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梅の花 纏(まと)いて
「カーンへお行きゃぁしゃたか?」と小春の中で、野良仕事をしている姉さんかぶり、モンペ姿のお婆さんが声をかけてきた。
「カーン?」
私は、小春の中で聞く「カーン」という響きに、なにか懐かしいものを覚えた。もう一度、案内所で貰った地図を確認する。上り下りの坂道、やっと農作業用の軽トラックが通れるだけの細い道。その道なりに沿って真直ぐ行けばよいことになっている。
暖かい日差しに背中を押され歩く。乾いた空気に私の足音だけが響く。その響きに合わせるように、「カーン?」「カーン?」と何度も首を傾げて(かしげて)歩く。
思い出した! 「ラフカディオ・ハーン」!
何故か懐かしく感じたこの「カーン」の響きに、私は「ハーン」を重ねていたのだ。
胸が高鳴なる。いつもの私の癖が出る。(確めもしないで、勝手に自分の想いの中にどんどんと入って行くのだ)。
この田舎に、「ハーン」に繋がるものが何か有るのだろうかと、動悸が打ち始めた。
緑と棚田が広がる小さな農村。ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲の木霊(エコー)が、この自然のなかに響いてくる。ハーンは自然を描写をするとき、「聖なる」「神々しい」を言う。それがそのままあてはまるような、小さい農村風景が目の前に広がっている。
私は「ハーン」「カーン」と交互に呟きながら歩く。
そして「カーン」はいつのまにか「ハーン」に、すっかり置き変わっていた。
デザイン専門学校の学生達が、苔むす大きな庭を持つ民家や、昔ながらの農家の佇まいを残す住居をギャラリーにして、作品の展示会をしているのだ。その一ケ所が「カーン」なのである。
他の民家のギャラリーはすぐに見つけられたのに、その「カーン」だけがどうしても見つからない。案内状をよく見ると、「カタツムリ庵」となっている。「カタツムリ?」「イオリ?」さっきのお婆さんは確か、「カーン」と言ったではないか・・・。
場所が見つからず、もう諦めて帰ろうかと思ったが、その「カーン(ハーン)」の響きが気になる。響きにつられて探し歩いているようなものだ。
溜息混じりにふっと空を見上げた。と、その先に小さな二十段ばかりの石段が浮かび小さい小さい門が見える。何度も前を通っていたのに見過ごしていたのだ。見逃すような小さな庵で、古色蒼然とした門には「蝸庵」と書かれていた。
石段を駆け上がる。女人が少し裾をたくし上げ、内股で上がるに相応しい細幅の階段だが、私は二段飛ばしで上がる。こじんまりと手入れがされいかにも尼寺と思える雰囲気(エコー)が漂っていた。
私はラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の大ファンなのだ。
ラフカディオ・ハーンは「春が運んで来るひんやりした風、空気」「人も物もみんな小さく、風変わりで神秘的」「特有のかわいらしさ」と<日本>を書いている。今は、もう見つけることが困難なような日本の美しさ(自然、庶民の生活)を書いている。ハーンの書物の中で、私はいつも幻想の世界に入り遊ばせてもらっていた。それは、夢みる心地の耽美の一時(ひととき)をくれていた。
そんなハーンを幻想するような庭が目の前にあった。苔むす庭に梅の木が数本、その数本を渡ってくる風は、まさしく「春が運んで来るひんやりした風」である。
庵に入ると「木の繊維を使ったウェエディングドレス」が展示されていた。華美さのない、シンプルな白のロングドレスだ。そして驚いた。小さな二間だけの庵。その四方に明かり窓がつくられ、そこから入りこむ優しい日差しが、ドレスを包んでいる。そして、その四方のどこからでも梅の花が見えるのだ。一帯は梅の花が、霞みのように流れ咲き誇っているのだ。
部屋には一体の白いドレス。外には梅の花。
私はまたもハーンを思い出した。ハーンは言っている。
