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弘ちゃんは生きている(51)木村徳太郎作(未完)
「今日は何かありましたんか」
昼から自動車で出かける、校長、育友会長、遠藤さんに心が惹かれたのか前田さんが言葉をかけた。
「学校の用事で一寸、町まで行くんや・・・」
終わりをにごして、遠藤さんが答える。
校長も、育友会長も、歩きをしている前田さんを軽く見て、目もくれない。知らぬ顔の半平である。
前田さんはその場に立ちどまり、車が辻を曲がって見なくなるまで見送っていた。
その夕刻
平田先生、梶野先生が家庭訪問から戻ってきたが校長がいないので、用務員さんに聞くが、要領を得ない。平田先生は椅子にもたれ家庭訪問の疲れを休めて煙草を喫っていた。
梶野先生は家庭訪問先のほとんどから、児童間の争いを聞かされたのを思い返し、茶を飲みながら、憂鬱な顔をしていた。とりわけ喧嘩大将の奥田君が、学級委員に選ばれた事を、学校の教師は無責任だと言った意見が思い出される。重い気持で校長が帰ってくるまで、学習指導要録を書類棚から持ち出しペンを走らせていた。
「今日もまた、児童間の不平を聞かされました」
と、伊藤、田中先生も家庭訪問から帰ってくるなり、持物を机の上に放り出し椅子へ腰も降ろさず、平田先生に向かって言う。
「僕も聞かされました。ことの起こりは村の問題かららしいですね」
田中、伊藤先生の話を予期していたかのように平田先生が受けて言う。
平田先生が村のことから起こっていると、村の事に触れたので梶野先生は、指導要録に書き込む手を休め、
「今朝、仰ったように校長に話して、対策を考えるのが良いと思いますが」と、
改めて切り出した。それをきっかけに、桧牧区と自明区の児童間の争いが再び取り上げられて、話がはずみ始めたその最中に、町に行っていた校長、育友会長、遠藤さんが帰って来た。
何処で呑んで来たのか、校長の顔は酒で金時のように赤く腰がふらついている。
校長と育友会長なので、先生方は知らぬふりをしているのが良いと思ったのか、
「お帰りなさい」
と、言葉をかけただけで黙ってしまった。
校長、育友会長、遠藤さんも先生方を無視して、校長室に入って行く。
田中先生が、三人分の茶を用意して持って行った。
遠藤さんが言ったのか、用務員さんが菓子をたくさん盆に盛って教員室に持って来ると
「会長さんのおごりです。これを皆さんで食べて下さいとおっしゃっています」
と、なぜかにやりと笑って先生方の真ん中の机に置いて行く。
児童間の争いを、校長に話をしようとしていた先生方は、きっかけを外されて菓子に手をつけた。
そこへ、校長と育友会長が教員室にやって来て平田先生の横に腰を下ろすと、
「水道の件は会長さんが、見積り額は役員会で話をしてあり、育友会のほうは責任を持って下さる。必要金額を、総会で個別割り当てか、自由寄付かに決めるだけの事で済みそうだ。早く具体化するために、総会の日を早い目に決めたほうが良いだろうね」
と、自分の意思を押し付ける風に先生方みんなに聞こえるように大きく言った。
突然のことなので、先生方は答えも出来ない。
「平田君。十日ほど先に総会を開いても、差し支えはないだろう」
横にいた楠田さんと目を見合わせ、校長は総会の日を決めることを再び急いだ。
「異議はありませんが、他の先生方はどうでしょう」
黙っている先生方を見回して、助言をうながすが、先生方は矢張り黙っていた。と、
「どうだね」
校長が梶野先生にむかって尋ねてくる。
「異存はありません」
水道工事や総会の事より、児童間の争いを校長に話したかったが、酒の勢いで強引に自分の意志をおっかぶさせる問い方と、育友会長がいる手前、校長のペースにはめこまれて答えてしまう。伊藤、田中先生も同じだった。
先生方の返事を聞いて、校長は壁に掛かっている黒板の予定表に目をやり、
「じゃ、四月二十日としょう。決定として記入しておいてくれたまえ」
と、指示を出して、
「楠田さん、それでよいでしょう」
と、育友会長のご機嫌をとるように言った。
「校長先生の決めなさる事。私になんの異存がありましょう。嶽登りも終わり、時期的に忙しくなります。早い方がよろしいでしょう」
