来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

のんびりしたブログですがよろしくお願いいたします。

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豊作手仕事 
 今年は実なりものが豊作だった。なかでもカリンは、枝がしなるほどに実をつけた。
「柚子仕事」は、例年の私の楽しみだが (http://blogs.yahoo.co.jp/hanahitohira06/45759022.html)そこにカリンの楽しみも加わった。
カリンはバラ科 ボケ属 の植物で、1千年以上も前に渡来しギリシャ語の 「chaino(開ける)+ melon(リンゴ)」が 語源らしい 。春にはピンク色の、野バラやリンゴの花に似た可憐な花が咲き、秋には黄金色の実が芳香を広げる。俳句では榠樝(くわりん)と詠まれ秋の季語である。のど薬を始めとし、たくさんの効用をもつ優れもので、中国では「杏一益、梨二益、カリン百益」とも言わる。しかし、その実は固く酸味が強いのでそのままでは 食べられず、ハチミツ漬けや、 果実酒、ジャムなどに用いられる。
 さらに新緑、紅葉が美しい。家庭果樹として最適の木であり「金は貸すが借りない」の語呂合わせから、庭の表にカリンを植え、裏にカシの木を植えると良いらしい。偶然、我が家には表にカリンが2本、裏にカシが1本ある。お金に関しては、貸しも借りもしないのが主義であるが、皆に豊作を喜んでもらいたい主義もあり、あちらこちらへと実成り物を配る。しかしカリンは、堅い実のため不人気であまり貰い手がない。私はそれがとても不満だ。
こんなに素敵な、黄金の塊のような実を、どうして無視してやり過ごすことができようか。
 梶井基次郎に「檸檬」と言う作品がある。「得体の知れない不吉な塊りが私の心を終始圧えつけていた」で始まる短編小説だ。作者は「京都で檸檬を買い、それを肺尖で熱くなっている手や頬にあて、香りに鼻をくっつけ檸檬の重さにふと気がつく。そしてこの重さこそが、つねづね自分が尋ねあぐんでいたものだ」と言う実感を持つのだ。そしてあの有名な場面、「画集の棚の前で画本を次々に引き出し、ちょっと眺めては積み上げその積み上げた画本を元に戻す気力もなく、その上に一個の檸檬を置き『丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けてきた奇怪な悪魔が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなに面白いだろう』」と流れていく。
 私は思う。
この作品が、檸檬で無く榠樝だったらどうだろう。美術書に乗せられているのは檸檬で無く榠樝の実だったらと、その光景を想像する。作品は「重い塊り」と「檸檬」が寓意されているのだが、榠樝は檸檬よりもっと重い。また草稿では、「色の配合を考へながら雑然と積み重ねた。そして今まで手に持ってゐたレモンをその上にのせた。その黄色の固りは雑多な色の諧調をひつそりと一つにまとめ、その頂点に位置してゐた。私はそれにこの上ない満足を感じた」とあり、さらに次のような草稿が続く。「埃りの多い騒然とした書店の中にそのレモンのあたりの空気のみは変に緊張して、レモンはその中心に冴かに澄み渡ってゐるのである。私はこれでよしと思つた」と……。
 榠樝の実は堅く金塊のような輝きを放つ。芳香も檸檬どころではない。榠樝は私には檸檬よりロマンを誘う実なのだ。美術書の上に榠樝を一つ置いてみようか……。
いやいや、私は美術書ではなく部屋部屋に榠樝を置いて行く。檸檬より深い透明な黄色を持ち、蜜を少し浮き出したような肌はしっとりとして、包み込んだ手の平から黄金の光りを零して行く。口づけをしたくなる魅力がある。

