来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

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沢辺の蛍

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和菓子「沢辺の蛍」とホタルブクロの花


   沢辺の蛍  着物  そして幸せ


 過日「新村出 記念財団設立25周年記念文化講演会」に出かけた。演題は梅原

猛先生の「日本語の成立」。井上ひさしさんの「広辞苑」だった。井上ひさしさん

のあちらこちらに脱線する話しぶりにお腹を抱えて笑った。巧みな話術である。

 昭和40年始めのころだったか、会社勤めから帰宅すると、父が早い晩酌を始め

ていた。TVでは「ひよっこりひょうたん島」が放映されている。父はこの「ひょっ

こりひょうたん島」が大好きで、これを肴に晩酌をやるのが習慣になっていた。こ

れが映っている日は、私も着替えを手早く済ませ、父の晩酌に付き合う。父と杯を

重ねる。「井上ひさしと言う名前は聞いた事はないが、これは天才だな。どんど

ん、これから活躍して大家になるやろ」と、ほろ酔いで、気持よさそうに言う。私

も「同感」と、もう一献、もう一献、と杯をかたむける。楽しいひとときだった。

「ひよっこりひょうたん島」を肴に杯を重ね合っている妙な親子だった。


 それ以後(「うかうか三十ちょろちょろ四十」井上ひさし)から、私の頭の中に

は<井上ひさし=天才がインプットされた。「少年少女日本文学館」「青葉繁れ

る」「宮沢賢治に聞く」等々に始まり、最近では「ふふふ」と沢山の作品を読ん

だ。

並ならぬ豊富な知識、話術はやはり天才だと思う。楽しく豊かな講演会の時を過ご

させてもらえた。


そして、その豊かな時間を引き摺って、帰り道には京の和菓子屋に立ち寄る。

 京都に出向く時は、別の付加価値(京の和菓子を買い、着物で出かける)を楽し

みにしている。五感を震わせ、季節ごとの匂いが仄かに立ち上がるような京都の和

菓子。そして京都には着物が似合うと思うからである。私自身が非日常を楽しむ為

である。

 これも遠い遠い昔の話。五つ六つの年の頃か。

 父は私をよく京都に連れて行った。母のいない私は何処にでも、いつでも父につ

いて行きたがるので仕方なしに伴なうのだ。確か「旭味?」とか言う会社だったと

思う。父の知人の茶木滋さんが勤めておられた。茶木さんは「めだかの学校」の作

詞者である。父とは仲が良かったのだろうか?悪かったのだろうか?訪問した其の

日も、二人は激論をしていた。細い体の茶木さんが「骨」だったのか、父が「骨」

だったのか「骨の癖に」とかなんとか、口角泡を飛ばして大人が言い争っている。

椅子に腰掛けて、床に届かない足をブラブラさせながら私はそれを不思議そうに見

ていた。

 ふっと私に気が付いた茶木さんが、困ったような顔をして私の頭を何回も何回も

大きく撫で、机の引き出しからお菓子を出してこられた。いつもお菓子を用意して

いて下さったように思う。その時のお菓子が京菓子だった。何の花かは思い出せな

いのだが、花を模してビックリするほど「綺麗だった!」。味の分かる雅び心など

は、子供の私に持ち合わせない。ただただその美しさに、大事に少しづつ口に入れ

たのを覚えている。父にも出されたが父は憮然としてそれを私に寄越す。私は大事

にハンカチに包んでお土産に持って帰ることにした。こんなに美しく綺麗なお菓子

を見たことがない。みんなにも見せてやりたかった。帰りの電車の中で何度も何度

もその<美しい夢のようなお菓子>の匂いをクンクンとしては、包んだハンカチの

口を広げたり閉じたりしていた。父も優しい笑顔にもどってそれを見ていた。


遅き日の つもりて遠き むかしかな  蕪村

それ以後、茶木さんは後生に残る仕事をされ、遠い人になってしまった。

 父は相変わらずの下積み生活だった。幼い娘二人を抱え薄給の父の経済は苦しか

った。戦争で全てを失い愚痴を溢しながらも祖母はお針の内職をして父を助けてい

た。自分のものや孫の着物を縫う余裕はなかった。美しい反物を広げて「こんな着

物の似合うエエ娘さんになりや」とよく言っていた。

 あれから幾年も過ぎた。父も祖母もいない。

 京都に出かける時は着物を着て和菓子を買って帰ることにしている。

「沢辺の蛍」と言う銘のお菓子を買った。沢辺の草叢に見立てた緑のそぼろに琥珀

糖をのせ、闇夜に妖しく光る蛍を表す和菓子だ。

「うかうか三十ちょろちょろ四十」三十、四十は遥かに過ぎた。そして六十、蛍の

ようにフヮフヮとさだよっている私である。


     風のみち        木村徳太郎  【日本の旗】ノートより


           此處は四つ辻

           風のみち。


           光に焼けた かんかん帽子

           かんからかんと ころげます。


           おかしい おかしい

           みんなが見てた。


           風にかけあし かんかん帽子

           橋の上から ジャンプする。


           此處は四つ辻

           風のみち。




そして、今日は、とても幸福な日だった

(春の花束)
 タンポポとハルジオンで小さな花束を作り私は孫の手にのせた。「ママにも上げておいでと、もう一つ花束を作る。孫の輝くような笑顔。小さな手に花束を二つ握り締め走って行く。ところが、五、六歩走って、急にクルリと向きをかえ、真剣な顔をしてもどって来た。怪訝に思う私に、「パパにも!」と大きな大きな声で言う。ママだけでなく、パパにも花束を上げたいのだ。私は愛おしさでいっぱいになった。みんなに思いやりを持つ素直な心。孫がすくすく育っていてくれるのが嬉しかった。人はみな生まれながらにして、優しさと素直さをもっているのだ。もうすぐ孫はお兄ちゃんになる。そして「赤ちゃんにも!」と花束をせがむのだろう。いつまでもこの優しさを失わないで、雑草のようにすくすくと育っていって欲しい。孫が嬉しい心の花束を私にくれた。春の野が眩し映った。

 PM6時30分、孫が生まれた。妹が出来た。おめでとう!!。記念すべき日、付け加えたい。、曾祖父ちゃんの詩。
           
     オ手々     木村徳太郎 【馬鈴薯の澱粉】ノートより

            可愛イ、オ手々

              戴キマス ト

              言フ オ手々


              不可(イケ)ナイ オ手々

              障子ニ穴ヲ

              突ツコム オ手々。


              不可ナイ オ手々

              オ鼻ヲ 擦(コス)ル

              汚穢(ババチ)イ オ手々。


              元気ナ オ手々

              萬歳 萬歳

              スル オ手々。
  
2006.05.29

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