来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

のんびりしたブログですがよろしくお願いいたします。

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月見草

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   月の雫    と   光の雫

 暑さが残る日中だが、夜半網戸のままにしておくと思わず身をちじめるような風が、虫の鳴き声と共に入り込んでくる。風鈴が、「チリン!秋ですよ」と、澄んだ一声で鳴った。

「忘れないうちに片付けなければ」と、夜の庭に降り立った。一舜(!)、息を呑んだ。月見草(待宵草)が庭一面に咲いていたのだ。暗がりの中で、部屋から漏れる僅かな明かりに浮かび上がっている。その数は、50数個はあるだろうか。

私は大急ぎで二階に駆け上がった。窓から身を乗り出して下を見る。思ったとおり…、月見草の花の黄色が、きらきら光る川底の石のように散らばって咲いている。手に受けた月の雫を、ばら撒いたように咲いている。窓からその月の雫を掬おうとしたが、手は届かなかった。しかし、その時私は見た。


二、三日前に「虹の橋」という詩に出会っている。

「天国の、ほんの少し手前に「虹の橋」と呼ばれるところがあり/地上にいる誰かと愛しあっていた動物は/死ぬとそこへ行く/そこでは/みんなと一緒に走り回って遊んでいる」と言う。(アメリカンインディアンの詩)。

あちこちに揺れて浮かぶ月見草が、一瞬走り回って遊んでいる犬たちに見えたのだ。愛犬(ごん太)が楽しく走り回っている姿が重なったのだ。ごん太が月の光を浴びてみんなと楽しく遊んでいる。

月見草は、ごん太と散歩に出たときに野道に咲いていたのを一株いただいてきて、庭へ植えたものである。

以後毎年、種がこぼれ落ち増えて行く。例年は数本だけを残し後は抜くのだが、今年の暑さは私から草引きの気力を奪っていた。加えての長雨が月見草の背丈をぐんぐんと伸ばし、庭はジャングル化していた。

蚊柱にも会う。だから、恐れをなして庭に降り立つことは、ほとんどなかった。夜はなおのことである。

その月見草が、木々の緑と黒い影を下敷きにして、花だけをぽっかりと浮かび上がらせているのだ。

                      ☆

ごん太は夫の勤務先の実験室で生まれた。(昔は小動物を実験や治験に使っていた)本来なら有り得ないのだが、テストに使う犬の中に身重の犬が混じっていてごん太が産まれた。会社が長休みに入ると、治験動物の世話をする人がいなくなり保険所へ連れて行かれる。(その犠牲の上に、私たちは医学や、薬品開発の恩恵を受けていたのだ)しかし、赤ちゃん犬のごん太を、誰も保険所に連れて行けず、我が家に、はるばる電車に乗ってやって来た。夕焼けの入り込む駅舎の光の輪の中に、夫とじゃれあっている可愛いピーグルとリトルリバーの雑種の犬との出会が始まった。

始めは庭に出るのを嫌がり、出そうとすると床に吸い取り紙のように吸い付いて抱きかかえられないようにする。その仕草があまりに可愛くまた賢く見えて外に出す事が出来なかった。数週間後にやっと、夫と4歳、7歳、10歳の子供たちが作った小屋に、表札「ごん太」と掛けられ柿の木の影を落とすベランダに居を構えた。犬の世話は子供たちがした。私は子供のころ猫に引掻かれ、動物が恐くて側を通るのも飛びつかれないように避けて通っていた。子供たちは学校で嫌な事や悲しい事があると、ごん太に自分のお八つを分けながら話を聞いて貰う。私はそれをこっそり聞いて、子供たちの悩み事を知る事が出来た。子供たちがごん太を散歩に連れて行くのに誘われて、夕焼け空や、渡り鳥や、季節の野の花を教えてもらうこともあった。

歳月を経て、子供たちは順番に巣立っていった。最後に残った娘が、ごん太の散歩と世話の仕方を私に特訓し、散歩用のスニカーをプレゼントして巣立った。

私は恐いのと慣れないので痩せた。しかし、いつのまにかごん太は私の子供になり、ごん太と雲を眺め、夕立の中を走り、雪道に並んで尻餅をつき、そしてある夏、月見草が野原いっぱいに咲いているのを見つけた。子供時代に過ごした奈良の野にたくさん咲いていた月見草だ。大きくなってからは見ていなかった。あまりの懐かしさに、ごん太に私の小さかったときの事を話してやり、その一株を貰って帰ったのである。掘り起こす間、ごん太は大人しく待ちその月見草を口にくわえて帰ってくれた。そして、おまけにごん太は草引きも上手だった。土を掘り、草が生えないように走り回る。でも月見草はどういうわけか、ちゃんと残っていた。