と、にやりと笑って答える
☆
四月二十日。育友会の総会。
一時限の授業参観が終って、父兄たちは仕切り版を外して広くなった、新校舎の会場に集り、新年度の役員を選ぶ。が、総会の事前に役員が打ち合わせられていて、すでに決まっている。それを認めるさせるためにあるようなものだ。進行係りに選ばれた平田先生が壇上に立ち、
「只今から役員の選挙を行ないますが、投票紙の整理の都合上、例年通り推薦された方々の名を読み上げます」
役員名が読み上げられた。そのたびに賛成の拍手が鳴り、役員選挙はあっけなく終る。
卒業児童の二父兄が、新入学の父兄に代わっただけで会長も同じだ。選挙でなく、事後承認の形で役員が就任した。その後、予算の審議が始まる。
壇上をおりた平田先生に代わって、再選された楠田さんが上がり再任の挨拶をすませると、
「本年度の予算について審議を願います。ついては、皆さんにお配りしました予算書を、会計の山口さんに一度、読んで頂きましょう。山口さんお願い致します」
すべて形どおりだ。山口さんはその場に立ち、謄写版刷りの予算書を手速く大声で読む。
読み終わると楠田さんが言った。
「昨年と同様の予算で変わったところはありません。新校舎が出来まして、清掃具の予算を少し増しました。これについて、なにか異議はありすか」
賛成の拍手が鳴る。
「では、予算は可決と致します」
いっそう盛んな拍手がうたれた。楠田さんは壇上で満足そうに笑っている。その後、水道施設の議題が審議される。楠田さんに代わって福井校長が登壇した。
「増築されて、学級の複式も単式になり、山の学校ですが県内でも充実した学校と言われるようになりましたのは、育友会及び学校区内の皆さま方が、教育に深い理解がおありだからこのように向上したものと敬服しています。学童に代わり皆さま方に感謝しましてご挨拶とします。さて、ご相談したい事ですが、学校はお承知のように、大変水が不便で清掃衛生の面からも不備で残念です。今年度、新校舎の出来ましたこの潮時に、会長、役員の皆さまから水道設備の賛成を得ましたので、皆さまのご意向をお伺いしたく、学校区内で水道工事をしている遠藤さんに便宜上、参考のために見積もりをお願いいたしました。」
そこまで言うと校長は話をきり、平田先生に向かい
「平田先生。見積書を読んで下さい」
と、壇上から指示した
平田先生が読み終わると
「育友会長さんから、皆さんのご意見を伺いましょう」と、
壇を降りて楠田さんに入れ替わり、それを受けて再び楠田さんが壇に登った。
「みなさん。私たちの子供が通っている学校が、更に充実することなので、是非お力添えを願いたいと思います。ついては費用を個別割り当てか、任意寄付にするか、ご意見がおありの方は御座いませんか」会場を見回して言った。
会員の私語が多くなり、しばらくざわめきだした。
と、私語を沈めでもする風に
「はぁい」
と、遠藤さんが手をあげた。
かねての打ち合わせなのか、会長の承認も待たずに早速喋りだす。
「私も育友会の会員ですし、利益をみていません。そのところを特にお含み下さって、ご配慮のほどを願います。」
と、立て板に水を流すように喋る。
間を合わせるように、壇上から楠田さんが、
「遠藤さんは商売としてでなく、会員として実費の見積もりをして下さったと言う、良心的なお気持を伺い感謝いたします」
と、育友会員に遠藤さんの言い分を得心させるかのように言った。
その時である。
「工事は遠藤さんが施工すると決定しているのですか」
座ったまま尋ねた人がある。それに合わせて
「工事は入札なのですか。伺います」
と、立ち上がった。桧牧区の山田さんだ。
壇上の楠田さんは、とまどってすぐに答えがない。が、落ち着きを取り戻すと
「遠藤さんが施工するとは決まっていません。入札にするか、皆さんの意見どす。然し、学校区の人で、育友会員でもありますので、見積書をいただきました。出来ることなら遠藤さんに引き受けを願がったらと思っています」
なぜか、校長のほうに時々目を流し強い口調で言う。
校長も何か言いたげだが、立場上発言出来ない。じれったそうだ。
