来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

のんびりしたブログですがよろしくお願いいたします。

過去の投稿日別表示

[ リスト | 詳細 ]

全1ページ

[1]

(11)
「痛まないかい」
「痛まん。先生と学校に行く」
家庭の事情がいっそう深くわかり、折り合いの悪い弘を家に残しておくより、学校に連れて行ったほうが、いいようにも思える。
母親のじゃけんなようすに、弘はそれを願っているようだ。
 まだ少し早いが開襟シャツを弘にきせ、「服は家で洗います」と辞退する母親に
「学校で洗わせます。学校から帰るまでには乾きますでしょうから」と、弘のことが
心にかからないのか、一言の礼も言わない母親を後にして、着替えた服を新聞紙にくるみ、弘をつれて表に出た
   ☆
鈴(りん)をふる校番さん。
石鹸と糊の匂いがほのかに鼻につく清潔な布団。
家のあかじみた布団とちがう。体がうくようで落ちつかない。
先生の宿直室で、その鈴を聞き、いっそう落ちつけなくくすぐったい。
布団を頭からかぶった弘。
休みの鈴で、もう来るだろうと思った学童たちが「弘ちゃん言うたら、弘ちゃん」と、
宿直室の入り口で呼んでいる。学童たちの声がさわがしい。
頭と足の甲に包帯を巻いた弘は照れて布団にもぐったまま。
「死んでるのとちがうか」
男の学童が言っている。
「ほんとや。死んいるのかもわからへん」相づちをうっている女の学童。
「あほ言え。弘ちゃんは不老不死の薬のみよったもん。死によらん」
さわがしい学童たちの声をうち消すように、真面目くさって言う隆。
「不老不死ってなんや」奥田君が問い正している。
「教えられへん。その薬のんだら、人間死ねへんのや」
「あほ。そんな薬どこにあるんや」否定する奥田君に、隆の言葉がとぎれ、
「ほんまやわ。隆さん、何言うてはるねん」と、女の学童が奥田君に加勢している。
「上って見てみよ」奥田君が宿直室に上がる。それにつづいて、がやがやとさわぎながら、
宿直室に上がった学童たちが、布団をかぶっている弘をとりまき、
「弘ちゃん。弘ちゃん」と、口々に呼ぶ。が、掛け布団の空間から頭の白い包帯を少し見せ、弘はうごこうとせない。
「寝てよるんやろか。弘ちゃん」隆が、掛け布団のすそを、かるくもちあげた。と、
「ううん。痛い」それよりも早く、手で布団を「ぱっと」持ち上げて、弘がしかめた顔をみせて言う。
「なんや、死んだまねしてはってん」女の学童が、馬鹿にされたと言うように愚痴る。
「それみい。死んどらへんやろ。弘ちゃんは死によらへんのや」
さきほどの話を、うなづけさせるような言い方をした隆は「痛いっ」と言った声と、頭に巻かれた包帯に気付いて、自分のそこつを詫びるように「痛いことあらへんか。布団めくってすまん」と、弘に言う。
「ううん。大丈夫や」
布団にもぐった息切れでなく、級友たちにとりまかれてはにかみ、頬を赤くした弘が首を振って答える。
みんなにとりかこまれ、こんなに関心をもたれたことが、てれくさくうれしそうだ。
木から落ちた時のこと。医者に行ったこと。傷のことを話す弘。
聞いている学童。自分たちだけのことを話している学童。
「弘ちゃん。これ。あっしんど」
弘の話がとぎれた時、越出あや子が息を切らせて入ってきた。
赤いリンゴが三つ。
「先生が鈴がなるまでに、買ってこいと言いはって走ってきたんやで」と言いながら、くるんだ新聞紙をひろげて弘の枕元に置く。
「僕にくれるんか」
「ふん。先生、弘ちゃんにやってくれと言いはったんや」怪訝な顔の弘に、あや子が説明。
 みんなにかこまれ、先生からリンゴをもらって弘はいっそうにこにこ顔。
「リンゴむかなあかんがな。気のきかんやっちゃな」隆の言葉に、あや子がすまなそうに、はにかむ。
「うち、むいてきたろ」
「うちや」「うちやし」校番さんの部屋に、リンゴをむきに行くのをとり合う女の学童。
「やかましい」それを見て奥田君がどなった。
その声に合したように
「ええっ。何を喧しく、言うとるんじゃ」と、校長先生が、みんなの知らない人を案内して、宿直室の入り口からのぞいた。
