来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

のんびりしたブログですがよろしくお願いいたします。

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垣内の集会が終って、弘の父がふたたび桐久保宅に見えたのは十時近くになっていた。
 「旦那さんのところは、竜門さんと中西さんの間に決まりました」
 「そうかい」
 あまり気にもしていない返事をして、
 「弘坊を連れて早く帰れよ」
 顔だけ弘の父に向けて言うと、桐久保さんは目を碁盤にもどした。
 弘の父は板の間に腰をおろし、長火鉢の横の茶櫃を引きよせると、自分で茶を入れながら「旦那さん。一寸話がありますのや」
 入れた茶を一息に飲み干すと、桐久保さんに声をかけた。
 弘の父の話しかけに、梶野先生は気をきかして
 「お話がありそうですから、失礼して風呂をもらってきましょう」
 と、囲碁を中止して立ち上り風呂に行く。
 桐久保さんは致方なく碁盤を離れて、長火鉢の前に座り
 「話って何か」
 聞かれて、弘の父は暫く言い憎そうだったが、
 「今度分けてもらった山を金にかえて、借金をかえしたいと思います。就いては旦那さんに買って頂けませんか」
 真顔で言う。
 「そんなことだろうと思ったよ。自分とこの貸金はいつでもよい。すぐ売らなければないほど金が必要なのか」
 眉間にしわをよせて言い、続けて
 「金が出来そうだと、先に使うことを考えて、そのようなことではいかん。山は山三厘と言われて収益もなく、じっと持ちこたえて、苦しい暮らしをたえている者には、すぐに金を使う者の気持が解(げ)せん」
と、渋い顔付きになった。
「だけど、旦那さんは昔からの山持ち。自分は戦災で焼け出されて裸。身分が違います」
 「山持ちやから、暮らしが楽やと言うのか。どつちが贅沢していると思う」
「旦那さんのほうでしょう」と、思っていることを言いたかったが、頼み事にきているいま「まあ、まあ、えへっ えへっ」と、
言葉にならぬことを言って、笑って答えなかった。
「山稼ぎで一日六百円。月に二十五日働いて一万五千円、親子四人結構やって行けるのやないか。酒に金をつぎこんで飲むから、暮らしがたたない。子供も可哀想だし、おっ母の怒るのも判る。一日に焼酎三合以上も飲めば、酒代も馬鹿にならん」
飲酒のことを突かれて、弘の父は頭があがらず黙ってしまった。
 金のはいりが少しでも締まればよい。儲けても無駄に使えば足りなくなる。暮し向き を考えよと桐久保さんは言っているのだ。
 それは弘の父にも判っているのだが、酒代がかさばることを言われて返す言葉もない。
「山は買ってもよい。だが町村合併で垣内の山を分けことになり、苦労もせないで手に入る。それを当てにする考えに腹が立つ。いつまでも立ちなおれないのは、そんな心がけだからだよ。今晩ひと晩考えてみることだ」
 口答えの出来ない弘の父は言葉もない。
その様子に、桐久保さんは
「弘坊、弘坊」
奥の部屋に向って声をかけた。
弘が出て来た。
「風呂から帰っていた梶野先生から、弘が桐久保宅に来ていた事情を聞いた父は、頭をなんどもさげて恐縮。
 父と弘の二人は 桐久保宅を辞して、春めいたとはいえ夜更けはまだ冷える外に出た。

「おっ母と、なぜ喧嘩した」
「悪い美代に味方をして ぼくを叱って、真珠玉を投げよった」
 父は継母の仕打ちに抵抗を覚ゆることもあって、一寸悲しい思いにとらわれたが
 「弘も大人になれば判るよ」
 咄嗟にどうして説明してよいのか判らず曖昧な言葉でにごす父。
 それに引きかえ 弘は判っている。
 「母は継母だから」
と、口に出したいのだが、口にだせば父が悲しむ。唇をかんでこらえた。
 黙る弘があわれに思え
 「明日、桐久保さんに山を買ってもらったら、弘に自転車を買ってやるよ」
 母の話をはぐらかせて、父が言う。
「ほんと。嬉しい」
父の腰をゆさぶり、二ども念をおした。
 入る金を当てにして、使うことを先に考えることを反省せよと、桐久保さんに言われていたが、後妻としっくりいかぬ弘がいじらしく
 「ほんとうに買ってやるよ」
 と、約束をして、個人持に分けられる二反分の杉桧の時価を、胸算用していた。