「学校区の人と言う説がでますと、桧牧区の松川さんの親戚にも、町で水道工事をやっておられる方があります。工事は公の事なので会長さんのお説のように、簡単に決められる物では有りません」。
会長の言葉をまぜかえして山田さんが、区民の親戚者を持ち出した。
「その通り!」
間髪を入れず、大声で叫んだ者がある。それにあわせて、会場の西寄りから盛んに拍手が打たれた。
それが鎮まると、東寄りから自明区の小城さんが立ちあがった。
「只今、山田さんの説を伺いましたが、親戚だと言うと日本中の水道工事屋さんが、全て親戚だと言うことになり話は進みません。このことは会長に一任としたほうが我々会員としましては結構なことです」
と、力んで山田さんの説を打ち消さぬばかりに早口で喋った。
東寄りから盛んな拍手が起こり、ひとしきり会場が騒がしくなる。
山田さんに拍手が打たれた西側は桧牧区の人たち。東側は小城さんに拍手をした自明区の人たちが集っている。
例会にはいつもは女親が多いが、今日の総会は男親が多かった。
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村や町が工事をやるのではなくて、学校がやるのでしょうか。どんな工事にしても相見積もりくらいは取ってほしいですね。校長は親戚に任せると飲みながらけじめをつけているし・・・。地区で対立している時だから業者選びも大変ですね。普段は母親に学校のことはまかせっきりのお父さんたち、子供たちの喧嘩が地区の争いが原因だと皆判ってきたのだから、「さすがお父さん」と言える良識を出し合って、子供たちのために力を合わせてほしいですね。「がんばれ!お父さんたち」
2007/4/19(木) 午後 11:59 [ おいちにのさん ]
おいちにのさんさま。私は別談ですが、先日ある総会で急に「議長」を頼まれました。そして渡されたものには全て手順と言うか台本が書かれていました。まず「議長選任」「司会者に一任」「司会者指名」「拍手」そして私が就任の挨拶をします。そして「議題」「担当者報告」「挙手」「拍手」と進行具合が事細かに書かれているので、その通り進めれば良いだけなので、にわか議長が勤まりましたがちよっと複雑でした。(1)
2007/4/20(金) 午後 7:00 [ 花ひとひら ]
総会ってみんなこんな風に台本が出来ているのでしょうか。もし途中で「質問」とかが出れば私はどうなったかと、ビクビクものでした。「弘ちゃんの」総会を思い浮べました。それにしても、この作品はいったいどこまで広がるのでしょう。いま、私はにわか議長みたいにどきどきしています。
2007/4/20(金) 午後 7:01 [ 花ひとひら ]
勤務中にお酒で染まり腰抜けの校長や育友会長には先さき不安です。総会は役員人事もついに根回し完了の様だし、水道事業も概ね決められている中で地区の対立は避けられないようですね。家庭訪問から持ち帰った問題の話し合いは後回しになりましたが・・何とか和解のできる誠意ある住民の意見を聞きたいものです。弘ちゃん達頑張って!昨日は小六の孫の家庭訪問で中学の進路の話し合いがあったとか。わたし等の時とえらい違いですね。もっとゆっくりと流れればいいのに・・
2007/4/21(土) 午後 9:04 [ ささ舟 ]
ささ舟さま。おはようございます。ほんと凄い傍若無人な現場ですね。でも昔は(私の知っている環境だけかもしれませんが)こんなことは多々有りましたよ。今だったら紛糾ものですが。でも校長やお酒でなく、形は変わっているだけで、自分の立場、周りの見えない人っていますよね。傍若無人の精神はどこからくるのでしょうね。(1)
2007/4/22(日) 午前 7:35 [ 花ひとひら ]
時代が変わり人間も進歩したように見えても、ちっとも変わっていないのかも知れません。表面に見えるか見えないだけで。仰る様にゆっくり見たら見えるかも知れない。(でもそれだけでもないような気もします)話が横にそれました。いま我が家は「ならやえさくら」がとても綺麗ですよ。百人一首に出てくる桜です。悠久の時をいただいています
2007/4/22(日) 午前 7:38 [ 花ひとひら ]