歳月が流れ、私もごん太も年を取った。ごん太の髭にも私の髪にも白いものが見え始めた。そして、ごん太は歩けなくなった。ごん太は癌を患った。散歩の好きなごん太は歩けないのに散歩の時間になると鳴きたてる。私は辛かった。自分でもう起き上がれなかった。私が支えるが触られると痛いのか凄く怒る。

傍を通る時に動く空気さえ痛く感じるのか吠えた。横たわったままで便と尿をする。私はそのたび綺麗な所へ移そうとするのだが、やはり動かすと吼える。その顔は怖かった。

当時、私はいろいろと悩み事を抱えていた。ごん太に聞いて欲しいことがいっぱいあった。でも話し掛けることは出来なかった。食べてはその場で吐き、便をし、汚物で汚れなんとか動く片足でにじって移動しようとする。(自分の周りが汚れるのが嫌なのか、私に負担をかけまいとするのか、外に出たいのか戸口に、にじり寄って行くのだ)部屋は汚物の海になった。夜中も悲しげに鳴く。私は服のままで眠ることが多くなった。私は疲れていた。そして別にもう一つ大きな問題が有った。娘が出産のため里帰りする予定日が近づいていたのだ。娘とごん太を会わせてやりたい、でも、妊婦にごん太の汚れた姿を見せたくない思いとで揺れ動いていた。

2002年1月20日、医者にごん太の薬を貰いに行き、「娘が出産で帰って来るが、どうしたらいいのか」と話すと、医師は「もう長くはないですよ」と言った。

その会話をして戻った夜、ごん太は静かだった。時々、「ごん太!」と呼ぶと少し尻尾を動かす。吼えも唸りもしない大人しいごん太がいた。私は、やっと頭や体を触ることが出来た。さすりながらいろいろと話をした。そして、そのうち体がだんだんと冷たく硬くなっていった。ごん太は私と医者の話を聞いてしまったのだろうか。私はごん太を抱いて大声で泣いた。そして首輪をはずし自由に大空をかけめぐってくれることを祈った。

ごん太が死んだ直後予定日より25日も早く、娘が赤ちゃんを生んだ。初産なのに、軽い軽いお産だった。私はごん太がそうしてくれたのだと思っている。娘が言う。「この子『犬笑い』するねん」。「犬笑い?」赤ちゃんが自然に「ニイッ」と笑うのを、(それは「神様が笑わしている」のだと聞いたことがあるが)娘はそう言うのだ。

そして、そのとき生まれた孫はいまでは4歳、そしてまた一人孫が増えた。二人目の孫も初めて顔を会わせた時、やはり犬笑い?をした。

 私は、昨夜月見草の花にごん太を見た。今朝は五時に起きて庭に出てみた。月見草がまだ咲いている。

朝の光の中でまだ咲いているのだ。それは夕べの月の雫の残り香と、新生の光の雫を受けて神々しく見えた。

 ごん太!いろいろと話をしたね。最後に、いっぱい私の話を聞いてくれたね。「ありがとう」。

「でも、もう大丈夫」。

月見草は朝の光も含んで咲く。ごん太はそれを教えてくれた。私はその朝の光をあびて立っていた。




      「日暮の鋪道」     木村徳太郎「日本の旗」ノートより

  
           
               並木の枯葉

               かけてゐる。


               日暮の鋪道

               風のみち。


               小犬が一匹

               かけてった。




 「月光」 木村徳太郎「日本の旗」ノートより

  
         
               ぎんなんの梢の

               實が白い

               月光(つきかげ)。


               地藏さまお笑ひ

               なさるような

               月光。


               線香の匂ひが

               流れてる

               月光。


               いつまで立ってゝも

               祈ってる

               月光。


2006.09.08


♪「弘ちやんは生きている」1〜10はブックマーク(ご挨拶)にまとめて入れました。
 

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花ひとひらさんは、ほんとに優しいのね。愛犬(ごん太君)はきっと月の光を浴びて走り回っていますよ。そぉ!お母さまと遊んだこと思い出しながら・・・もしかしたら家の(私)拳四郎と一緒かもね・・。家では一番男前の次男坊、拳も七年前、癌で亡くなりました。お腹が地面に着くぐらい腹水が溜まって!毎日の散歩のとき私が着ていたブルゾンを着て旅立ちました。

2006/9/8(金) 午後 3:32 [ ささ舟 ]

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花ひとひらさん愛犬って、どうしてあんなに可愛いのでしょうか^^おっしゃる通り誰よりも一番よく話しました。ひっくり返りお腹の撫ぜ撫ぜをせがみ、お母さん(私)の手を取り満足気でしたね。このあたりではあまり月見草を見かけませんので拳はきっと(ごん太君)に「これが月見草だよ」と教えてもらい、時のは笑ったりじゃれあったりの仲良しかもね^^

2006/9/8(金) 午後 4:05 [ ささ舟 ]

