来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

のんびりしたブログですがよろしくお願いいたします。

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弘ちゃんは生きている(61)
農繁期は子供たちも労働力である。奥田君は牛を大事にしている。「クロクロ」と、毛並みの黒い牛を自分の子分のように扱い、上手に田を漉く。牛と一緒にいるのが大好きなのだ。しかし、そんな奥田君もこの農繁期は少し野球に夢中になりすぎた。それほど野球は楽しかったのだ。「遊んでばかりして」と父親に叱られた。大人からみると、梶野先生の思う、みんなの融和を図る目的も生きるための家の手伝いを疎かにする無駄な事に思われた。
梶野先生はあちらからもこちらからも、苦情を聞かされた。
せっかく子供たちの融和を図って始めたことである。それが苦情となってはつまらない。大人の感情を余計悪くする。梶野先生も子供たちも思案した。
そんなとき思いもかけず、強い助っ人が現れたのだ。弘の父だ。
「ええやないか。わしが目いっぱい村の手伝いをするから、子供らに野球をやらしたったらええ。やらしたってくれ」と言うのだ。弘の父は山の仕事が少なくなってきて、山の下刈りを済ませてしまうと、ここのところ閑になっていたのだ。閑だからと言ってみんなが忙しくしているのに自分だけ、爽やかな五月の風にふかれて昼寝ばかりしているのは楽しくなかった。昼寝ばかりでは酒も美味しくなかったのだ。飲兵衛の父だったが、汗を流して飲む酒のほうが、一段と美味しい事を知っていた。
そして、弘のお父は子供たちに代わって村人の雑用や野良仕事を良く手伝った。桧牧区の手伝いも自明区の手伝いもよく働いてまわった。田畑を持たない弘の父だったが村の人を助けよく働いた。子供たちは弘の父が、自分たちのために懸命に働いてくれるのをみて嬉しかった。村の人も労働力が足りればなにも文句を言わない。対立感情も所詮、金の損得からくるねたみや不信感から起きているのだ。みんな自分の生活で手一杯だが、なんとか農繁期を過ごせると、子供たちが仲良く遊ぶことを心からけなしているわけではないので、ときには野良仕事の帰り道、野球を楽しそうにしている子供たちをわざわざ覗いて帰る親も出てきた。子供たちも弘の父だけに仕事を手伝わせるのは悪いと思うのか、野球もするが、家の仕事も少しの空き時間を、上手に使いよく手伝うようになった。奥田君なんかは、一試合すませると、家に走って帰り、牛に餌をやってまた野球にもどってくる。野球には興味を示さないで先に帰る越出あや子たちは、牛を連れた奥田君とお地蔵様の辻でよくぶつかりそうになった。牛を引いている奥田君は格好が良かった。一人前の大人に見えてあや子たちは喧嘩大将の奥田君に、まりつきのボールをとられたり、スカートをめくられたりからかわれたりする事が多く、きらっていたが、その姿には憧れの目を向け、話題になるほどだった。弘もそんな奥田君を尊敬した。尊敬の心は、野球の時にも普段の生活にも表われた。炭谷君は炭谷君で飼っている山羊の乳を一人で飲んでいたのを、みんなに振舞ったりしだした。みんなはそれぞれ、自分の出来ることで、他の人を喜ばせることを知り始めていた。梶野先生は、そうやって、大人たちの世界とは別に子供たちが、それぞれ力強く、また仲間としてお互いを労わっているのをみて嬉しかった。この弾みを、何とか水道問題にも、良い方向に持っていけないものかと思っていた。  
 弘の父が、先日「大人も野球に混ぜておくれな〜」と冗談のようにいったのを思い出した。弘の父も、弘と同じく野球が好きなのだろう。子供たちに野球をやらせてやろうと農繁期をかけ廻っていた弘の父だ。子供たちはそれを知っているから、もし、弘の父を野球にいれても異議はないだろう。「そうだ、このさい、ウメも誘って本格的にチームをつくってみよう。」そして、小学校に隣接している保育所の仕切りのフェンスを取り払ってもらうことを校長に頼んでみようと思った。そうすれば少しは運動場も広くなる。梶野先生の想いはどんどん膨らんで行くのだった。
                ☆☆☆
 農繁期が無事すぎると風は夏の風になる。
