことを確信し涙にくれます。
その様子、ただの傾城ではないと怪しむ関兵衛に問い詰められた墨染は本性を顕します。
髪を乱し、人ならぬ身の迫力で「本性を明かせ」と迫られた関兵衛は、ついに自らが天下を狙う謀反人・大伴黒主であると宣言し、その姿までもが一変します。
恋人を殺し、国を滅ぼさんとする大悪人・大伴黒主と小町桜の精は、激しい大立ち周りをして戦うのでした。

【参考公演・文献】
吉例顔見世大歌舞伎(歌舞伎座/2004年11月公演・昼の部)・同公演チラシ
関守関兵衛 実は 大伴黒主 吉右衛門
小野小町姫 魁春
傾城墨染 実は 小町桜の精 福助
良峯少将宗貞 富十郎

歌舞伎座掌本―秋季号 2004.11

【作品データ】
初演:天明4年(1784年)江戸桐座の顔見世狂言「重重人重小町桜」の2番目大切に上演
ジャンル:常磐津舞踊劇
作詞:劇神仙
作曲:鳥羽屋里長
振付:二世西川扇蔵

【最終更新】
2005年3月10日

【物語】

吉岡鬼一法眼は陰陽道の権威であり、かつ兵道を極めた者のみに伝えられる虎の巻(=兵法の秘伝書)を所持する武の達人です。
もとは源氏の臣下でしたが、現在では平家の平清盛に仕える身。
かつて源氏が敗走した際、父親は3人の息子にそれぞれ別の道を与えました。
長男・鬼一法眼には、戦勝者「平家」へ下る道を。
血を絶やすことは先祖への欠礼、絶対に死んではならぬ、手段はどうあれ必ず生きのびよという苦しい決断でした。
次男・三男は、武士として誇り高く、恩ある「源氏」の為に生きよと。
そうして、三兄弟は望まずとも敵味方に分かれることとなったのです。

今や平家の武芸指南役として絶大な権勢を誇る鬼一法眼ですが、老齢の身を病に侵され、屋敷に引きこもっています。
文武両道、剛直な鬼一法眼の唯一の道楽は、菊の花を愛でること。
ことさらに愛し、咲き競わせた色とりどりの菊花が咲き乱れる秋の庭は格別の美しさです。
そのひろい庭の掃除を一人で終えた新参の奴・智恵内がくつろいでひげを抜いている所に、古参の奴たちが現れます。
この奴たち、新参者の智恵内の悠然とした態度、どこか人を圧倒する迫力が気に食わない。
何かにつけては難癖をつけて智恵内に絡むのですが、そんなことは歯牙にもかけない智恵内の態度がなおさら憎たらしい様子。
今日も庭の掃除が不十分だとよってたかって攻め立てます。
さすがにむっとして、かかって来いと突っかかる智恵内。
多勢に無勢。奴たちは勢いに乗って智恵内に打ちかかりますが、智恵内の鮮やかな手並みに小手先であしらわれてしまい、ほうほうの体で逃げ出します。
尋常でない強さもそのはず、この智恵内、実は鬼一法眼の末弟・鬼三太。
源氏に仕える鬼三太は、平家方へ下った兄の手元にある秘伝の虎の巻を手に入れようと、主人・牛若丸とともにこの館へ奴奉公としてまぎれ入っていたのです。

奴たちが逃げ去ったところに腰元衆が現れ、下がろうとする智恵内を呼び止めます。
鬼一法眼が菊を見に来るので、お迎えの準備を頼みますと言われた智恵内は床几の場所を選んだり、座布団を整えたり。戯れに主人の白繻子で作られた座布団に座ってみて、その柔らかさに驚き軽口をたたいてみたりします。
そこへ腰元衆に付き添われ、鬼一法眼が登場。
老齢といえども見事な体躯を豪奢な着物で包み、厳しい風格の漂う白髪。家中での権勢を偲ばせる立派さです。
鬼一法眼は菊花の見事さに心を和ませ、ゆったりと見物して廻りますが、ふいに眉をひそめ庭掃除をした奴を呼べと言い出します。
腰元に呼び出され智恵内が現れると、鬼一法眼は掃除の手抜きを叱りつけました。
すると智恵内は恐れ入る様子もなく、「ひとつふたつの葉が落ちているのは見苦しいが、秋の紅葉が地面に敷き詰められた風情はまたひとしお。そう思って掃きませんでした」との言い訳。
その機知に富んだ返答に、鬼一法眼はにやり。「智恵内(ちえない)というのに知恵のあることだ」と朗らかに笑います。