 外の浅井戸から釣瓶で、鉄分の多い赤茶化た水を汲みあげ、その水で顔を洗いながら、
隆と約束した昨夜のことを思い出した弘は、初夏に赤い百合が咲く処の雑草地に目をやった。
 げんげのつぼみが首をもたげている。近よってしゃがみこみ、春の息ぶきをうけて
赤い百合の芽が出ていないかと目でさぐっていると、
 「早く御飯食べて、学校へ行け」
 母の声が背中にとんできた。
 桐久保さんに山を買ってもらう話に行くと言っていた父はまだ寝ている。
自転車を買ってもらう約束を確めておきたかったが、起せば母が怒るだろう。
 家に入って食卓についた弘は、父が起きてくれぬものかと、漬物と大根の実の味噌汁、
昨夜の麦まじりの残り飯を、時間をかせぐようにゆっくりと口にはこんでいた。
「兄ちゃん、早く行こう」
先に食事をすませた美代が、横からぐずった。
 弘は仕方なく、箸を置いて立った。

ヘクソカヅラ

イメージ 1

 皀莢(さいかち)に 延(は)ひおほとれる くそかづら 絶ゆることなく 宮仕へせむ      
    高 宮王(たかみやのおおきみ)

   (サイカチの木にからみまといついている、クソカズラのように、私はいつまでもお仕えしましょう)  
       万葉植物事典(北隆館)ヨリ

ヘクソカズラの花が咲き出した。夏のあいだ小さい花が次から次に咲き、初冬には冬の夕焼け空を玉にし

たような実になる。

上のように万葉のころから糞(くそ)カズラと呼ばれ野にあり、そのうえに今は屁(へ)までがついた。

全草に異臭があることから、こんな名前が誕生したようだ。 冬のピカピカ光る琥珀色の玉は、寂寥感を

漂わせ、そんな名前のついたことを儚んでいるようにも見える。

花は美しい。野山で遊んだ子供のころ、花の上半分を千切り少し唾をつけて服に付けると、しっかりと留

まる。散らしてブローチにした。小さい胸の上のブローチは、私をおすまし顔にしていた。ブローチに

飽きればまた唾をつけ、次は手の甲に乗せる。お灸をすえているかのように花の中心に火が点っていた。

遊び友達だったこの花が、こんな(ヘクソカズラ)名前を持つことを知らなかった。



 お話    オナラのオハナ  花ひとひら 作



家族揃って お夕飯が 始まりました。

「いただきま〜す」。

元気に ショウタ君が 言ったとき 「プウー」と

オナラ の音が・・・。

オネエちゃんが 「ショウタ!行儀が悪い」 と叱りました。

ショウタ君は 下を向いたまま・・・。 

大好きな ハンバーグも食べないで しょげています。

それを見て 

オバアちゃんが 「あした 野原に行こうか?」と 誘いました。

つぎの日 オバアちゃんとショウタ君は 緑の波の 田んぼを抜け

赤とんぼに 挨拶をして 小川近くの 野原にきました。

ラッパのような 白い小さな花が たくさんの草に絡みついています。

よく見ると そのラッパの 真ん中は赤く そこから「プウープープー」

と音楽を奏でているようでした。

「ショウタ その花のツルを ひっぱってごらん」。

ツルをつかんだショウタ君は

「わあぁ〜!!  臭いよ〜」 いそいでツルを離して

汚い物を さわったように ズボンで 手を拭きました。

オバアちゃんが 笑いながら 「これはヘクソカズラと言うのよ」。


ショウタ君は 小さな声で 聞きました。

「ひよっとして バアちゃんも きのうの 僕のオナラのこと 怒ってるの?」

「それで連れてきたの?」。

オバアちゃんは 「ちがうよ」 と 優しく言いました。

「ヘクソカズラは 臭い臭い 『ヘクソだ』って 嫌われるかもしれないね」。

「でも とても大事な草なんだよ」。

「どうして?」。

「この臭い匂いが とっても役にたつの」。

「前に ショウタと 走っている馬の上から 矢を飛ばすのを 見に行った事が有るね」。

「うん。あれ流鏑馬(ヤブサメ)ていうんだ」。

「さすが ショウタは 賢い よく知っているね」。

「じゃあ 飛ばす矢を 入れている物を 知っている?」

「知らないけど 背中に籠を背負い そこから矢を抜いて カッコ良かったよ」。

「あの籠が この臭いツルで 編まれているの」。

「沢山の人たちが このツルを集めて ツルを茹でて 干して

綺麗に滑らかにして 何日も何日もかかって 籠に編むの」。

「軽くって丈夫 そしてこの臭い匂いが 虫を寄せ付けないの」。

「1千年も昔から 何十年かごとに編み返されて 大事に今もあるのよ」。

「沢山の人の苦労と 知恵を この臭い草は 大事に守っているのね」。

「うふ〜〜ん。とても大事な 草なんだね」。

「そうよ。自然に 無駄なものなんか ないのよ」。