「日本人は女の外見的な美しさを桜に喩えることはあっても梅には喩えない。ところが、女の貞淑さ、優しさとなると梅の花に喩え、桜には喩えない。女心の可愛らしさは梅の花に喩えられている」と・・・。 全く全く同感だ。
咲いた梅の花もふっくらした蕾も、優しい愛しい<女、乙女、幼児、みどり児>である。孫(赤子)の握りこぶしを思い出した。そおっと広げた可愛い握りこぶしには糸くずがしっかり握られていた。ふっくら蕾も同じように蕊(しべ)をしっかり握りしめている。三分咲き、五分咲き、七分咲き、満開、どれもみな美しく愛しい。白い花は清純だ。
ハーン(カーン)の響きにつられて、探し求めて来た場所は、聞き間違いではなかったのだ。私にラフカディオ・ハーンの面影を見させてくれた。私は愛しい恋人に出会えた心地だった。
一陣の風が起こった。「風花?」と思ったが、それは梅の花の花吹雪だった。
過ってこの庵で修行をした尼僧、このドレスを着るだろう若い女性、そしてあの「カーン」と言った腰の曲がった野良着のお婆さん。舞う花びらの中で色んな女人を想ってみる。<女心の可愛らしさは梅の花>もちろん私も梅の花!。舞い散る梅の花が私を包みこんでくれた。
【「カーン」は「蝸」を(か)とも読みます。それで「庵」(あん)と訛って「カーン」だったのですね。地元の方はただ「イオリ」と呼ぶことが多いらしいです。でも私は「カーン」の響きがとても好きに成りました。この庵は、江戸中期に比叡山の修行僧によって開かれ、三体の仏像と天神様が祭られている事を後で知りました。だから梅の木がたくさんあったのですね】
♪ 「 早春 」 木村徳太郎 童謡詩【日本の旗】ノートより
青空 路の
ビルの壁
並木つゞいて
遠い路。
こぽこぽ一人
歩いてる
チユゥインガムを
嚙みながら。
なんだか 唄を
鼻のなか
こそばく 空に
向けてゐる。
2007.02.17
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ぱやこさま。カーンに「閑庵」を思い出されるとはさすがですね。すぐに何かを思い出せるのって、やはりお若いなと羨ましいです。花が散りはじめています。実がつくためには虫の助けもいるのにね。我が家の梅は例年に比べ花つきが立派です。「梅干たくさん出来る」とばかり思っているのですがどうなるのでしょうね。初音ももう聞きました。虫たちも起こしたほうが良いのでしょうか。でもそうすると、なんだか速く年を取りそうだし・・・。昨日今日と雪を慕い、悲しんで雨が大降りです
2007/2/18(日) 午前 6:59 [ 花ひとひら ]
温室栽培のイチゴですが、昨年は寒くて蜂があまり活発に動かず不作でした。今年は温かくて蜂が活発に動き豊作です。でも、湖西では雪が少なくスキー客をあてにした民宿はあまり活気がありませんでした。地元で布団店を営む親戚の話では雪が多いと布団の仕立て直しが多いとのことです。雪が降る→スキー場が流行る→民宿が流行る→布団屋が儲かる、と風が吹けば桶屋なのです。温かいことも良いこと、悪いこと両方ありますが、人間の身勝手な行為で・・・というのは心しなければなりませんね。梅の花、きれいです。ありがとう。
2007/2/18(日) 午前 11:24 [ おいちにのさん ]
花ひとひらさん、きれいですね。花だよりがあちこちから届くようになりましたが、まだどこへも行っていません。一足はやく喜ばせていただきました。香りも漂ってきそうです。カーンにまつわる話、興味深く拝読しました。目立たない丘の上、見過ごしそうな庵。ラフカディオ・ハーン、日本の美しさを知り伝えた人、私もファンでした。
2007/2/18(日) 午後 0:48 [ あしび ]
