来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

のんびりしたブログですがよろしくお願いいたします。

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                 ☆

学童たちが教室を去って、宿直室に一人残された弘は、淋しくてならぬ、三つの林檎を二つ食べ、美代子に一つ持ってかえってやろうと、あとの一つに手をつけていない。が、まだくいたりなくて、交番さんが置いて行った一切のするめに手をつける。
するめをしがみ、桐久保さんに行ったであろう父のこと、自転車のことを思って、淋しさをまぎらわせる。
そのうち、あまり顎をうごかせたためか、二針縫った傷が、ほころびたように痛み、包帯がずり落ちそうで、もとになおそうとする。包帯の結び目をさぐりあて、締めなおそうと、包帯を半分ばかりほぐす。
「ほどいたらあかんがな、弘」
梶野先生は。弘の父と宿直室に来て弘のようすに驚いて注意。
「ずったんかいな」と、言いながらそばにより、包帯を巻きなおしてやる弘の父。
巻きなおしながら
「するめしがんどんのか。するめみたいなものしがむから、包帯がずるんや。やめとき」不服そうに言い、弘の口にはみだしているするめを、手でもぎとりかけて
「おら、交番さんに、もらつたんや」歯でくわえてとらせない。弘の言葉に包帯を巻きなおす手をやすめ、梶野先生のほうをふりかえり、
「先生。えらい心配かけてすみません」するめの悪口をいったことに、ばつがわるそうだ。
「どうしまして」と、答えたものの梶野先生は、するめをしがんでいると、包帯がずりおちる。そこまで気がつかなかつた不見識を問われているようで、ちよっととまどったようす。が、交番さんの不見識を問われるようなことは、若くとも先生だ。すぐ、
「するめは造血剤にいちばんいいのでして…」と、学のあるところをひれきして、いっしゅんおめつた先生の立場をとりもどす。
「造血剤って、そない血がでましたんやろか」「たいしたこともないです四、五日もすればもとどおりになります」傷の説明をする梶野先生。たいしたこともなさそうな傷に、ほっとしたような弘の父。
「医者のかえり、お家に行きましたが、弘君が学校に来たがるもんで」と、つけ加える梶野先生。
「へえ、えらいすんまへん」おっ母がどうもきつくって」と、弘の父は恐縮そうに言い、母のことにふれられることをさけたいようす。つづけて
「弘。お父っあんと家へかえって寝よう」包帯をまきなおしてやり、手をひっぱって弘を寝床から立たせながら言う。
「学校終わったらかえる」
残った林檎とするめに目をおとしかえりたくなさそうな弘。そのようすに、一つ残った林檎を、新聞紙につつみ
「弘君。お父さんも言ってはる。いっしょにおかえり」と、弘の手にもたせて、梶野先生もすすめる。が、「いや。学校終わるまでここにおる」と、駄々をこねる弘。
その弘の心をやわらげるように「どうも、お母と具合がわるうて、こまりまんがな」と、一人言のようにいって、ふれたくなさそうだった。母親のことについふれてしまった弘の父。
「いや、そのことは…・」
こんどは梶野先生が、ふれたくなさそうに言ったが
「弘君が、学校に出した詩を、よませてもらったんですが、お父さんがおられない時の弘君は、どうも具合が悪そうですね」と、弘の詩を「こんな詩です」と、口ずさんでみる。
口ずさみながら、弘の家の事を思う。思うと弘の家に行った時の母親のヒステリックな仕打ちも家計が豊かでないことが原因とも思える。
常日頃、話し合ったことのない弘の父に、そんなことを話すのに、いまがよい機会ではないか。弘の詩を口ずさみ終わった梶野先生は
「深酒はあまりいいことはないようですよ。奥さんの機嫌の悪いのも、それが原因ではないですか」と、気軽く言ってみる。
「そりや、先生。わかっとりまんねん」へら、へら笑って、恥ずかしげに言う弘の父。
「少しはつつしまれたら。弘君と母親のうまく行かないのも、それが一つの原因ではないですか」梶野先生は、やっと本筋に入ったというふうに力をいれて話す。
「へえ、へえっ、へえ…」
笑って答えない弘の父。その父に
「桐久保のおっちゃんもいいよった」と、弘が口出しをする。
弘にまで口出しをされた父親は「お前だまっとり。自転車、買うたらへんぞ」と、
弘にそんなことを言って、ごまかそうとする。が、たしなめられているのは自分。間が悪そうに
「弘。早よかえろう。自転車買うたる。もう、あんな詩とか言うもん書かんといてや。お父つあん、さっぱりやわ」と、ふたたび、それとなく梶野先生から、たしなめられていることと、弘の口出しを、はぐらかせるように、笑って言った。
「先生。えらい迷惑かけてすみませんでした」と、弘の手をとり、
「おら、寝とっても、そればかり思っとった。山、売れたんか。お金もろたんか」
と、たずねる弘に、答えないで弘のお父つあんは「お金まだやけど、きっと買うたるよつてに、早よ家にかえろ」と、弘をうながして帰ろうとする。
「ほんまやで。おら、嬉しいな」ぐずっていた弘は、怪我をしたこともわすれたように、お父つあんの言葉に嬉しそうにしたがった。
枕元の学用品をまとめてやりながら、梶野先生は「服がまだ乾いていません。後から誰かに届けさせます。傷が痛まなければ月曜日から学校に出させてください」と言い、弘にもたせて弘と弘の父を宿直室から送り出した。送り出しながら
「弘。自転車のことばかり考えよるから、木からおちよるんや」と、弘をからかいながら、山を売って金が入れば、その当座は生活にゆとりが出来て母親の心も一刻はやわらぐであろうと、弘のことを思ってみた。