綺麗に青苗がそろった水田には、イトトンボや川トンボが羽根を休める。蛍が飛び始める。神社の森ではコウモリも飛び始める。子供たちが大手をふって遊べる時がきた。野球も大手を振って出来る。もうすぐ夏休みもくる。みんなはワクワクしていた。そしてもう一つ子供たちに大きな楽しみがあった。学校の隣のお宮の宮司さんが「幻燈」をしてくれるのだ。田舎でこれといった娯楽がないので、みんなはこの「幻燈」が楽しみだった。宮司さんは童話とかいうものを書いていて、幻燈機という光の流れる機械も持っていた。障子をはずして、桟のない紙だけのほうを表に向け、神社で使う白い布を被せそこにいろんな絵を映しだし、声色を使ってお話をしてくれる。宮司さんは町から来た人で新しい事をたくさん知っていた。弘はそんな宮司さんが好きだったが、先生たちは、学童たちが神社にいくことを心よく思っていなかった。とくに川合先生なんかは、「神社に行くと原始人になるぞ。アホになるぞ。右翼になるぞ」という。弘は右翼とは何だろうと思う。梶野先生は左翼だという噂を、以前団結の詩を宿題に書いた時に聞いた事がある。でも、弘にはそんなことどちらでも良かった。川合先生が、村の人に「あの神主をやめさせねば、子供の教育上よくないことが起こる。子供たちから楽しみも奪っている」と話していた。なんでも、運動場に時々やってくる紙芝居やさんは、神社の宮司さんが学童たちを集めるので集まりが悪く「紙芝居やが閑になり死活問題だ」と川合先生に言ったらしい。川合先生は、「人の仕事を奪い生活権を奪うものだ」と、宮司さんに詰め寄ったらしいが、逆に言い負かされてひどく怒っていた。でも、弘は知っていた。川合先生が、紙芝居屋のおじさんから、アイスキャンデイをタダで貰っているの見ていたのだ。
だから弘は、垣内どうしの諍いにしても、大人の世界は不思議な事だらけだと思っていた。弘のお父は神社に行くことを止めなかったが、隆の父親の桐久保さんは、隆を行かせなかった。桐久保さんは、村の資産家で、村の長でもあり村を守らなければと思っているのであろうか、童話とかいって、村の事を物語に書いたりする宮司さんを、「村の恥をさらして」と嫌っていた。村の事を書かれるのを良く思っていなかったのだ。桐久保さんは、神社の世話役でもあり宮司さんが神社の布を使って、そんな幻燈とかいうものをはじめるのも嫌らっていた。それで、隆には神社に行かせようとしなかった。はじめは、隆も弘とよく神社へ幻燈を観に行き、帰り道で蛍を見つけたり堤燈を顔に照らしてお化けごっこもして帰ったのだが、蛍に良く似た人魂(火の玉)を見たことがあり、それを面白おかしくみんなに話したりするので、川合先生が、「そんな荒唐無稽な話をするのは、神社の宮司の影響だ。子供たちが危険にさらされている」と、桐久保さんに言う。桐久保さんも、しかたなくしぶしぶ隆を行かせなくなったようだ。弘はお父うに聞いてみた。どうして神社に隆さんは行かないのだろう。一緒にいけたら面白いのに。お父は言う。「そりゃ、旦那さんは守らんとあかんものが一杯あって大変なんや。わしらみたいになんにもないものは、気楽でええ」と笑うだけだ。弘にはよくわからないけれど、桐久保さんのようにお金持ちで村のエライ人は、それなりに大変なんだと思った。そのてん、弘のお父は気楽でいつもえへらえへらと笑っているとよいのだ。これでお酒さえ飲まなければ大好きなのにと弘は思う。でもひよっとして、「お父はなにもないから、酒を呑むのかもしれないな〜」とも思う。何もない事が恐いものなしで、お金がなくとも、お酒を飲むのかもしれない。もし、お父うにもなにか夢中になるものがあったら、酒もやめるかもしれないと思ったりもする。
 隆が幻燈に行かないので、ウメちゃんを誘うことにした。夜なのでウメちゃんのお父さんがどう言うか心配だったが、手水舎の水のことを宮司さんに聞きたい。それにはウメちゃんを連れて行ったほうが心強い。梶野先生にそのことを話すと、「帰りはちゃんと一緒につれて帰ってやれ。年が上で大きくても女の子だから」と言った。
弘はお父にも話すと、お父は「それなら、わしも一緒についていってやる」という。弘のお父は、弘たちが野球が出来るようにといろいろ子供に代わって働いてくれた。すっかり子供たちに人気が出ていた。そして、学童たちが「弘のお父なら野球の仲間に入れても良い」といっていることに気をよくしているのか、すっかり子供返りしてしまったのだろうか、幻燈でもなんでも子供たちと一緒に行動をしたがった。

