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暴風雨・・・激しい風をともなった雨・嵐
風が音を立てて窓をゆらす。
雨も勢いを弱めることもなさそうだ。窓ガラスに雨粒が当たる音が聞こえてくる。
寝室に入ってはみるものの、なかなか寝付けない。
ビッキーがいつものように手足を縮めてすり寄ってくる。ロイもそれを包み込む。ロイの胸にぴたりと額をつけてくるのでビッキーのシャンプーの匂いが鼻孔をくすぐる。
雷まで遠くの空で鳴り始めた。そのたびにビッキーが身を縮める。
「・・・どうした?こわいか?」
「ううん。こわくないよ。でもすごい雨だね。」
「家の中にいればだいじょうぶさ。」
こわくないと言うものの、不安そうなビッキーを安心させたくて頭をなでる。
「朝になれば止むね。」
ロイの手の感触に笑みを浮かべて言った後、ふいに顔をあげてロイと目線が合う。
「んふ・・・・」
ビッキーの頬がかわいらしく盛り上がる。
「なんだね?」
「ロイィ・・・・あのね・・・」
甘えた声でもったいつける。
「笑ってるロイがいいよ。」
ん?という顔つきのロイに笑いかけながら、小さな手でロイの頬をさわる。明日には剃ろうと思っていた無精髭にビッキーの潤いのある指先が引っ掛かる。
「笑うには、うそついちゃだめ。うそつくと、こころが悲鳴をあげるよ。つらいでしょ?」
そんな素振りを見せてしまったのか。それとも敏感にこの子は感じ取ったのか。否定できない。
「悲鳴をあげてたかい?」
「・・・うん。つらいって、叫んでた。お外みたいに、風がふいて雨が降ってた。」
見透かされているようでなにかこそばゆい。そうだったかもしれない。
「明日、ちょっと出かけてくるけど、待っていられるかい?」
明日は査問の日だ。そこでちゃんと査問を受けて、すべてを話すつもりはないが、下げるべき頭は下げよう。今戦場に行くわけにはいかない。
しばらく待つがビッキーの返事がない。
「?」
ロイの体にすっぽりおさまったまま、すでに規則的な寝息を立てている。ロイはくすりと笑って髪の毛をなでた。
また今夜も心地よいぬくもりを抱いて眠れそうだ。ビッキーにつられるようにロイもすぐに眠りの世界に誘われた。
妙な夢を見た。いや、夢なのかどうかも怪しい。
ビッキーがベッドサイドに立っている。
もう起きたのか、と言おうとするが体を起こすことができない。
「ロイ・・・・・・・」
ビッキーがかわいい笑顔で話しかけてくる。
「・・・ありがとね。」
ただ一言、それだけ言って離れていく。
ロイが呼びとめようにも声がでない。身動きもできない。
どんどんビッキーが遠くなる。
どこにいくんだ!いくな!ここにいなさい!
声にならないから聞こえるはずもなく、ビッキーは振り返ることなく明るくて白い世界に離れていく。
手を伸ばしてみるも、思うように体が動かない。
その時ビッキーの隣に誰かが並んだ。
親?いや、腰の曲がった老人だった。
二人が顔を見合わせて笑顔を交わし、手をつないだ。
そして、白い世界に消えていった。
朝日がカーテンから差し込んでくる。
何日ぶりの晴天だろうか。
頭はすっきりしている。
なんとなくわかってはいたが、ベッドには一人だった。
ああ・・・行ってしまったんだな。
喪失感はない。寂しくはあるが、これでよかったのだと思えた。
あるべき位置にあの子は帰ったのだ。そう、帰った、という表現がしっくりくる。
安心して手を離れて行ったような気がした。妙に心は晴れやかだった。
一人でコーヒーを入れ、一人で飲む。髭を時間をかけて丁寧に剃る。
ちょっと前までの日常をしているだけだ。
査問の時間まではまだあるが、早めに家を出た。
嵐の後の晴天。
眩しい朝日が久しぶりに心地よかった。
****************
外の激しい雨になかなか寝付けない。
眠る必要のない弟に気付かれないようにベッドに入って目を閉じてみるが一向に眠気が降りてこない。
暗闇で天井を見つめながら老人の言葉を頭の中で反芻する。
『痛くもない腹を探られる』?