 

 

月見草

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   月の雫    と   光の雫

 暑さが残る日中だが、夜半網戸のままにしておくと思わず身をちじめるような風が、虫の鳴き声と共に入り込んでくる。風鈴が、「チリン!秋ですよ」と、澄んだ一声で鳴った。

「忘れないうちに片付けなければ」と、夜の庭に降り立った。一舜(!)、息を呑んだ。月見草(待宵草)が庭一面に咲いていたのだ。暗がりの中で、部屋から漏れる僅かな明かりに浮かび上がっている。その数は、50数個はあるだろうか。

私は大急ぎで二階に駆け上がった。窓から身を乗り出して下を見る。思ったとおり…、月見草の花の黄色が、きらきら光る川底の石のように散らばって咲いている。手に受けた月の雫を、ばら撒いたように咲いている。窓からその月の雫を掬おうとしたが、手は届かなかった。しかし、その時私は見た。


二、三日前に「虹の橋」という詩に出会っている。

「天国の、ほんの少し手前に「虹の橋」と呼ばれるところがあり/地上にいる誰かと愛しあっていた動物は/死ぬとそこへ行く/そこでは/みんなと一緒に走り回って遊んでいる」と言う。(アメリカンインディアンの詩)。

あちこちに揺れて浮かぶ月見草が、一瞬走り回って遊んでいる犬たちに見えたのだ。愛犬(ごん太)が楽しく走り回っている姿が重なったのだ。ごん太が月の光を浴びてみんなと楽しく遊んでいる。

月見草は、ごん太と散歩に出たときに野道に咲いていたのを一株いただいてきて、庭へ植えたものである。

以後毎年、種がこぼれ落ち増えて行く。例年は数本だけを残し後は抜くのだが、今年の暑さは私から草引きの気力を奪っていた。加えての長雨が月見草の背丈をぐんぐんと伸ばし、庭はジャングル化していた。

蚊柱にも会う。だから、恐れをなして庭に降り立つことは、ほとんどなかった。夜はなおのことである。

その月見草が、木々の緑と黒い影を下敷きにして、花だけをぽっかりと浮かび上がらせているのだ。

                      ☆

ごん太は夫の勤務先の実験室で生まれた。(昔は小動物を実験や治験に使っていた)本来なら有り得ないのだが、テストに使う犬の中に身重の犬が混じっていてごん太が産まれた。会社が長休みに入ると、治験動物の世話をする人がいなくなり保険所へ連れて行かれる。(その犠牲の上に、私たちは医学や、薬品開発の恩恵を受けていたのだ)しかし、赤ちゃん犬のごん太を、誰も保険所に連れて行けず、我が家に、はるばる電車に乗ってやって来た。夕焼けの入り込む駅舎の光の輪の中に、夫とじゃれあっている可愛いピーグルとリトルリバーの雑種の犬との出会が始まった。

始めは庭に出るのを嫌がり、出そうとすると床に吸い取り紙のように吸い付いて抱きかかえられないようにする。その仕草があまりに可愛くまた賢く見えて外に出す事が出来なかった。数週間後にやっと、夫と4歳、7歳、10歳の子供たちが作った小屋に、表札「ごん太」と掛けられ柿の木の影を落とすベランダに居を構えた。犬の世話は子供たちがした。私は子供のころ猫に引掻かれ、動物が恐くて側を通るのも飛びつかれないように避けて通っていた。子供たちは学校で嫌な事や悲しい事があると、ごん太に自分のお八つを分けながら話を聞いて貰う。私はそれをこっそり聞いて、子供たちの悩み事を知る事が出来た。子供たちがごん太を散歩に連れて行くのに誘われて、夕焼け空や、渡り鳥や、季節の野の花を教えてもらうこともあった。