そこへ、鬼一法眼の娘・皆鶴姫の供をして平清盛邸へ出かけていた奴の虎蔵が一人で戻ってきました。奴の虎蔵、実は源氏の武将・牛若丸の仮の姿。
皆鶴姫に先に戻っているよう指示されてきたのですが、娘が可愛い鬼一法眼は帰宅まで供をしないとはと厳しく叱りつけます。
そこへ戻った皆鶴姫。
この皆鶴姫、若々しい男ぶりの虎蔵にぞっこん惚れ込んでしまっているのです。叱られる虎蔵を見て、必死の庇い立て。
かわいい娘にそこまで言われてはと、さすがの鬼一法眼の怒りも和らぎます。

そこへ現われたのが、平家の武将・笠原堪海。
堪海は鬼一法眼から武芸の指南を受け、筆頭の腕前の持ち主。
鬼一法眼の愛娘を妻に娶り、彼の後継者となろうかと目されています。
しかし当の皆鶴姫は堪海の傲慢さが大嫌い。恋する虎蔵への一途な思いを胸に、つんとそっぽをむいて堪海へは目もくれません。
堪海は、鬼一法眼に「所持する秘伝の虎の巻を差し出すように」という平清盛の言葉を伝え、その後の世話話に、最近、源氏の牛若丸とその従者が近辺に潜伏していることが分かった、必ず捕らえて見せようと軽口をたたきます。
鬼一法眼は話は奥で、と堪海と皆鶴姫を先に座敷へ向かわせ、控える虎蔵へ向き直ると、先ほどとは打って変わった厳しい口調で館からの放逐を言い渡します。
驚く虎蔵と智恵内。智恵内が若い虎蔵を庇い、必死に許しを願いますが鬼一法眼は聞き入れません。
なおも食い下がる智恵内に、鬼一法眼はそれならお前が虎蔵を打ち据えよと命じます。
智恵内(=鬼三太)にとって虎蔵(=牛若丸)は大切な主。
打ち据えようと棒を振りかざしますが、どうしても打てない。鬼一法眼はその姿をじっと見据えていましたが、やがて苦しむ智恵内を尻目に奥へと下がっていきました。
実は鬼一法眼、さすがの眼力で虎蔵・智恵内が牛若丸主従であることを見抜いていたのです。虎蔵を打つことが出来ない智恵内を見て、そのことに確信をもったのでした。
平家に仕える身であっても、実は源氏武士の心まで売り払ってはいなかった鬼一法眼。御曹司を売ることなど出来るはずがありません。
先ほどの堪海の言葉を思い、「平家の膝元であるここにいては危ない、遠くへ逃げよ」との思いから、たわいない罪にかこつけて牛若丸を館から追い出そうとしたのでした。

二人きりになった虎蔵と智恵内は、主従の態度にがらりと変化。
かしこまる鬼三太に、牛若丸は自分を打ち据え、鬼一法眼の怒りを解かなかった態度を叱りつけます。
弁慶が涙を呑んで牛若丸を打ち据え、危機を脱した安宅の関越えのことを思えば、鬼三太の態度はあまりにふがいない。
欲しい虎の巻も、館に仕えていればこそ奪うチャンスもあるというものではないかと怒る牛若丸の剣幕に、ひたすらかしこまる鬼三太。
追い詰められた牛若丸は、かくなる上は虎の巻が置かれている蔵へ忍び入る、気付かれぬよう周りを抑えよと鬼三太に命じます。
危険な潜入を牛若丸にさせる訳にはいかないと、鬼三太は「兄を騙すのは苦しい」と理由をつけてその役を引き取ります。

いざ、というまさにその時。
現われたのは、先ほど奥へ下がった皆鶴姫。
もしや会話を聞かれたのではと二人は緊張しますが、皆鶴姫の様子に変化はありません。
恋する虎蔵が沈み込む様子に訳を問うと、先ほどの供の不手際が鬼一法眼の怒りに触れ、暇を出されてしまったというではありませんか。
皆鶴姫は私から父に話しましょうと請け負い、そして虎蔵へ思いを語り始めます。
乙女の情熱で積極的に迫り、皆鶴姫の一途な思いに鬼三太も助け舟を出しますが、源氏再興の瀬戸際、そんなことを考える余裕のない牛若丸の態度はかたくなで木石のよう。
思いがまったく届かぬ悲しさに、皆鶴姫は先ほどの話をすべて聞いてしまったことを打ち明けます。平家方の娘にそれを聞かれたとあれば、二人は自分を生かしておくわけがない。思いが届かぬものならば、いっそ愛しい人の手にかかって死にたいという情熱的な恋心。
皆鶴姫の覚悟に憐れを感じながらも、源氏再興の足がかりを奪われるわけにはいかないと二人は皆鶴姫殺害を決意します。手を合わせる姫に刃を振り下ろそうとしたまさにその時、現われたのは堪海。
許婚を殺されてなるものかと、二人に襲い掛かります。
しかし相手は鬼神のごとき強さの牛若丸。武術自慢の堪海もたわいなく押し込まれ、ばっさりと切り捨てられてしまいました。