意味があまりピンとこない。どういうことか?
老人に傘を貸した経緯を憲兵に説明するにしてもなぜと言われればエドワードも言葉に詰まる。
なにか関係があるかといわれてもはっきり言って無い。
そうしたら軍に連絡を入れるだろう。そこで登場するのは後見人であるロイ・マスタングだ。今謹慎中でホークアイ中尉が対応はしてくれるだろうが、連絡や報告は本人の耳にも入る。
あの時の一件以来、どうも顔を合わせるのはなにか気まずい。
結局は傘は軍に返すものだったし、あの憲兵も使い終わったら軍に返すだろう。
やり方はどうであれ、これでよかったのか・・・
老人がオレを気遣ってくれたのか。自分がどう思われようとかまわず、オレに関わらないようにしたのか。
どうもそれでは納得がいかない。なぜ、そんなことを?
話ができて嬉しかったと言っていた。オレも話ができて嬉しかった。老人があの場所に座っていても話しかける者などいなかったのだろうか。そんな珍しいヤツに、なにかしてやりたかったのか・・・
外で雷が青白く空を裂く。その途端にどどんと大きな落雷の音がした。
さすがに近かったようで宿の部屋もみしっ、と音を立てる。
「うわあ!びっくりした!・・・近かったみたいだね。」
アルフォンスが声をあげる。大きな鎧の体も中身は少年らしく雷に驚いている。
「雨もひどいね。でもラジオでは明日は止むって言ってたけど。」
お互い雨の日は調子が悪い。エドワードも関節が痛むし、アルフォンスもこんな体だから雷や雨にはなにかと気を使う。
「じゃあ明日は出かけられるな。」
暗がりで弟に笑いかけて目を閉じる。
そう言えば、大佐も雨には弱かったな、とふと思い出す。
謹慎中でどうしているんだろう、と思いをはせると思い出したくもない言葉がいやでも浮かんでくる。
上司を殴ったことに関わって欲しくないということなんだろう。でもなぜ?
また近いところでどどんと稲光とともに落雷の音がした。
その瞬間、稲光に青白く照らされる川沿いの柳の老木が頭に浮かんだ。
はっとした。
痛くもない腹を探られる・・・?
オレに関わるなと言ったのは・・・オレか??
がばっとベッドから身を起こす。
「また落ちたみたいだね。」
アルフォンスは雷に驚いて起きたと思っているらしいが当のエドワードはそうではなかった。
オレだ。
オレに関わることで、大佐は上司を殴った。そう考えると繋がる。
訳を話せば痛くもない腹を探られて嫌な思いをする。
そう、たとえばこの禁忌を犯した体の事とか、なにか謂れのない疑いとか。
それで、わざと突き放したような言葉で関わりになるなと距離を置いた。
そう考えると居てもたってもいられなくなった。ベッドから立ち上がって着替え始めた。
「兄さん?」
物音に気付いたアルフォンスがいぶかしげに様子をうかがう。
「オレ、ちょっと大佐のところに行ってくる。」
「ちょ!兄さん!何時だと思ってるの?夜明けまでまだ時間があるよ!大佐だって寝てるよ!」
言われてそれもそうかと少し落ち着いた。寝起きを起こされて不機嫌にならない人間はいない。
「あ・・・でも・・・」
アルフォンスが窓の外を覗きこむ。
「雨、上がりそうだね。」
東の空がうっすらと明るくなってきている。久しぶりの太陽も拝めそうだ。
エドワードも窓から夜明け間近の空を見上げる。
大佐に訊きたいことがある。でもその前に、行かなければならない場所がある。
どうしてもぬぐい去れない一抹の不安が心に影を差す。
妙な胸騒ぎに気ばかり急く。
ご無沙汰してました。
夏が終わろうとするころに雨季の話を書いてるのもなんともですが・・・
暴風雨一過に続きます。もうちょいで終わります(笑)
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