女の学童も、にこにこ顔の弘も、どなった奥田君も、隆も、男の学童も、バツが悪そうなようすで、入り口に向ってもぞもぞと行儀よく座る。
「弘。どうじゃ」
校長先生がスリッパをぬいで、上がって来る。
いつもとは、何となく校長先生の様子が違う。それに知らない人も一緒に上がって来たので、学童たちは、しおらしく校長先生をみつめている。
校長先生から言葉をかけられるなんてことは、かってなかったこと。
恥かしげに、にやりと笑ったまま、弘は答えない。校長先生は、今朝の出来事を小さい声で話している。聞いている人は「ふうん、ふうん」と、にこにこわらって、あいづちをうっている。
話し終わると「静かにするんじゃ。よその人が来られて、笑っていられるぞ」と、学童たちに注意をしておきながら、校長先生と知らない人は「あっ、はっ、はっ」と大きな声をあげて笑い、笑い終わると
「弘、気をつけて早よなおれ」と、弘に言葉をかけ、きょとんとした学童たちを残して、宿直室を出て行った。
「あれ、なんじゃろ」奥田君が、正座の足をたまりかねたように投げ出してけげんな顔。
「校長先生、どないかしょったんやろか」「あれ、だれじゃろ。何処へ行きよるのか、ちよっとついて行ってみい」きょとんとしていた学童たちは、思い思いの姿勢にかえると、知らない人について、また騒ぎ出した。
「あや子。リンゴむきに行くふりして、見て来い」奥田君が越出あや子に言う。
「うちも、ついて行ったろ」おきゃんな、中峰由子が立ち上がる。と、
隆がリンゴを持って立ち上がりかけた越出あや子をとめて
「見に行かんでもええ。おら、知っとるんや。ありゃ校長先生やが」と、真顔で言う。
「何言うてんねん。馬鹿にしよって。校長先生わかったるがな」
奥田君が、隆の冗談ごとのような言葉に喧嘩の口調。
「ちがう。あの人やがな」
「あの人って」
「ほら、今校長先生と来はった、あの人やがな」「あの人って、いま校長先生と、きはった人かい。アホやな。校長先生が二人もあるかい」説明の足らない隆の言葉に、せき込んで自分の言葉に自分がうなづいたふうに言った奥田君は
「リンゴ早よむいて来い」と、越出あや子にふたたび指図。
どう話していいのか、しばらくとまどっているふうの隆が、やっと話の筋がまとまったのだろう「おら、お父っあんに聞いとったんや。校長先生、こんどの四月にかわりよるんや」
傷をした弘を見舞って、宿直室にきた学童たちは弘のことよりも、隆の言葉に心をうばわれたようす。
「へえっ。ほんとほんとか」
リンゴをむきに出かけた越出あや子も、奥田君も男女の学童たちも、隆に念をおす。
隆の話はまっさら嘘ではない。現在の校長は停年で、昨年に退職することになっていたが、一教室増築中で、それが落成するまで「もう一年」ということで、特に許可されて奉職していたのである。校舎も落成も町村合併になる四月、新しい校長が赴任して来ることになっている。と言うことをお父うさんから聞いていたと言う。
「いまのは、そのこんどくる校長はんや。それがこっそり見にきはったんや」
隆の話は筋が通っている。それに昨年、そのような噂のあったことも学童たちは知っている。まして、桐久保さんは、育友会の役員さん。学校の話になると学童たちは隆の話を疑わない。隆の話に、とくしんしたように中峰由子が
「そや、そや。こんどきはる校長はんや」と、言った。それにあわせて
「わあっ。校長はん、かわりはるんや」女の学童たちが、いっせいに手をうって騒ぐ。
「そんなアホなこと言ったら、叱られるぞ」隆の話に手をうってさわぐ女の学童たちを制しんがら、隆に言う奥田君。
「ほんまやから、しかたがあらへん」
言われた隆は、ちよっとバツが悪そうだが、言葉をあらためない。
「ほんまかうそか、校番のおばちゃんに聞いたろ」越出あや子がリンゴをむきに立ち上がって駆け出した。二,三人つづく。
その時、二時間目の授業の鈴が大きく鳴りひびいてきた。
「弘ちゃん。リンゴ、交番のおばちゃんに、むいて持ってきてもろたるわ」駈けながら言う、越出あや子。弘を残して、奥田君も隆もほかの学童も「弘ちゃん、元気でな」「弘ちゃん、しっかりしいや」
と、口々にさけびながら、教室に向って駈けて行った。