おいちのさんさま。雪が多いと布団屋さんが繁盛するのですか。初めて気がつきました。いろんな連鎖反応?があるのですね。どこかで何かが繋がって世の中回っているのですね。此処に来たごろは5月の連休時にまだ比良山は真っ白。里は春たけなわ。寒さで眺める雪でなく五月晴れの空の雪山に感動した物です。またスキ―場の灯かりが夜空を焦がして凍てつく空気のなかでその灯かりを見るのも感動でした。今年は山の明かりもないし、雪もなし。始めてです。毎日良い天気だから、私は家の中でジットしていられないし変な冬です。
2007/2/18(日) 午後 8:32 [ 花ひとひら ]
あしびさま。ラフカディオ・ハーンのファンでしたか。私たち以上に日本の美しさを見つけてくれていますね。「美しい日本」。カーンは丘の上にありました。下のほうには大きな桜がありました。今度は桜を見に行きたいと思います。今年は気忙しいですよ。なにもかも駆け足で来るようで、着いて行くのに大変です。急がなくっても良いと思いますが、合わせるしか仕方がないのでしょうか。
2007/2/18(日) 午後 8:41 [ 花ひとひら ]
花ひとひらさま。こんばんは。梅の花すごく綺麗ですね^^皆さん本当に読書家でいられますね。恥ずかしいですが私は「小泉八雲」の書、ひとつ、二つしか知りません。何時かテレビで、松江で代々医者の名家生まれの俳優、「佐野史郎」が大の八雲ファンであること、娘の名前も「八雲」と命名されたことなど。その辺りから少し興味を持ったぐらいです。これから少しずつ読んでみようかな・・それにしても、苔むす庵と白いウェディングドレスと梅の花。なんと清楚なたたずまいでしょう・・。
2007/2/19(月) 午後 10:41 [ ささ舟 ]
こんばんわ。おむすびです。あちこちのブログから梅便りが聞かれ、「花ひとひらさんの梅が見たいな」という願いがかなえられました。おおきに。とても悲しいことが合った今日の気持ちもなぐさめられました。 怪談・奇談何度も読み返して英文でも必死になって読みましたよ。蝸庵の文字で「カアン」かなと思いました。比叡山にあるのですね。八重桜の頃にいきたいわ。
2007/2/19(月) 午後 11:35 [ ma_*ha*040* ]
ささ舟さま。おはようございます。「小泉八雲」面白いですよ。怪談奇談も面白い。「日本の面影」私はいろんな面影を探して生きているみたいです。庵では若いお嬢さんたちが梅の花のように立ち動いておられました。皆さんに、輝くような白さを感じました。私は梅干婆さんですが・・・。でも女心?「私もこの白いドレス着てみたいなあ〜」と思いました。厚かましいですね。
2007/2/20(火) 午前 7:21 [ 花ひとひら ]
おむすびさま。私ももう悲しくって悲しくってどうしょうもないほど悲しくって(ブログだけど記念に書いておきます)誰にでも悲しいことってあるのですね。鶯が目覚めると鳴いているのだけれど、目覚めて新しい日が来るのが辛いほど悲しい。おむすびさんにもそんなことが有ったのですか。元気だそうね。改めて「蝸庵」へ行って見たら、下に大きな桜の木が有りました。あれ八重桜かしら。
2007/2/20(火) 午前 7:29 [ 花ひとひら ]
花ひとひらさま。お早うございます。お仕事行っていますか?新聞で読んだんだけど「自分に自信があれば変に主張する必要など無い。どちらにも偏らず物事を新鮮に反応できる状態がいい」中々難しいですが・・。梅も藪つばきも野の草もあなたを待っていますよ・・、出かけてくださいね^^
2007/2/20(火) 午前 10:13 [ ささ舟 ]
一気に咲きましたね。 花脊へ行きましたが、あちらはまだまだという感じでした。 ひとつきは後のようでした。 タイムスリップしたおそば屋さんは居心地良かったです。
2007/2/20(火) 午後 2:03 [ かめひろふさ ]
こんにちは。花ひとひらさんはハーンのファンでいらしたのですね!ここ青梅はハーンとご縁があるので嬉しくなりました。「調布橋」のたもとには「雪おんな縁の地」の碑があるそうです。週1回必ずこの橋を車で通るのですが、まだ見たことがありません。これを機に訪れてみようかと思います。梅のお花、大好きです。花ひとひらさんの「花」は何のお花かしら・・・なんてふと考えてしまいました。綺麗なお花すべてでしょうか(^^)
