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「・・・・・・・あぢーーーよ、たいさ・・・」
真夏の、それも屋外なら当然のごとく、暑い。
木陰ではあるものの、通りに面したオープンカフェでは流れてくる風も熱風に近い。
その一卓に国軍大佐ロイ・マスタングとエドワード・エルリックは対峙して座る。互いの前にはすでに汗をかいたグラスが置いてあるが中の氷はみるみるうちに溶けて無くなっていく。
「だいたいなんでこんな暑い日にわざわざ屋根のないところでアンタとお茶しなきゃなんねーんだよ!市中見回りじゃなかったのかよ!」
この暑さの中、こんな場所でいることにいかにも不満だと悪態をたれる。
「炎天下の中、歩き回った方がいいとでも言うのかい?」
それを向かいに座るロイは少し眉をひそめながら諌める。
「君とこんな昼間っからデー・・・いや、市中見回りができるのは私にとっては大変嬉しいことなのだがね?」
久しぶりに東方司令部を訪れてみると、いつものように書類に埋もれていた。ホークアイ中尉の鋭い視線を後目に、助け舟とばかりに早々に外へと連れ出されていい口実になってしまったようだ。
「見回りなんだから、外の様子が分かるにはやはりオープンカフェじゃないか?木陰だからいくらかいいだろう?」
ニヤリと笑うロイの確信犯的な言い訳なんぞ聞きたくもないが、炎天下で機械鎧が熱を持つよりはマシかもしれない。
「・・・いい女いないか、物色してるだけじゃねーの?」
またエドワードがかわいくないことを言うがそれもほめ言葉と受け止める。
「私の方から声をかけなくてもお呼びは引く手数多だからそんなことはしないよ。」
エドワードも暑さのせいでまともに話をしているのがバカらしくなってきた。
「大佐、守備範囲広いからな。」
「褒め言葉と受け取っておくよ。」
ばーか、呆れてんだよ、と言うのも面倒になって温んできたアイスココアを一口飲んだ。
・・・と、その時。
 
「ロイ君じゃないの?」
中年の、品のいいご婦人が声をかけてきた。日傘をさして、肌の露出のあまりない上品なワンピースをまとった女性は暑さを感じないかのように爽やかだった。それも、懐かしい、というか、すっかり忘れかけていた呼ばれ方をした。
振り向くと見覚えのある顔だが思いだすのに時間がかかる。が、思い出すと一瞬にしてまだ青二才だったころの自分に戻る。
「・・・・奥様、ですか?」
意表をつかれた顔で立ちあがって笑いかけると婦人も笑いかけてくれた。
「立派になられて。・・・今は大佐なの?」
脱いで椅子にかけていた軍服の肩章を見て言う。
「ええ・・・奥様も、お元気そうで。」
珍しくロイが恐縮して、どぎまぎしているように見えて、傍で見ているエドワードには意外で、また面白くもあった。
 
ロイが空いていた椅子を婦人に勧めると、婦人は同席しているエドワードに目をやった。
「・・・よろしいかしら?ごめんなさいね、すぐにお暇するから。」
優しい笑みを浮かべて伺われては承諾しないわけにはいかない。というか、エドワード自身もこの婦人が何者か、知りたくなった。
「部下ですので、お気になさらず。」
ロイの言葉にエドワードがはっとする。
「大佐、オレやっぱり席を・・・」
外すよ、と言いかけると婦人がそれを手で制す。
「私も用事があるから長い時間いられないの。少しだけ、ご挨拶したいだけなのよ。ここにいてちょうだい。」
そう言われると席を立てない。仕方ないのでその場に留まることにした。
 