花茗荷

イメージ 1

花茗荷と朽葉



厳しい夏の陽射しの中を、今日も花は力強く咲いている。花をみていると、その花の中に、子供だった。乙女だった、成人だった。と、通り過ぎて来た色々な時代や場所が、自分の生きて来た記録のように浮かび上がってくる。鮮やかに見えて咲いてくる。開いてくる。

ふと思いだす花の思い出・・・・。それは心の記録・・・。
備忘録としてそんなことを綴っていきたいと思う。


そして、新たにまた、この夏も一つ花が咲いた。





   花茗荷 と  人形

渓流に鮎つりをする人影、迫る杉木立。花折れトンネル。寒風トンネル・・・

名前が、自然のなかに膨らんでいく。車の窓を開けると岩に砕ける水しぶき、重なる青緑の木々、陽の

光がそれぞれ粒子のように重なり合って入ってくる。


縁があって93歳と89歳のご夫婦の実家の掃除を手伝うことになった。

渓流に蛍が乱舞し、紅葉のころは心も体も赤黄金色に染まるという。しかし、冬は雪に閉ざされ生活は眠

ってしまう。生活は山を中心に炭を焼き、柴(薪)を作り、花を作りそれを現金に替え、糧は自給自足。

山の成木は、子供の教育のために町に別宅を持ち、次世代のために使われる大切な財産で、木々を子育て

と同じく大切に育てたと言う。しかし、子供たちに帰巣する考えなどなかった。ご夫婦の子供さんたち

も外国生活で、もう何十年と日本に帰っておられない。山の木だけが静かに語りかけている。


高い天井に保存した竹や木が囲炉裏で煙に燻され、飴色に染まる。防虫効果も加わりその素材はもてはや

され、雪深い道をかきわけ業者が買い付けに来たという。私には想像もつかない遠い遠い昔の物語のよう

な世界である。

300年は経っているという部屋の真ん中の、太い柱に手をおき耳を当てると、知らない古人(いにしえび

と)の息遣いが聞こえてくるような気がする。根無し草で転居をくりかえしている私には、こうして個人

の家が300年も現存する事に驚く。代々の人たちが少しずつ手を加え、生活がしやすいように改良されて

現在の姿に成ったという。

 ご夫婦は早くから町で生活しておられ、この家はいつしか独居老母だけになり、80歳までこの家を守

っておられたが、最後は施設に入られ102歳で亡くなられた。

そうして今、この家はご夫婦が守っておられる。若い時はこの自然豊かな地に帰ってくるのが、故郷

に帰ってくるのが誇らしく家の守りも財が許す限り可能で、心地よい責任感もあり張りがあったという。

しかし、自身たちが介護保険をうけ、身体も思うように動かなくなると、家の守りは厳しくのしかかって

くる。冬は雪囲いをしに、紅葉に目をやる暇もなく作業にはいり、雪下ろしは人に頼み雪解けに訪れると

家のあちことが痛んでおり、庭に鹿や猿や熊や猪の糞だけが散らばり物悲しいという。家は生活の息き遣

いがあってこそ朝日に歌い、月に安らぐのであろう。現在済んでいる住宅とこの代々の家を維持していく

のは並大抵ではないだろう。

人間の終末は福祉という形も有る。お二人にとってはこの家は心の支えでも有る。しかし、心の支えにま

で福祉の手は届かない。

腰を丸くして久しぶりに訪ねる家の鍵を嬉々として開け、戸を開け放って風を入れられる。

その動作には普段見ない、生き生きとした顔が伴なっている。


しかし、私は「ギョッ」とした。

飾られている日本人形の顔に黴がきているのだ。目の悪いご夫婦は、気がつかれていない。

私はこっそりとテイッシュでその黴を拭った。恐かった!。

今年の長雨は、長く締め切った家に、人形の顔に、黴をつれてきた。


屋敷の周りには茗荷が増え続け、みわたすかぎり茗荷で溢れている。

誰も採集する人がなく、<茗荷の子>は淡黄の淡い花をつけていた。

花は一日で萎むらしいが次々に咲き、朽ち葉の上に清らかに伸びて咲いている。

