来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

のんびりしたブログですがよろしくお願いいたします。

弘ちゃんは生きている(2)

[ リスト ]

弘ちゃんは生きている(64)
 校庭を横切り、参道の水の涸れた手水舎を見て、弘たちは、水不足を一層肌に感じた。普段入った事のない裏山のうっそうとしたご御神山に入るために、学童たちが横1列に並び、梶野先生が拝殿の鈴を鳴らした。神主さんが二礼して拍手を二回打つ。みんなもそれを真似して丁寧に頭を下げて拍手を打っていた。その音が重なるように入り混じり、神社の山に木霊して行く。そして全員が丁寧にもう一度御辞儀をする。学童たちはなんだか緊張していた。これからとても大きな宝物を探しに行く気持で逸る気持ちと期待で、奥田君もいつもに似合わず凛々しい顔つきだ。炭谷君も真剣な顔付きだ。子供たちに、大人たちが垣内同士でいがみ合っている雰囲気など少しも感じられなかった。
 神主さんを先頭に、梶野先生、学童たちが神社の拝殿横から本殿の裏山に上っていく。神主さんは、弘とウメが湧き水を探しているのを知っていたので、本殿から続いて山に入る囲いの柵をこっそり空けておいて山に入る事を許可していたが、まさかほんとうに、そこから水を引くことを言い出だすとは思いもしなかった。その情熱に感心し、また学童たちみんなが、湧き水を見に行きたいと申し出たのには驚いていた。
 三十度ほどの傾斜の山道をいつしか弘が先頭になっている。みんなは積った木々の落ち葉を踏みしめながら歩いて行く。どこからかホトトギスの鳴き声が聞こえる。うっそうと繁る緑が目に痛かった。御神山の空気が、学童たちをすっぽりと清々しい空気で覆っていた。傾斜は段々きつくなる。地面が水を含んだように柔かくなってきた。繁る木々の隙間を縫って台地がみえる。なにかきらきらと光っている。そして綺麗な砂地が露出しているのが見えてきた。弘の足が早くなる。梶野先生も急ぎだした。みんなも駆け出す。そんな学童たちを神主さんはにこにこ笑って、ゆっくりと歩いていた。梶野先生と学童がかけよると、五米ほどの浅い砂地が広がり清冽な水が溢れていた。砂地の底まで澄んで小さい漣が揺れている。水は周りの木々を映し清々しい。みんなはその清々しさと神々しさに歓声をあげるとともに、頭を下げたい気持にさせた。水は周りの落ち葉をしめらせ、周囲の木々の根を太らせているのが良く分かる。木々の葉っぱは艶があり豊かに繁っていた。
「水がないといいよるけど、こんな所に、あふれて湧いとるんや」
奥田君が感心したように言う。そして
「先生。これを学校まで引きましょう。これは神様がみんなにくれる水や」
他の学童たちも「そうや。そうや。これを学校までもっていったらええ」という。
「神様がくれる水や、これを飲んだら勉強も野球も出来るようになるし、それに絶対に死なへんで。ブスも美人になっるで」と奥田君が色黒のウメのほうをチラリとみていう。
誰かが
「でも、こんな遠い所から学校まで引くことできるやろか」とまぜかえすように言った。
梶野先生は「この水はいつもこんなにコンコンと湧いて、涸れることはないのですか」と神主さんに恐る恐る聞いてみた。
「それはわかりません。が、見て御覧なさい。底まで透き通った水源です。見るだけで心まで落ち着きます。これは神様が人間に与えてくださった心です」「きっと人間が清らかに生きている限り絶えることはないでしょう」と答る。
 神主さんはその五mほどの浅い砂池に、二cmばかりの噴出し口をつくった。それは溢れる出る水柱となって、その水は溜まり水を盛り上げ下へ流れて行った。
神社の手水舎の小さい水源もきっとここが源となっていたのだろう。
 神主さんが、腰を屈めて、そおっと手ですくい水を口に運んでみた。梶野先生も、学童たちも真似をして水を口に運んだ。弘の言っていたように冷たくって甘く美味しい。
「わあ〜。美味しい」みんなは歓声をあげる。学校の金気の井戸水とは大違いだ。
感嘆の声を上げながら、その水に顔をつける学童もいた。水はそのときは濁るが、湧き口からふきあがってくる水が、すぐに濁り水を澄ませる。
「考えてみようじゃないか。これだけの水量があれば、学校まで引けたら水道と一緒だ。校長先生にさっそくお話をしてみよう」
梶野先生は水晶のように湧出している水を見つめながら、心を決したように言う。そのはやる心に神主さんが
「この水は神様です。この水を下に引くことにより、誰かが利益を得たり、損得がでたり、水を粗末にするような事が起きれば、水はきっと涸れると思いますよ。」
「感謝の気持を絶えず持って水を利用されるのなら、学校へ引くことに私も協力しましょう。神様もお怒りにならないでしょう」と言った。
奥田君が「そうや。そうや。大人たちが水道を作ってくれないんやったら、僕らで、これを水道にしたらええのんや。大事にする。なあみんな、大事にするな」と真剣な顔をして言い切った。みんなも「大事にする。大事にする」と真剣な顔で言う。
梶野先生も子供たちの心を決したような、その顔つきと言葉に頷いた。
                ☆☆☆
 校長は育友会長の楠田さんや桐久保さんや水道工事の遠藤さんに集ってもらった。
御神山のその水は毎分3トン近くも湧き出し、水質もよい事がわかった。校長はこの湧き水を使い、このさい自分の在職中に学校へ水道を引くことを、もう一度関係者に提案したのだった。
 しかし、遠藤さんはあくまで井戸を掘って水道を付けることを提案する。育友会長の楠田さんは、やはりお金が心配だ。井戸を掘って水源を作り、水道にするよりは安くなるかもしれないが、やはり水を取り込むには資金がいるだろう。桐久保さんは桐久保さんで、いい提案だと思うが、神社の御神山の水を水道にしたりして、もし水が涸れでもしたら、村に災いがふりかかると心配した。それより町と合併なった今、町の議会に計って学校だけでなく村の全戸に水道をひくように計るほうが得策だと話す。
 校長は水源さえ有れば、すんなりと水道施設の事が運び、在任中に大仕事を残すことが出来と思ったのだが、そう簡単にはいかないようでうんざりした。村人たちは、学校の水道のことに前ほど力をいれなかった。水道がなくとも今ままで通り子供たちも村人も生きていけたし、あえて自分達の懐を痛めて引くこともないと思っていた。「曲がりなりにも学校には井戸があるではないか、そんな子供たちの飲み水を心配するより、山の上の少しの開墾田に、水をいれることのほうが大事だ」とまで言い出した。雨乞いをしてもなかなか雨はふらない。神社の奥に、たくさんの水があるのなら、それを田に引きたいぐらいだと思っていた。山の上の小さい貧しい田んぼにこそ水がほしいと神様を恨んでいた。

