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『雨』 暴風雨一過

暴風雨一過・・・嵐が過ぎ去ったあとのすがすがしい晴天
 
 
雨上がりの湿った空気の中、抜けるような青空が広がっている。朝日にまだ鋭さはないが、この後久しぶりの晴天の準備をしているかのように眩しさを刻一刻と増している。
そんな中、エドワードは宿を夜明けとともに飛び出し、走っていた。
市の中心を流れる大きな河川はこれまでの雨で水かさを増し、濁った水がごうごうと音を立てて流れる音が遠くからでも聞こえていた。
目的の場所にたどり着くまで走る足を緩めない。歩いてなんていられない。気ばかり急いて水たまりも気にせずにまだ乾いていない泥を跳ね上げる。赤いコートにも盛大に泥はねがあがる。
 
いつも老人と話をしたベンチが目に入る。
そこに老人が座っているとは想像していなかったが、もっと絶望的な光景が目に入る。
ベンチの後ろにあった柳の木が真っ二つに裂けているのを見てはっと息を呑む。
「じーさん!!!」
そこに老人がいたわけでもないのに、ついそう発する。
 
昨夜の雷に撃たれたのだろう。木の幹から焼け焦げたような匂いもする。
駆け寄ってまだ雨の湿り気を帯びた幹を触ってみても、生気は感じられない。
そっとなでてみるが、当然なにも変わりはしない。
試しに手を合わせて根元に触れてみるが練成光は発するものの、蘇ることはなかった。
根元がもともと腐っていたのだろう。風と雨と雷で完全に倒れている。
うすうす予感はしていたが現実を突きつけられて絶望感から目の前がじわりと潤む。
その時、頭にふわりと手で触れられる感触があった。
はっと俯いていた顔をあげてみるも誰かいたわけでもない。
(ありがとうな・・・)
聞き覚えのある穏やかな声が聞こえたような気がした。
「・・・じーさん」
そんな気がして仕方なくて、つい声になった。不思議と心は落ち着いた。
 
昨夜頭にうかんだ稲光に照らされるこの木の光景は何かを予感させていた。
ここにくる間もこうなっているだろうと予想していた。
それを確かめた今、やっぱりと思うが残念と思わなかった。
そして、あの老人ともう二度と会えないのを確信した。
 
「・・・全国各地に家族を作って、どう老いぼれるか。」
老人の言葉を呟いてみる。そうやって世代が変わっていく。それに抗うことなく、自然の流れの中で、自分の役割を全うして、そして終える。
「・・・じーさん、なかなかイカす終わり方じゃねーか。」
くすりと笑みも出るが寂しさは拭え去れなかった。
ぽんぽんと幹を叩くと木の根元にいた小さなアマガエルがぴょんととび跳ねた。
根っこには柳の木の新芽もある。
若い緑の葉を見てさっきまであった寂しさも消えたような気がした。
「またここで、会えるといいな。」
何十年後かにはこの小さな新芽も風にたなびくようになるだろう。
その光景をベンチに座って想像する。
悪くないな、と川風に吹かれながら川面を見つめていた。
 
 
 
 
 
まだ査問の時間には早いな、と普段通らない川沿いの遊歩道を歩く。
昨日までの雨で河川の増水も気になっていたのもある。
幸いなことに河川の氾濫は免れたようだ、とほっと胸をなでおろす。
しばらく歩くと見覚えのある赤いコートを着た人物がベンチに座っていた。
「・・・鋼の!」
謹慎になって関わり合いになるなと言い捨ててそれっきりだったが、それを忘れそうになるほど会いたいと思っていた人物だ。
うなだれて身動きしないエドワードに声をかけるとこちらを向いた。しばらくぶりに見た顔は意外にもすっきりしている。
「・・・大佐。しばらくだね。」
少し笑みまで浮かべて静かに答えた。まるで手ひどい言葉を投げつけてしまったことなど無かったかのように穏やかに笑ってくれる。
「どうした。こんな場所で。」
まだ時間があるのでベンチの隣に腰掛けた。
「昨日の雷、柳の木に落ちたみたい。」
濁流で茶色くなった川面を見つめたまま、エドワードが静かに言う。
言われてロイがベンチの背後にある二つに裂けた木の幹を振り返って眺めた。
「ああ、昨夜の嵐はひどかったな。」
こくん、とエドワードが頷く。
 
ロイが多少の拍子抜け感を感じずにいられなかった。
あんな別れ方をしたにも関わらず、責められもせず穏やかな表情で川面を眺めるエドワードになんと声をかけていいものか、正直困っていた。いっそ胸倉を掴まれた方が楽かもしれない。
「・・・その、頬、どうした?」
エドワードの頬に貼られた大きな絆創膏が目についた。エドワードが絆創膏に触れてああ、と受ける。
「擦り傷なんだけど、なかなか血が止まらなくて。」
言いながらペリペリとはがす。剥がされて露わになった頬をロイが近くで凝視するが・・・
「・・・傷なんか、何もないぞ?痕も無い。」
跡形もなく消えていた。
 
エドワードも予感はしていた。きっとこの傷は精神的なものだったのだ、と。
心中に溜まっていたもやもやとした膿が傷の治しを遅くしていたのだろう。
面白いように合点がいってクスリと吹き出した。
「あのさ、大佐。・・・大佐に、訊きたいことがあるんだけど、仕事終わってからでも時間取れないかな?」
珍しく奥ゆかしい問いかけをしてきた。
「私も査問が終わってから君に話したいことがある。今回のことや、いろいろ・・・」
久しぶりに心の奥に疼くものを感じた。同じ事を考えていたのが嬉しかった。
「わかった。今夜、そっち行くよ。」
エドワードも同様に内部の熱を籠らせる。
 
雨上がりの晴天に金の髪の毛がさらりとなびいた。
なんと美しいコントラストを醸すのか、もっと眺めていたいが時間がない。
ベンチから立ちあがると裂けた柳の木の根元で何かがぴょんと跳ねた。
目を凝らして見ると小さな緑のアマガエルが草の中へと逃げて行った。
ロイがはっとして草の中を覗き込むとロイの真正面にちょこんと座ってこちらを見ている。
「あ・・・まだいたんだ。さっきもいたぞ、そのカエル。」
エドワードの方を振り返っている間にそのカエルは姿を消した。
「・・・待ってて・・くれたのかもな。」
ロイのつぶやきにエドワードが不思議そうに眉をひそめる。
なんでもないよ、とロイが査問会へと去って行った。
 
 
 
 
 
もうちょいです。
ちなみにビッキーの名前の由来は秋田弁です(笑)
次回は「遣らずの雨」で。

閉じる コメント(2)

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言い話ですにゃ。まだ続きあるの?うれしいな。

2013/9/22(日) 午後 4:56 超新感覚癒系魔法魔王少女5656

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5656様>ありがとうございます。性懲りもなく(笑)まだ続いたりしますのです・・・

2013/10/3(木) 午後 3:51 はなあんこ


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