 長男の誕生時、長女に関わる時間が少なくなることを懸念して、長女を三歳で幼稚園に入れた。第二次ベビーブームと言われ、入園希望者も多く願書受付に徹夜で並び、まず抽選で選別され定員数に入れるかどうかを心配する時代だった。
希望通り入園できた彼女は大喜びで通園した。が、園にも慣れ楽しみが増して行く一学期の終わりに、引越しをすることになってしまったのだ。
園児達とお別れの日の、長女の抵抗は凄かった。別れるのが嫌だと、手がつけられないほどに泣きわめく。運動場を転げ回り帰宅を拒否する。大の字に寝て手足をばたつかせ泣く。お迎えのお母さんと園児たちも最初は同情の目で見ていても、あまりの泣き叫ぶ姿にあきれて一人二人と帰って行く。
私がいくらなだめても駄目だった。園庭に彼女と私だけが残こされた。彼女は生まれたばかりの長男にも、しっかりと姉振りを発揮してくれるとても利発で聞き分けのよい子だった。しかしその時の嘆き暴れる姿にはお手上げだった。
 私も何度となく転校をし友達と別れる寂しさは体験していた。子供の心に「別れ」は辛いものだ。私もきかん気で全身で泣きわめき、よく祖母や父を困らせたらしい。彼女を見ていると私の子供時代が浮ぶ。辛さ悲しさを小さい体の全てで訴えているのだ。
 困り果てている私に「お持ち帰り下さい」と書かれた木板と小さい苗が目に入った。園長先生はお花の大好きな方で、園庭の植物の世話をよくされていた。そして増えた苗をいつもダンボールに入れて希望者に分けておられた。「花梨(かりん)」の名札と二葉の小さい苗があった。借家住いで庭を持たない。いつもは目も止めなかったのだが、引越し先には庭がある。私は娘を抱き上げ、ダンボールの苗を見せた。「貰ろて帰ろうか?」と抱きしめる。娘が頷いた。「幾つ貰う?」「2つ!」
そのときの二葉の苗が、今、我が家の表に並んでいる2本のカリンだ。花は薄いピンク色で、枝に張り付くように咲く。娘が小学校になったころに花が咲き始めた。家庭訪問のとき茶菓にその花を一つ添える。どの先生も花の可愛さに目をとめて下さり、話が弾んだ。娘もカリンの花に似て成長して行った。

 私は、表のカリンの木の下を毎日通る。
毎日同じ所を歩いているだけでも、スクリーンに映しだされたように季節の変化が鮮やかに見える。芽が出る、つぼみが出る、開花する、萎れる。 実ができ大きくなる。実が落ちる。葉が紅葉する、葉が落葉する……。そしてカリンを包む後ろの空気の中に、思い出と言う映像も流れて行くのだ。

 その幼稚園にオカリナ演奏の機会があり、五年程前に訪問した。園舎や遊戯類は変わっていなかったがカリンの木がなくなっていた。聞いてみると「堅い実が園児に当ると危険だから」と伐られたそうだ。
 カリンの実は堅く重たい。果実の重みで枝が湾曲し、そして強い芳香が流れていく。風が吹いた後には、五、六個の実が落ちている。大きな黄色の実は枯葉の中も、緑の草の中にも良く目立つ。きっと大きな音をたてて落ちたのだろうと思う。木が重たくないかと心配するほどに実をつけ、自分で地上に落ちていく。私はそれを拾い集める。
今年は、三十個余りはあっただろうか。各部屋に芳香を置いて行くだけでは残りがくる。カリン酒作りは飽きた。そこでカリンジャムに挑戦した。
カリンは、果糖、ビタミンC、リンゴ酸、クエン酸、タンニン、アミグダリンなどが沢山含まれていて、加熱すると渋みは弱くなるらしい。
 硬くて刃が立たない。ナタで二つに割る。子供のころこうしてナタで小割木をよく作ったものだ。スパッと気持よく二つに割れ、沢山の種が飛び散る。四つ割りにすれば、後は出刃包丁で小さく切れる。種のまわりは既にジャムのようにとろりとしたゼリー状のもので覆われている。これは肌に良いらしい。
土鍋に小片にしたカリンと、ひたひたの水を加え、ストーブにかける。部屋中に甘い匂いが広がり始め、堅い果質が崩れて行く。それをガーゼで搾り液だけにして砂糖を加える。何も足さないのにジャムのようになった。黄色の実からは想像できないような綺麗なピンク色のジャムだ。カリンの花を凝縮したような色だ。渋みは少し残る。しかし、何時までも舌に残る渋みではない。カリンは実だけでなく木も堅く高級家具材になる。この渋味がカリンの芯なのかもしれない。そう思うと渋みも嬉しい。「カリン百益」が頷ける。