2007/2/20(火) 午後 4:12 [ 夕ひばり ]
ささ舟さま。有り難う。私は五日ほど泣きに泣きました。でも今日久しぶりにゴスペルに行って思いっきり歌ってきたら、少し元気になりました。そうですね。高慢でなく思い上がりでもない自信を持つ事が出来れば悠然としていられますね。ありがとう。とても良い事を教えて下さいました。出かけますよ。花に出会ってきます。元気出て来ました。有り難う。それと言葉(言の葉)は言の刃(ことのは)になることを今後胸に刻みます。
2007/2/20(火) 午後 5:55 [ 花ひとひら ]
かめひろふささま。花背も今年は雪がないと聞きました。でもきっと今頃は早春賦の歌の通りの世界ではないでしょうか。此方はそれがなく、もう春真っ盛りみたいです。(鶯もリハーサルなしで、上手に今年は歌っていますし)お蕎麦は美味しいですね。私も今度探して見ます。タイムスリップした所って大好きです。
2007/2/20(火) 午後 6:02 [ 花ひとひら ]
夕ひばりさま。夕ひばりさまとは、いろいろと合う事が多いですね。嬉しいです。「調布橋」のたもとに梅の花は咲いていませんか。咲いていたらきっとハーンの世界だと思います。訪れられたらまた教えて下さい。私は野の、見落とすような人知れず咲いている花が愛しくてたまりません。 きっと薔薇や牡丹ではないことだけは確かみたいです。でも梅は梅でも梅干婆さんに近いです。
2007/2/20(火) 午後 6:09 [ 花ひとひら ]
「花ひとひらよりお知らせ」みなさまいつも嬉しいコメントを有り難う御座います。実は私は「ブログとはなんぞや」という壁にぶち当たっておりました。またそれで悲しい気持にもなっておりました。そしてコメント欄を外そうと致しました。が「同じように花ひとひらの花」を見ても、人の感じ方が色々違い、面白く楽しいのが、メールでは「花ひとひら」だけのものになり皆さまに還元出来ないのでないかということを仰って下さった方が有ります。(1)
2007/2/20(火) 午後 6:50 [ 花ひとひら ]
教えていただきました。そうです。ブログは私のブログであってもそれは皆さまが支えてくださっており、皆さまで共有できる物がブログだと気がつきました。ごめんなさいコメント欄をはずすこと止めます。(優柔不断ですが)こんなに素晴らしい人達がお互いに共有することを、私が無くすことは恩返しをしないことになると気がつきました。悲しいことに負けません。それと、今日偶然トラックバックが入りました。とても素敵なブログです。こういうことも外すと、皆さまと共有できなくなります。
2007/2/20(火) 午後 6:51 [ 花ひとひら ]
ブログ、コメント、トラックバックはこうして皆さまと共有する物であることに気がつきました。有り難う御座います。私のブログであっても一人の物でない、そんな気が致しました。コメント欄はそのままに致します。皆さまありがとうございます。それと素敵なトラバが入っていますので訪問して見てください。焦らずぼちぼちと牛歩のブログですが今後ともよろしくお願い致します。(3)
2007/2/20(火) 午後 6:52 [ 花ひとひら ]
コメント欄は存続させてくださるとのこと、嬉しいです。同じ文章を読み、人それぞれの感じ方が微妙に違うことが驚きでもあり楽しみでもありました。でも、ブログの更新と返信、本当に大変ですね。無理しないで下さいね。何事によらず人それぞれの考え方がありますが、花ひとひらさんの選んだ道にエールを送ります。
2007/2/20(火) 午後 11:04 [ おいちにのさん ]
おいちのさんさま。有り難う御座います。ほんとにいろんな方の声(意見考え)を聞けるのは幸せなことですね。ぼちぼちですが頑張ります。そして共有できる幸せ。有り難う
2007/2/21(水) 午前 7:37 [ 花ひとひら ]