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花ひとひらさん。私も50数本の月見草の花の中で酔ってみたいです。この花には多くの思い出があります。「月見草の花」はるかに海の 見える丘 月のしずくをすって咲く 夢のお花の月見草 花咲く丘よなつかしの 中一のとき発表会で親友たちと踊りました。キッチンの立つと何故かこの歌が・・。

2006/9/8(金) 午後 4:44 [ ささ舟 ]

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ささ舟さま。こんにちわ。きっと拳四郎君とゴン太は一緒に遊んでいると思います。私が草引きをすると、背中に乗ってきて「おんぶ」を」ねだり、「肩たたき」もしてくれました。月見草の中に遊んでいるごん太は、初めて出会った時の子犬でした。月の中には兎だけでなく他にも動物がいるのかもしれません。

2006/9/8(金) 午後 5:39 [ 花ひとひら ]

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この夏、我が家は白い朝顔と月見草が幻想的でした。無精もなかなか良いものだと感謝しています。もうぼちぼち花は種を付け出しました。また来年も咲いてくれるでしょう。月見草があんなに綺麗だと、ごん太が教えてくれたようで・・・。「月見草の歌」は、私も大好きです。「宵待草」の歌は、待つ人がいないので月見草の月の雫を手に受けて楽しんでいます。

2006/9/8(金) 午後 5:55 [ 花ひとひら ]

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昨年、植物園の催しに「ほんまもんの月見草」と言うのがありました。花にホンマモンもニセモンもないだろうにと思いましたが、ホンマモンは白い花で夜明けにピンクの色が付くようです。ささ舟さんのかわいい月の雫を(中学生)想像してにっこり微笑んでいる花ひとひらです。

2006/9/8(金) 午後 5:55 [ 花ひとひら ]

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月見草といいながら、なかなか月夜に見ることはありません。 すばらしい瞬間でしたね。 月の中には兎だけではないのでしょうね。 お孫さんもお2人、花ひとひらさんのやさしさを受け継いでいるでしょう。

2006/9/8(金) 午後 9:58 [ rocky ]

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こんばんわ。おむすびです。いいお話を読ませていただきました。ありがとう。わたしも交通事故にあって下半身不随になった犬のマリのことを思い出しました。月見草は不思議な花ですね。まして、夜の月光に浮かぶ姿は・・・生き物との別れはつらいものですね。

2006/9/8(金) 午後 10:02 [ ma_*ha*040* ]

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rockyさん。ほんとに月見草は月の雫のようですよ。いつかきっとrockyさんのことだから見ることが出来ますよ。その中にrockyさんは何をごらんのなるのかしらと楽しみにしています。最近は野原でもあまり見ません。我が家は草ぼうぼうの庭で野原化しています。(^0^)^

2006/9/9(土) 午前 8:24 [ 花ひとひら ]

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おむすびさん。訪問ありがとうございます。おむすびさんの所は、犬も一緒だったのですか。動物にも人にも優しいおにぎりさんが伺えます。月見草のあの不思議な雰囲気が好きです。別れは辛いけれど、花はきっと来年も咲いてくれる。嬉しいです。動物も人間と同じ、交通事故にも癌にもあいますね。私バカだから、動物は自然に安らかに亡くなって行くものだと思っていました。ごん太の前に居たレオはそうだったから。いろんな終末が人間と同じですね。そして、いろんなことを教えてくれる。

2006/9/9(土) 午前 8:34 [ 花ひとひら ]

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我が家では、次女が小学校低学年の時に犬を飼っていました。軒下の犬小屋が住みかでした。或る雷雨の夜に驚いて垣根から飛び出し、車に轢かれて死にました。屋内でこそ同居させていませんが、娘はとても可愛がっていました。老衰は寿命ですから仕方ありませんが、事故死はやはり哀れです。飼い犬もそれぞれの運命があるようです。//「ゆうくれがたに」竹久夢二:ゆうくれがたに/そよ風の/そっと/しのんで/きたことも/夜の河原で 待宵草(まつよいぐさ)の/ほのかに/白くさいたのも/見たのは/若い月ばかり。//

2006/9/9(土) 午前 9:27 [ 道草 ]

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道草さま。犬は雷が嫌いですね。救急車の音にも反応します。犬だけに通じる別の耳があるのでしょうか。お壌様、悲しい思い出が有るのですね。花も同じように種をまかれても、間引かれる、植える場所によって同じものかと思うほど違いが出たり、咲かないうちに刈られたり実を結んで終わるもの、それにいたらないものとすべて生き物には運命があるのかもしれませんね。人間は自分でそれを変えることも出来る。犬や花は自分でそれが出来ない。だから愛しさが増すのかもしれません。いつも素敵な詩を有難うございます。

2006/9/9(土) 午後 3:52 [ 花ひとひら ]


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