昼顔

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名前の妙味

 朝に咲くのは朝顔。昼は昼顔。夕べに咲けば夕顔。その通りで面白くない。
私は、花にニックネームをつけることが好きだ。(勿論人にもつける。あの夏目漱石先生だって「坊ちゃん」で、たくさんの渾名をつけているではないか。)
家の近くにマイアミビーチ、サンシャインビーチがある。そこにハマヒルガオが咲き乱れる。http://blogs.yahoo.co.jp/hanahitohira06/4096819.html
 カメラの三脚が並び、若者のデートスポットだ。可憐なハマヒルガオが湖風に揺れる。その薄桃色に染まる砂地は、能の“若女”が舞っている、”若女”が陽炎(かげろう)のごとく舞い登っていくような錯覚を、私に起こさせる。ハマヒルガオは、本来海辺に咲くものだが、淡水琵琶湖が、太古、海と繋がっていたなごりでこの浜にも咲いているのだ。そして、琵琶湖が海と繋がっていたころには、マンモスもいたという。マンモスは、ハマヒルガオを横目に歩いていたのだろうか。
「ハマヒルガオには、“マイアミ”や、“サンシャイン”でなく“マンモスの浜”が似合いそうだな」などと思う。
 ハマヒルガオは、植物分類で「ヒルガオ属」に入り、他にコヒルガオ、ヒルガオ、ヒロハヒルガオの四種類がある。昼に咲くから昼顔と言っても、それぞれ別の顔を持つのだ。私がいつも野で見ているのはコヒルガオである。ヒルガオより紅色が薄く、花は小さい。私はこれに、「夏舞妓」とニックネームをつけている。あるかなしかの薄桃色の半開きの花は、薄物の着物を五つに畳み、無造作に衣桁に掛けられた舞妓の夏衣のように艶かしい。そして、厳しい昼の陽射(ひざし)の中、灼熱をもろともせず涼しげに咲いている。これは、暑い夏の着物姿でも、汗もかかずに澄ましている舞妓のようであり、可愛い舞妓が、力強い夏草に寄り添い巻きついているのだ。
 このようなニックネーム付けは密かに私が、一人で遊ぶ心内(こころうち)であって、誰に迷惑をかけるわけでもなく、私のストレス解消になっている。花だけでなく、人にもニックネームをつける。花の場合は最初につけたニックネームが変化する(イメージが変わる)ことはまづないが、人間の場合は、第一印象でつけたニックネームが、途中で変わる事が多々ある。
「シロさん」とつけたはずなのに、いつか「クロさん」になっていたりするのだ。「漂白剤をかけてやらんとアカンな〜」とも思う。
しかし、これも密かなる心内。事件にはならない。
ところが最近、「公」である地名が、市町村合併などで、姿を消したり、住居表示変更とかで、○○丁目の○番地になっていく。私の居住する所も、過っては、後谷(ふけ)と呼ばれていた。そう、丘地で後ろは谷だったのだ。谷を上ってくる風が心地よい丘であった。ところが、○○丁目に変えられたころから、谷は家で埋まり、今やだれも後谷(ふけ)の面影を知らない。
“ふけ”?・・・・。
そうそう、同じように“ふけ”と呼ぶところが近くにある。
「浮気」と書く。これは浮き出す水気の意味で、伏流水の湧き出る土地をさしているのだが、だれもが初めてこの地名を目にした時、「ウワキ」と読み喜ぶ。(それはなぜか男性に多い)
そして、“ふけ”を西に行くと“あまのかわ“があり、”なまず“もある。
「私はあまのがわで生まれました」「私はなまずの出身です」等と言われて、飛び上がったことがある。
これは「天の川」であり、鯰でなく「生津」である。このようにして、すぐには読めない地名や名前がたくさんある。音だけでは意味のわからないものもある。しかし、これらの名前は私に、温かみを感じさせる。東西南北、○○丁目より、温か味を感じ歴史を感じるのだ。そこには、名前にたいする愛情があり感動が隠されているように思う。私がニックネームをつけて遊ぶのも、きっとこの愛情からかもしれない。
私は今日も、花に、人に、ニックネームをつけて喜んで遊んでいる(愛情たっぷりに)。
しかし、ニックネームのつけられないものが一つだけある。それは、「私」だ。なんとつければいいのか。
自分で自分のニックネームを付けるのは困難である。なぜなら、それは私自身の生き方が、ニックネームとなるからだ。私はいまだ、自分が未完成で、自分で、自分自身が分からない。ニックネームをつけられない。ニックネームを模索しながら生きているのだ。
私のニックネームは死んだとき、戒名として与えられるものなのだろうか。いや、それまでに、ニックネームをつけられるように、「生きたい」とは思うのだが。




       「雨」     木村徳太郎  
 
                  雨はペンキ屋だ

                  さびしい

                  色に 街を染めた。


                  雨は子虜だ

                  街から

                  子供 浚って行った。


                  雨は鏡屋だ

                  お路に

                  たくさん 置いて行った。


                  雨はミルク屋だ

                  狭霧の

                  ミルク 流して行った。


「この詩は忘れもしない。北原白秋先生に初めてとりあげられたもの」と添え書きがされています
    

2007.06.15

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