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『雨』 陰雨

陰雨・・・じめじめと降り続く雨
 
朝早く、訪問者を知らせるベルが鳴る。
ロイはすでに起きて朝のコーヒーをすすっていた。一気に現実に引き戻されてちらりとビッキーの姿を探した。が、何かを察したのか、見当たらない。
ドアを開けると雨に濡れた副官が立っていた。外は朝からじめじめとした雨だった。
「お休み中恐れ入ります。早急にお知らせしたいことがありまして。」
何気なく副官を部屋の中へと迎い入れると、顔色が変わった。それを見てロイも部屋の中の状況にはっと息を呑む。
脱ぎ捨てられたままのアンダー、下着、タオルが散乱し、テーブルにはカップや何かを食べたような屑や痕が残る。
副官が普段の自宅の様子など知る由もないが、それにしても散らかっている。
ロイは多少焦り気味に、せめて見苦しい汚れものを拾ってランドリーにぶち込んだ。
副官も察しよく、見ないふりをしてくれた。
もう一人小さな同居人がいるなどとてもじゃないが言えない。
 
「すまない。来るとわかっていたらもう少しなんとかしていたのだが・・・」
苦し紛れの言い訳も副官には通じない。
「謹慎期間中でも仕事は溜まっていきますから。書類に目を通すくらいはできますよね?それと・・・」
書類の束をテーブルに置き、事務的な口調が一瞬止まった。
「・・・査問委員会の日時が決まりました。出席されますよね?」
「・・・・・・」
ロイが黙り込む。
「大佐?」
「しなきゃいけないものか?」
副官の顔色が変わった。
「あたりまえじゃないですか!今回の事について、ちゃんと申し開きをしてください!」
「出たって、私はなにも言うことは無いぞ。」
ぼそりとつぶやく。
情けない上官の姿に副官の頭に血が上る。
「バカなこと言わないでください!このまま理由も無しに上官を殴ったバカな士官で終わるつもりですか?」
「それならそれでもいいかもしれない。とにかく、今回の事については何か言うつもりはない。何か言って、申し開きをしたとしても上層部が変わるとも思えん。形だけの査問などになんの意味もない。」
何もかも捨て去ったくたびれた男の顔だ。
「そんなっ・・・そんなことをしたら!」
「南方か?」
「・・・・・・・」
副官の沈黙は肯定を示唆する。
 
アエルゴとの国境では大きくはないが小競り合いが続いている。ここにいては実感もわかないが、南方では兵士が何人も命を落としている戦場がまだ存在する。
「南方の戦線に行けというのなら受け入れよう。だが、死ぬつもりはさらさらないぞ。必ず生き残って、それどころか戦果をあげて昇進して戻ってきてやる。」
不敵な笑みを浮かべて吐き捨てるように言う。大方の予想はついていた。邪魔者は体よく戦場で命を落とすからだ。それが敵からの攻撃によるものとは限らない。
もっとも、その思惑に乗ってやろうなんて気も全くない。
「上層部の悔しがる顔が見ものだ。」
自虐的な笑みが浮かぶ。
副官の半ばあきれ顔が目の端に映る。
「それなら私も行きます。大佐の背中を任されていますから。」
「君まで行くことは無い。」
「承服できません!」
副官に怒りの色が点る。
 
「本来なら、今ここで背中を撃ってもいいんですよ!訳は知りませんが、投げやりになってるのにお気づきにならないんですか?」
道を外れたら背中を撃ってよしと言っていた本人からの言葉に怒りが頂点に達した。
「トップに立って、軍を正してやるという野望はお捨てになったんですか?そんな遠回りしないでください!みんな、大佐が戻ってくるのを心待ちにしてるんですから。マスタング組の長がいなくなってどうするんですか・・・」
最後の方は力なく途切れた。
周りや副官が尽力を尽くしてくれての査問の機会を得たのは痛いほどわかる。それでも言えないことがある。
「迷惑をかけてすまない。だがこれは私個人の問題だ。ゆずれない部分をごまかすのは性に合わない。」
なにがゆずれないというのだろう。この期に及んでそれを話してくれないこの男にも腹立たしかった。副官として信頼されていなかったのかと悲しくもあった。小さなメモを机上に置く。
「査問委員会の日時です。とにかく、出席してくださいね。」
返事もせずに黙ったままのロイだったが副官はきっちり敬礼をして退出していった。見送ることもしなかったが、苦渋に満ちた表情であろうことは容易く想像がついた。
 
「あの人、ちょっとこわかった・・・」
どこにいたのか、ビッキーがすぐ隣にいた。突然の登場に意表を突かれて驚く。
「でもね、かなしそうだったよ?」
ビッキーまでもが悲しそうな声で言う。ただ怖いだけでなく、なぜ怖くなっているのかを理解しているようだった。
「・・・・そうだな」
顔も上げず、力なく答える。
「あの人、ロイが大事なんだよ・・・」
「・・・ああ、上司だからな・・・」
話を流したロイの答えにビッキーが口をへの字に曲げる。ふん、と小さく息巻いてテーブルの上のカップを持ってその場から離れた。
 
査問委員会で話せと?あの、二度と聞きたくない侮辱を査問委員会の衆人の前で披露しろというのか!
考えるだけで吐き気がした。
 
 
 
8月になっちゃいました・・・もうちょっと続きます
次回「雨濯」に続く

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