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(2) 母の叱言で、弘はしぶしぶ机にむかって勉強を初めたが、勉強をする気になれない。腹立たしさをまぎらわせるために、ラジオのスイッチを入れる。
「もう知恵のポストや。それをかけて」
流れてくる伴奏音の違いに美代子が言う。
いつもなら素直にダイヤルを合わせたのだが、妹の仕草で気持がおさまらず、ダイヤルを合わせない。
「母ちゃん。知恵のポストかけてもらってよ」
甘え声で、母に助けをもとめた。
「弘、かけたりよ」
美代子にかわって、母が叱責口調で言う。
「ぼく知らん。かけてほしかったら、母ちゃんかけたり」
さきほどからの感情的なやりとりで、素直になれない弘は、憎まれ口を母に返した。
「なにっ、 おっ母にさからうのか」
弘の口応えに母は、半分糸通しを終えたガラス真珠玉の首飾りを、ぽいっと仕事台に投げ置いた。その拍子に半分糸通し終わっていた首飾りの玉が抜けて、ばらばらと畳の上にころがった。
ころがったガラスの真珠玉をみて、心がたかぶったのだろう、立ち上がった母は、弘に近づき平手で頬を二度も撲(ぶ)つと、
「母ちゃんの言うこと、なんで聞かへん、弘の本当の母ちやんでないからか」
憎々しげに、言いすぎる言葉をはきだした。
その言葉に、一層反抗的になった弘は、
「美代子の言うことばかり聞き、僕なにも悪くない。父さんに言って調べてもらう」
机の前を離れて土間におりて下駄を突っかけて、父のいる集会所に行きかける。
「お父っあんがなにや。酒ばかりに飲みよって、たまに金が入ると思うと、ええかっこうをしよって、誰がお前なんどに自転車かってくれるもんか」
外に出かけようとする弘を、とめようともしないで、捨台詞をあびせる。
母の恐さと、父まで悪く毒づかれた弘は、暗い外に反射的にとびだした。だが村人が集まっている集会所にも行けない。夜になったいま友達の家に行くのも憚れる。
美代子は自分の子。僕が悪くなかっても、本当の母じゃないから叱る。継母に対する弘の思いだ。悲しさを心の中でつぶやきながら、村の氏神様の前に来た。
参道の鳥居前の石段に腰をおろし、四歳時に亡くなった実母の顔を、星を眺めながら瞼の裏に浮かべようとするが浮かばない。いまの継母の顔が浮かぶだけ。
「今頃なにをしている」
石段に腰を降ろして沈んでいた弘を見て、通りかかった担任の梶野先生が声をかけた。
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