|
柔らかい風合いの鬼更紗の数枚
♪♪ ジャワ更紗
「酸模(すかんぽ)の咲く頃」 北原白秋 作詞
山田耕作 作曲
土手のすかんぼ
ジャワ更紗
昼は螢が
ねんねする
僕ら小学一年生
今朝も通って
またもどる
すかんぽ すかんぽ
川のふち
夏が来た来た
ド レ ミ ファ ソ
早苗が揺れウノハナが咲き、もうすぐ蛍が飛び始めるごろ、土手は深緑色の川に瞬く星のように
キンポウゲが煌き、大きく穂の出たツバナ、優しいカワラナデシコが揺れ、ノカンゾウが夏の近い
ことを思わせるように朱の色を誇っていた。そうそう、ナツアザミは私の手をチクチクと痛がらせた。
そしてこの歌のスカンポが土手を広く長く布を流すように揺れていた。
歌にあるスカンポを、虎杖取(イタドリ)のことだと思っていた。イタドリを手折ると「ポッキ」
と小気味良い音がして折れる。そこから何となく「スカンポ♪、スカンポ♪」がイタドリへ繋がり、
そう思っていた。子供時代は、歌う事が楽しいのであって、歌の意味など気にしない。
「兎追いし」は「兎美味し」だったし「巡る盃」は「眠る盃」だし「負われてみたの〜は」は「追わて」
だし「見渡す山の端」は「見渡す山の葉」だった。意味が分からなくとも野山をスキップしながら花と
戯れて歌っていた。しかし、この歌の「土手のすかんぼジャワ更紗」の部分だけは「???」と首を
傾げていた。ジャワ更紗がどんな物か知らなかったし、イタドリの太い幹の中で蛍が眠っているのだ
とばかり思っていたから。
大人になり、大きな勘違いをしていたことに気がついた。。歌のスカンポは、ママゴト遊びによく
使った、茎を噛むと酸っぱい味のする(赤色のものは赤飯に、緑のものは豆ごはん、それをフキの葉
っぱのお皿に盛り付け小枝のお箸を添えてご馳走にしていた)あのスイバのことだったのだ。緑色の
ものはギシギシと言って、手で扱くと、なんとなく「ぎしぎし」と言う感じだった。野山が遊び場で、
それらはみな神様が下さった玩具だった。
少し汗ばむ体を心地よく5月の風が抜けて行く。そしてスイバが、風に群をなして揺れている。
浅緑色、濃緑、赤味のある色、生成色、薄ピンク色。様々な色が折り重なって揺れる様は、風が色
をつけてベールになったように思える。初夏の花の彩の中でなんと美しく揺れていることか。
私は口惜しくってたまらない。子供の時に、歌にあるスカンポが、柔らかく薄く薄く空気に色を
つけたような布(ジャワ更紗)のことであったと知っていたら、遠い南国から、はるばるやってきた
ジャワ更紗。豊かな色とエキゾチックな模様でそこはかとない旅愁を感じる更紗の布のことだった
と知っていたら、もう少し感性のある女人になっていたのではないかと、残念に思う。
揺れるスイバの群れは、まさしくジャワ更紗が揺れている風情である。蛍は、イタドリの暗い幹の
中で寝ているのでなく絹のように柔らかく美しい更紗模様の布団ですやすやとお昼寝をしていたのだ。
私は、風に揺れるスイバの中にまぎれて、野原のジャワ更紗を纏う。そして異国に思いを馳せてみる。
美しい布をつくりだすアジアの女性。どんな暮らしをしているのだろう。美しい更紗を纏い、青い青い
空のもと、澄み切った瞳で健気に生きているのだろう。
初夏のスイバは、ジャワ更紗(サラサ)の布を野いっぱいに広げ、風に揺れながら、私の体に合わせて
素敵なドレスを作ってくれる。ドレスの裾をちよっと持ち上げ、私もジャワの女性のように懸命に生き
たいと思った。ジャワ更紗のように素敵でいたいと思う。
♪♪ 木村徳太郎
「伐木」 童謡詩集【夕暮れ】ノートより
こつうん
こつうん
こつうん
木洩日
背にうけ
木に斧あてれば
――滴る
しづくに
木の香も匂ふ。
こつうん
こつうん
こつうん
一の
木に斧あてれば
――小鳥も
讃ふよ
舟檝(ふね)となる須岐乃岐。
こつうん
こつうん
こつうん
木洩日
背にうけ
木に斧あてれば
――谷間の
瀬も鳴る
木立の向ふ。
せとびきに いちごをもれは゛
くりやのまどから
つきがこつそり のぞいてをつた。
「石蹴」 童謡詩集【夕暮れ】ノートより
チェリ チェリ
燕
初燕。
今年も
家に
宿るかと
なんでも
ないに
気がかりで
石蹴
なんども
はずれます。
「坂の街」 童謡詩集【夕暮れ】ノートより
窓から見えてた
坂の街
いまも驟雨が (注)いま(に)もか?。驟雨(しゅうう)にわか雨。
あるやうな。
白雲母(きらら)のやうに
光る鋪道(みち)
並木が明るく
揺れてゐた。
やさしい響の
時計台
花びらみたいに
鳩がゐた。
窓から見てる
坂の街
いまに黄昏(ひぐれ)も
杳(とほ)くなる。
―ふるさとの明るき街に来りなば
われのおもふままに心のはれて。
2006.05.22
|