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自宅について濡れた軍服を脱いでタオルで髪の毛をがしがしと手荒に拭く。
上官の話に激昂してまだ興奮しているのか、雨にひどく濡れたというのに寒さは感じない。この雨でも血の上った頭は冷えなかった。思い出しただけでも胸糞が悪い。謹慎処分になったのは上に上り詰めるのには回り道をしたかもしれないが、後悔は無い。
たいていどんなことでも呑みこむ覚悟はあったが、今回だけははらわたが煮えくりかえるほど腹立たしかった。
朝にシャワーを浴びたが、雨に濡れたのと、上官とのやり取りを洗い流してしまいたくて再度浴びようとシャツを脱ぐ。
上半身裸になってズボンのベルトに手をかけたその時。
・・・視線を感じた。
振り向くと、家の中に小さな女の子が立っていた。
「・・・・・・・・う、わぁ!!!???」
いつからそこにいたのか、気配さえ感じなかった。忽然とそこにその女の子は、いた。あまりの驚きに情けなくも腰が抜けそうになった。年は5〜6歳くらいだろうか。明るい緑色のワンピースを着て、肩まで伸びた金髪の毛先から雨が滴り落ちて、ニコニコ笑っている。濡れているからあらかじめ自宅に潜んでいたのではなさそうだ。自宅に着いて鍵を閉めた覚えはある。いつ入ってきたのか。
「だ・・・だれ?親は?」
多少のことでは動揺など見せないロイだったが、通常で考えてもあり得ないこの事態にはさすがにまだ平静を取り戻せずにいた。
「うん!雨、ひどくなってきたね!」
怯え気味のロイとは裏腹に明るく元気がいい。ついでに問いかけに答える気は無いようだ。
「雨、好きなんだよぉ。」
嬉しそうにその場でくるくる回りながら言う。雨が好きならなぜ人の家に勝手に入ってきてるんだ?この子は!
「ね!ロイは?」
足元に寄ってきてロイの手を取った。驚くほどに冷たい。
「私は雨は嫌いだな。・・・それより、雨に濡れて体が冷えているんじゃないか?」
女の子はロイの言葉の意味がわからない、というように不思議そうに見上げてくる。着ているワンピース同様、明るい緑色の瞳をして驚くほど白い肌だ。
「シャワーを浴びなさい。」
なんのゆかりも義務もないが、冷えた体のままでは風邪をひかせてしまう。ぎゅっと子供の手を握り返しても温度は一向に感じられない。子供の体温とは普通大人よりも高いのではなかったか。まるで熱を感じないのはある意味異様だった。はっ!?として女の子の足元を見ても立派に足は存在していたので胸をなでおろした。
(実体はあるようだな。・・・って、今私はこの子をなんだと思ったのだ?)
自分に突っ込んでみても一向にこの子の正体がわかるわけでもないし、それどころかいつのまにかこの子のペースに乗せられてしまっている。それをさておくほど、この子の体は冷たい。
勢いよく手を引いてバスルームへと向かう。が、小さいとは言え、一応女性である。少し考えたが、女の子は同じ年の男子よりしっかりしているだろうという希望的観測で、脱衣所へ押し込んでばたんとドアを閉めた。
「一人で洗えるな?」
ドアの外で大声で聞くと返事がない。どうも気配もない。悪いと思いつつも脱衣所のドアを開けるとすでに姿はなく、シャワールームからは水音が聞こえる。ほっとしてドアを閉めようとしたが、脱いだ洋服がない。まさかと思い、バスルームを開けると洋服のままシャワーヘッドの真下に突っ立っていた。
「!」
急いで女の子の手を引き寄せるとシャワーヘッドから出ているのは水だった。
「何をしてるんだ!よけいに体が冷えるだろう!それに、服は脱ぎなさい!」
半ば怒鳴りながら女の子の濡れた服を脱がす。されるがままの女の子は嫌がる風でもなく、きょとんとしてロイを見上げている。
「・・・・・?」
何が違っていたの?と言わんばかりの無垢な瞳に図らずもどきりとした。
(・・・シャワーを浴びたことがないのか?)