土の匂いと、力強く咲いている花は、静かに千年の歴史を語っているように思えた。


実を言えば、茗荷好きの私が、茗荷につられてそれを報酬に掃除を引き受けたのだ。

その昔、お酒好きの父は自分で酒肴(しゅこう)を作っていた。茗荷に味噌をつけ少し焼く。千切りにし

て鰹節を天盛りにする。私は小さいころからそんなものが「変な子ね」と言われながら好きだった。自宅

の庭にも少し植えているが、それは私の食には足らず店で買い足してまでも食べたいほどの茗荷好きだ。

茗荷を食べると「物忘れがひどくなる」という。いつも家族にそれを指摘される。


採っても採ってもいくらでも有る茗荷を摘み、私は少し不思議な気持になってきた。

人間も、形有るものも、朽ちる運命にある。しかし、次の世代に「送り続ける」ということはどういうこ

とだろうと、考えてしまう。

山から風が吹いてくる。この風はこの家があった300年前と同じ風が吹いているのだろうか。出来る事な

ら忘れて欲しくない。いつまでも、この家が続くことを願う。

しかし、山の風はささやいた。

「アナタ(茗荷)をいただき、私は全てを忘れて朽ちていきます」。


報酬のビニール袋三杯の茗荷は、柴漬けになって毎朝私を喜ばせている。丸ごと茗荷の柴漬けだ。あまり

の美味しさに、「何もかも忘れる」。

しかし、今後茗荷の花を見ると、あの黴のきた日本人形が重なることを、私は忘れられない。




      泣いている雷さま              木村徳太郎   「楽久我記」ノートより




                背戸の葛城
                つらなる山山。

                山を除けよと
                雷さまが

                七色染粉の
                でっかい壷を
                疏忽なされて
                踏んづけられた

                壷は潰れれて
                高野へかけて

                紀の川よりも
                長い虹がでた。

                背戸の葛城
                つらなる山山

                未だ泣いている
                雷さまが。



2006.08.25

♪「弘ちやんは生きている」1〜7はブックマーク(ご挨拶)にまとめて入れました。
 
 これからもよろしく愛読、ご指導をお願いいたします。また休み中も御出でくだり感謝でいっぱいです。更新もなかなか進まないブログですが、よろしくお願いいたします。

全1ページ

[1]


.
花ひとひら
花ひとひら
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
友だち(7)
  • こうげつ
  • plo*er_*un*yama
  • まんまるネコ
  • ハマギク
  • 吉野の宮司
  • あるく
友だち一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

お肉、魚介、お米、おせちまで
おすすめ特産品がランキングで選べる
ふるさと納税サイト『さとふる』
話題の新商品が今だけもらえる!
ジュレームアミノ シュープリーム
プレゼントキャンペーン
ふるさと納税サイト『さとふる』
11/30まで5周年記念キャンペーン中!
Amazonギフト券1000円分当たる!
コンタクトレンズで遠近両用?
「2WEEKメニコンプレミオ遠近両用」
無料モニター募集中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事