来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

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弘ちゃんは生きている(49)木村徳太郎作(未完)
二日目の今日も家庭訪問だ。
半日授業で、児童を帰らせた後、先生たちが教員室で昼食の弁当を食べながら話をしている。
昨日、梶野先生が家庭訪問で聞かされた児童間のまさつを
「この原因について、どなたか知りませんか」と、平田先生が心配げに訊ねている。
「このままだと、事故がおきるかもしれません」
と、伊藤先生もつけ加えた。
「今日もまたその話がきっと出るでしょう」
田中先生も困ったと言うようす。
「校長先生に、明日の朝礼の時に注意していただいたらどうでしょう」
と、箸を置いて雑談でなく口調改めて、伊藤先生が平田先生に申し入れた。
「それとも、校長のおられるとき、この問題の対策会議でも開らきますか」
弁当が終わり、指導要録を手にしていた平田先生が、声重く息をつめて提案する。
「学校内のことでしたなら、考えないといけませんが、学校外の問題に触れるのはおかしくありませんか」
区の対立が、児童の対抗意識を高めている事を、昨日の家庭訪問で知っている梶野先生は平田先生の提案がポイントをはずしていると思う。
「学校外の問題だと言いますと・・・」
平田先生は、自分の気づかぬ事を、梶野先生が気づいていると言った引け目を感じるような口調で、強くはねかえすように聞き返した。
「しばらく様子をみてみたらどうでしょう」町村合併で、区の山を個人持ちにして、伐採したことから、起こっている事情を他の先生方は知らない。そのことを話そうと思う。だが、学校内でまだ事故も起こっていない。話すとすれば桐久保さんのことにも触れなければならないので、話す気持が言葉をぼかしてしまう。
「でも、父兄がやかましんですもの」
伊藤先生が、梶野先生の言葉を打ち消すために甘えるような声を出し、目をくりくり動かして他の先生を眺める。それに合わせて、
「うちの学級もそうだけど、先生の学級委員の選挙だっておかしいですわね。喧嘩の強い子に投票をしあうありさまでしょう」
田中先生が伊藤先生に助言して、梶野先生に向かって言う。
「それは、僕も・・・」
よく気付いている、と言いかけて、梶野先生は適当な言葉がとっさにでないまま口ごもった。梶野先生の口ごもりで、他の先生も暫く押し黙ってしまった。
そんな所へ
「先生、泣いていよりまっせ」
と、遠藤さんが校長に頼まれた水道工事の見積書を持って教員室に顔を見せた。
「まだ残っている児童があったのでしょうか」
見積書を受け取って平田先生は得心が行かなそうに言う。それに応えるように
「見てきましょう」
と、田中先生が席を立った。
「喧嘩でもしたんでしょうか」
話し合っていた児童間の対立が、喧嘩でもやったのかと安気に伊藤先生が言う。
「喧嘩でもなさそうですよ」と、
遠藤さんは打ち消すと、空いている椅子をさげて平田先生の横に座った。水道工事の見積書を見ていた平田先生は、
「二十二万五千円もかかるのですか」
高額にちよっと驚いて声をあげた。
驚く平田先生に応えないで、「校長さんは、お留守ですか」
遠藤さんは尋ねる。
「教育委員会の事務所へ、水道施設の話で行かれました。昼には帰って見えるはずです」
「校長さん。熱心ですな。早よう見積書を出せと何度もやかましく言われるので、持って来たんですわ。それなら一寸、待たせてもらいましよう」と、
腰深く椅子に座った。
「今の井戸にモーターをつけて、水道に出来ないのですか」
少額を願う平田先生は自分の考えを言ってみる。
「鉄分を含んでいる水は悪く、浅くて量もないです。新しく掘って初めから良い物にしませんと、中途半端になります。」
「それにしても高くつくもんですな」。
平田先生は遠藤さんの話に誘いこまれたが、弱い口調で言ってみた。
二人の会話を耳にして、梶野先生は水道施設の資金集めを、福井校長がこれから計るのだが、「村人の争いがそれを邪魔するだろう」と、弘の父が話していたことを思い出した。
梶野先生の思いとは別に校長の意に従うのか、平田先生は井戸を掘る場所や工事のあらましを遠藤さんと話し合っている。
                    ☆