 今年は柚子もカリンもカボスも大豊作だった。私の手仕事は忙しい。
人は現在の季節以外のことはなかなか思い出せないものだ。夏の暑い季節には、寒い冬や春先のことを忘れそれを想像し難い。しかし1年間、重宝出来る手作りジャムには一年間の季節が入っている。ジャムが舌に乗るたびに、花が咲き、実が成り 新芽が踊るのだ。
これからの厳しい冬は、ジャムをお湯で割り温かい飲み物にする。それはどんなに寒い冬でも、いつか 春が来ることを教えてくれる。
除夜の鐘を聞きながら温かいジャム湯のカップを両手で包む。新年が立ち昇って行く。湯気の向こうに新芽が昇っていく。

 今年も一年お世話になりました。来る年も宜しくお願い致します。湯気がゆっくりと昇って行きます。


★小片(スライス)にしたカリンにたっぷりの水を加え、
  実がクタクタになるまで煮る。
★それを綺麗に濾し、漉したものに砂糖を加え煮詰める。
★サラサラだったエキスに重みが出てくる。
★シロップ状でも冷めるとゼリー状のジャムになる。
(注意)必ずホーロか土鍋を使う。エキスのジャムなので、煮詰め始めと終了時の量差は大きい(好みで加減する)
 

   去来抄ひもとくに似てカリンジャム



           ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

          日本の旗 木村徳太郎 

           明るい明るい明るい旗だ

           お日様のように明るい旗だ

           強いね強いね強いね旗は

           父さんみたいに強いね旗は

           いつもあるある海に山に

           いつも鳴るなる光に風に

           嬉しい嬉しい嬉しいね旗は

           母さんみたいに嬉しいね旗は

           気高い気高い気高い旗だ

           宮さまのように気高い旗だ

                        

閉じる コメント(16)

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この一年訪問を有り難う御座いました。そしていろいろと温かいコメントを有り難うございました。ブログ友て嬉しいですね。
また来年もよろしくお願い致します。

2009/12/30(水) 午後 0:23 花ひとひら

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カリンは「借りん」から来ているのですか。勉強になりました。
店でもカリンのど飴は評判良いですよ。今後ともよろしく教えてください。

2009/12/30(水) 午後 6:24 kou*a*p

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周辺の散歩の途中ですら、今年は柑橘類や柿が撓に実っている光景を見掛けました。古里の友人が、熟れた柿を送ってくれました。暖秋のせいなのか、それとも成り年に当たっていたのか、まさに豊穣の秋でした。我が家は鉢植えですが、3年目の酢橘と臭橙が少し実を付けました。同じ年に植えた檸檬は1個も生りませんでした。やはり、日頃のオコナイのせいだと反省しています。
そう言えば、梶井基次郎が檸檬を買った寺町二条の八百卯は、今年で廃業したようです。丸善はとっくにありませんが(昔はよく行きましたのに)。檸檬もさりながら榠樝も置けばよかったのかも。
榠樝の花は、それ程目立ちませんが、密やかに懐かしい思いを残してくれる花です。果実のジャムは食べた記憶がありません(忘れているだけかも)。榠樝の果実酒はあるのでしょうか。誰か送ってくれたら試飲してみます(無理のようです)。

2009/12/30(水) 午後 7:29 [ 道草 ]

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花ひ庭園を榠樝と樫が堅固しているようですけど、お金は持って死ねませんから貸してください。我が家には榠樝はありませんので。もしかして花梨瑠の木があったりして。それにしても、お嬢様は母親似で何よりでした。花ひとひらさんは榠樝の実を叩き割るのがお得意とのこと。拳骨でも割られるのでしょう。それとも歯で噛み砕くとか・・・。正月のお屠蘇は榠樝酒で一陽来福間違いなしと思います。「ゆふ庭に榠樝のにほひ熟れいたり君によりつつ然か思ひたり」中村憲吉。

2009/12/30(水) 午後 7:30 [ 道草 ]

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こうま地蔵さま。有り難う御座います。「かりんのど飴」カリンジャムを作っていて、「なるほど、こうして飴がつくれるのか」と納得しました。あの堅い実をどうしてエキスだけにして飴にするのだろうと不思議に思っていたのです。かりん飴の飴色はまさしくカリンのエキスの色です。(お店で「風邪は貸りんすぐ治る」て薦めてあげて下さい)こうま地蔵さまも今年は良いお年でしたね。また次なる飛躍を祈っています。良いお年をお迎え下さいませ。のちほどご挨拶に。