そんなことはあり得ない。雨に濡れただけでひどく汚れていたわけでもない。使い方が分からないのか?いや、シャワーから水を出すのはしていた。お湯の調節がうまく出来なかったのだろうか。
裸になった女の子がにこにこしてロイの手を引く。
「・・・・・一緒に、入るか?」
戸惑いながらロイが話しかけると女の子の顔に太陽が浮かんできたかのように満面の笑みを浮かべてきた。
しかし、幼いとは言え、異性とシャワーを浴びるというのは、と一瞬躊躇したが、あまりにも女の子が嬉しそうなので、ままよ!とばかりに自らもズボンを脱ぎ棄てた。
小さい子を風呂に入れるなど今までやったことはなかったが、適温のお湯を体に掛けてやるとまた嬉しそうに笑う。
「きもちいい〜〜〜〜〜〜〜!!」
かわいらしい声で感嘆し、両手を広げてお湯を受ける。
「ね!あったかい雨って、きもちいいね〜〜〜〜〜!!」
不思議な表現をすると思いつつも体と髪の毛を手早く洗う。やっと女の子の顔にも赤みがさしてきて一安心した。ロイも自身の体を手早く洗って女の子に大きなタオルを頭からかぶせ、湿り気を拭き取った。
ロイの自宅には当然ながら小さい子供用の着替えなどはない。たまにくるエドワードでもこの家にいる時にはロイのシャツを着ている。仕方がないので半袖のアンダーシャツをかぶせたが手も出ない。
「乾くまでがまんしなさい。」
丈も引きずりそうだ。
やっと落ち着きを取り戻し、冷静になって女の子を見つめた。この女の子に関してわからないことだらけだった。
「・・・きみの名前は?親は?どうしてここにいた?」
つい矢継ぎ早に質問を投げかけた。女の子は聞かれたことに気に留める様子もなく、ロイを見つめてにこにこしている。それとは正反対にロイの眉間にしわがよる。
「・・・言葉が通じないわけじゃないよな?私の言っていることがわかるだろう?話したくないのか?でも呼ぶのに困るから名前を教えてくれ。」
「・・・な・・まえ?」
意味がわからない、という風に首をかしげている。
「そうだ。名前だ。なんだね?」
「なまえって、なに?」
意外な問いかけに怯みそうになるが気を取り直す。
「君は、なんて呼ばれているんだ?それが名前だ。」
んーーーー・・・としばし考えている。
「よくわからないけど・・・ビッキー・・・かな?」
記憶喪失でもあるまいし、よくわからないという言い回しが気になったがとりあえずこれで呼び名ができた。
「わかった、ではビッキー、君の親御さんはどこにいる?」
「・・・・・川の・・なか?」
一瞬息を呑む。親が川の中ということは、両親は溺死したのだろうか。確かにこの雨の時期で、川は増水している。死者がでたという情報は聞いていないが、行方不明者は出ているかもしれない。
「そ・・・そうか。」
気の毒なことを聞いてしまった、とロイは申し訳なさそうにそれ以上聞けなくなった。それとは裏腹に当の親を亡くしたであろうビッキーの表情はあっけらかんとしている。小さすぎて、この子を襲った不幸を受け止めることができていないのだろう。
「ビッキー、かわいそうだが君をここに置いておくことは出来ない。とりあえず憲兵さんに連絡をするよ。」
「けん・・・ぺいさん?」
解っていないのを勝手に無視して話を進める。
「そこから君が暮らせる施設なんかを紹介してもらおう。」
「・・・ここじゃなく、どこかに行かなきゃいけないの?」
先ほどまでのにこにこ顔がくもる。
「そうだね、私も仕事があるし、君の親でも親戚でも」
「いやだ!」
ロイを遮るように大きな声を出す。
「いやだ!ここにいたい!ここじゃなきゃ、やだ!」
口をへの字に結んで勢いよく首を振る。
「やだよ!ここにいちゃいけないの?どうして?ね?どうして?」