歳月を経て、子供たちは順番に巣立っていった。最後に残った娘が、ごん太の散歩と世話の仕方を私に特訓し、散歩用のスニカーをプレゼントして巣立った。

私は恐いのと慣れないので痩せた。しかし、いつのまにかごん太は私の子供になり、ごん太と雲を眺め、夕立の中を走り、雪道に並んで尻餅をつき、そしてある夏、月見草が野原いっぱいに咲いているのを見つけた。子供時代に過ごした奈良の野にたくさん咲いていた月見草だ。大きくなってからは見ていなかった。あまりの懐かしさに、ごん太に私の小さかったときの事を話してやり、その一株を貰って帰ったのである。掘り起こす間、ごん太は大人しく待ちその月見草を口にくわえて帰ってくれた。そして、おまけにごん太は草引きも上手だった。土を掘り、草が生えないように走り回る。でも月見草はどういうわけか、ちゃんと残っていた。

歳月が流れ、私もごん太も年を取った。ごん太の髭にも私の髪にも白いものが見え始めた。そして、ごん太は歩けなくなった。ごん太は癌を患った。散歩の好きなごん太は歩けないのに散歩の時間になると鳴きたてる。私は辛かった。自分でもう起き上がれなかった。私が支えるが触られると痛いのか凄く怒る。

傍を通る時に動く空気さえ痛く感じるのか吠えた。横たわったままで便と尿をする。私はそのたび綺麗な所へ移そうとするのだが、やはり動かすと吼える。その顔は怖かった。

当時、私はいろいろと悩み事を抱えていた。ごん太に聞いて欲しいことがいっぱいあった。でも話し掛けることは出来なかった。食べてはその場で吐き、便をし、汚物で汚れなんとか動く片足でにじって移動しようとする。(自分の周りが汚れるのが嫌なのか、私に負担をかけまいとするのか、外に出たいのか戸口に、にじり寄って行くのだ)部屋は汚物の海になった。夜中も悲しげに鳴く。私は服のままで眠ることが多くなった。私は疲れていた。そして別にもう一つ大きな問題が有った。娘が出産のため里帰りする予定日が近づいていたのだ。娘とごん太を会わせてやりたい、でも、妊婦にごん太の汚れた姿を見せたくない思いとで揺れ動いていた。

2002年1月20日、医者にごん太の薬を貰いに行き、「娘が出産で帰って来るが、どうしたらいいのか」と話すと、医師は「もう長くはないですよ」と言った。

その会話をして戻った夜、ごん太は静かだった。時々、「ごん太!」と呼ぶと少し尻尾を動かす。吼えも唸りもしない大人しいごん太がいた。私は、やっと頭や体を触ることが出来た。さすりながらいろいろと話をした。そして、そのうち体がだんだんと冷たく硬くなっていった。ごん太は私と医者の話を聞いてしまったのだろうか。私はごん太を抱いて大声で泣いた。そして首輪をはずし自由に大空をかけめぐってくれることを祈った。

ごん太が死んだ直後予定日より25日も早く、娘が赤ちゃんを生んだ。初産なのに、軽い軽いお産だった。私はごん太がそうしてくれたのだと思っている。娘が言う。「この子『犬笑い』するねん」。「犬笑い?」赤ちゃんが自然に「ニイッ」と笑うのを、(それは「神様が笑わしている」のだと聞いたことがあるが)娘はそう言うのだ。

そして、そのとき生まれた孫はいまでは4歳、そしてまた一人孫が増えた。二人目の孫も初めて顔を会わせた時、やはり犬笑い?をした。

 私は、昨夜月見草の花にごん太を見た。今朝は五時に起きて庭に出てみた。月見草がまだ咲いている。

朝の光の中でまだ咲いているのだ。それは夕べの月の雫の残り香と、新生の光の雫を受けて神々しく見えた。

 ごん太!いろいろと話をしたね。最後に、いっぱい私の話を聞いてくれたね。「ありがとう」。

「でも、もう大丈夫」。

月見草は朝の光も含んで咲く。ごん太はそれを教えてくれた。私はその朝の光をあびて立っていた。




      「日暮の鋪道」     木村徳太郎「日本の旗」ノートより

  
           
               並木の枯葉

               かけてゐる。


               日暮の鋪道

               風のみち。


               小犬が一匹

               かけてった。




 「月光」 木村徳太郎「日本の旗」ノートより

  
         
               ぎんなんの梢の

               實が白い

               月光(つきかげ)。


               地藏さまお笑ひ

               なさるような

               月光。


               線香の匂ひが

               流れてる

               月光。


               いつまで立ってゝも

               祈ってる

               月光。


2006.09.08


♪「弘ちやんは生きている」1〜10はブックマーク(ご挨拶)にまとめて入れました。
 

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