「くさい くさい」と 逃げないで ちゃんと

「ヘクソカズラさん。こんにちは。ありがとう」って 挨拶しようね。

「うん。僕 どのお花にも 木にも ちやんと挨拶するよ」。

「みんな 役にたっているんだね」。

「ショウタは賢いね ショウタもみんなを 楽しませてくれるし 役にたっているよ」。


ショウタ君は ヘクソカズラのお花を 少しだけ オネエちゃんのお土産に 摘みました。

「昨日はごめんね。でも おならだって大事なんだよ」って 言おうと思いました。

(伊勢神宮の式年遷宮は千三百年程前に制度化され、二十年に一度社殿を新しくする。その時、調度品も伝統工芸の技を伝承するために、新しくされる。そうして長きに渡り、人の心、匠の技は受け続けられている。)

絢爛と咲く花は当然美しい。野山の陰でひっそりと人知れずに咲き、触れると嫌がられる。
そんな花の(早乙女花と名を変え)咲く姿は愛しい。



 童話    小さいしっぽ            木村徳太郎 作


                   (東京朝日児童文化 昭和29年1月1日)

(相応しくない言葉が出てきますが、当時の原文通りに掲載しました。文責:花ひとひら)



正平ちゃんは、まるでかわった。電車にはねられて、足がびっこになってから、学校に来ても、ものをい

わない子供になってしまった。

「正平ちゃーん」

仲よしの義久君が呼んでも、ぎょろりと、白目をむいた顔を向けるだけで返事もしない。

白目は、−ぼくはちんばなんだ。だれも相手になってくれゃしないー

と、いっていた。友だちも正平ちゃんの白目でじろりと見られるのを、気味わるがって、だれも話かけよ

うとしない。

 その正平ちゃんが、四,五日まえから、とかげを、小さな籠に入れて、教室に持って来た。机の上に立

てた教科書をみているふりをしながら、くいいるようにとかげを見つめている。

となりにすわっていた義久君は、先生に言おうか、言うまいかとなんどもなやんだ。でも、

正平ちゃんの白目も、とかげもりょうほうとも気味わるくてなんにも言えなかった。

「だれか、答えられるものは。はいっ、正平君」

四時間目の社会科の時、先生が正平ちゃんにあてた。正平ちゃんはあわててとかげの籠を、物入れに入れ

て立ち上がったが、何をたずねられたかもわからない。

「先生、正平君とかげをもっています」義久君がいきごんでいった。

「正平君、学校へどうしてそんなものをもってきたの」

が、正平君は、大きい白目を、先生に向けたまま返事もしない。

「正平君、すててきたまえ」

先生は少しきつくいわれた。

「先生・・・・・」

正平ちゃんは泣き出した。

「泣かなくってもよい。すてればよいんだ」

先生は、なぐさめるように、やさしくいった。そしてとかげの籠をとりあげた。

「先生、すてるのは、かんにんしてください。ぼく、とかげが好きなんです。研究しているんです」

と、正平ちゃんは先生の手の籠をにぎり、片方の手の甲で、あふれる涙をこすった。

「研究?」

先生はふしぎそうに聞いた。

「はいっ、とかげにしっぽがはえるんです」

見ると、籠の中のとかげはしっぽが切られ、そこからすいてみえるような、美しい小さいしっぽがはえて

いた。

「ぼく、足がわるいんです。とかげのように新しい足が・・・・・」

「そうか」

びっこの正平ちゃんが、とかげを教室にもってくる気持ちが、先生にわかると、こんどは先生が泣きたく

なってきた

先生はじっと正平ちゃんを見た。

正平ちゃんの大きい白目いっぱいに、涙がこぼれおちそうに光っている。それを見た義久君はうつむいて

しまった。

クラスのものも、正平ちゃんの目を見た。そしてあのおそろしかった白目に、かなしいさびしい光を見

た。みんなは、おそろしかった白目がなんだかなつかしいものになった。 (おわり)




     悪戯          木村徳太郎   「馬鈴薯の澱粉」ノートより

  
             湯構(ゆぶね)に 鯉を 入れようか

             すると 大人は 驚くだろう。


            「あ〜い〜湯だね このお湯は」

             湯然(のんびり)つかって ゐたならば


             鯉がぴくりと つゝくから

             大人は喫驚(びっくり) 湯構(ゆぶね)を上がる。


             すると 子供は 落付て

             知らぬ顔して 這入るのだ。


2006.07.21
   

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