「奥様もお変わりなく、相変わらずお美しいままですね。」
「いやだ、ロイ君、こんなおばさんに向かってそんなお世辞・・・でも、嬉しいわ、ありがとう。」
ころころと笑う様は本当に少女のようで、かわいらしくさえあった。対して、ロイはお世辞でも社交辞令でもなく、本気で言っているようで、珍しく生真面目な表情だ。と同時に、緊張しているようにも見える。
「あ、ごめんなさい、ロイ君なんて呼んだら失礼よね?もう立派な大人の大佐なんだから。」
婦人も立派な大人なのに、悪戯っぽくロイを覗き込む。
「いえ、結構ですよ、奥様になら。・・・教官はお元気ですか?」
気を取り直して、とあえてロイが話題を変える。
「もう教官じゃなくてよ。年相応にいろんなところがガタついてきてるけど、元気だし、今の生活に満足してるって。子供たちももうすっかり大きくなって、今は夫婦二人の生活になったわ。」
婦人の顔に年月の流れを読み取った。少女のような笑顔は一瞬陰に隠れ、年輪を重ねてそれなりにあった出来事を回顧しているかのようだった。
そんな婦人の姿に、ロイが一瞬表情を曇らせたのを婦人は見逃さなかった。
「そんな顔しないで。私も幸せよ。これでよかったのよ。」
目じりに刻まれたしわをもっと深くしてほほ笑む。
 
ロイが婦人から目をそらすと夏の新緑の匂いを含んだ熱風が3人を渡る。
会話が途切れて少しの間の後、婦人が立ちあがる。
「本当に久しぶりに会えてうれしかったわ。お邪魔してごめんなさいね。」
登場した時と同じ笑顔で潔く立ち去った。
 
 
婦人が席を立った後もロイは黙ったままだ。
「・・・素敵な、ご婦人だな。」
エドワードが険しい表情のロイに話しかける。
「ああ」
「・・・さすがに、守備範囲広いよな。」
「そんなんじゃない。」
分かり切っていることを言ってしまって強い語気で諌められた。婦人の登場で明らかにロイの表情が変わった。
エドワードが口を噤んで妙な間が生まれた。
 
「仕官学校の教官の奥様でね・・・」
おもむろにロイが話し出す。
「家庭の温かみというものに縁遠かった私を自宅に招いてくれて、よくしてくれたものだ。」
まだ軍に希望も憧れも持って仕官となるために勉学に励んでいた頃だろう。
「だが、いわれのない冤罪を掛けられ、仕官学校を去って行ったよ。全くもって理不尽な冤罪で、上の人間の尻拭いは明らかなのに、私は何もできなかった。」
権力に目がくらみ、誰かを陥れることに何の罪悪感も感じない人間はいつでもいるものだ。そういう人間は何の躊躇も無く、部下を切って捨てることを厭わない。
 
「なぜ謂れのない罪を被って去るのか、教官に問いただすと、大事なものを守るためなら今の生活を喜んで捨てる、と言い放って笑って去って行ったよ。その頃は私も若くて力も無くて、なにも出来ずに悔しいばかりだったが、今なら理解できる。」
青くて、若くて、本当に大切なものが何かを理解できなかった幼かった自分を振り返る。
「あの奥様のためなら、と理解できる。」
静かに言って目を伏せる。己の無力さに悔しさを隠せない様子だ。が、あの婦人はそれに値するだけの魅力を持ちあわせている、とロイも納得する。
 
「あの人に、恋、してる?」
伏し目がちなロイの顔を覗き込むようにエドワードが問う。それを嫉妬や嫉みから問い詰めるつもりもないが、純然たる興味を持って訊いてみたくなった。
突然の問いかけに一瞬息を呑むロイだったが、
「・・・ああ、何度も。」
あっさりと肯定した。答えを聞いて安心したようにエドワードが笑う。
「あの頃も、今もね。」
つられてロイの口元にも笑みが出た。
二人同時に席を立って司令部への道を歩く。
 
上官の妻に恋なんて感情は露わにするつもりは昔も今もない。でも昔会うたびに何度も何度も恋してることは否定できないし、久しぶりに会ってもあの時の感情が蘇ってくる。思いを伝えたことも無い。伝えるつもりもない。気付いて欲しいとも思わない。ただ、自分の心の内に秘めているだけでいい。きゅんとする胸の痛みはいつしか消したくないとさえ思えるようになった。
 
