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『雨』 村雨

村雨・・・激しく降ってすぐ止む雨
 
 
 
「傷、なかなか乾かないね。」
川沿いの遊歩道で柳の枝で引っ掛けた頬の傷がなかなかふさがらない。そう深くないはずだが、放っておくと多くはないが血が枕や衣服を汚すので絆創膏を貼らざるを得なかった。
「なんかバイキンでもはいっちゃったのかなぁ?」
大きな鎧の指で器用に絆創膏を取換えながらアルフォンスが傷を覗きこむ。
「ま、オレ自身がもうバイキンみたいなもん、ってことか?」
自虐的なことを言うが声は明るい。
雨に降られたと濡れて走って戻ってきたが、傘を持って出かけたはずだ。が、アルフォンスの目にも出て行ったときより明らかに表情が明るくなった。
 
老人と話をしてから考え込むことが多くなった。が、不思議なことに重くならなくなった。でも答えはまだ出せてない。
「ちょっと出かけてくる。」
「兄さん、ひと雨降るかもしれないから気をつけて。」
「わかった。」
見送った後ろ姿は元気がよくて、少しづつ心の傷は癒えているようにアルフォンスの目に映った。
 
川沿いの遊歩道沿いのベンチへと向かう途中、アルフォンスが言っていたように雨が降り出した。やっぱり、と空を恨めしそうに見上げ、パーカーのフードをかぶって走る。
先日老人と話をしたベンチに傘を差した人影があり、いた!と走る足も急ぐ。が、前回と違うのはそこにいたのが老人だけでなかった。
 
なんだろう、と速度を緩めてうかがうと、確かにベンチに老人はいるがその前にほかに憲兵が二人立っていた。突然の雨に憲兵の肩が濡れている。何か話をしているので聞こえる距離まで近づこうとゆっくり歩くと思いのほか憲兵の声が大きく興奮している。
「おい!じじい!この傘はどうしたんだ!これは軍の官給品だぞ!」
エドワードがはっとした。老人がさしていた傘は先日エドワードが貸したものだった。そうだ、あれは司令部から借りて返そうともって出て、ここで老人に貸したままだったのだ。
「あー・・・すみません、これは拾ったもので・・・」
「そんなことを言って、ウソに決まっているだろう!どこかで盗んだんじゃないのか?」
憲兵に詰め寄られているというのに老人の声は平静を保っている。が、老人に盗みの疑いが掛けられている。
黙って聞いているわけにはいかない、と憲兵の近くに走り寄って行くと老人もエドワードに気付き、近づくな、と手で制する。
「盗んだんじゃありませんよ。落ちていて、拾ってこのじじいが雨よけに使っていただけです。」
「落ちているなんてことがあるか!じじい、お前よく見ると・・・イシュバール人か?」
「恰好はイシュバール人に似ているかもしれませんが、違いますよ。軍の傘なら、お返しします。」
雨の降る中、老人が傘を畳んで憲兵に差し出した。
「じーさん!」
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思わずエドワードが声をあげるが老人の鋭い眼光が何も言うなと訴える。
「すみませんね。軍のものだとは知らずに使ってしまいました。お返しします。」
老人が差し出した傘を憲兵が勢いよく奪い取る。ふん、と老人を蔑んだ目で見てから二人の憲兵は傘を差して立ち去った。
憲兵の背中を見送る老人は恨みがましくもなく、にこにことしてまさに好々爺としている。エドワードにも目を向ける。それと同時にエドワードも老人に走り寄った。
 
「じーさん!なんでオレが貸した傘だって言わなかったんだよ!あいつら、じーさんを泥棒呼ばわりしたんだぞ!」
憲兵が老人にした仕打ちにものすごく腹が立っていた。
「雨降ってきて、じーさんが差してた傘がちょうど目に入ったから、ってだけなんだろうさ!偉そうに、盗んだんだろうなんて疑いまでかけて、サイテーな奴らだよ!」
激昂して怒りを露わにしているエドワードとは正反対に老人は雨に濡れながらにこにこと笑ったままだ。
「じーさん!オレになんで説明させなかったんだよ!憲兵に顔は広くねーけど、軍に連絡を入れてもらえれば釈明だって出来た。じーさんが泥棒じゃないっていう証明もできたっていうのに!オレが銀時計見せて貸した傘だって言えば憲兵だってあんな
態度取らなかっただろうし!」
悔しがるエドワードが声を大きくする。
「坊主。」
老人が低い声で制する。
 
「それもできただろうが、それでどうする?」
老人の言葉にエドワードが意外そうに黙り込む。
「わしに傘を貸した経緯も聞かれるだろう。ここで会っただけの老人に。なんて説明する?」
エドワードがはっとする。
「坊主も借りたものだろう?お前の階級や身分を明かしたからといってどうなる。傘は結局は返さなきゃならん。」
正論である。借りたものは返さなきゃいけない。憲兵が軍に連絡を入れればいやでもあの後見人の耳に入ることになる。
「でも、あんな憲兵の態度、許せない!」
「わしは気にならん。別になんと言われても、確かにわしの物じゃない物を持っていた。どんな経緯があったとしてもな。」
「それにしたって!」
「痛くもない腹を探られて、坊主が嫌な思いをする。それだったら、わしが盗んだという疑いを掛けられたとしても、返すものなら返した方がいい。」
老人は落ち着いて淡々と言う。
 
「・・・なんで!」
憲兵に何もできなかった自分に腹が立って情けなくて叫びに近い。
「なんで、じーさんが嫌な思いしたのに、オレ・・・なにも出来ないなんて、なんか・・・悔しくて・・・」
「いいんだよ。坊主が関わらなくても済んだことなら、それでいいんだ。余計なことは考えなくていい。坊主が見ていないところで済めばよかったんだが、居合わせてしまって、悪かったな。」
「じーさん!!」
老人に謝ってもらうことなど何一つないのに。老人の柔らかい手がエドワードの頭をぽんぽんと優しく叩く。
「悪かったのはオレの方だよ!ごめん。」
老人が制するのも聞かずに憲兵の前に立ちはだかることもできた。それをしなかったのは自分自身にわずかでも保身の感情があったのが恥ずかしくなった。
 
「坊主が謝ることなんか無いぞ。」
からからと老人が明るく笑う。対照的にエドワードは目からこぼれる涙を抑えることができなかった。
「・・・なんで・・・なんで・・・オレをかばうような・・・こんなことしたんだよ・・・」
ぐずっ、と鼻をすすりながら訊く。
「・・・そうだな、坊主と話が出来たのが嬉しかったから、かな。」
明るい表情で老人が空を見上げる。
いつの間にか雨が上がって雲間から日が差していた。
 
 
 
れいさんにオフ会の時に描いていただいたイラスト使わせていただきました。
うちのスキャナーが悪いのか、画像がいまいちですが実物はめっさ素敵です!
ありがとうございます!
 
次回陰雨に続く

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