ロイのそばに寄ってきて膝によじ登ってきた。間近になった顔からは不安と悲しさと、猛烈な抗議の色も見える。
「だから、私は君の親でも親戚でもない。」
冷たく言い放ってやるとビッキーは一瞬抗議を止め、じっとロイを見つめる。が、その次の瞬間、顔を大きくゆがめて睨みつけた。
「う・・・・・うわーーーーーーーーーーーん〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
静かになったのもつかの間、大声で泣き出した。
「なんでよ〜〜〜〜〜どうしてよ〜〜〜〜〜ここに居たいってだけなのに〜〜〜〜〜!!」
それが問題なのだ、と突っ込みたくなるが泣き声の大音響は容赦なくロイの思考を麻痺させる。
なぜここに居付いているのか。どうしてもここにいたいと訴えながら、目には涙まで浮かんでいる。普段聞きなれない子供の泣き声と扱いに一部うんざりしながら、それでもだんだんとなぜか罪悪感まで出てくる。なぜこんなにも泣かせているのか、が分からなくなってくる。小さいものが自分にすがって泣いている、それは自分以外に頼る者が無いからに違いない。そんな子供が息も上がるほどにしゃくりあげ、大粒の涙と鼻水を流し、ここに居させてくれと訴えている。それを呑まないのはなにか・・・罪のような気がしてくる。・・・あれ?
ひとまず今さっき、自宅謹慎を言い渡されて家にはいられる。
「わ・・・・・わかった。ひとまずここに置くから、とにかく泣き止みなさい!」
苦し紛れに言うとビッキーはぴたりと大音響をやめた。
「ここにいてもいいの?!いいのね?」
さっきまでの泣き顔は一瞬にして影をひそめ、明るくかわいい声で嬉しがる。
「ありがとう!ロイ!だぁ〜〜〜〜〜〜いすき!!!」
短い腕をロイの首に巻きつけてきてぎゅっとぶらさがってくる。いきなりの事にロイもたじろぐが、大好きと言われては無下に引き離すのも気が引ける。しばらくそのままにしておこう、とビッキーが離れるのを待っていたが、一向に離れる様子がない。
「・・・ビッ・・・キー?」
動かなくなって様子をうかがうと小さな規則的な息遣いが聞こえてくる。
ふと気付くと首に回っていた両腕がだらんと力なく下がっている。
「・・・・・ね・・てるのか?」
くうくうとかわいい寝息を立てている。泣き疲れてしまったのか、ちょっとやそっとでは起きそうもない。
背中を支え、ベッドへ運ぶと手足を縮めてころんと丸くなったが目を覚ますことはなかった。
「・・・ずるいな。」
かわいらしい寝姿についロイもくすりと笑う。
普段子供を間近であまり見ることがないせいか、小さな柔らかい手や爪がちゃんと大人と同じ作りをしているのが不思議に思えた。
弱い者は生まれながらに保護されるようにできている。泣き落とし、甘え、無意識に煽る父性。
その法則にまんまとはめられたわけだ、と苦笑しながら寝室を静かに出た。
篠突く雨 おまけ・・・あります
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謎の女の子に調子が狂いっぱなしのロイ、可愛い!!!!!!!(笑)
クールになりきれないとこが何ともvvvv
座敷わらしかと思ったけど、川の中???メダカっすか?!!!
2013/7/1(月) 午後 6:35
5:14内緒様>へへへ・・・御想像におまかせします〜〜〜
ありがとうございます〜〜〜
2013/7/8(月) 午後 4:01
はっぴー様>今回のロイは全然クールになれないんです。。ヘタレでして(笑)かっこ悪いんですよ・・・
何者でしょうね・・・そのうち、明らかに?
2013/7/8(月) 午後 4:03