ここで会わなければ、エドワードにも告白するつもりもなかったが、エドワードはこの恋の真意を理解している、と感じて素直に述べた。プラトニックでなければ成立しない、憧れに似た、決して成就しない恋は存在する。
若葉の頃の、青い恋。何度恋しても、報われない。それでこそ成立する恋もある。
ただただ、あの人が未だに若葉のように美しく、そして幸せだと言うのが嬉しくて仕方なかった。
そして寄り添ってくる隣の若い恋人にも分かってもらえたのは意外で、それも嬉しくもあった。
 
そして確信する。
今は隣を歩く、この子に何度も恋してる、と。
 
 
 
 
****************************************
 
日付が変わってからアップすればいいのですが、ちょっと訳あって前日で申し訳ありません。
明日はいつも美麗イラストを描く絵師様、はっぴー様の誕生日なのです。
 
おめでとうございます!!まだまだ若いよ!!
                         (↑ほんとだって!!)
 
 
タイトルは小田さんの同名の曲からです。
年をきれいに重ねたかわいらしい中年女性が浮かんだもので
(↑いや、はっぴー様はまだ中年じゃないですから!!)
 
若い子から、いつまでも憧れの的で、でもそれを無意識にやってしまうような、
上手に年を重ねたいなぁ・・・と思ったもので(笑)
ロイをどぎまぎさせるような女性って、年を取ってもいい女だろうと思いませんか?
ロイにずっと想われてる女性って、なってみたいと思いません?
そうなりたいと思いつつ、最近じゃ綾小路きみまろの漫談に頷けるようになっちまいましたよ・・・
理想と現実はかけ離れるものですねぇ・・・(苦笑)
 
 
 
こんな駄文ですが、はっぴー様、もしよかったらもらってやってくださいませ〜〜〜
 
 

閉じる コメント(4)

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ありがと〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!
ロイロイをどぎまぎ・・・ヒヤヒヤならさせられそうだけどねえ・・・。
年相応の美しさってあるじゃないですかv憧れるねー。そういう生き方はvvv

しかし、憧れるけど、ロイエドはやっぱロイエド二人の世界で締めて欲しいわけでvvvvv
いいっすねえ〜〜〜〜〜〜〜!
ヘタに言い訳されたら、単なる興味から、余計な詮索までしたくなるってもんでvvv
なんとも爽やかですvvまさに若葉!!

遠慮なく頂きますっ!!!!

2011/8/7(日) 午後 2:56 はっぴー

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はっぴー様>お誕生日おめでとうございます!!って、アップが早くてお返事が遅くなってなんともタイミングが合わなくて今回は申し訳ありませんでした。。。

7月の暑〜〜〜〜〜い時期に書き始めたから冒頭やはり暑いよね。でもお誕生日の頃もまた暑くなったからよしとしようか(←おいっ!)

ロイの昔憧れた人は何年経ってもきれいでいまだに好きだと解るものの、成就しないからこそ恋できる・・・って、わけわからんよね?ごめん。
エドを好きだという恋とはまた次元が違う世界で恋をし続けるにはそれなりの相手であってほしいと思いました。

こんな駄文でよかったらもらってやってくださいませ。
素敵な絵もありがとうございました。

2011/8/10(水) 午前 7:57 はなあんこ

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はっぴーさんのところから参りました。今更菜コメントですみません(汗)ステキすぎるSSに、なんか、萎えてたものが再び目覚めたような気持ちになりました。
短い中に、すごくこう・・・キリっと文章が収まっていて、ロイが大人でめっちゃ青臭くて可愛くてカッコイイ・・・でもロイエド、ってところが、本当にステキでした!!ありがとうございました!!

2012/12/5(水) 午後 11:05 [ gary ]

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gray様>ようこそこの辺境へいらっしゃいました!!見ていただいてありがとうございます!
いやぁ・・・お恥ずかしい限りです!恥ずかしさでこちらの目も覚めました(笑)はっぴーさんのイラストが素敵すぎてもったいないくらいの文章ですよ〜〜
この歳のおばちゃんからすればロイだって若造ってもので。青臭い酸っぱい経験があるからこそ今そばにいるエドを大事にするんだろうなぁ・・・と。何事も大事な経験値になるんでしょうねぇ。
読んでくださってありがとうございます!精進しまっす!

2012/12/10(月) 午後 3:57 はなあんこ

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