2009/12/31(木) 午前 7:14 花ひとひら

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道草さま。有り難う御座います。カリンにもいろんな種類が有るようです。(大きな実から小さい実のものと)カリン似たマルメロもありますし。
我が家のカリンはでっかい!。頭に当ると脳震盪を起しそうです。(そんな実を見上げるのも、また見え難い花を探し摘むのも、紅葉した葉を見るのも楽しい木です)
零れた実から種も容易く出ます。
そうですねぇ〜機会がありましたら、カリン酒とカリンの実を差し上げます。(年に寄っては一つもならないこともあり、有る内に差し上げましょう。)ついでにカリンジャムにユズジャムもおつけしましようか。お金は元が無いので貸しも借りも出来ません。でもこうして手仕事を楽しめるのがお金持ちかと。うふふ。
(カリンの実は「拳骨でも割られるのでしょう。それとも歯で噛み砕くとか」ご自分でやって見て下さい)

2009/12/31(木) 午前 7:26 花ひとひら

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花ひとひらさま、ようやくコメント入れる処へたどり着きました〜
花梨漬が風邪予防に良いと、冬になるとお白湯で薄めて熱いのを飲んでいました。花梨酒もご近所さまに頂きます。
お庭に記念の花梨の木が2本もあって、果実酒やジャムなど手作りされて・・・羨ましいです!
庭に実の生るものを植えない方が良いと聞いて植えなかった事を今頃後悔しても遅いですね・・・白樫・青樫はあるのですが。

2009/12/31(木) 午前 9:32 [ ちひろ ]

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花梨は、その実があまりにも印象的なので(食べられそうで)花や葉っぱのことがほとんど想像できません。
来年は、ちょっと注意深く見届けたいと思います。

2009/12/31(木) 午前 11:58 [ ほくと ]

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新年おめでとうございます。
私にはない切り口の文章、今年も楽しみながら拝読させていただきます。ご健康でありますように!。

2010/1/1(金) 午前 8:48 tet*uo*s*iga

あけましておめでたうございます。
本年もよろしくおねがひします。
去年から咳がやまない私には、かりんは持つてこいかもしれませんね。かりんののど飴でも舐めてみませうか。
日本の旗が元日の朝に輝きますね。ありがたうございます。

2010/1/1(金) 午後 0:27 くろひつじ

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明けましておめでとうございます。

ここへ来るといつも時間を忘れてしまいます。

これからもここでゆっくり心地よい時間を過ごさせてください。

今年もよろしくお願いします。

2010/1/1(金) 午後 11:34 wafuku.ko-bo-hisae

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ちひろさま。有り難う御座います。今、訪問させて頂きました。ここへ御出でくださる道草さまのお友達繋がりなのでしょうか。同じ滋賀県民なのでしょうか。宜しくお願い致します。

2010/1/2(土) 午後 4:30 花ひとひら

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ほくとさま。有り難う御座います。挨拶が遅れました。本年も宜しくお願い致します。
ほくとさんの手になるカリンの花と短歌はどんなに素晴らしいものかといまからワクワクします。ぜひ花や葉も見て下さいね。大きな木で下から花は見難いかも知れません。

2010/1/2(土) 午後 4:32 花ひとひら

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tethuoさま。有り難う御座います。今年もよろしくお願い致します。楽しみは気を張らずに力まず長く続けることでしょうか。その条件に健康も有りますね。お互い健康にも気をつけ末永くお付合いよろしくお願い致します。

2010/1/2(土) 午後 4:37 花ひとひら

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くろひつじさま。有り難う御座います。新年おめでとう御座います。お風邪はいかがですか。咳は治まりましたか。御自愛くださいね。「日本の旗」が元日の朝に輝いて欲しいですね。

2010/1/2(土) 午後 4:39 花ひとひら

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ひさえさま。有り難う御座います。ご挨拶が遅くなりました。また後ほど正月のお着物を楽しませて頂きます。
私も日本の衣裳、着物を見せていただいていると、心が和みます。特に冬は着物が似合うような、これも日本の風土に合っているのでしょうか。(私も正月ぐらいはゆっくり着物を楽しみます)

2010/1/2(土) 午後 4:43 花ひとひら


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花ひとひら
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