田中先生が、泣いていた古川弓子を伴なって教員室へ戻ってきた。四、五人の学童も一緒についてきた。五年生担任の伊藤先生が、弓子の担任なので
「古川さんどうしたの」
椅子から立って声をかける。
弓子は学級でも信頼をうけ、成績も良く喧嘩をするような児童ではない。弓子は泣きじゃくって、手の甲で目をこすっているばかりで返事をしない。
「古川さん。購買部の鍵とられはったんやて」
弓子に代わって、川合良子が答えた。
「盗られたって」
伊藤先生は驚いておうむ返しに聞き、
「みんなこっちにいらっしゃい」
と、児童を手招きした。
古川弓子と共に、児童達は伊藤先生の机の所に寄って来た。
平田先生も遠藤さんも話をやめ、弓子が何を言うのかと児童たちの方に目をむけ耳をそばだてている。
家庭訪問の準備を整え、遠藤さんと平田先生が話をしているのを幸いに、その間に学校を出ようとしていた梶野先生も、弓子達のことが気になり、なんとなく腰を落ちつけ座りなおすことにした。
「すみません」
と、ほそぼそした声で弓子は伊藤先生に侘びてから話し始めた。
「三時限の始まる前に、購買部を閉めて鍵を筆箱に入れておいたのですが、四時限目の国語の時間に筆箱を開けると、こけしつきのボールペンと鍵がなくなっていました」と、
購買部の鍵が無くなったようすを話す。 
「じゃぁ。四時限前の休みのときね」
「はいっ」
鍵は盗られたのだろうか。それを話して気が楽になったのか、弓子は泣くじゃくりを止めて明るく答えた。
「自分では筆箱に入れたと思っていても、入れてないで、どこか別の所に入れていて、知らないまに落としたんじゃないの」
横から田中先生が、おせっかいに口出しをした。
「そうじゃありません。ペンもなくなったのです」。
盗られたと確信を持って答える弓子につけ加え
「先生。この間は初ちゃんが、昼食に食べるパンとバターを盗られやはったんです」
「体育の時間には、辻さんがお金盗られやはったし。このごろ、おかしなことばかり起こります」。
弾んだ声で、弓子に付いて来た川合良子や、中谷智恵子が勢い込んで話し出した。
購買部の鍵、パンのなくなったことは悪戯かもしれないが、お金を盗られたということは聞き捨てならない。先生達の顔がこわばった。
「お金盗られたって?いつのことなの」
伊藤先生が、児童を叱りでもするように、強い口調で問い返した。
「辻さんが、学校の帰りにスリッパを買うお金や言うて、上着のポケットに入れておいた財布がなくなりました」
中谷智恵子が言った。言っている筋がどうも通っていないような話だが、その意味は分かる。
「いつの体育のこと?」
伊藤先生がきびしく問い掛けた。
「この間の火曜日の体操の時です。そうやね」
伊藤先生に答えて、そこに居る級友たちに相槌を求めるふうにみんなの顔を見回して答えた。
「四日前です」
指を折って、川合良子が日を数え、中谷智恵子の言っていることに間違いないとばかりに言う。
桧牧区と自明区の児童の敵対意識が、鍵や金を盗ったりする悪質な行いとなって出てきたのではないかと、先生達の心が騒ぐ。
女の先生達には手がおえないと思ったのか伊藤先生が
「どうしたものでしょうか」と、
平田先生に助言を求めた。
平田先生とてすぐに才覚はつかない。
「おまえはバカだ。盗られた時に、なぜすぐに先生に言わなんだんや」
遠藤さんが横から口をはさみ、
「四、五日まえのことやったら、調べ難いやないか」と、
その場の堅苦しい空気を助けるように言った。
「購買部の品物は、異状がなかったの?」
梶野先生が聞いた。
「見てきましょう」
緊張したその場から逃げ出すように田中先生が立ち上がって
「みんなも付いてきなさい」と、児童に向かって言った。
「私も行きましょう」
伊藤先生も一緒に教員室を出て行った。
「村にも性質(たち)の悪い子供が出て来よりましたなぁ。時がかわると、子供も悪うなりよる」
遠藤さんが時代にかこつけて、児童を悪く言って嘆きはじめた。
その言外には、昔の時代なら、他人のものを盗むような児童はいなかったのに、きょうびは教育も変わって、児童を甘やかせているようにしか思えない。だから、そんな児童が出るのだ、と言わんばかりである。平田先生、梶野先生もその言葉には、気が障ったが現実に事が起きているので、言い返す言葉もない。

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