閉じる コメント(6)

顔アイコン

花ひとひらさんこんばんは。今日は幾分しのぎ易かったですね。
それぞれの立場で意見が分かれ、すんなりと行かないのは常ですが、住民に熱意が無いのは、大きな事業だけに心配ですね。しかし一筋の光も感じられます。湧き水が涸れることは無いと思いますが学校だけのものとなるとまた他から問題が出てきそうですね。田畑でも何はともあれ水の決りが一番厳しいとのことですから。進展を祈りましょうね。

2007/7/2(月) 午後 9:38 [ ささ舟 ]

顔アイコン

弘ちゃんとウメちゃん、頑張りましたね。今ならペットボトルに入れて名水で売り出せそうな美味しい水なのでしょうね。水は蛇口をひねればどこででも出るようになってから、私たちは排水に対する気配りを忘れてしまいましたね。上流で使った水は下流でも使う。汚せば下流の人が困る。だから汚さない。水管理など言うのでなく他人の困ることはしないという常識。これが大切なんですよね。自分のことばかり考えるのでなく、せっかくの神様からの授かりもののような水を上手に使って欲しいですね。

2007/7/3(火) 午前 10:26 [ おいちにのさん ]

顔アイコン

ささ舟さま。読んでくださり有難う御座います。父の残した部分の打ち込みが終わり、ホッとして気を抜いています。進展は私にも分かりません。
ごめんなさい。

2007/7/3(火) 午後 7:01 [ 花ひとひら ]

顔アイコン

おいちにのさんさま。物語の水は架空ですが、本当に美味しい水の湧いている所があり、通学の時そこでその水を飲むのがとても楽しみでした。3年程前にそこを訪ねたら、ちゃんと水道の蛇口がついていて、売り出されていましたよ。みなさんポリタンクで購入しておられるみたいでした。涸れないであるのが私には感激でした。(バスの中から見かけたので買って帰ることはしませんでしたが、美味しい水は嬉しいですね。>他人の困ることはしないという常識>これは全てに通じる事です。いまあまりにも自分勝手な人が多いですね。自分勝手と言うか他人の気持を思いやれない人が多いように思います。悲しいです。きっと美味しい水を飲んだり悲しい目に会ったことのない人が多いのでしょう。普通は悲しい目に会うと、人に同じ思いをさせたくないのが人情だと思うのですが・・・。

2007/7/3(火) 午後 7:15 [ 花ひとひら ]

アバター

村人のそれぞれの利害が働いてなかなかすんなりといきません。こちらの水源も西行庵の苔清水の分水ですが昔は、竹で下に流し、丸竹を繫ぎ地中に埋めていました。今は、銅か鉄のパイプできていますが
最初も今も水道ではもめています。

2007/7/4(水) 午前 0:11 吉野の宮司

顔アイコン

吉野の宮司さま。有り難うございます。そうですか、西行庵の苔清水の水ですか。有り難い水ですね。(御神山から水をいただいてくるのは無理があるかと心配していたのですが、そういうことってあるのですね。ありがたい事です。)お参りしたときの龍の口から流れていた水で口をすすぎ、手を清めさせていただいたのですが柔らかい良い水でした。飲めばよかったですね。水道やさんに聞いたのですが昔は水道のパイプが石綿だったり、銅だったりしてビニールパイプはごく最近だそうです。父はビニールパイプで水を引こうとしていますので、ちよっと時代性が欠けます。そうですね。太い丸竹も良いですね。いつも有り難うございます。ほんとに感謝弥榮です。

2007/7/4(水) 午前 2:21 [ 花ひとひら ]


.
花ひとひら
花ひとひら
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
友だち(7)
  • ++アイサイ
  • まんまるネコ
  • 吉野の宮司
  • あるく
  • ハマギク
  • こうげつ
友だち一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト『さとふる』
11/30まで5周年記念キャンペーン中!
Amazonギフト券1000円分当たる!
話題の新商品が今だけもらえる!
ジュレームアミノ シュープリーム
プレゼントキャンペーン

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事