殺人まで犯し、もはや一刻の猶予もありません。
すぐにも館へ忍び入り、虎の巻を奪おうとはやり立つ二人の言葉を聞いた皆鶴姫は、虎の巻が隠された蔵へ自分が案内をしようと申し出ます。
それは願ってもないこと。
二人は皆鶴姫と手を結び、思いをひとつに結束して覚悟を決めるのでした。

【参考公演・文献】
吉例顔見世大歌舞伎(2004年11月公演)・同公演チラシ

虎蔵 実は 牛若丸:芝翫
智恵内 実は 鬼三太:吉右衛門
皆鶴姫:福助
笠原堪海:段四郎
吉岡鬼一法眼:富十郎

【作品データ】

【最終更新日】
2005年3月5日

『都鳥廓白浪(=みやこどりながれのしらなみ)』

―――初めての方はその1からお読みください―――

その1【三囲稲荷前の場】【長命寺堤の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/289770.html
その2【向島惣太内の場】→http://blogs.yahoo.co.jp/hana_yukiyanagi/306240.html
その3【原庭按摩宿の場】→当記事です

【原庭按摩宿の場】

宵寝の丑松のアジトに、霧太郎が女の姿のまま迎え入れられます。
霧太郎はこのアジトに屯す盗賊たちを束ねる首領ですが、下っ端たちには正体を知られたくない様子。
時ならぬイイ女の登場に下っ端たちは色めきたちますが、霧太郎の意志に気付いた丑松は無関係の女を連れ込んだかのように装い、女房同然のお市まで追い出す始末。
下っ端どもは女道楽を邪魔するのも野暮と引き上げていきます。
しかし、丑松は怒り心頭で出て行くお市を捕まえてなにやら耳打ちします。納得の体のお市が去っていくのを見届けて、家に戻ってきました。

家に足を踏み入れてみれば、そこにはしどけない姿で座っている美しい女郎の姿。
男であると知りつつも、いやだからこそ匂い立つ倒錯の色気―――
どこか体のむずむずするようなこそばゆさを感じつつ、酒でも飲もうかと差し向かって間近に覗き込めば、女とみまごうばかりの美少年なのです。
丑松は戯れに霧太郎を女に見立てて酌をしてもらったり、甘い言葉を囁かれたり。勧められるままに酒を過ごし、ついには酩酊して眠り込んでしまいました。
眠り込んだ丑松を見下ろす霧太郎、出刃包丁を手に取るとやおら眠りこける丑松をぶすりと刺し貫きました。
驚く丑松へ、冥途の土産とばかりの口上。
「自分は吉田家嫡男・松若丸。盗賊に身をやつし、家宝『都鳥の印』の詮議をしていたのだ」と。

その場へ、『都鳥の印』を取り返しに来た惣太が飛び込んできました。
霧太郎・実は松若丸との壮絶な斬り合いの末、惣太は松若丸の刃で深手を負います。
瀕死の傷を負った惣太は、苦しい息の下で告白を始めました。
実は外で家の中の様子を探っていた惣太は、霧太郎が松若丸であることを知ったのです。なのになぜ、手向かったか。
心ならずとはいえ、主君・梅若丸を手にかけてしまった―――その罪の重さを思うにつけ、一通りの自害などではこと足らず、どうしても松若丸の手で成敗して欲しかったのです。
どうか、この首を梅若丸様の墓前にと願う惣太の言葉に肯き、松若丸はその首を打ち落とすのでした。

そこへ、丑市に命じられたお市の密告によって、盗賊霧太郎を捕らえに来た捕り手たちが家を取り囲みます。
すわ、絶体絶命!・・・のはず、なんですが。
家宝・都鳥を取り返し、位高い吉田家総領に戻った松若丸にとっては、俗な捕り手など歯牙にもかからない。うるさい小蝿といったところ。
「腹が減った、飯を食おう」
配下の木の葉の峰蔵に給仕をさせつつ、悠然と食事をはじめるのです。

悠然と食事をする松若丸。
戦いつつ給仕する峰蔵。
必死に戦うも、思いっきりあしらわれる捕り手。
最後のお茶までしっかり飲んで、捕り手も鮮やかに退けてみせるのでした。

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